プロフィール 北和也: 2006年大阪医科大学卒。初期研修を修了後、府中病院急病救急部、阪南市民病院総合診療科などを経て、現在はやわらぎクリニックに副院長として勤務。父親とともに、地域医療に貢献すべく奮闘している。2016年「今日から取り組む 実践!さよならポリファーマシー」を上梓。
―ポリファーマシーは「多剤併用・多剤処方」などを表す言葉だということですが、何剤からがポリファーマシーに該当するのでしょうか?
一般的には5剤以上を指します。5剤前後をカットオフ値とした場合、4剤以下と比べて死亡、ADL低下、脆弱性、転倒、副作用の増加などと関与するといわれるためです。ただし、何剤からポリファーマシーという明確な定義はなく、臨床的に不要な処方をポリファーマシーと表現することが多いです。4剤以下だから問題ない、とは言い切れないのです。
―北先生がポリファーマシー問題に興味をもったきっかけはなんですか?
研修医の頃から、救急外来や病棟で薬の副作用を生じている患者さんによく遭遇してきました。必要以上に厳格なコントロールをされて生じた低血糖性昏睡、進行した認知症患者に複数のベンゾジアゼピンが処方された意識障害、必要性の乏しい処方による薬剤熱など、何度も何度も同じパターンで繰り返し遭遇したんです。救急対応については慣れてくるのですが、根本解決せずに、終わることの無いモグラたたきをしている感じがして、ずっとモヤモヤしていました。また、今まさに副作用が出ているわけではないけれど、処方が多すぎるという場合もあります。その場合は処方医本人には確かに伝えにくいところもあり、なんとなくモヤモヤしつつも何もできないといったケースが多々ありました。せいぜい同僚に「あの処方ってどうなん?」という非建設的な会話をするくらいでした(笑)そんな中、祖父が薬の副作用で体調を崩し、そのポリファーマシー症例を勉強会で発表する機会がありました。そこから積極的にポリファーマシー問題に取り組むようになったんです。
―現場で奮闘されている薬剤師さんたちのために「ポリファーマシー対策入門書」を書こうと思われたのはなぜですか?
2015年末、医師、薬剤師合同のポリファーマシーワークショップを開催した際に、多くの薬剤師とディスカッションする機会がありました。その際に思っている以上に現場の薬剤師にはポリファーマシー問題にまつわるフラストレーションがあることを知りました。また、医師は薬剤師に、薬剤師は医師に伝えたいことがあるにも関わらず、十分に共有できていないことがたくさんあることも知りました。これらを共有するために何か出来ないかなと考えていたところに、ちょうど、じほうさんから出版のお話があったのです。それで、ワークショップを一緒にやった医師、薬剤師のメンバーを中心に声をかけて執筆してもらうことにしました。
―ポリファーマシーはどういったデメリットがあるのでしょうか?
上記のように、死亡、ADL低下、脆弱性、転倒、副作用の増加と関与するだけでなく、服薬アドヒアランスが落ちたり、アンダーユーズが増えたり、また医療費増大にも繋がります。決して薬剤費のみに関与しているわけではありません。たとえば薬剤熱が生じたとして、それを薬剤熱と診断するために熱源精査のためにたくさんの検査がされることもあります。患者さんにとってお金もかかりますが、侵襲的な検査による健康被害、さらには通院にかかる時間、家族への影響など、さまざまなデメリットが見込まれます。
―ポリファーマシーはデメリットが多いと認識されながらも、未だに行われている原因はなんだと思われますか?
1つの主要な因子として、高齢化社会に伴うマルチモビディティ(他疾患併存状態/複数の疾患を同時にかかえる状態)が関与しています。高齢者は複数疾患を並存する傾向にあります。それぞれの疾患に対しガイドラインを遵守して対応すれば、当然ポリファーマシーになり、複雑で服薬遵守するのが難しい服薬スケジュールになります。複数疾患を臓器別専門医が個々に対応すれば、なおさらでしょう。この超高齢時代には臓器別での対応ではうまくいかないのです。その患者にとって必優先順位の高い医療とは何なのか、そしてその患者の価値観、思いなどの患者のもつ様々なバックグラウンドにも目を向けなければなりません。超高齢者は余生をどのように生きるかということが非常に大切になり、キュアに重心を置き過ぎた医療では患者さんを不幸にしてしまうことが多いでしょう。キュアからケアへ、という考え方も大切です。いまでも急性期病院の医師は目の前に来た患者に対し全力で対応するのが自身のプロフェッショナルとしての役割と考えていますし、それは非常に素晴らしいことだと思います。しかし、medicalに全力で対応するのが、その患者にとっての最善とは限らないのです。これを各専門医、そして国民全体がシェアしていく必要があります。
また、患者の問題、医療者の問題、環境(ヘルスケアシステム)の問題がポリファーマシーには関与すると言われています。医療者については生涯教育の問題が、環境の問題としては製薬会社のマーケティング方法の問題なども無視できません。
―ポリファーマシーを防ぐために、医師・薬剤師、それぞれの立場からできることはなんですか?
