咳喘息(せきぜんそく)とは

最近、咳喘息(せきぜんそく)という病名をつけられる患者さんが増えています。
「いやいや、昔はこんな病名なかったぞ」と思われる患者さんも多いでしょう、その通りです。

私は呼吸器内科医をしていますが、ゴホゴホと咳を訴えて来院される患者さんはとても多いです。しかし、全員に100%の自信をもって診断できるわけではありません。治療を導入しつつ、この疾患かな、あの疾患かな、と考えながら診療することだってあります。実は咳喘息という疾患は、多くの医師が「この咳は何の病気だろう?」と悩んでいた咳の事例の多くを占めていることがわかっています。
ある報告では、2ヶ月以上続くような慢性の咳を訴えて来院された患者さんの3人に1人以上は咳喘息ではないかとも言われています1),2) 。ええっ、2ヶ月以上も咳に悩まされている患者さんなんているの!?と思われるかもしれませんが、外来では結構多いのです。中にはなんと5年間も咳に悩んでいるという患者さんもいます。5年ですよ、5年。石の上に座して待つにしても、あまりにも長い期間です。
読んで字の如く、喘息で咳が出るものを咳喘息と呼びます。おいおいちょっと待ってくれよ、喘息だって咳が出るじゃないか。ええ、その通りです。私たち呼吸器内科医から見れば、喘息というのは主症状が咳というよりもゼエゼエという喘鳴(ぜんめい)なのです。ゴホゴホというのはあまり喘息らしくない。

咳喘息の検査

というわけで、ゴホゴホと咳をするけれども喘鳴がないような場合を咳喘息と定義したのです。

また、患者さんの胸に聴診器をあてると、喘息の場合はヒューヒュー、ピーピーといった笛のような音が鳴りますが、咳喘息の場合は異常な音は聴こえません。

昔は聴診や症状だけで喘息と診断していましたが、咳喘息はゴホゴホと咳をする割に聴診器でおかしな音が聴こえないのでなかなか診断できなかったのです。「よくわからん咳ですけど、とりあえずこの薬出しておきましょう」みたいな対応をされていました。

最近になって、気道を刺激して詳しく調べる検査が登場し(といっても大学病院レベルの大きな病院の話ですが)、これまで注目すら浴びてこなかった咳喘息があぶりだされたのです。

こうして、咳喘息という病気が身近なクリニックにも浸透するようになったのです。

どういうときに咳喘息と診断されるか?

では、どういうときに咳喘息と診断されるのでしょうか。

1ヶ月以内の咳というのは、大概が風邪などの軽度な感染症の名残だと考えられます。どうしても風邪の治療をしてくれ、というときは鎮咳薬などを処方しますが、基本的にほうっておけば治ります。1ヶ月を超えてくると、さすがに普通の疾患ではないぞ、ということで慢性的な呼吸器疾患を考え始めなければいけません。

そのため、咳喘息は大前提として2ヶ月くらいゴホゴホと咳をしている患者さんにつけられる病名であることを知っていただきたいです。
ゴホゴホと長い間咳をしている患者さんの胸に聴診器をあてて、おかしな音がなければ「ハイ咳喘息ですね」という簡単な診断ではなく、咳喘息らしい証拠をつかむ必要があります。それは問診で明らかになります。たとえば、急激な温度変化で咳が出たり、会話などの軽度の刺激で咳が出たりします。また、気道過敏性検査といって、気道を刺激する検査をすると反応が陽性になりやすいとされています。ただ、ほとんどのクリニックや総合病院では気道過敏性検査という複雑な検査は実施していません。なんだか決め手に欠けるなぁとお思いの方も多いでしょうが、最も重要なのは吸入薬が効くということです。

咳喘息には吸入薬が効く!

咳喘息には吸入薬が効きます。吸入薬のうち、短時間で気管支を開いてくれるタイプの薬剤が非常によく効くのです。この治療をもって診断とすることも現場では多いです。吸入薬には、プシュっとスプレーみたいに出るタイプのもの(加圧式定量噴霧吸入器)や、粉っぽい薬剤を自分で吸い込むタイプのもの(ドライパウダー吸入器)があります。

短時間で気管支を開いてくれる吸入薬は、短時間で効果が切れてしまうので、長く気管支の炎症をおさめてあげる吸入ステロイド薬を長期管理薬として用います。というわけで、いったん咳喘息と診断がつけば、治療は基本的には吸入ステロイド薬を長期に使用することになるのです。実は、これは喘息の治療とほとんど同じです。

え?じゃあ、喘息と咳喘息の治療が同じなら最初から両者を区別しなくてもいいんじゃないの?という意見も出てきそうですが、咳喘息と喘息は研究者レベルではまったく別の疾患であることが分かっており、学問的に違う疾患をひとまとめにするわけにはいかないというムズカシイ事情があるようです。個人的には、患者さんは喘息と咳喘息は、似たような疾患だと理解してもらってよいのではと思っています。

参考文献

1) Fujimura M, et al. Importance of atopic cough, cough variant asthma and sinobronchial syndrome as causes of chronic cough in the Hokuriku area of Japan. Respirology. 2005 Mar;10(2):201-7.
2) Niimi A, et al. Cough variant and cough-predominant asthma are major causes of persistent cough: a multicenter study in Japan. J Asthma. 2013 Nov;50(9):932-7.
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