目次:知っておくべき抗HIV薬の副作用5つ【HIVの基礎知識⑤】

・HIV治療薬の副作用に注意すべき2つの理由
 >1.高い服薬率が求められる
 >2.薬を一生続けなければならない
・何らかの副作用は、必ず起こる
・具体的な副作用
 >動脈硬化
 >薬疹(やくしん)
 >骨粗鬆症
 >乳酸アシドーシス
 >リポジストロフィー
・まとめ

HIV治療薬の副作用に注意すべき2つの理由

HIV感染症の治療を行ううえで、薬の副作用を知ることはとても重要です。
今回の記事では、HIV治療薬の副作用について解説します。

副作用を知ることが重要となる理由は、大きく次の2つです。

1.高い服薬率が求められる

1つ目は、HIV感染症の治療が上手くいくためには、高い服薬率が求められるからです。

「服薬率」とは、出された薬をきちんと使うことができた割合を意味します。例えば、1日1回朝食後に1錠飲む薬を1週間分もらったとします。1週間のうち、6日はきちんと飲みましたが、1日忘れてしまった場合、服薬率は6/7=85.7%となります。

さてHIV感染症に使う薬に、どの程度の服薬率が求められるかですが、ある研究では95%を下回ると、十分な治療効果が得られなかったという結果が出ています (1)。

計算してみると、1カ月のうち2日、薬を飲み忘れると、服薬率は95%を下回ります。つまり、1カ月における飲み忘れを1日未満にする必要があるということで、いかに厳密な服薬が求められるかが分かります。

こうしたなかで、薬の副作用のせいで、飲みたくても薬が飲めなかった、となればどうなるでしょうか。たちどころに、治療効果が悪くなることは、容易に想像できると思います。

したがって、薬の継続を難しくするような副作用には、特段の注意を払う必要があるのです。

1回飲み忘れてもあわてず、すぐに内服すべきです。そして次の薬は予定通りに飲みましょう。そうしないと、薬物耐性ウイルスが誕生してしまうからです。

2.薬を一生続けなければならない

こうしたことから、HIV治療薬は、長期間の服用が前提条件として求められるので、長く薬を続けた場合にどのような副作用が起きるかも、確認しておくべきなのです。
一生の継続が必要な理由は、以前の記事 なぜ、HIVに感染すると免疫機能が低下するの?【HIVの基礎知識②】 でも述べましたが、簡単におさらいすれば、HIVを身体から追い出す前に、ヒトの寿命の方が尽きてしまうからです。
HIV治療薬の副作用を知ることが重要である、もう1つの理由は、この薬は一生継続する必要があるからです。

何らかの副作用は、必ず起こる

当たり前のことですが、薬による副作用は、起こらないに越したことはありません。

そのため、HIV治療薬を使う場合に、何の副作用も起こさないことは可能か?と疑問が湧くと思います。しかし残念ながら、現状ではこれはまず不可能とみるべきです。

これは、個々のHIV治療薬自体に副作用が多いことに加えて、これらを複数同時に、長く使うからです。HIV感染症では3種類以上の薬剤を併用した治療を行うのが一般的です。

したがって、HIV感染症の治療においては、「副作用をゼロにする」という発想ではなく、「副作用は起こる」という前提のもとで、許容できるものを引き受けるようにするしかないのが実情です。

HIV治療薬の具体的な副作用

これから、HIV治療薬でよくみられる副作用について、個別に解説します。
取り上げる副作用の一覧は、以下の通りです。

●消化器症状
●動脈硬化
●薬疹(やくしん)
●骨粗鬆症
●乳酸アシドーシス
●リポジストロフィー

消化器症状

内服してから早期に起こる副作用として、嘔気・嘔吐・食欲不振などの消化器症状が挙げられます。これは、どのHIV治療薬でも起こりえます。

動脈硬化

動脈硬化とは、血管の壁にコレステロールが蓄積するなどした結果、血管が固くなった状態をいいます。HIV治療薬には、動脈硬化を起こしやすくするものがあると知られています。

プロテアーゼ阻害剤を使った治療を行っている際、コレステロールや中性脂肪の数値が高くなりやすいことが分かっています。これが動脈硬化性疾患の原因となります。

動脈硬化がよくないのは、血管が詰まりやすくなることで、心筋梗塞など命にかかわる病気を起こすリスクが増大するためです。

しかし、実はHIV治療薬を使うと、その種類に関係なく心筋梗塞のリスクが増加するのではないか、とも考えられています (3)。

したがって、HIV感染症の治療を行っている場合は、薬に関係なく、動脈硬化に気を付ける必要があるといえそうです。

薬疹(やくしん)

薬疹とは、薬が原因であると考えられる発疹のことです。多くのHIV治療薬で、この副作用が起きることが分かっています (4)。内服を開始して1~2週間で出現することが多いです。