まず医師についてです。何も特別なことをする必要はなく、丁寧な診療を心掛けることが何より大切だと思います。処方に関する知識はもちろん大切ですが、問診、身体診察、臨床推論などの一般的な臨床スキルも大切だと思います。診断が曖昧でなんとなく対症療法を重ねられることも多いのです。このように、各スキルをもちいて1つ1つの処方毎の必要・不必要について丁寧に吟味することが大切です。そして上述の通り、臓器別・疾患別の知識のみでは包括的な高齢者診療は不可能ですので、総合診療医のみならず各臓器別専門医も老年医学の知識が必要です。ジェネラルマインドを持って診療することが大切だと思います。
薬剤師には、薬剤のスペシャリストでいて欲しいです。薬剤・処方に関する良質な情報を、『薬剤・処方に関する知識については任せて下さい!』というスタンスで医師に提供していただきたいです。添付文書や製薬会社からの情報をそのまま手渡されるだけだと、ちょっと寂しいです。そして、積極的に患者さんの情報を得たり、医師に情報提供したり、一歩踏み込んで医療に関わって欲しいです。患者の言いたいことを医師に上手く伝え、医師の言いたいことを患者にうまく伝えるような、橋渡し的存在を期待します。医師も、薬剤師も、お互いの長所を活かし、患者さんのために良好なコミュニケーションを心掛けることが大切だと思います。
―薬剤師が不適切な処方に気が付くために必要なことはなんですか?
上述の通り、薬剤・処方に関する良質な情報を入手しておくこと(入手する術を知っておくこと)、そして一歩踏み込んで医療に関わっていくことだと思います。つまり、プロフェッショナリズムをもって働くことに尽きると思います。
―薬剤師が不適切な処方に気が付いた際どのように対応すればよいでしょうか。疑義照会をする際のポイントは?
疑義照会は、医師の診療の合間に電話でたずねるというシチュエーションが多いと思います。薬剤師が医師との電話コミュニケーションを円滑化するために重要なことについては、さよならポリファーマシー、略して“さよポリ”の中にも青木拓也先生が書いて下さっていますが、

① 電話の基本的なビジネスマナーを守る
② 患者情報に基づいた推奨と代替案を準備してから電話する
③ 冒頭に電話の目的を簡潔に説明する
④ 医師だけでなく、事務職員や看護師も尊重する
⑤ 時間がかかりそうな相談の場合は、まず相手の都合が良い時間を聞いて、後でかけ直す
⑥ 薬剤師が取るべきは、Assertiveness(主張的態度)である
⑦ 会話の最後に、この相談で決まったことを復唱し確認する
⑧ もし推奨が受け入れられなくても、感謝の意を伝えて会話を終える
が大切です。

⑥については、Agression(攻撃的態度)とPassivity(消極的態度)の中間的態度であり、相手の価値観や意見を考慮せずにこちらの推奨を一方的に促す攻撃的態度や、相手との意見の衝突を極力避けようとする消極的態度は好ましくありません。患者さんに最善を尽くすため、プロフェッショナルとしてどのような態度をとるのが良いか考えれば当然のことかもしれませんが、なかなか聞いてくれない医師もいます。だからみんな悩んでいるのだと思います。これを円滑に行うために⑥意外の項目についても是非参考にしていただければと思います。そして顔のみえる関係をつくるには、日頃のコミュニケーションが大切です。
―疑義照会をしづらいなどの薬剤師の声もありますが、薬剤師と医師のコミュニケーション上の問題は何だと思いますか?またコミュニケーションを円滑に進めるためには何が必要だと思いますか?
コミュニケーション上の最大の問題は権威勾配です。上述のようにコミュニケーションすることをお勧めしますが、実際の現場には全く相談に取り合ってくれない医師がいるので、どうしようもないという意見もよく聞きます。そんな場合は、トレーシングレポートが有用です。上述の通り、薬剤師の取るべきはAssertiveness(主張的態度)であり、トレーシングレポートはこれを遂行するための1つのツールです。そして、患者さん自身のヘルスリテラシーを上げるため、患者教育を行うことも大切です。患者さんにも薬にまつわる正確な情報を伝え、日常的に共有することが大切です。
―ポリファーマシーに介入するため、薬剤師はどういった点に注意して患者さんとコミュニケーションすべきですか?
