目次:メトグルコが2型糖尿病に一番効く!といえる理由

1. メトグルコは2型糖尿病にもっとも効果の高い薬である
・糖尿病治療の「真の目的」とは?
・メトグルコ (メトホルミン) は死亡率などを減らす効果が証明されている
2. メトグルコが使えない条件とは?
3. メトホルミンの副作用
・乳酸アシドーシスは、本当にごく稀
・その他、よくある副作用
4. 1型糖尿病にもメトホルミンを使う?
5. まとめ
6. 参考文献

1. メトグルコは2型糖尿病にもっとも効果の高い薬である

糖尿病は、日本において300万人以上の患者さんがいるありふれた病気で (1)、大きく1型と2型に分けることができます。膵臓からは、「インスリン」という唯一の血糖値を下げる効果を持つホルモンが分泌されます。簡単にいえば、1型糖尿病はこのインスリンが膵臓から出なくなったもの、2型糖尿病はインスリンの分泌能力はあるものの、量が足りなかったり効きが悪くなったりしたものを指します。
どうして糖尿病を1型と2型に分けるのかといえば、治療方法が異なるから です。1型の場合は、膵臓からインスリンが出ないので、外から薬としてインスリンを補充してあげる必要があります。これがよく耳にする「インスリン注射」です。したがって1型糖尿病では、治療薬はインスリンしかありません。 言い換えると、1型糖尿病の患者さんは、インスリンが出ない点を除けば健常者と何ら変わるところがありません。そのため、インスリンさえ補充していればOKともいえ、治療は非常に単純です。
一方の2型ですが、頻度はこちらが圧倒的に高く、食べ過ぎや運動不足による肥満などが一因となっている、「生活習慣病」に分類されます。2型糖尿病では、膵臓がインスリンを分泌する能力がまだ残っているので、必ずしもインスリン注射は必要ありません。その代わりに、食事や運動などの生活習慣を改善することが求められます。
それでもダメなら、血糖値を下げる効果がある薬を使うことになります。こうした薬には、一部インスリンと同じように自己注射が必要なタイプもありますが、大部分は飲み薬です。また、薬の種類も多いため、どの患者さんにどの薬をどのくらい使うか?という、選択の問題が生じます。
ところが、これまでの数多くの臨床研究の成果として、2型糖尿病にもっとも効果の高い薬が何であるかは、すでにほぼ確定的となっています。それが他ならぬ、メトグルコです。 ちなみに、「メトグルコ」は薬の商品名で、有効成分は「メトホルミン 」といいます (2)。最近では、薬の名前は成分名で記載されるケースもありますから、両方を目にする機会があるでしょうが、これらは同じものと考えて問題ありません。
さて、メトグルコ (メトホルミン) がどうして2型糖尿病の治療薬としてもっともすぐれているといえるのか、その理由をまずは説明していきましょう。

糖尿病治療の「真の目的」とは?

突然ですが、糖尿病を治療するのはいったいなぜか 、考えたことがあるでしょうか?
「もちろん、血糖値を下げることでしょう」と即答されるかもしれませんが、本当にそうでしょうか?確かに、例えば食事療法によって、前回の受診時と比較して血糖値が下がっていたなら、主治医に褒められるでしょう。それはそれで嬉しいに違いありませんが、よく考えてみれば、「血糖値そのもの」が目的ではないはずです。
つまり、高い血糖値を放置しておくと、何か悪いことが起きる、または血糖値を下げると、何かよいことがあるはずです。だからこそ、手間をかけてまで治療を受けようとし、我々医療者はそれを勧めるわけです。血糖値そのものはあくまでも「仮の目的」に過ぎず、その背後にはもっと重要な「真の目的」があります 。では、その「真の目的」とは何か?次に問題になるのはこの点です。
結論をいってしまえば、それは死亡率や心筋梗塞・脳卒中などの命にかかわる病気の発症率を低下させること です (3)。血液中で過剰になった糖分は、血管にダメージを与え、この結果として血管が固くなる「動脈硬化」という状態になりやすくなります。動脈硬化が進行した血管は、詰まりやすくなり、こうなるとその血管が通っている臓器や組織に大きなダメージとなります。糖尿病の「三大合併症」と呼ばれるものに、腎臓・末梢神経・眼の病変が挙げられます が、これらはすべて血管の損傷がそのベースにあるのです。
これらだけでも十分に深刻ですが、もっと直接的に命にかかわる血管があります。それが心臓と脳の血管で、これらが詰まるのがそれぞれ心筋梗塞と脳卒中 (厳密には脳梗塞) です。これらの病気は何としても避ける必要があり、そのためには動脈硬化を進行させないことが重要です。
こうしたことから、動脈硬化の重要なリスクファクターである血糖値を適切にコントロールすることが大切になるのです。したがって、メトグルコをはじめとした糖尿病の治療薬は、「血糖値を下げる薬」ではなく、「死亡率や心筋梗塞・脳卒中を予防する薬」とみなすのが適切 です。