しかし、この副作用はそのうち自然に軽くなるケースが多いことも知られています (5)。そのため、最初のうちだけ症状を抑える薬を併用することで、問題なく薬を続けられることも多いです。

ザイアジェン(アバカビル)だけは例外

ただし、薬疹の中でも1つだけ例外とみるべき薬があります。それはザイアジェンで、他の薬と比べて重症化しやすく、命にかかわるケースもあります (5)。これを「過敏症」と呼びます。

ザイアジェンの過敏症では、次のような症状がみられます (6)。


●発疹
●発熱
●吐き気
●下痢・腹痛
●身体のだるさ
●息苦しさ

内服を開始してから10日以内に急速に発症することが多いです。過敏症が起こった場合、ザイアジェンは二度と使うことができません (5)。他のHIV治療薬による副作用と比較しても、短期的に命にかかわる可能性がある分、より注意が必要といえます。

骨粗鬆症

いわずと知れた、骨密度の低下する病気です。

HIV治療薬は、このリスクを増大させることが知られています (6)。起こしやすい薬のタイプはプロテアーゼ阻害剤ですが、他のタイプでも見られます (6)。

また、HIVに感染すること自体も、骨粗鬆症のリスクを増やすのではないかと考えられています (7)。こうしたことから、HIV感染症の治療を行う場合、定期的に検査を受けることが望ましいでしょう。

乳酸アシドーシス

「乳酸」という物質が身体に蓄積することで、血液が酸性に傾いた状態をいいます。

細胞の中にある「ミトコンドリア」という小器官にダメージを与える薬で、こうした副作用が起きることが知られており、HIV治療薬もこれにあたります (4)。
この副作用が比較的多くみられる薬は、レトロビル(ジドブジン)、ヴァイデックス(ジダノシン)などですが、他の薬でも可能性はあります (7)。よくある症状は、腹痛、吐き気など、比較的ありふれたものですが、致死率は48%という報告もある重大な副作用です (7)。

この副作用を起こした場合は、ミトコンドリアへの影響の少ないお薬に変更するケースが多いです (4)。

リポジストロフィー

聞き慣れない言葉だと思いますが、これは体脂肪が異常な分布を示すようになる状態を指します (4)。

具体的には、手足や顔の脂肪が減り、おなか回りに脂肪が増加します。その結果、重症のリポジストロフィーでは、頬がこけた独特の顔になり、見た目の点で問題になります (4)。

この副作用がよく起きるのは、プロテアーゼ阻害剤やゼリット(サニルブジン)などです (9, 10)。ゼリットの場合、同じグループのほかの薬に変更することで、リポジストロフィーが改善したという報告があります (9)。

まとめ

■HIV治療薬は長期の継続必要なことから、副作用に注意することが重要になる
■HIV感染症治療中は、薬の種類に関係なく、動脈硬化や骨粗鬆症に注意が必要である
■ザイアジェンによる過敏症は命にかかわるので、一度起こした場合は、ザイアジェンは避ける必要がある
■乳酸アシドーシスやリポジストロフィーは、起こしにくい薬への変更で対処することが多い

参考文献

(1) Paterson DL, et al. Adherence to protease inhibitor therapy and outcomes in patients with HIV infection. Ann Intern Med. 2000 Jul 4;133(1):21-30. PMID: 10877736
(2) Carr A, et al. Pathogenesis of HIV-1-protease inhibitor-associated peripheral lipodystrophy, hyperlipidaemia, and insulin resistance. Lancet. 1998 Jun 20;351(9119):1881-3. PMID: 9652687

(3) Data Collection on Adverse Events of Anti-HIV Drugs (DAD) Study Group. Combination antiretroviral therapy and the risk of myocardial infarction. N Engl J Med. 2003 Nov 20;349(21):1993-2003. PMID: 14627784
(4) HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究班 抗HIV治療ガイドライン http://www.haart-support.jp/pdf/guideline2016v2.pdf
(5) ザイアジェン錠300mg 添付文書 グラクソ・スミスクライン株式会社
(6) Brown TT, et al. Antiretroviral therapy and the prevalence of osteopenia and osteoporosis: a meta-analytic review. AIDS. 2006 Nov 14;20(17):2165-74. PMID: 17086056
(7) Arenas-Pinto A, et al. Lactic acidosis in HIV infected patients: a systematic review of published cases. Sex Transm Infect. 2003 Aug;79(4):340-3. PMID: 12902594
(8) Miller KD, et al. Visceral abdominal-fat accumulation associated with use of indinavir. Lancet. 1998 Mar 21;351(9106):871-5. PMID: 9525365
(9) Moyle GJ, et al. A randomized comparative trial of tenofovir DF or abacavir as replacement for a thymidine analogue in persons with lipoatrophy. AIDS. 2006 Oct 24;20(16):2043-50. PMID: 17053350