私(くすりの窓口の編集者)が「コミュニティデザイン」という言葉を知ったのは、先月のことでした。
くすりの窓口でコラムを執筆していただいている家庭医の田中公孝さんに「コミュニティデザインの第一人者である、山崎亮さんをお招きして講演会を開催するので、参加しませんか?」 とお声掛けいただいたのがきっかけです。

日本の介護を考える若者たち

田中さんは「HEISEI KAIGO LEADERS」というコミュニティの運営をされており、今回の講演もその活動の一環だということ。そもそも、失礼ながら「HEISEI KAIGO LEADERS」がどういった団体か分かっていなかったので調べてみると…
HEISEI KAIGO LEADERSとは
介護に志を持つ20代を中心とする若手世代が活躍できる環境づくりに取り組む団体。 超高齢社会を担う20代に向けてイベントの定期開催や教育プログラムの実施している。
この団体をたちあげたのは、秋本可愛さんという現在若干26歳の女性だということ。

HEISEI KAIGO LEADERS 発起人の秋本可愛さん
秋本可愛さん 専修大学在学中に起業サークル「For Success」で認知症予防を目的とするフリーペーパーを企画・編集・発行。デイサービスのアルバイトをする中で直面した問題に違和感を抱き、解決に向け大学卒業と同時に起業。
…世の中には志の高い若者がいるものですね。
あまりにも志が高かったので、少し落ち込みました。私は「誰かのためになる仕事がしたい」と真剣に考えたことはないな…と。その志の高さに惹かれると同時に、介護領域の方とはあまり接点がありませんでしたし、勉強のために講演会に参加させていただくことにしました。

コミュニティデザインって何?

ただし、ひとつ問題が。この「コミュニティデザイン」「山崎亮さん」について不勉強ながら全く存じ上げなかったのです。そこで事前に少しリサーチしたわけですが、そこで私が感じたのは、「コミュニティデザインって、これからの医療分野においても必要な概念なんじゃないかな?」ということです。これはますます参加しなければいけないと感じました。

これを読んでいる方の中には、私と同じように「コミュニティデザインって何?」という方もいらっしゃると思いますので、簡単に説明しておきます。
コミュニティデザインとは
地域にある課題を地域の人たち自身が発見し、それを自分たちの手で解決していけるようサポートすること。人がつながる仕組みをデザインすること。
「地域のつながりを作り出すこと」がコミュニティデザインなんですね。
コミュニティデザイナーというのは、このコミュニティデザインを生業としている方のことです。

「コミュニティのつながりを作り出す」なんて、よそから来ていきなりできるものなのかな?という疑問を抱きつつ、講演会当日を迎えました。

コミュニティデザイナー山崎亮さん講演会開催

会場は満員で年齢層は高校生らしき方から50代くらいまでかなり幅広くいらっしゃっていました。お話しした方の中には、山崎さんの講演を聞くために名古屋から日帰りでいらっしゃっている、なんて方も。山崎さんのカリスマ性の高さがうかがえ、期待が高まります。

秋本さんの司会で幕を開け、いよいよ山崎さんの登場です。

時間ぎりぎりに到着したにもかかわらず、尋常じゃない場馴れ感で現れた山崎亮さん。
山崎亮さん studio-L代表。東北芸術工科大学教授(コミュニティデザイン学科長)。慶応義塾大学特別招聘教授。1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院および東京大学大学院修了。博士(工学)。建築・ランドスケープ設計事務所を経て、2005年にstudio-Lを設立。地域の課題を地域に住む人たちが解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりのワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、市民参加型のパークマネジメントなどに関するプロジェクトが多い。
…パジャマ?
最初に山崎さんを見た私の感想です。
やけにラフな素材の服を着た男性が現れました。

地域のつながりを作る仕事をしている方なので、相手に警戒心を与えない服装を心がけているのかしら?と深読みしてしまいました。

飄々とした雰囲気の山崎さんですが、講演会が始まると一気に引き込まれました。

山崎さんがコミュニティデザインを始めたきっかけ

山崎さんがコミュニティデザインを始めたきっかけは1995年の阪神・淡路大震災だそう。建築家としていて活動していた山崎さんは、当時、建築物が無残に倒れている様と同時に人と人とのつながりを目にします。
「震災があって、壊れた家の前で復興に向けて話合っている人達を見たとき、これが人間の可能性かもしれないな、と思ったんです。どうしてこういった状況が普段ないんだろう?災害が起きたときだけではなく、普段から人と人のつながりが町にある、という状態を作り出せるデザイナーになれないだろうか 」と山崎さんは感じたといいます。
ただ、もちろん当時はコミュニティデザイナーという職種はありませんから、建築家として働きながらも、「建築の設計を建築家だけでするのはもったいない。地域の人たちと一緒に住民参加型で作っていけば、より幸せな建築ができるのではないか 」という想いを抱き、その想いの実現のために模索する日々がしばらく続いたということです。
そして、住民参加型の建築を模索していた1999年ごろ、「2005年に人口が減る」という情報を得たことにより、「建物をそんなに立てる必要はないのでは?」と感じ、「建築を学んだ技術を、建物をたてるということ以外に使う道に進むべきだ」と決意を固めたということです。

そう決めた山崎さんはstudio-Lという会社を立ち上げ、「地域の人が話し合って課題を解決していく」というプロセスを、デザイナーとして応援していくようになります。

