登場人物

★ゆきさん
雪原 匠(ゆきはら たくみ) 49歳 男性
ゆきさん薬局の薬剤師
優しくて、おだやかな性格

★中林 民子
中林 民子(なかばやし たみこ) 68歳女性
通っていた薬局が無くなり、かかりつけ薬局をゆきさんに変更
喘息、骨粗鬆症

本心が聞けるようになってから、質問します

近くの薬局が閉店になり、ゆきさん薬局を新しくかかりつけ薬局にしてくれるようになった、中林さんが来店されました。

中林さんは「ゆきさんは、自宅から近いので便利なのよ。病院と薬局は自宅の近くに限るわ」というのを口癖のように話しています。

中林さんが最初にゆきさん薬局に訪れたのは3ヶ月前です。

初回は、「今までずっと同じ薬をもらっているから、説明はなくても大丈夫よ」と話されていたので、併用薬を確認した上で、簡単な薬の説明をお話してお薬をお渡ししていました。

その後も、薬の説明よりも早くもらいたいという要望が強かったので、錠数を確認してお渡しすることに終始していました。ゆきさんも、患者さんが心を開いていない状態で質問しても、本当のことが聞けないと思い、あえて細かい質問はしていませんでした。
中林さんが、ゆきさんで薬をもらうのは、今日が4回目になります

ゆきさんが「中林さん、お薬用意できましたよ」と呼びかけると、中林さんは「よっこらっしょ」と言って、ゆきさんの顔を見て安心したような笑顔で、腰かけました。

ゆきさん薬局のお薬お渡し口は、座ってお渡しするようになっています。ゆきさんが今まで勤めていた薬局では、立ってお渡しするところが多かったのですが、「患者さんにきちんと説明したい」との思いが強かったので、着席でお薬を渡すように作ったのです。

ゆきさん、中林さんとの距離も近づき、色々と話せてもらえる環境は出来てきたかなと思い、質問を始めました。
「中林さん、いつもと同じ薬です。ところで、プレドニンというステロイドが出ているのですが、何でこれを飲むようになったのですか?」

ステロイドは良い薬、怖い薬?

中林さん
「随分前に、喘息の発作をして、入院したことがあるの。その時にこれを飲んで助かったのよ」

ゆきさん
「あー喘息に使っているんですね。良い薬ですよね。これ飲めば一発で楽になる人、多いですよ」
今まで喘息の吸入は出ていなかったので、ゆきさんは中林さんが喘息だとはわからなかったのです。

中林さん
「そうなのよ。だから何かあったらすぐにこれを飲むの。これ飲めば呼吸が楽になるから」

ゆきさん
「いつから、飲まれているのですか?」

中林さん
「数年前に喘息で救急車に運ばれてからよ。その後、これは毎日飲み続けているの」

ゆきさん
「では病院を退院後、ずっと同じ薬をもらっているのですね」

中林さん
「そうよ。今行っているクリニックは、自宅の近くということで紹介してもらったの。先生も前の病院が処方していた通り薬を出してくれているわ。だから、何も聞かず処方箋だけ書いてくれるので、便利よ」

ゆきさん
「今出ている薬は、骨粗鬆症の飲み薬と、喘息のためのステロイドです。ステロイドはとても効果の高い便利な薬ですが、可能であれば飲み続けない方が良いのはご存知ですか?」

中林さん
「あら、そうなの。効いているからいいじゃない」

ゆきさん
「ステロイドは様々な病気に利用する、本当に効果の高い薬です。でもこのステロイドは、本来自分の体の中で作るホルモンなんです。それを外から取り入れてしまうと自分で作らなくなってしまうのです。まあ、体がさぼっちゃうんですよ」

中林さん「ふーん」と言いながら、「もうそんなに長生きしなくても良いから、関係ないわよ」と言って帰られました。

専門医を紹介してもらおう

1週間ほどして、中林さんが来局されました。

ゆきさん
「あれ、いつも1か月に1度なのに、今回は早いじゃない」

中林さん、鎮痛剤の処方箋を渡しながら、話し始めました。
「いやー、ゆきさん参ったわ。胸が痛いからレントゲン撮ってもらったら、肋骨の圧迫骨折だって。骨密度も低くて、骨粗鬆症と言われてしまったの。飲んでいる薬を先生に見せたら、ステロイドの飲みすぎじゃないと言われたわ」

ゆきさん
「なるほど、前回、ステロイドを安易に飲み続けてはだめと言いましたよね。そもそも、何で今の内科に行くことにしたのですか?」

中林さん
「病院では退院するときに、呼吸器の先生を紹介すると言っていたのだけど、自宅に近いから今の先生にしてもらったの」

ゆきさん
「中林さん、内科と一口に言っても消化器や呼吸器、循環器とそれぞれに専門があるんです。専門医に診てもらわないと、内科の先生が全てを分かるわけではないんです。内科同士でも、お互いに紹介しあっているくらいですから」

中林さん
「あら、そうなの」

ゆきさん
「今まで診てもらっていた先生は、循環器が専門で、呼吸器は弱かったのかもしれません。先生も患者さんの希望で来られているので、断れなかったかもしれませんね」

中林さんが頷いているのを見て、さらに話を続けました。
「病気ごとに治療ガイドラインというのがあります。喘息の場合には、まずはステロイドの吸入で治療開始します。その後、それで効果が弱ければ、別の吸入や飲み薬を増やしていきます。いきなり、ステロイドの内服ということは、通常ありえません。しかし、おかしいと思っていても、紹介元の先生の顔をつぶしてはいけないという気持ちが起こることも考えられます」

ゆきさん、珍しくたたみかけるように話を続けました。「骨粗鬆症だって、きちんと骨密度を計って、薬がきちんと効いているか確認しながら飲まなければいけません」

中林さん
「まあ、難しいことはわからないけど、結局、私はどうすれば良いの?」
ゆきさん
「ここらへんで呼吸器科は、岩谷先生です。骨粗鬆症は、今行っている整形外科で相談すると良いです。」

中林さん
「そうなのね。で、具体的にはどうすれば良いの?」

ゆきさん
「病院で喘息の治療をしてもらうように薬局で言われたと伝え、お薬手帳をお見せてください」と言いながら、ゆきさんは、「今まで喘息治療の目的でステロイドを長期服用し、骨粗鬆症を起こしています。まだ吸入は利用していません」とお薬手帳にメモ書きして渡しました。

中林さん「病院も薬局もどこでも良いというわけではないわね。どうもありがとう」と言って、お薬手帳を大事にしまいました。

「中林さん、うちの薬局を選んでくれてありがとう。適正な治療方法を確認するのも薬剤師の役割なんですよ」と心の中でつぶやくゆきさんでした。


※ゆきさん薬局の物語に登場する人物は、フィクションです。