■目次■

・HIV感染症の治療は薬で行う
・薬の大きく5種類に分けられる
・ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤 (NRTI)と非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤 (NNRTI)
・インテグラーゼ阻害剤 (INSTI)
・プロテアーゼ阻害剤 (PI)
・CCR5阻害剤
・まとめ
・参考文献

HIV感染症の治療は薬で行う

HIV感染症の治療は、薬を飲むことで行ないます。

多くのウイルスには、有効な治療薬がないのですが、HIVは例外的にその増殖を抑制できる薬が存在するからです。

薬を飲んでHIVの数を減らすことで、CD4陽性T細胞の数を回復することができます (1)。その結果として、AIDS発症までの期間を遅らせることができます。

薬の大きく5種類に分けられる

HIV感染症の治療に使う薬は、その化学構造や作用メカニズムにもとづいて、大きく5種類に分けることができます (2-5)。

●ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤 (NRTI)
●非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤 (NNRTI)
●インテグラーゼ阻害剤 (INSTI)
●プロテアーゼ阻害剤 (PI)
●CCR5阻害剤

これらはすべて、HIVの増殖サイクルを邪魔することで、HIVが増えるのを抑制します。増殖サイクルにもたくさんのステップがあり、そのうちどこに作用するのかが、種類によって異なると思っていただければ問題ありません。

それぞれについて、以下で簡単に説明します。

ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤 (NRTI)と非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤 (NNRTI)

最初の2つである、NRTIとNNRTIはいずれも共通の作用メカニズムを持っています。

「作用メカニズムが同じなら、なぜ区別する必要があるのか?」と思うかもしれませんが、その理由の1つ目は、化学構造が異なるからです。ともあれ、これは医療者向けの話なので、読者の皆さんにはあまり関係がないかもしれません。

むしろ、もう1つの理由の方が重要で、それは治療における位置づけが異なるからです。これについては次回に詳しく述べますが、HIV感染症の治療では複数の薬を組み合わせるのが普通です (2)。

当然、組み合わせにはいろいろなパターンが考えられますが、どのようなパターンがよいかは、これまでの研究によってかなり分かってきています。こうした組み合わせを論じるうえで、NRTIとNNRTIを区別する必要があるのです。

NRTIとNNRTIの日本語名には「逆転写酵素」という言葉が出てきます。これらの薬は、この「逆転写酵素」のはたらきを邪魔する作用を持っています (2)。

逆転写酵素のはたらきを、簡単に説明すると、HIVの遺伝情報を記録した「RNA」を作る過程をストップすることです。

HIVにとってのRNAは、ヒトでいえばDNAに相当するものです。これらは生物の「設計図」に相当するものなので、例えていえば逆転写酵素阻害剤を使うことは、工場から製品の設計図を取り上げることに相当します。

インテグラーゼ阻害剤 (INSTI)

先ほど挙げた治療薬のリストの中で次に来るINSTIは、HIVのタンパク質が作られる過程を邪魔するはたらきをします。

タンパク質は、生物の身体を構成する成分の1つです。また、生命活動を維持するための化学反応に必要な「酵素」もタンパク質の一種です。

要するに、タンパク質は生物にとって必要不可欠な物質です。どのようなタンパク質が必要なのかは生物の種によって異なりますので、HIVが増殖するうえでも、専用のタンパク質が必要になります。

INSTIは、HIVが持っている「インテグラーゼ」という酵素の機能を阻害します (2)。インテグラーゼの機能を詳しく述べると、かなり専門的な話になるので今回はしませんが、非常に簡単にまとめれば、次のようになります。

実はHIVを含めたウイルスは、自分でタンパク質を合成することができません (6)。ではどうするかといえば、取り付いた細胞 (HIVでいえばCD4陽性T細胞) が持っている、タンパク質の合成装置を借りるのです。

つまり、ウイルスは自分だけの力では増殖ができず、だからこそ他の生物の細胞に取り付くわけです。また、宿主細胞のタンパク合成装置を借りるうえで、HIVは他のウイルスと異なり、「下準備」が必要です。インテグラーゼは、この「下準備」を行う酵素だと思ってください。

