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目次:【排尿障害のお薬】ハルナールとユリーフの違いを解説
・前立腺肥大症に伴う排尿障害について
・ハルナール、ユリーフの成分と作用の違い
・ハルナール、ユリーフの飲み方の違い
・ハルナール、ユリーフの価格の違い(H28.12時点)
・ハルナール、ユリーフの副作用の違い
・おわりに
前立腺肥大症に伴う排尿障害について
まずは、前立腺肥大症に伴う排尿障害について説明します。名前のとおり、前立腺が肥大することが原因で、排尿障害を起こした状態です。
膀胱の下に、尿の通り道となる「尿道」を囲むような形で、前立腺は位置しています。前立腺が肥大すると、尿道が圧迫されて狭くなります。
尿道が狭くなると、尿が出づらくなったり、残尿感を感じたりするような症状がでます。又、無理に尿を出そうと、膀胱に過剰な負担が加わり、頻尿などの症状を起こすことがあります。
ハルナール、ユリーフの成分と作用の違い
お薬の作用について
ハルナール、ユリーフ共に、前立腺により圧迫されて狭くなっている尿道を広げる作用をもちます。まずは、どのようにしてその作用を示すのかを説明します。
体の仕組みとして、尿を出す作用に関与しているのが「交感神経」とよばれる神経です。交感神経のイメージとしては、体が活発に活動した時(例:運動など)にはたらく神経です。
交感神経がはたらくと、尿を出さない方向に体が作用し、膀胱に尿を蓄え、尿道を狭める動きをします。このことを逆手にとり、この交感神経のはたらきを抑えることができれば、尿道が狭まるのを防ぐことができるというわけです。ハルナール、ユリーフは、まさに、交感神経のはたらきを抑えることによって作用をもたらします。
交感神経は、神経伝達物質が受容体に作用することによって、興奮状態になります。交感神経の受容体のひとつに「α(アルファ)1 受容体」とよばれるものがあり、前立腺や尿道に存在しています。これらのα1 受容体をブロックすることによって、交感神経の働きを抑え、尿道を広げる作用を持ちます。
ハルナールの成分と作用
ハルナールは、1993年に発売されたお薬で、多くの方が服用しているお薬です。ハルナールの有効成分は、「タムスロシン」です。
少し話が難しくなってしまいますが、実は、α1 受容体は、さらに細かく分類され、「α1 A受容体」「α1 B受容体」「α1 D受容体」に分かれます。
それぞれが体のどこにあるかということに特徴があり、
このことから、前立腺に作用してもらうためには、α1 A受容体、α1 D受容体に作用を示し、できれば、α1 B受容体に作用しないほうがより望ましいことがわかります。
但し、α1 A受容体、α1 B受容体、α1 D受容体の分布には個人差があります。α1 D受容体は前立腺というよりは膀胱に作用しやすい受容体なので、前立腺肥大症の治療にそこまで重要ではありません。
ハルナールは、主にα1 Aとα1 D受容体 に作用します。α1 受容体全体を広くブロックするイメージです。このことにより、血管に対する作用を抑えつつ、前立腺、尿道に作用し、尿道を広げることにより、排尿障害を改善する作用を示します
ただ、α1 B受容体への作用もゼロではないため、血管に対する作用もあり、めまい、立ちくらみなどの低血圧による副作用症状が出る可能性があります。
ユリーフの成分と作用
ユリーフは、ハルナールよりもあとに、2006年に発売されたお薬です。ユリーフの有効成分は、「シロドシン」です。
ユリーフは、α1 A受容体に選択的に作用しますが、ハルナールよりもより選択的に作用を示します。そのため、α1 A受容体がたくさん分布している人にはユリーフの方がよいとされています。 ユリーフは、血管に対する作用を弱め、より前立腺、尿道に対する作用が高まることを期待して開発されたお薬です。
作用の違いまとめ