メトグルコ (メトホルミン) は死亡率などを減らす効果が証明されている

ということは、例え「仮の目的」である血糖値がよく下がる薬であっても、「真の目的」である死亡率その他が下がらない薬は、実質的に意味がないことになります。「そんなことがあり得るのか?」と疑問に感じるかもしれませんが、これに対する答えはイエスです。というよりも、往々にしてある、と表現したほうが正確でしょう。

薬が世の中に出回る前には、有効性や安全性が十分か調査が行われます。本来であれば、糖尿病の治療薬においては先ほど「真の目的」と表現した、死亡率その他を下げる効果があるか、きちんと見極めてから発売するのが望ましいといえます。

しかし、少し考えればおわかりのように、これは現実的には非常に困難です。なぜなら、その薬を飲んだ人の死亡率が本当に下がるか調べるためには、薬を服用した集団と、そうでない集団で、ある期間にどのくらいの死亡者が出たのか調べなければなりません。ところが、こうした群間の差が検出できる程度の死亡者が出るまでに、どのくらいの期間を要するのか、事前に予測不可能です。下手をすると10年単位で調べないと、効果が分からないという可能性もあり、こんな調子ではいつまで経っても薬を発売できません。
これでは新しい薬を必要とする患者さんが困ります。そこで、妥協策として、発売前の調査では死亡率などの「真の目的」に関する調査は不問とし、とりあえず血糖値などの「仮の目的」を達成できる薬なら発売してOKとするルール になっており、国際的にも基本的にそうした方針が採用されています。
そのため、「真の目的」を達成できるかの調査は、薬が市販された後になるケースも多いのです。では、その結果はどうだったかといえば、メトグルコ (メトホルミン) は、死亡率などを減らす効果があることが繰り返し確認されています (4, 5)。一方で、他の糖尿病治療薬は、こうした「真の目的」を改善する効果は証明されていないか、それを示唆するデータはあっても極めて弱いのが実情です。少なくとも現状でメトグルコ (メトホルミン) より優れているものはない、ということはいえます。
以上の事情から、アメリカやヨーロッパなど、多くの国や地域においては、2型糖尿病の薬物治療の基本方針として、「まずはメトホルミンを使い、それでだめなら別種の薬を追加する 」を掲げています (6, 7)。本文のタイトルに「メトグルコ (メトホルミン) が2型糖尿病に一番効く」と記載したのは、このような事実にもとづくものです。

2. メトグルコが使えない条件とは?

2型糖尿病に対して薬を使う場合、メトグルコ (メトホルミン) が第一候補になることは、これまで長々と述べた通りです。そのため、2型糖尿病の患者さんで薬を要する人には、ぜひともこれを使いたくなりますが、たいていの薬には使用できない条件 (これを、「禁忌」と呼びます) があります。もちろんメトグルコ (メトホルミン) に関しても、これは当てはまります。そのため、こうした条件に合致する患者さんの場合、「仕方なく」他の薬を使わざるを得ないケースもあります。では、その条件とは何か?大まかにまとめると、以下の通りです (2)。

