目次:アクトスを飲むと膀胱がんのリスクは増える?

1.アクトスと膀胱がん発症に因果関係はある?
2.薬の効果・副作用はどのように評価される?
・注目すべきは「人・期間・量・使い方」
3. アクトスの短期的な使用では、基本的に膀胱がんになるリスク増加の心配はない
4. アクトスの使用「期間」と「量」が増えるとリスクは増える
5. 結局、アクトスを飲むことで膀胱がんリスクはどれくらいあるの?
・飲んでいる人と飲んでいない人、年間発症リスクの差はわずか0.0072%
6. その他、アクトスの服用で注意すべき点
7. まとめ
8. 参考文献

1. アクトスと膀胱がん発症に因果関係はある?

まずは、この記事の主役である、アクトスという薬について基礎知識を簡単に整理しましょう。アクトスは、「ピオグリタゾン」という有効成分を含む、2型糖尿病の治療薬です (1)。ご存知の通り、糖尿病では血糖値が高くなるのですが、その原因の1つに、血糖値を下げるホルモンである「インスリン」が効きにくくなっていることが挙げられます。

アクトス (ピオグリタゾン) は、このインスリンの血糖値を下げる作用を強めるはたらきをする薬です (1)。その結果、膵臓からで分泌されるインスリンの量は同じでも、より血糖値が下がりやすくなるのです。糖尿病の治療に使う飲み薬は、他にもたくさんありますが、アクトス (ピオグリタゾン) はそのなかでも血糖値を下げる効果が比較的高いと考えられており (2)、よく使われています。

こうした特徴を持つアクトス (ピオグリタゾン) ですが、2005年に公表された臨床研究の結果によって、新たな注目を集めることとなります。

その研究は「PROactive試験」と呼ばれるもので、もともとはピオグリタゾンが糖尿病患者の死亡率や心筋梗塞・脳卒中といった病気の発症率を減らす効果があるか検討するためのものでした (3)。

ところが、その試験結果の解析を行う過程で、どうもピオグリタゾンを使っている人は、そうでない人と比べて膀胱がんを発症する確率が異なる様だ、という指摘がなされました。これがきっかけとなって、その後「アクトス (ピオグリタゾン) を使うと、膀胱がんを発症しやすくなるのではないか?」という仮説が生まれたのです。

当時は、こうした仮説は糖尿病治療の専門家や、研究者の間でのみ話題になる程度のものでした。しかし、発端となった試験からすでに10年以上経過していること、また2011年にフランスの規制当局である「Afssaps」がピオグリタゾンを含む医薬品の新規使用をやめるように通達したことがニュースになったなどの経緯から (4)、今では一般の方の間でも、このことがうわさになっているようです。

さて、アクトス (ピオグリタゾン) と膀胱がんの関係については、その後も継続的に研究が行われてきました。
ただし、アクトスと膀胱がん発症に因果関係はあるのか?という質問の結論をいえば、アクトス (ピオグリタゾン) を飲むことと、膀胱がんを発症することの因果関係については、いまだにはっきりしていない、というのが現状です。
しかし、これまでの研究結果として分かったこともたくさんあります。
以降で、現段階で分かっている研究結果について解説します。

2. 薬の効果・副作用はどのように評価される?

注目すべきは「人・期間・量・使い方」

さっそく本題に、と行きたいところですが、これ以降の内容は薬の効果や副作用を評価するうえで、基本となる考え方を知っていないとやや理解が難しくなります。
そこで、まず「薬の効果や副作用を評価するうえで、基本となる考え方」を紹介します。薬の効果や副作用を見るときには、次のポイントに着目するのが常道です。
●使う人はだれか?
●使う期間はどれだけか?
●どのくらいの量を使うのか?
●使い方はどうか?

それぞれ個別に解説します。

使う人はだれか?

例えば、同じ薬でも30歳の人と70歳の人では、効果や副作用の出方が異なることがあります。一般に、高齢者は薬を解毒・排泄する身体の機能が低くなるので、少量の薬でも影響が現れやすくなるのが、1つの理由です。

このほか、ある人にはとてもよく効く治療法でも、特定の持病がある人には逆効果、ということもあります。したがって、薬の評価にあたっては、「使う人はどんな特徴を持っているか?」は重要なファクターです。

使う期間はどれだけか?

薬によっては、1週間も飲めば効果が出るものもあれば、3カ月くらい続けないと意味がないものもあります。このことは副作用についてもいえ、例えば半年の使用では問題なかった副作用が、1年以上続けて使うと問題になることもあるのです。

そのため、「どれだけの期間使った結果なのか?」に注目する必要があります。

どのくらいの量を使うのか?