INSTIを飲むことでインテグラーゼのはたらきが止まると、HIVのタンパク質を合成する準備が整わず、その結果としてHIVの増殖サイクルに支障をきたすのです。タンパク質を工業製品に例えるなら、INSTIはその製品の製造ラインを止める働きをすると思えばよいでしょう。

プロテアーゼ阻害剤 (PI)

PIのはたらきも、先ほど述べたHIVのタンパク質に関係します。宿主であるCD4陽性T細胞の合成装置を借りて作られた、HIVタンパク質ですが、実はこの段階では未完成です。

どうしてかといえば、合成された直後は、たくさんの種類のタンパク質がひも状につながっているからです。このままでは、関係ない部分がくっついていて邪魔なので、適切な大きさにカットする必要があります。

PIによって機能を阻害される「プロテアーゼ」は、このタンパク質をカットする反応に必要な酵素です (7)。したがって、PIを使うとHIVのタンパク質が完成形になるのを遅らせることができるので、増殖も遅くなるのです。この過程は、工業製品における「箱詰め」に例えられます。PIを使うことは、箱詰めの工程を止めることに相当し、したがってその製品 (ウイルス) は出荷できないことになります。

CCR5阻害剤

ここまで紹介した4種類の薬は、いずれもHIVがCD4陽性T細胞に侵入して以降の、何らかの反応にかかわるものでした。

これに対し、CCR5阻害剤はHIVがCD4陽性T細胞に侵入する段階で作用するものです。つまり、細胞にウイルスが入らないようにする薬です。

その仕組みは名前の通りで、「CCR5」という物質のはたらきを阻害することです。「CCR5」とは「C-C chemokine Receptor 5」の略ですが、これはCD4陽性T細胞の表面にある物質の1つです (2)。本来CCR5は、ヒトの体内で免疫機能の調整にかかわる「ケモカイン」という物質を受け取るはたらきをしています。

ところが、CCR5はHIVがCD4陽性T細胞に侵入するときにもかかわります。具体的には、こういうことです。

HIVがT細胞の表面にある「CD4」にくっつくことで、これに侵入する話は前回しましたが、HIVの一部にはCD4に続いて同じくT細胞の表面にあるCCR5にもくっつきます (6)。

早い話がCCR5は、HIVがCD4を介してT細胞に侵入する過程を補助するはたらきをしているということです。今、「補助する」と書きましたが、もちろんCCR5が積極的にそうしているわけではなく、たまたまHIVの持つ物質と引き合う性質があったために、HIVに利用されてしまったという方が正確なのですが。

CCR5阻害剤は、こうしたHIV-CCR5の結合を邪魔することで、HIVが細胞に侵入するのを防ぎます。先ほど、HIVが増殖するには細胞に取り付く必要があると説明したことからも分かるように、細胞に侵入できないウイルスは増殖することもありません。

CCR5阻害剤を使うと、工場に製品の設計図が送られてこないのに近い状況が生まれ、結果的にHIVが増えにくくなるわけです。

これらの薬の実際の使い方については、次回に説明します。

まとめ

■HIV感染症の治療は、薬を飲むことで行う
■HIV感染症に使用する薬は、大きく5種類に分けられる
■HIVが細胞に侵入するのを防ぐ薬と、侵入後の増殖過程を阻害する薬がある

参考文献

(1) Moore RD, et al. Clin Infect Dis. 2007 Feb 1;44(3):441-6. PMID: 17205456
(2) HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究班 抗HIV治療ガイドライン http://www.haart-support.jp/pdf/guideline2016v2.pdf
(3) World Health Organization, Consolidated guidelines on the use of antiretroviral drugs for treating and preventing HIV infection Recommendations for a public health approach - Second edition 2016
(4) European AIDS Clinical Society, GUIDELINES Version 8.0 October 2015
(5) DHHS Panel on Antiretroviral Guidelines for Adultsand Adolescents, Guidelines for the Use of Antiretroviral Agents in HIV-1- Infected Adults and Adolescents
(6) 東匡伸・小熊惠二 シンプル微生物学改定第4版 南江堂
(7) 上野芳夫・大村智 監修 微生物薬品化学改定第4版 南江堂