①腎臓・肝臓の機能が悪い人
②入院を要するような急性の病気の場合
③妊婦
④ヨード系の造影剤を使う前後

①については特に説明不要でしょう。薬などの解毒・排泄機能に関わる臓器だからです。②は、こうした状態であればまずインスリンを使うべきだからです。したがって、この禁忌は他の糖尿病治療に使う飲み薬にも当てはまるもので、メトグルコ (メトホルミン) に特徴的というわけではありません。
③については、実は微妙なところです。というのも、この項目が設けられているのは、動物実験レベルで催奇形性 (奇形を起こす性質) が認められたから です (2)。いいかえれば、あくまで動物におけるデータで、ヒトにおいて同じ結果になるかに関しては、直接の根拠はありません。
これに加えて、近年ではヒトにおける調査も行われ、どうも妊娠中に使用しても目に見える悪影響はなさそうだ、という考えが主流になりつつあります (8)。しかしながら、妊娠期間における長期使用のケースでの安全性については、まだ確定的とはいえないので、使用には慎重になるのが妥当でしょう。ちなみに、妊娠期間に血糖値を下げる薬が必要なときは、基本的にインスリンを使います。
④について。「ヨード系の造影剤」とは、CTスキャンなどを行うときに使う、検査の補助を目的にした薬です。CTでは通常でもいろいろな臓器や組織が写りますが、特に血管の内部をはっきり写したいときに、このような造影剤を使うことがあります。このヨード系造影剤を併用すると、メトグルコ (メトホルミン) の副作用である「乳酸アシドーシス」という病気を発症する可能性が高まる ことが知られています (2)。こうしたリスクを避けるため、前もってメトグルコ (メトホルミン) をしばらく中止するのが一般的です。

3. メトホルミンの副作用

薬の副作用には、「稀だが重いもの」と「頻度は高いが軽いもの」があるのが普通です。メトグルコ (メトホルミン) にもこれは当てはまり、「稀だが重いもの」には、先ほど出てきた「乳酸アシドーシス」が挙げられます。まずは、これについて説明しましょう。

乳酸アシドーシスは、本当にごく稀

乳酸アシドーシスという言葉の「アシドーシス」とは、簡単にいえば血液が酸性に傾いてしまうことを意味します。「乳酸」はその名の通り酸の一種なので、これが身体に異常に蓄積すると、アシドーシスを起こします。つまり、乳酸が溜まったことで生じたアシドーシスが、乳酸アシドーシスです。
メトグルコ (メトホルミン) による乳酸アシドーシスは極めて重篤な疾患で、一度発症すると死亡率は50%にもなるというデータもあります (9)。こう書くと、非常に怖い副作用だと感じるかもしれませんが、それは杞憂といえます。
というのも、メトグルコ (メトホルミン) を使用した場合の乳酸アシドーシス発症率は、ある報告では年間10万人あたり3名未満とごく稀であり、かつこの数値はメトグルコ (メトホルミン) を使わない集団のそれと変わらないからです (10, 11)。つまり、実質的に心配いらないといえます。
それならばなぜ、メトグルコ (メトホルミン) の副作用として乳酸アシドーシスが知られており、あまつさえ能書にも記載されているのか (2)、疑問に感じるかもしれません。これには、次のような理由があります。かつて「ブホルミン」と「フェンホルミン 」というメトグルコ (メトホルミン) と兄弟の関係にある薬がありました。これらの薬は、発売後に乳酸アシドーシスを起こしやすいことが明らかになり (10)、それがきっかけとなって販売が中止されています。つまり、過去に似た薬が乳酸アシドーシスで問題になったので、念のためメトグルコ (メトホルミン) でも気を付けましょう、といわれているのが実情です。
以上のことから、普通に使用する分においてはメトグルコ (メトホルミン) で乳酸アシドーシスを起こす心配はほぼゼロに近いといって差し支えありません。先ほど挙げた造影剤の使用など、他のリスクになる要因が重なるとさすがによくありませんが、こうしたことを避ければ十分安全に使用できます。