これは特に一般の方がよく見落とす点であり、かつとても重要なものです。どんな薬でも使う量が増えれば効果・副作用ともに出やすくなり、減らせば逆になります。

仮に重篤な副作用が知られている薬でも、自分が使っている量が、その副作用を起こす10分の1だとしたら、実質的に心配はないことになります。

また、これは自分の治療について相談するときにも大切なことです。よく「○○という薬を使っていて、今こういう状態です。どう思いますか?」といった質問を受けますが、「使っている量が不明なので、分かりません」としかいえません。

そのくらい、薬の量は重要な要素なので、最優先でチェックすべきともいえるでしょう。

使い方はどうか?

具体的に挙げるなら、飲み薬なのか・注射なのか?といった薬の形や、飲む回数は1日1回なのか・3回なのか?などの回数などのことです。

自分が1日1回ある薬を飲んでいるとしたら、同じ薬を1日3回使用した場合のデータは、参考になりません。また、注射では大変よく効く薬でも、飲み薬にすると無効、という場合もあります。

こうしたことから、その薬を「どのように使っているか?」も意識してください。

3. アクトスの短期的な使用では、基本的に膀胱がんになるリスク増加の心配はない

さて、いよいよアクトス (ピオグリタゾン) と膀胱がんの関連について解説しますが、ここでは先ほど紹介したなかで、特に「期間」と「量」に注目していきます。というのも、ピオグリタゾンを使うのは現状では基本的に糖尿病の人に限られていますし、使い方も1日1回飲む以外に選択肢がないからです。

ピオグリタゾンと膀胱がんについて調査した研究はいくつもありますが、比較的最近公表されたもので、なおかつ調査の規模も大きいものとして、2015年報告された北カリフォルニアのデータベースを調査した研究と (5)、2016年にイギリスで行われた研究 (6) を取り上げます。

それぞれの研究について、最初に簡単に触れておくと、実は結果は正反対でした。2015年の報告では、ピオグリタゾンを使った場合、未使用と比較して膀胱がんの発症率は1.06倍、つまり差はほとんどない結果でした (5)。一方で、2016年の調査ではこの比率が1.63倍でした (6)。冒頭で、「いまだにはっきりしていない」と述べたのは、このように似たような調査でも真逆の結果がみられていることが理由です。

では、まったく何もわからないかといえば、そんなこともありません。ここで注目したいのが、「期間」です。先ほど挙げた2つの調査では、どちらも使用期間に関するデータも記載されていますが、これを見ると、ピオグリタゾンを使用した場合でも、短期間ならば影響はほとんど認められません。

4. アクトスの使用「期間」と「量」が増えるとリスクは増える

では、その「短期間」とは具体的にどのくらいか?と問われると、これがなかなか難しいところです。使用期間と膀胱がん発症率については、2016年の調査でより詳細に示されています。これによれば、使用開始2年後で一度発症率がピークを迎え、その後6年目程度までは横ばい、さらに時間がたつと再び上昇傾向に転じています (6)。

一方の2015年の調査では、使用期間を「1.5年未満」「1.5-4.0年」「4.0年以上」の3段階に分けて、発症率を調査していますが、どの段階でもピオグリタゾンを使うことで明らかな発症率の増加は確認されていません (5)。ただし、期間が延びるごとに、わずかながら発症率が増大する傾向性は認められます (5)。

こうした結果を総合すれば、悪いケースで1年ほど、よいケースで5年ほどまでなら、ピオグリタゾンを使っても、膀胱がんの発症リスクは大きく変わらないと予想されます。この具体的な数値は、今後の追試験で多少の変動をする可能性があるものの、おそらく大きく外してもいないでしょう。

次に「量」に関して検討しましょう。これについて読み取りやすいのは2015年の調査の方で、累積の使用量が増加するにつれ、わずかずつながら膀胱がんの発症率は増加していることが分かります (5)。しかし、その度合いは小さく、偶然観察された可能性も否定できない、と保守的に見るべき程度にとどまっています。

反対に、2016年の調査では、ピオグリタゾンの累積服用量が増えても、目に見えた発症率増加は認められません (6)。一応、多少は増えているようにも読み取れますが、誤差範囲である可能性が極めて高いと思われ、何ともいえないところです。ですが少なくとも、「期間」と比較すればその影響はかなり小さいということまではいえます。
以上を総合すれば、
アクトス (ピオグリタゾン) の使用と膀胱がん発症について、暫定的ながら現状では以下のことがいえると結論できます。
●関係があるという調査結果とないという結果が両方ある
●使用期間が長くなるほど発症リスクは高くなる可能性が高い
●使用量も影響を与えていると思われるが、その程度は期間と比較すれば小さい

5. 結局、アクトスを飲むことで膀胱がんリスクはどれくらいあるの?

飲んでいる人と飲んでいない人、年間発症リスクの差はわずか0.0072%?

