今回は、世界の栄養不良問題と、私がインドで実際に感じている食と栄養摂取の状況をお伝えしていきます。

発展途上国で不足しがちな栄養素

栄養不良と言えば、あばらが浮き出るほど痩せ細り、お腹だけ出ているアフリカやアジアの子どもを連想する方が多いと思います。

では、その原因は何なのでしょう。栄養不良は食べる量が少ない事が原因で起こると思われがちですが、ただ単に量だけではなく、生きるために必要な栄養素が不足している事で深刻な問題となるのです。

発展途上国の栄養不良問題

発展途上国では、主に以下の栄養素の不足が問題となっています。

エネルギー

飢饉、紛争、貧困などで食べ物自体の摂取量が少なくなり、十分なカロリーが摂取できなくなると、エネルギー不足により体重が減少して全身衰弱、筋萎縮などが起こります。

たんぱく質

十分な食べ物とカロリーが摂取できていても、体を作るのに必要なたんぱく質が不足すると、発育障害や浮腫、肝臓の肥大化などが起こります。たんぱく質不足による栄養不良では、お腹が大きく膨れ体重減少はあまり認められないのが特徴です。

ビタミン、ミネラル

ビタミン、ミネラルなどの微量栄養素の不足も、健康に重大な影響を及ぼします。発展途上国で特に多く見られるのが、ビタミンA、ヨウ素、鉄分の不足です。

ビタミンAが不足すると免疫力が低下し、感染症や下痢になりやすくなります。また、子どもが失明する一番の原因にもなっています。

妊娠中のお母さんがヨウ素を十分に摂取できないと、知的障害を持った子どもが産まれやすくなります。ヨウ素は主に海藻類から摂取できる栄養素なので、海藻を食べる習慣がない国では、市販の塩にヨウ素を添加するなどして不足を補っています。

鉄分の不足は女性と子どもに多く見られ、貧血や心身の発育障害を引き起こします。

栄養不良の深刻な問題点

必要な栄養素が不足して全身衰弱や免疫力低下が起こることにより、感染症にかかりやすくなり、風邪や下痢などの軽い病気が重症化しやすくなります。その結果、障害が残ってしまうことや、最悪の場合命を落としてしまうことがあります。

インドの農村地域の貧困層家庭の食事

2005~2006年に行われた第3次インド全国家族健康調査(NFHS-3)の推計によると、最も貧しい州と言われるビハール州では5歳未満児の8.6%が重度の栄養失調に罹患しているそうです。軽度、中度の栄養失調も含めると、相当な数に上る事が予想されます。

私が支援しているAOZORA SCHOOLもビハール州の農村地域に位置していますが、少なくとも活動地域のブッダガヤ周辺では、食べ物が少なく飢餓に喘いでいるという印象は受けません。

インド滞在中はAOZORA SCHOOLで育てられている孤児たちと一緒に学校で食事を摂る事が多いのですが、彼らの日常の食事がとても質素である事は8年間を通して変わりありません。普段の彼らの食事は、大体このようなメニューです。

AOZORA SCHOOL での孤児たちの食事

朝食:ハルワ(セモリナ粉と呼ばれる粗びき小麦粉と、油と砂糖を炒って作られます)
昼食:ご飯、ダル(豆のカレー)、じゃがいもとカリフラワーのサブジ(カレー炒めのようなもの)
間食:ビスケット
夕食:チャパティ(薄いナンのようなもの)、ダル、唐辛子入りのマッシュポテト

以前、実際の調理でどのくらいの量の食材を使っているのか記録して栄養計算した事があるのですが、肉・魚・卵などたんぱく源と言われる食材をほとんど摂っていないにも関わらず、たんぱく質はほぼ不足していませんでした。

不足しているのはビタミン、ミネラル類

これは日本でいう味噌汁のように毎日インドで食べられているダル(レンズ豆)にたんぱく質が豊富な事と、チャパティの材料となる全粒粉に、精製された小麦粉より多くのたんぱく質が含まれている事が大きいと考えられます。

また、ご飯やチャパティなど穀類は十分摂れており、調理の際に油も大量に使うので摂取カロリーもほぼ摂れています。やはり不足しているのは、ビタミンAなどのビタミン、ミネラル類でした。

深刻な栄養不良問題を改善し、彼らの健康に貢献したい

AOZORA SCHOOLの子どもたちも、中学生の年齢なのに小学生にしか見えない子など、年齢の割に体の小さな子が目立ちます。また、村の診療所では女性の貧血が多いと言う声をよく聞きます。
先日は村を歩いていると、酔っぱらったおじさんから「俺には11人子どもがいたが、7人は栄養不良で死んでしまったよ」という言葉を聞き、見えない栄養不良問題を意識させられました。

※写真はAOZORA SCHOOLのキッチン

不足している栄養素をどう与えていくかではなく、彼らの経済力と身近な食材の中でどのように工夫して補っていけるかを、今後農村の方々と一緒に考えていく必要があると考えています。栄養士として、知識があれば防げる栄養不良や病気を少しでも減らし、彼らの健康に貢献することができればこれ以上のやりがいはないです。そして、これが私の夢のひとつでもあります。

一方、世界一の糖尿病大国という側面も

今回は栄養不良問題についてお伝えしてきましたが、実はインドは世界一の糖尿病大国になりつつあると言われています。急激な経済成長の途中にあるインドの健康問題は、思った以上に深刻かもしれません。

次回は、栄養不良とは真逆とも思える生活習慣病問題についてお伝えします。