パクリタキセルとは?

パクリタキセルの成分

パクリタキセルは、様々ながんの治療に用いる、抗がん剤の一種です。

これは、庭木としても知られる「イチイ」と言う植物に含まれる成分から合成されたものです (1)。イチイは日本全国に自生しており、赤色の果実は甘く、食べることもできます (1)。

細胞分裂を抑制する

パクリタキセルは、細胞分裂の際に重要な働きをする、「微小管」と呼ばれる物質の働きを邪魔する作用を持っています (2)。

ご存知の通り、がん細胞は通常の細胞と比較して、細胞分裂が活発です。したがって、細胞分裂を抑制することで、がん細胞に対して高い毒性を示すことができます。

パクリタキセルを有効成分とする製品

タキソールとアブラキサン

パクリタキセルを有効成分とする製品は、以下2つの注射剤が使用されています (2, 3)。

●タキソール
●アブラキサン

両者の違いはどこにあるのかと言えば、もっとも重要なのは添加剤の差です。

タキソールの問題点

上の2つのうち、先に発売されたのはタキソールです。タキソールの問題として、アルコールを含んでいる点が挙げられます。

と言うのも、パクリタキセルは非常に水に溶けにくい物質ですので、水だけに溶かして点滴として投与、と言うことができません。

そのため、何とか溶かすためにアルコールが添加されているのです。標準的な投与法では、1回にパクリタキセルを300mg程度使用することが多いのですが、この量に含まれるアルコールはビール500mLに相当するとされます (4)。

こうしたことから、お酒に弱い人にはつらいと言えますし、タキソールを投与する日は、車で病院に行くことができなくなります。自分で運転すると、飲酒運転となってしまうからです。

タキソールのデメリットを解消したアブラキサン

タキソールのこうしたデメリットを解消するために、作られたのがアブラキサンです。アブラキサンは、パクリタキセルを「アルブミン」と言うタンパク質とくっつけることで、水に溶けやすくしたものです (5)。

これにより、水で溶かして点滴することができるようになり、アルコールが必要なくなりました。このことは、この後述べる過敏症のリスクを減らすほか、点滴にかける時間を短くすることができるという点でもメリットとなります。

パクリタキセルが使用される病気

各種がん

抗がん剤であるため、使われる病気は当然ながら各種がん、となります。いくつか列挙すると、以下の通りです。

●乳がん
●胃がん
●非小細胞肺がん
●卵巣がん
●子宮体がん
●食道がん
●子宮頸がん

ただし、これらはタキソールで認められている適応症です (2)。アブラキサンの適応症はもっと少なく、上記の上3つに「膵がん」を加えた4種類となっています (3)。

パクリタキセルの効果と特徴

上で紹介したがんのうち、特に乳がん、卵巣がん、子宮体がん、子宮頸がん、非小細胞肺がんなどで使われる機会が多いと言えます (6-10)。

また、シスプラチンやカルボプラチンと言った「白金製剤」と呼ばれる抗がん剤と一緒に使われることが多いのも、特徴の一つでしょう。

ちなみに、同じパクリタキセルを有効成分とするタキソールとアブラキサンでは、効果に優劣があるのか気になるところかもしれません。

これについて比較した研究も行われていますが、真のエンドポイントを改善する効果はあまり変わりないようです (11, 12)。
しかし、これらは非小細胞肺がんを対象にした臨床研究なので、他の種類のがんではどうなのか、まだはっきりしない部分も多いと言えます。

その他、比較的最近になって、アブラキサンが進行性の膵がんに対して有効であることが分かりました (13)。現在では、これまで汎用されていた「ゲムシタビン」と言う薬と併用する形で使用されるケースがあります。膵がんに有効な薬は、非常に限られているので、これは患者さんにとって朗報です。