以上が、客観的なデータをもとにした説明になりますが、おそらく読者の皆さんが期待するのは、もっと違った説明でしょう。

つまり、「結局のところ、アクトスを使うときに膀胱がんを心配しなければいけないのか、そうでないのか、どっちなんだ?」ということではないでしょうか。

この質問に答えるためには、別の観点から問題を見つめなおす必要があるので、もう少しだけお付き合い下さい。

当たり前のことですが、膀胱がんはピオグリタゾンを使った人だけに起こるわけではありません。日本における膀胱がんの発症数は、年間で人口10万人あたり7.2名です (7)。これを見れば、膀胱がんはかなりまれな病気であると分かるでしょう。

さて、先ほど取り上げた2つの試験のうち、ピオグリタゾンにとって不利な方の結果では、膀胱がんのリスクが1.6倍ほどに増えていました (6)。この数値については、類似の研究でも大同小異ですので、ここでは最悪のケースのシミュレートとして、「アクトス(ピオグリタゾン)を使うと膀胱がんに2倍なりやすくなる」と仮定して考えてみましょう。

すると、今挙げた年間で人口10万人あたり7.2名だった発症数が、14.4名に増加することになります。これをパーセントで表記すると、年間発症率0.0072%が0.0144%に増えたということです。確かに、倍率でいえば2倍の変化ですが、その差はわずか0.0072%にすぎません。

さらにいいかえると、「何もしなければ99.9928%でOK。アクトスを飲んでも99.9856%でOK」となります。こうしてみると、心配するのがバカバカしくなるのではないでしょうか。しかも、これはアクトス (ピオグリタゾン) にとって、かなり不利な見積もりなので、実際にはもっと影響は小さいと思われます。

先ほども述べたように、現時点ではアクトス (ピオグリタゾン) と膀胱がんは無関係である、と結論づけることはできません。しかし、この薬を拒否すれば当然血糖値が上がります。すると、膀胱癌よりはるかに発症率が高く、また短期的に命にかかわる心筋梗塞や脳卒中のリスクが増大します。だとすれば、膀胱がんを過度におそれて服薬を拒むのはナンセンスだと思います。

6.その他、アクトスの服用で注意すべき点

以上のことから、アクトス (ピオグリタゾン) を使うにあたって、膀胱がんばかりを気にするのは、かなり飛躍した発想といわねばなりません。

むしろ、もっと頻度が高い副作用について知っておいた方が、トータルでのリスクはずっと小さくなるでしょう。

その副作用ですが、糖尿病の薬ならどれでもあり得るものとして、肝臓の機能が悪くなる「肝障害」や血糖値が下がり過ぎる「低血糖」などがあります (1)。ただし、肝障害は病院で定期的に血液検査を受ければ発見は容易ですし、低血糖も糖尿病の薬を使う人なら、どういった症状で対処法が何かはたいてい知っています。

これら以外に、アクトス (ピオグリタゾン) に特徴的な副作用に「浮腫 (ふしゅ)」が挙げられます (8)。これは服用した人の1割弱に認められ、しかもなぜか女性に多いことが知られています (1)。症状としては、脚のむくみが主ですので、服用中にこうした症状がみられた場合は、担当の医療者に相談するようにして下さい。

なお、浮腫は薬の「量」が少ない場合はあまり起こらず、増量したときに発症することが多いことも知られています (1)。したがって、増量した後しばらくは、より注意を払う必要があります。

7. まとめ

■ここ10年ほどアクトスと膀胱がんの関連が疑われていたが、その結論はいまだに出ていない
■アクトスの使用期間が長く、使用量が多いほど、膀胱がんのリスクが増大する可能性がある
■リスク増大の程度は、大きい報告でも2倍弱である
■もともとの発症率を考慮すれば、仮にアクトスの影響があっても膀胱がんを過剰に心配する必要はない

8. 参考文献

(1) アクトス錠 添付文書 武田薬品工業株式会社
(2) Nathan DM, et al. Diabetes Care. 2009 Jan;32(1):193-203. doi: 10.2337/dc08-9025. PMID: 18945920
(3) Dormandy JA, et al. Lancet. 2005 Oct 8;366(9493):1279-89. PMID: 16214598
(4) THE REPUBLIC OF FRANCE. Press Release June 9th 2011 http://ansm.sante.fr/var/ansm_site/storage/original/application/4e293bcd0814c025b94d46d7502a0958.pdf
(5) Lewis JD, et al. JAMA. 2015 Jul 21;314(3):265-77. PMID: 26197187
(6) Tuccori M, et al. BMJ. 2016 Mar 30;352:i1541. PMID: 27029385
(7) 日本泌尿器科学会 膀胱癌診療ガイドライン
(8) Shah P, et al. Expert Opin Drug Saf. 2010 Mar;9(2):347-54. PMID: 20175701