登場人物

★ゆきさん
雪原 匠(ゆきはら たくみ) 49歳 男性
ゆきさん薬局の薬剤師
優しくて、おだやかな性格

★中林 はるか
中林 はるか(なかばやし はるか) 38歳
姑とともにゆきさん薬局にお世話になっている
アレルギー性鼻炎

適正な量の薬をもらいましょう

「先日は母がお世話になりました」と話しながら、中林さんのお嫁さんがゆきさん薬局に入って来られました。

はるかさんのお姑さんは、先日長い間ステロイドを漫然と飲んでいたのを、中止してもらうのに成功した患者さんでした。それを受けての「お世話になりました」だったのです。
余談ですが、ゆきさんは、「先日は、どうも」とか「お世話になりました」という言葉がとても苦手なんです。ゆきさんにとって、特別なことをしたという思いは無いからです。

ゆきさん
「いや、ステロイドを安易に飲んではいけないことを分かってもらえて良かったです。お母様、もう年だからなんて話していましたけど、68歳なんてまだまだ若いですよ」

中林さん
「そうよね。まあその分、私も大変なんだけど」と笑いながら話してくれた。

ゆきさん、薬をお渡しする用意をしながら話しかけました。
「はるかさんは、アレルギー性鼻炎でしたよね」

中林さん
「はい」
ゆきさん
「今日もいつものアレルギー薬ですが、月初に30日出ていて、月末の今日に60日分も出ていて、今月だけで90日分でていますよ。どうしたのですか?」

中林さん
「来月から保険が変わるので、新しい保険証が来るまで時間がかかるので、月末に60日分をお願いしたの」

ゆきさん
「そうなんですね。でも、先月、先々月の2か月でも少し多めの70日分出ていますよ」

中林さん
「実は主人も私の薬を飲んでいるの。主人が忙しくて、病院に行く時間が取れないというので、私の薬をあげているんです」

ゆきさん
「それはまずいなあ。お薬代は保険で支払われているから、薬を余計にお渡しすると、査定されて病院や薬局がお金をもらえなくなるんです。まあ、次回から新しい保険で処方してもらえれば、保険者から指摘される可能性は少ないとは思いますが、本当はダメですよ」

中林さん
「ごめんなさい」

ゆきさん
「そもそも、処方箋はその人の病気の治療のために、必要があって処方されるのであって、他の人に上げてはいけません。はるかさんは、アレルギー性鼻炎だけでそれほどひどい症状でなかったとしても、ご主人の場合は副鼻腔炎にもなっていて、アレルギー薬だけを飲んでいたら、逆に悪化するなんてこともありますよ」

中林さん
「えー、悪化することもあるの」

ゆきさん
「ありますよ。鼻水を止めれば、鼻の膿を増やすことになって、悪化することもあります」

中林さんは「わかったわ、ありがとう」と納得してくれました。
しかし、こういった説明は、患者さんのために良かれと思って話しても、うるさく思われて、次回から他の薬局に行ってしまう方ももいるので、ゆきさんにとってとても気を遣う場面です。

お薬手帳って必要なの?

中林さん
「ところで、最近お薬手帳のことを口うるさく言われるけど、そんなに重要なの?」

ゆきさん
「はるかさんのお薬はアレルギーの薬で、いつも同じだから必要ないと思うでしょ」

中林さん
「そうね」

ゆきさん
「でも今の薬に決めるまで、苦労していたのを覚えていますか。最初は1日1回の薬で効果が弱かったし、2回の薬にして眠気が激しく出て、いろいろ試してやっと1日1回で眠気も無く、程よい効果のこの薬に決めたんですよね」

中林さん
「そうだったわね」

ゆきさん
「お薬手帳にAは効果があったが眠くなった、Bはのどが渇いた、Cは1日2回なので朝は忙しくて飲み忘れる、Dは1日1回寝る前服用だが、夜は水分を取りたくないので水無しで飲めるが良い、とか書いてもらったじゃないですか」

中林さん
「結局、ゆきさんが全部確認してくれたから、関係なかったじゃない」

ゆきさん
「それは、はるかさんがうちにずっと来てくれていたから、手帳に書いてあった内容を薬局でも記録していたからです。仕事や時間の都合で同じ薬局でもらえなかった場合には、何を飲んでいて、効果や副作用はどうだったかわからなくなるでしょ。だから、お薬手帳は重要なんですよ」

中林さん
「とは言っても、薬を決めるのはお医者さんでしょ」

ゆきさん
「もちろん、薬を決めるのはお医者さんです。しかしながら、お薬手帳やうちでの薬歴(患者さんの情報を管理保存している薬局版カルテ)を基に、薬剤師が患者さんと相談しながら、適切な薬に変更してもらうことをお医者さんに提案する事は、十分可能なことなんですよ。別にアレルギーだけではなく、風邪薬や胃腸薬でも全て同じことが言えるんです」

中林さん
「ふーん、ゆきさんにしか来ていなかったから、お薬手帳でそんな使い方があるの知らなかったわ」

お薬手帳は奥が深い

ゆきさん
「はるかさん、そういえばお薬手帳を持ってくると安くなるのはご存知ですか?」

中林さん
「3割負担だと40円安くなるとか聞いたわ、でも何でなの?」

ゆきさん
「国の政策として、お薬手帳はみんなに持ってもらいたいんです。そのために手帳を持ってくると安くなるようになったんですよ」

中林さん
「費用もかかるはずなのに、何で安くまでして持ってもらおうとするの?」

ゆきさん
「国は医療費抑制策として、お薬手帳を持ってもらうことで次のようなことを期待しています。

・ 色んな病院でもらう薬の重複を避ける
・ 複数の病院にかかっていた場合に、処方された薬の飲み合わせによる副作用、病気の悪化を防ぐ
・ 残薬を確認して、タンスにしまったり、捨ててしまう薬が無いようにする

でも、国の政策だけの問題だけではなく、私たち薬剤師にとっても治療方針を考えるにあたって、次のようなことがわかるとても便利なツールなんですよ。

・ 他の薬局でもらっている薬を含む全ての薬が正しく利用できているか確認できる(説明は聞いていても、理解していないことって、結構多いんです)
・ 正しく薬を利用していることを確認した上で、現在の薬のより良い利用法を患者さんに提案できる(きちんと利用しないで、より強い薬が出ている場合もよく見受けます)
・ 医師の治療趣旨を理解せず、ドクターショッピングをしているのを見出すことができる(すぐに治らないと、医師の言うことを聞かず、次々と病院を変えてしまう患者さんがいます)

はるかさん、今日は難しい話になったけど、とにかくお薬手帳って計り知れないほど重要で便利なものなんです。そうそう、震災の時は病院での処方履歴がわからなくなっても、お薬手帳で処方してもらえたりするんですよ」

中林さん
「私たちの知らないところで、色んなことをしてもらっているのね。どうもありがとう」

「ありがとう」と言われて、当然のことをしたまで、とにっこり笑うゆきさんでした。

※ゆきさん薬局の物語に登場する人物は、フィクションです