医師が行う医療面接はヒントになります。“か・き・か・え”すなわち、解釈、期待、感情、影響を把握します。処方に対する解釈、処方に期待すること、現在の感情・思い、処方による日常生活への影響、こういったことを把握するように努めることで薬学・医学的知識だけでなく、患者さんの価値観を知ることが出来、同時に患者さんとの信頼関係も構築できる気がします。『この薬剤師さん、そんなことも聞いてくれるんだ!』と思ってもらえたらしめたものです。処方毎に行うことは非現実的ですので、長い付き合いの中で少しずつアプローチしていくことが大切かもしれません。もっとも、このようなアプローチは、どちらかというと医師より薬剤師の方が元々得意なのかもしれませんが・・・。
―お薬手帳はポリファーマシー防止に活用できますか?
非常に有用な手段だと思います。薬局を一元化するのが理想であったとしても、複数の医療機関を通院する動線を考えると非現実的な場合もあります。そういった場合には、お薬手帳の一元化を行い患者、介護者、医師、薬剤師で処方情報を共有することで、重複処方を減らしたり、複数医療機関にまたがった処方カスケード(薬の副作用に対し、また薬が処方されてしまうという処方の連鎖)に気付いたりできることもできます。患者さんには、『お薬手帳は持ち運べるカルテ』と説明し、処方などに関する情報を書き込んだり、採血データや心電図結果などを挟んでもらい、常に携帯してもらうようにしています。こうすることで、もし道端で倒れて見知らぬ医療機関に運ばれた場合に、きっとあなたを守ってくれますよと説明しています。まだまだお薬手帳を配布する習慣のない医療機関もありますが、それでは超高齢のマルチモビディティ時代のニーズには応えられない気がします。患者情報のICT化の普及はまだ先です。ぜひお薬手帳携帯、一元化の普及活動をお願いします。
―患者の立場から、ポリファーマシーを予防する対策はありますか?
医師、薬剤師と処方についてお話しする機会をもつことです。そうすることで治療方針を共有することが出来ますし、ヘルスリテラシーの向上にもつながります。テレビや週刊誌の信憑性の乏しい情報を信じ過ぎないことも指導する必要があります。医師や薬剤師の説明がよく分からなければ、家族や介護者に診察について来てもらうよう勧めてあげて下さい。また、必要以上に専門医指向にならないことです。何度も同じことを述べますが、超高齢社会のマルチモビディティ時代に、臓器別・疾患別に対応するのみでは最良の医療を提供することはできません。肺気腫だから呼吸器内科、慢性心不全だから循環器内科、認知症だから神経内科や精神科、などと受診することが、全体像から考えたときに果たして良い選択肢かどうか考える必要があります。処方医が一人増える毎に薬剤副作用が3割増えるという研究もあります。あなた自身のことをしっかりみてくれる町医者を探しつつ、その町医者を通して適宜専門医に紹介してもらうことをお勧めします。また、処方のみを家族が受け取りに行くというケースもありますが、それも危険をはらんでいます。アセスメントの無いdo処方(前回と同じ処方)を繰り返され、知らぬ間に健康寿命を縮めてしまうということもあり得ます。
―北先生自身がポリファーマシー対策として心がけられていることは何ですか?
ポリファーマシー対策≠医療否定、ということをあらためて強調するようにしています。週刊誌の『この薬は飲んではいけない』という情報と、ポリファーマシー対策との違いは一体なんなのか、ということを自問自答しながら対策しています。つまり、減処方はあくまで処方の最適化の手段であって、決してゴールではないということです。減処方が声高にいわれると、減処方が目的になってしまうことは多いでしょう。そうすると、本来の目的である処方の最適化、そしてそれにより患者さんの幸せに貢献するという目標から遠のいてしまうということもあり得ます。“クスリもリスク”と言いますが、行き過ぎた“クスリもリスク”もまたリスクなのです。患者さんの暮らしと自然にマッチするようなポリファーマシー対策を肩肘張らずに自然体でできるのが理想的だと思います。
―最後に、今後どういった活動に力を入れていく予定ですか?
2015年から地元の診療所で働き始めたところなのですが、ようやく患者さんとの信頼関係も少しずつですが構築できて来たのかなと思っています。診療所のスタッフや近隣の薬剤師との関係性にしてもそうです。ポリファーマシー対策に限らず、地元医療に貢献出来ればと思っています。ポリファーマシー対策に関しては、もっともっと地元の医師、薬剤師とコミュニケーションをとり、医師会や薬剤師会の方々と協力しつつ勧めて行くことが出来ればと思っています。書籍のタイトルは“さよならポリファーマシー”ですが、ポリファーマシーと完全にさよならすることなんて不可能です。どうやって処方の問題と付き合いつつ、患者さんの暮らしをサポートできるかをみんなで試行錯誤しながら取り組んで行きたいと思います。
―ありがとうございました。
上手な疑義照会の仕方など、ポリファーマシー対策について具体的に知りたい方は、こちらの本を参考にしてみてはいかがでしょうか。

『今日から取り組む 実践!さよならポリファーマシー』
著者:北和也
出版社:じほう
発売日:2016年10月13日
定価:2,916円(税込)