2015年Facebook社が女性従業員に対して卵子凍結費用の補助を行うことを発表し話題になりました。さらにアメリカ大手Apple社もそれに追従する様に同様の方針を打ち出しました。

そして昨年、ついに日本においても千葉県浦安市が少子化対策の一環として、住民に対し卵子凍結保存費用を助成するという政策を発表。日本で初めての自治体主導での卵子凍結費用の助成ということで、大変話題となりました(注)。この助成を受けると自己負担額10万円程度で卵子凍結を行うことが可能となります。

今回の記事では、一体なぜ卵子凍結が必要なのか?
そして卵子凍結の有用性や問題点を説明します。

注)浦安市が卵子凍結に対する助成を決定したのは、浦安市の合計特殊出生率(女性が一生の間に産む子の人数)が1.09と日本の平均をも大きく下回る現状に対し、出産前・産後・さらに次回の妊娠に対して、様々な少子化対策を講じた政策の中のあくまで一つです。

なぜ卵子凍結が必要なのか?卵子の年齢と妊娠率

現在では不妊治療を行う女性は多くなりましたが、初めて体外受精(卵子と精子を体外で受精させ子宮内に胚を戻す技術)が成功したのは1978年、日本での初成功例は1983年であり、約35年前と実は案外最近のことです。
その後この技術に対する賛否両論はあったものの、不妊治療の需要は高くその技術は凄まじい勢いで発達しあっという間に広まり、現在では約20人に1人が体外受精で出生される時代となりました。まさにクラスに一人は先進的な不妊治療により出生されているのです。

さて、これだけ沢山のカップルが不妊治療を行なっているので、蓄積されたデータ量もかなりの数となりました。そこで胚移植を行なった女性の妊娠率を年齢別に評価をしたところ、かなり衝撃的なデータが世にあらわれました。

30歳の妊娠率が35%、対して40歳の妊娠率25%、さらに45歳の妊娠率5%と、不妊治療技術が格段に向上したにも関わらず、女性の年齢のリスクを超えることは出来なかったのです。
もちろん様々な因子が複雑に影響しているのですが、その大きな原因の一つが卵子の老化なのです。この話は 以前のコラム でも解説しましたが、女性の卵子は自身がお母さんの子宮の中にいた頃からすでに作られていて、その後閉経まで常に減り続ける仕組みです。

つまり卵子の年齢は女性の年齢と同じ様に年齢を重ねる事になります。その結果、年齢とともに卵子の質も落ちてしまい、妊娠率に直接的に影響が及んでしまうのです。

その問題を克服する可能性を秘めているのが、卵子凍結という技術です。この技術は、体外受精の採卵と同様、排卵直前の卵子を腟から針で穿刺を行い、得られた卵子を液体窒素(−196℃)で保存するものです。そして妊娠を考えるときに卵子を解凍して精子と培養して受精を行い、受精卵から育った胚を子宮内に移植して妊娠を成立させるのです。

今回の様に日本でリスクの無い女性に卵子凍結が認められたのは2013年の事で、それより以前は癌に対する抗がん剤治療によって卵巣機能が低下してしまう事が予想されるときに、治療前に卵子を保存するといった目的でのみ認められていました。

しかし海外ではすでに特にリスクがない女性の卵子凍結が認められている国も多く、中には自分の卵子を採取して業者に売り、さらにその卵子を買って妊娠をするという、卵子売買が行われている地域も少なからず存在します。

卵子の取り扱いに関しては今後ますます法の整備が必要になってくるでしょう。

卵子凍結の値段

基本的には全て保険が効かない自費診療となりますので、かなりの値段がかかります。排卵誘発薬や各種診察にかかる値段、そして採卵の処置料金だけでも数十万円はかかってしまいます。さらに施設にもよりますが、卵子1つ1つを保存するためにも数万円の費用が必要であり、1年おきに保存料の追加料金が必要な施設も少なくありません。

いくら女性の社会進出が進み晩婚化になってきたからといって、自分の卵子を保存しておいて仕事に打ち込むというにはコストが掛かり過ぎてしまいます。

また現在様々な自治体で不妊治療に対する助成が行われはじめましたが、その対象はあくまで治療を行う夫婦ですので、個人で卵子を適応する際には適応にはなりません。そこで最初に紹介したFacebook社やApple社が卵子凍結に助成を出すと決めたのは、一見不自然ですが自然な流れでもあるのです。

卵子凍結の有用性と日本の生殖医療の現状

2016年大阪府内の44歳の女性看護師が、独身時代に凍結保存した卵子により女児を出産した事がニュースとなりました。おそらく社会的背景により卵子凍結を行なった方の日本で初めての出産例でした。さて、凍結卵子(未受精卵子)による妊娠率ですが、実際にはまだまだデータが少ないため確かなことはわかりませんが、やはり受精卵を凍結した場合やその後の胚を凍結した場合と比べると、妊娠率は低下する傾向にあります。

凍結に伴い卵子が壊れてしまう事もありますし、受精卵や胚の凍結は卵子が受精可能であって実際受精したものを保存するのに対し、未受精卵子の保存はもともと受精ができない可能性が高い卵子も含めて保存をしなければならないため、卵子凍結を行う際はなるべく沢山の卵子を得る必要があります。

さて、卵子凍結の有用性を考える前に日本の不妊治療の現状を考える必要があります。みなさん日本の不妊治療技術は世界的に高いと思いますか?それとも低いと思いますか?

実は世界各国の不妊治療実績をモニタリングしている「国際生殖補助医療監視委員会(ICMART)」の報告によると、日本は1回の採卵あたりの出生率が60カ国中最下位でした。その反面治療件数は60カ国中1位でありアメリカの1.6倍と非常に多くの治療が行われています。

つまり日本は妊娠できない不妊治療が最も行われている国でもあるのです。
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