その他、よくある副作用

むしろ気にすべきは、他の「頻度は高いが軽い」副作用です。もっとも頻度が高いと考えられるのが、下痢や吐き気といったおなかの調子に関するものです (2, 3)。その性質上、メトグルコ (メトホルミン) は長期間継続しないと意味のない薬ですので、こうした副作用は軽視できないものです。特に飲み始めて間もない時期には、こうした症状が出ないか、気を付けるのがよいでしょう。
もう1つ、長期的に使用した場合に問題となる副作用に、「ビタミンB12欠乏 」というものがあります (12)。これは、メトグルコ (メトホルミン) によってビタミンB12の吸収が妨げられるためと考えられています。具体的に、ビタミンB12が不足すると何が問題になるかといえば、貧血です。「貧血のときに不足しているものといえば、鉄」というイメージがあるかもしれませんが、ビタミンB12のように他の物質が不足した場合にも、貧血を起こす場合があります。
ただし、先ほど書いたようにこれは「長期的に」メトグルコ (メトホルミン) を使った場合に、はじめて問題になるものです。ビタミンB12は体内に蓄えられている量が多いので、少しくらいの期間では不足しないものだからです。具体的には、年単位での時間を要するのが普通なので、その間に検査等をしっかり行えば、十分にリスクは低減することができます。

4. 1型糖尿病にもメトホルミンを使う?

冒頭で述べたように、糖尿病のうち1型は、基本的にインスリンしか治療薬がありません。ところが、インスリン治療にメトホルミンを上乗せすると、インスリンの投与量を減らすことができたり、体重やコレステロールなど、他によい影響を与える可能性が指摘されています (3, 13)。こうしたことから、将来的には1型糖尿病治療における補助的な役割として、メトグルコ (メトホルミン) が使用されるようになる可能性はあるといえます。

ただし、現時点ではあくまでも可能性がある、ということまでしかいえず、それ以上でもそれ以下でもないのが実態です。日本でもアメリカでも、1型糖尿病に対するメトホルミンの使用は現状では認可されていません (2, 3)。少なくとも、積極的に推奨できる根拠まではないというべきで、すべては今後の研究次第とみなすが妥当でしょう。

5. まとめ

■メトグルコ (メトホルミン) は、2型糖尿病の治療薬の中でもっとも効果が高い
■糖尿病を治療する真の目的は、死亡率などを減らすことで、この効果が認められている糖尿病治療薬は、極めて限られている
■2型糖尿病に薬を使う場合、まずメトホルミンを検討し、それがダメなら他のもので代用するのが国際的なスタンダードである
■メトホルミンの重篤な副作用は極めて稀で、実質的に注意を要する副作用は消化器系の症状である

6. 参考文献

(1) http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/14/dl/05.pdf
(2) メトグルコ錠 添付文書 大日本住友製薬株式会社
(3) American Diabetes Association, Diabetes Care. 2017 Jan;40(Suppl 1):S4-S5. PMID: 27979887
(4) Lancet. 1998 Sep 12;352(9131):854-65. PMID: 9742977
(5) Ong CR, et al. Diabetes Care. 2006 Nov;29(11):2361-4. PMID: 17065668
(6) American Diabetes Association, Diabetes Care. 2017 Jan;40(Suppl 1):S4-S5. PMID: 27979887
(7) Ryden L, et al. Eur Heart J. 2013 Oct;34(39):3035-87. PMID: 23996285
(8) Butalia S, et al. Diabet Med. 2017 Jan;34(1):27-36. PMID: 27150509
(9) Quillen DM, et al. Compr Ther. 2002 28(1):50-61. PMID: 11894443
(10) Song R, Diabetes Care. 2016 Feb;39(2):187-9. PMID: 26798149
(11) Foretz M, et al. Cell Metab. 2014 Dec 2;20(6):953-66. PMID: 25456737
(12) Aroda VR, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2016 Apr;101(4):1754-61. PMID: 26900641
(13) Vella S, et al. Diabetologia. 2010 May;53(5):809-20. PMID: 20057994