コミュニティデザイナーが「病院を設計してください」と頼まれた場合

コミュニティデザイナーとして数々の仕事をされている山崎さんですが今回の講演では、「病院の設計を頼まれた」際の事例について説明されました。
「病院の設計」といっても、普通の建築士と違うのは、コミュニティデザイナーに依頼した場合、まずは「地域の人や病院で働いている人の話を聞く」というところからスタートする ということです。この「話を聞く」という行動がコミュニティデザインには欠かせないようで、ただ一回話を聞くだけではなく、何度も足を運びワークショップを行うなど、徹底的に関わっている人々の声を聞きこむ姿勢が印象的でした。
もちろん、パンフレットや建物の設計などハード面のデザインは重要ですが、それと同時に、病院スタッフ、地域住民の声を聞く、というソフトの面の整備も同時に進めていきます。

事例に上がった病院は、スタッフは200人以上と大所帯ですが、全員に「どんな病院で働きたいのか」などヒアリングを行ったそう。

また、実際の設計に関しても、建築家の作った設計図を切り刻み、スタッフたちに自分たちが使いやすいように並べ替えてもらうことで、実際に働く人たちが使いやすい病院の設計に近づけていったそうです。
もちろん建築家からみたら建築不可能と思われる設計図をスタッフの方が提案することもありますので、そのあたりを何度もすり合わせていくこともコミュニティデザイナーの仕事です。建物だけではなく、病院内の家具などについても、もちろんスタッフの意見を採用します。

私が、コミュニティデザイナーの仕事ですごい!と感じたことは、スタッフの方だけではなく、病院付近の地域住民巻き込んでいく力です。
地域住民にも話を聞き、「どういった病院なら活用したいのか」を山崎さんたちコミュニティデザイナーは聞き取ります。

そうして自分たちの意見を反映された病院ができたら、自然と「どういう病院か見てみたい」「病気になったときはあそこでお世話になろうかな?」と思いますよね。
「地域の人がしたいと思っていることと、病院が取り組みたいと思っていることの接点を探す」ということがコミュニティデザイナーの仕事 だと山崎さんは語ります。 つまりコミットメント・関与を高めていくこと で、地域住民および病院スタッフの想いを反映した、幸せな建築をつくることができるんですね。
また、病院スタッフたちはプロジェクトを進める過程で、何度も(事例に上がった病院の場合は1年以上もワークショップを繰り返した)ワークショップをしていますから、自分たちだけでも進めることができるようになっているんですね。そうなってくると、山崎さんたちが関与しなくても、自主的にワークショップを開催し、面白い企画をどんどんと自分たちだけで実現させるようになるということです。
このように、プロジェクトを進める際は、必ず「参加型」で進めることがコミュニティデザインの特徴 だということ。参加型であるがゆえに、コミュニティの人たちの自主性も高まってくるんですね。

コミュニティデザインの実際の流れとは?

ここまでのお話から、コミュニティデザインにご興味をもたれた方のために、山崎さんが説明されたコミュニティデザイナーの仕事の流れを簡単にお伝えします。

主な仕事の流れは下記の①~④になります。
① ヒアリング(地域のコミュニティを理解する)
② ワークショップ(担い手としての主体者意識を高める)
③ 信頼感を高め組織化する(チームビルディング)
④ 活動サポート(資金など)

山崎さんはこの①~④の流れをだいたい3年かけて行う、とのこと。講演会を聞く前に「よそから来た人がつながりを作り出すなんてできるのかな?」と疑問を抱いていましたが、つながりを作り出すために、このようにじっくりと信頼関係を築いているんですね。
事例調査の重要性

住民の方にヒアリングを行うまえに、プロジェクトと同様の事例がないか、「事例調査」を行うことも重要です。

事例調査は、
・インターネット
・本・雑誌
・電話
・会いに行く
という手順を辿ります。

インターネットではだいたい100の事例をあつめ、その事例からめぼしいものを本や雑誌で探すのが10事例、その中からさらに絞った事例に電話でアポをとり、実際に会って話を聞くのが3事例程度です。

100の事例を集めるところから初めて、数年かけてプロジェクトを進めていく…というのが山崎さんの仕事の進め方です。

おわりに

私の場合はコミュニティデザイナーの方々のように、「3年かけたプロジェクト」など長期スパンで仕事をすることはほぼないのですが、「参加型にすることによってコミットメント・自主性を高めること」や、事例集めの重要性など、自分の仕事にも活かせそうだな、と思えることがいくつかありました。

また、ますます高齢化が進む中で、「医療などの行政サービスも行政だけに任せることはできなくなってくる」といったお話しもあり、医療分野においても今後ますます「参加型」は重要なキーワードになってきそうだとも感じました。

とはいっても、「人々の参加を促す」のは骨が折れそうですが、山崎さんの「楽しさなくして参加なし」という言葉にヒントがありそうな気がします。強制的に参加を促しても効力はありませんよね。楽しさ、かっこよさを作り出し、人々の自主性を促すことが、継続的な参加を促すきっかけになりそうです。

HEISEI KAIGO LEADERSも、山崎さんを呼んで講演を行うなど、楽しさ、かっこよさを作り出すことでコミュニティを広げ、コミットメントを高めようとしている、まさにコミュニティデザインをしている団体なのだな、と感じました。

普段あまり関わりがない介護や福祉に関心を寄せる人たちの熱意を間近に感じ、刺激を受けることができた講演会でした。