目次:デパスなどを含む3物質が新たに向精神薬指定。そのワケは?

・そもそも「向精神薬」とは何か
 >広義の向精神薬:脳や気分に影響するもの
 >狭義の向精神薬:法律や政令で指定されたもの
・新しく3成分が向精神薬に指定された
・具体的な成分名
・なぜいまさら指定するのか?
 >理由①長期処方の制限
 >理由②通信販売・個人輸入の規制
・まとめ

そもそも「向精神薬」とは何か

この記事で取り上げる「向精神薬」ですが、この言葉は主に次の2通りの意味で使われています。

広義の向精神薬:脳や気分に影響するもの

1つ目は、「中枢神経系に作用し、精神の機能や状態に影響する薬物」という意味です。これは、広義での「向精神薬」という言葉の使い方です。

「中枢神経」とは、ここでは脳とイコールと思ってください。つまり、使うと脳の機能に影響したり、気分が変化する薬をすべて「向精神薬」と呼ぶ使い方です。

具体的には、抗うつ薬をはじめとした、精神科領域で使用される医薬品はもちろん、お酒やタバコ、あるいは違法薬物なども、すべて含めた概念です。

狭義の向精神薬:法律や政令で指定されたもの

もう1つは、狭義の意味合いにおける「向精神薬」です。簡単にいえば、法的な定義ということです。

「向精神薬」の法的な定義は、「麻薬及び向精神薬取締法」に求めることができます (1)。これを見ると、「第二条 六」に次のような記載があります (1)。

「向精神薬 別表第三に掲げる物をいう。」

つまり、法的な向精神薬の定義は、上記の「別表第三」にリストアップされているもの、となります。

別表第三に10成分

では、この「別表第三」とはどこにあるか、といえば、同じページの最下部に記載されています (1)。

これを見ると、「一」から「十」まで具体的な成分名が並び、さらに次のような記載があります。

「十一 前各号に掲げる物と同種の濫用のおそれがあり、かつ、同種の有害作用がある物であつて、政令で定めるもの」
「十二 前各号に掲げる物のいずれかを含有する物」

このうち、十二については、「混合物でも、該当成分を含んでいれば向精神薬とみなしますよ」ということで、まあ当然といえます。

問題は十一で、「政令で定めるもの」とあります。これはいったい、何のことでしょうか。

政令でさらに70品目

ここでいう「政令」とは、「麻薬、麻薬原料植物、向精神薬及び麻薬向精神薬原料を指定する政令」というそのままな名前のものです (2)。

これを見ると、次のような記載があります。

「第三条  法別表第三第十一号の規定に基づき、次に掲げる物を向精神薬に指定する。」

そして、2016年9月現在で70の成分が挙げられています。ここでリストアップされているものも、狭義の (法的な定義での) 向精神薬です。

合計で80成分

つまり、現時点での狭義の向精神薬は、法律で定められた10成分+政令で指定された70成分の、合計80成分です。

この中には、医薬品として使われているものも、そうでないものもあります。

新しく3成分が向精神薬に指定された

少し前に、厚生労働省から「新たに3物質を向精神薬に指定し、規制の強化を図ります」という発表がありました (3)。

ここでいう「向精神薬」とは、上で説明したうち、狭義 (法的な定義) の方です。

「新たに」というと、新規の化学物質が開発されて、それが向精神薬に指定される、といったイメージを持ちやすいと思います。

しかし、この発表はそういうことでなく、昔からあったけれど、向精神薬には指定されていなかった物質を、今回政令のリストに入れることにしました、という話です。

具体的な成分名

今回、新たに向精神薬に指定されるのは、以下の3つの成分です (3)。

成分名:商品名の順に記載します。

●ゾピクロン:アモバンなど
●エチゾラム:デパスなど
●フェナゼパム

これらのうち、ゾピクロンとエチゾラムは医薬品として使用されていますが、フェナゼパムはされていません。

したがって、指定により影響を受けるのは、ゾピクロンやエチゾラムを病院から処方されている方々、ということになります。

なぜいまさら指定するのか?

ところで、ゾピクロンやエチゾラムは、最近できた薬、というわけではありません。

国内で発売されたのは、アモバンが1989年、デパスに至っては1984年ですので、どちらも30年ほど医薬品として使用されていたことになります (4, 5)。

アモバンは主に睡眠導入剤として、デパスは筋肉のコリをとったり、高ぶった気持ちを鎮める目的などで使用されてきました。

そうなると、「これまでずっとおとがめなしだった薬が、なんでいまさら向精神薬になるのか?」と疑問に感じるかもしれません。

これには、いろいろな理由があるのでしょうが、大きいのは次の2点ではないかと、個人的には考えます。

理由①長期処方の制限

向精神薬は、1回あたりに処方できる日数が制限されています。

通常は、1回あたり14日分までとなりますが、例外として30日分、90日分を限度する薬もあります (6)。

そのため、ゾピクロンとエチゾラムも、一度にもらえる日数に制限がかかります。特にエチゾラムはこれまで使われ過ぎたきらいがあるので、この措置はやむを得ないかな、と感じます。

理由②通信販売・個人輸入の規制

もう1つ、こちらの方が大きい理由かもしれませんが、個人による通信販売での購入を規制するためです。

エチゾラムは、現在でも規制上「処方せん医薬品」に該当します。これは、医師が発行する「処方せん」がなければ、薬局での購入ができない薬のことです。したがって、処方せん医薬品は、当然ながら通信販売等ができません。

「それならすでに十分なアクセス制限ができているのでは?」と思うかもしれませんが、これには抜け道が存在します。

海外から、同じ成分を含んだ製品を輸入すればよいのです。現在、個人輸入はこれらの規制の対象外なので、同じ薬でも、日本で販売されているパッケージは通販禁止で、海外向け製品はおとがめなし、という状況です。

向精神薬は、特定の手続きをしないと、輸出入することができません (1)。エチゾラムを向精神薬に指定することで、輸入による海外向け製品の国内での流通という、抜け道を断ち切ることができます。

つまり、それだけこうした手法による販売が目に余り、かつ乱用の温床になっていると判断されたということです。

ともあれ、今回の指定は、ゾピクロンやエチゾラムにこれまで知られていなかった安全性の問題が見つかった、というわけではなく、単純に流通の規制を目的としたものです。

つまり、医学・薬学的というよりも、社会的な見地からの措置ですので、これまでこれらの薬を治療目的に使っていた方が、特に心配をする必要はないことを付記しておきます。

まとめ

■広義の向精神薬は、脳や気分に影響するすべての薬を指す
■狭義の向精神薬は、法律や政令で個別に指定された成分である
■ゾピクロンとエチゾラムは、長く医薬品として使用されてきたが、この度向精神薬に指定されることになった
■向精神薬に指定することで、使い過ぎを防ぐことを意図としている

参考文献

(1) 麻薬及び向精神薬取締法 http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S28/S28HO014.html
(2) 麻薬、麻薬原料植物、向精神薬及び麻薬向精神薬原料を指定する政令 http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H02/H02SE238.html
(3) http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000136558.html
(4) アモバン錠 添付文書 サノフィ株式会社
(5) デパス錠 添付文書 田辺三菱製薬株式会社
(6) http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/hoken/sinryou/02kokuji/dl/kokuji26b.pdf