特にアブラキサンは、まだできてそれほど時間がたっていないので、これからも新しく有効ながんの種類が見つかることもあるでしょう。今後の研究に期待したいところです。

パクリタキセルの副作用

抗がん剤を使用するうえで、副作用は避けては通れません。
パクリタキセルも例外ではなく、ほぼ100%何かしらの副作用が生じると思って問題ありません。

副作用のうちいくつかは、多くの抗がん剤で共通して見られるものです。
具体的には、以下のようなものです。

多くの抗がん剤で共通して見られる副作用

●脱毛
●白血球減少
●吐き気
●体のだるさ

これらに加えて、パクリタキセルに特徴的な副作用を2つほど紹介します。

過敏症 約20-30%

これは、特にタキソールに当てはまる副作用です。と言うのも、タキソールに含まれるアルコールが原因となるためです。

具体的に表れる症状は、次のようなものです。

●じんましん
●顔や皮膚が赤くなる
●胸の痛み
●脈が速くなる
●血圧の低下

アメリカでの調査では、投与された人の20-30%にみられたとのことで、ほとんどが投与開始直後に起こります (4)。

しかしながら、これには予防法があります。具体的には、タキソールを投与する前にアレルギーを抑える薬を投与しておきます。これにより、過敏症の起こる確率を1%程度に抑えることができます (4)。

末梢神経障害 約40%

抗がん剤の種類によっては、脳や脊髄から体中に張り巡らされた「末梢神経」にダメージを与えることが知られています。

パクリタキセルも、このうちの1つに数えられ、投与された人の約40%に末梢神経障害が現れるとされます (14)。症状としては、手足のしびれが主です。

この副作用が厄介なのは、薬の投与を中止しても症状が長期間残ることがある点です。もちろん、比較的早期に回復するケースもありますが、慢性化した場合、平均して5年ほども症状が続きます (14)。

しかも、有効な治療法が知られておらず、対処のしようがないのも辛いところです (14)。

この症状が気になる場合は、治療方針をよく話し合った方が良いかもしれません。

まとめ

■パクリタキセルは、微小管と言う物質の機能を阻害する抗がん剤である
■タキソールとアブラキサンと言う2種類の商品がある
■様々ながんの治療に使用されている、重要な抗がん剤である
■タキソールは添加剤にアルコールを含むので、副作用のほかに、投与する日は車で病院に行かないなどの注意が必要になる
■副作用としては、過敏症と末梢神経障害が特徴的である

参考文献

(1) 奥田拓男 編 資源・応用薬用植物学第2版 廣川書店
(2) タキソール注射液 添付文書 ブリストル・マイヤーズスクイブ株式会社
(3) アブラキサン点滴静注用100mg 添付文書 大鵬薬品工業株式会社
(4) 福井次矢 編集主幹 今日から実践!くすりの基本と処方のDo-Don't メディカルビュー社
(5) アブラキサン点滴静注用100mg インタビューフォーム 大鵬薬品工業株式会社
(6) NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines) Breast Cancer Version 3. 2015 https://www.tri-kobe.org/nccn/guideline/breast/english/breast.pdf
(7) NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines) Ovarian Cancer Version 2. 2015 https://www.tri-kobe.org/nccn/guideline/gynecological/english/ovarian.pdf
(8) NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines) Uterine Neoplasm Version 1. 2016 https://www.tri-kobe.org/nccn/guideline/gynecological/english/uterine.pdf
(9) NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines) Cervical Cancer Version 1. 2016 https://www.tri-kobe.org/nccn/guideline/gynecological/english/cervical.pdf
(10) 山口徹・北原光夫 今日の治療指針2015 医学書院
(11) Socinski MA, et al. Weekly nab-paclitaxel in combination with carboplatin versus solvent-based paclitaxel plus carboplatin as first-line therapy in patients with advanced non-small-cell lung cancer: final results of a phase III trial. J Clin Oncol. 2012 Jun 10;30(17):2055-62. PMID: 22547591
(12) Satouchi M, et al. Efficacy and safety of weekly nab-paclitaxel plus carboplatin in patients with advanced non-small cell lung cancer. Lung Cancer. 2013 Jul;81(1):97-101. PMID: 23545279
(13) Von Hoff DD, et al. Increased survival in pancreatic cancer with nab-paclitaxel plus gemcitabine. N Engl J Med. 2013 Oct 31;369(18):1691-703. PMID: 24131140
(14) Boyette-Davis JA, et al. Mechanisms involved in the development of chemotherapy-induced neuropathy. Pain Manag. 2015;5(4):285-96. PMID: 26087973