■ハルナール、ユリーフともに、前立腺、尿道部のα1 A受容体に比較的選択的に作用し、尿道を広げ、排尿障害を改善する効果を期待できます
■ユリーフは、ハルナールよりも、よりα1 A受容体に対する選択性が高いお薬にです。
■α1 A受容体、α1 B受容体、α1 D受容体の分布には個人差があり、人によって、どのお薬がより効果的かは変わってきます。
(参考)フリバスについて
もうひとつ、前立腺肥大症に伴う排尿障害に処方される代表的なお薬に「フリバス」があります。先ほど書いたように、α1 D受容体はほとんどが膀胱に存在します1) 。フリバスは、α1 D受容体に選択的に作用するお薬になります。尿道を広げる作用に加え、膀胱に対する作用が期待できることから、夜間の頻尿にもより効果があるとされています。そのため、前立腺肥大症が原因ではなく、膀胱が原因で頻尿に陥っている人には、フリバスが処方されることがあります。
ハルナール、ユリーフの飲み方の違い
ハルナールとユリーフでは、飲み方に違いがあります。
ハルナール
通常、タムスロシン塩酸塩0.2mgを1日1回食後に服用します。
※年齢、症状により適宜増減
ユリーフ
通常、シロドシンとして1回4mgを1日2回、朝夕食後の服用です。
※症状に応じて適宜増減
飲み方の違いまとめ
■通常、ハルナールは1日1回の服用で、ユリーフは、1日2回の服用です。
ハルナール、ユリーフの価格の違い(H28.12時点)
ハルナールの価格
・ハルナールD錠0.1mg 62.4円
・ハルナールD錠0.2mg 121.60円
※ハルナールにはジェネリック医薬品(GE)が販売されております。
・ハルナールD錠0.1mgのGE 17.5円〜34.9円
・ハルナールD錠0.2mgのGE 32.3円〜63.30円
ユリーフの価格
・ユリーフ(OD)錠2mg 38.7円
・ユリーフ(OD)錠4mg 75.5円
※現状では、ジェネリック医薬品(GE)は販売されていません。
価格の違いまとめ
■ユリーフが1日2回服用であることと、ジェネリック医薬品が現在販売されていないことを考えると、ハルナールと比較すると価格が高くなります。
ハルナール、ユリーフの副作用の違い
ハルナール、ユリーフに共通する副作用として、めまい、ふらつき、たちくらみなど血圧低下に伴う症状があります。特に、飲み始めたばかりの時に感じることが多く、症状がひどい場合には、すぐに相談するようにしましょう。
車の運転や高所での作業など、危険を伴うような作業を行う場合には、特に注意が必要となります。
高血圧の治療中で、血圧を下げるお薬を服用している場合には、事前に必ず医師や薬剤師に、飲んでいることを伝え、確認するようにしましょう。
ユリーフの特徴的な副作用として、射精障害があります。これは、射精時の精液が減少したり出なくなってしまうものです。臨床試験の症例(※)では、17.2%の方に認められています。内服を中止すれば回復することが多いですが、気になる場合には、医師に相談することをおすすめします。
ここで挙げているものは一例ですので、いつもと違うような気になる症状が出た場合は、医師や薬剤師に早めに相談するようにしましょう。
※添付文書参考
おわりに
前立腺肥大症に伴う排尿障害に用いられる代表的なお薬、ハルナールとユリーフの違いについて参考になりましたでしょうか?同じα1 受容体をブロックするお薬でも、さらに細かく作用が異なり、それぞれに特徴があるお薬になります。お薬の効果や副作用には個人差があるため、一概にどのお薬が良いとは言えません。医師と相談しながら、指示どおりにお薬を服用することが大切です。
参考文献
1) Yasuda K, et al. Effect of naftopidil on urethral obstruction in benign prostatic hyperplasia: assessment by urodynamic studies. Prostate. 1994 Jul;25(1):46-52.