目次
病態の考え方の転換
アトピーとは?まず、アトピーとはどんな病気でしょうか?

アトピーの語源は、「奇妙な」「典型的ではない」という意味を持つギリシャ語「アトピア」に由来すると言われています。
診断基準としては「かゆみ」「特徴的皮疹と分布」「慢性的」という3つ判断基準で診断されます。
従来は子どもの病気と考えられていましたが、現在では7割以上が大人のアトピーとなっています。
アトピー性皮膚炎になりやすい体質とは?

アトピー性皮膚炎発症の要因は、「元々患者さんが持っている体質」と、外的なストレスなどによる「環境要因」が、半々程度だと言われています。
では、アトピー性皮膚炎になりやすい体質とはいったい何なのでしょうか。
従来は、アレルゲンと呼ばれるアレルゲンの原因となる物質があり、これに接触することで、アレルギー皮膚炎が発症すると考えられていいました。つまり、卵やダニなどといったアレルゲンとの接触を断ちさえすれば、アトピーにはならないという考え方です。
しかし、最近の研究で、この考えは、間違っていることが分かってきました。
現在では、アトピー性皮膚炎の根本的な原因は、アレルギーではなく、皮膚の乾燥により、うるおいをキープできずカサカサして、バリア性が低下した状態になっているためだと考えます。その状態で炎症が起こると、アトピー性皮膚炎を発症するという考え方です。アトピー性皮膚炎の方の遺伝子検査をすると、3割~5割の方には、皮膚の表面で作られ、皮膚バリア機能、保湿機能を担うたんぱく質であるフィラグリン量が少ない傾向が見られます。つまり、元々皮膚がカサカサになりやすいという遺伝的な性質を持つ方が、アトピー性皮膚炎になりやすいという傾向があるのです。
アトピーの原因は遺伝だけではない
皮膚が乾燥し、ガサガサしていると、皮膚を外部の異物などから守ってくれている皮脂膜が十分でなくバリア機能が乱れてしまいます。この状態では、異物(刺激物・アレルゲン)が皮膚内に侵入しやすくなり、いったん異物が侵入すれば、体は異物から自らを守ろうとして、抗体を作り出し炎症を起こします。皮膚からの異物侵入に対する反応は、皮膚だけでなく、アレルギーや気管支喘息などにも繋がります。
最初の皮脂膜のバリア性が向上すれば、一連のアレルギー反応は発生せずにすむのです。
その為、アトピー性皮膚炎では、日頃からの保湿が非常に重要になってきます。
これらを証明するのが、国立成育医療センターの研究です。
新生児を集めて2つのグループに分け
・片方はしっかりとローションタイプの保湿剤をつける
・もう一方はワセリンのみを塗る
という検証の結果、しっかりとローションタイプの保湿剤を塗ったグループは、ワセリンだけのグループに比べて、32週で湿疹が出る確率が30%減りました。この結果によって、新生児期からの保湿が非常に重要だと考えられるようになったのです。
健康な皮膚であれば様々なアレルギーの原因物質や微生物を排除できます。しかし、保湿が十分におこなわれず、皮膚バリア機能が低下していると、それらが皮膚から取り込まれてしまい、炎症を起こしやすくなります。
つまり、皮膚のバリア機能不全のために、炎症が起こり、かゆみが発生。かゆいので皮膚をかき壊して、更にバリア機能不全が起こるという、悪循環を繰り返してしまいます。
「かゆみ」をどう抑えるのか?
アトピー性皮膚炎における「かゆみ」は非常にやっかいです。どうしても掻破衝動(かきたくなる衝動)が起こるからです。炎症が起こると、かゆみを感じる皮膚知覚神経が皮膚表面(角質層)のすぐ下まで伸びて、よけいにかゆくなります。(かゆみ過敏)また、皮膚の荒れや、かきむしりによる傷ができると、体は危険を感じて免疫機能が活発化します。最近では、このときに指令(SOS)を出すサイトカインが、知覚神経に直接作用・活性化して、かゆくなっていることもわかってきました。通常は、皮膚の真下にある「かゆみ」ですが、
一般的に、「かゆみ」には、抗ヒスタミン薬が使われますが、抗ヒスタミン薬では抑えられない「かゆみ」も報告されています。
アトピー性皮膚炎のかゆみの特徴は、
・かゆみが小さくても感じられるようになる
・かゆみに過敏になる
・ヒスタミン誘発剤の皮内反応の低下する
・夜間のかゆみが強い
・汗、乾燥、ストレスなど、悪くなる要因が多い
・抗ヒスタミン薬の効果が出にくい
アトピーでは、かいてしまうという行動自体が習慣化してしまい、身体の手の届かない場所だけ綺麗というケースも多くあります。いら立ちや焦り、緊張などの精神的な要因や眠気や疲労などからも、かゆみが出やすくなります。
診療ガイドラインの充実
現在、アトピー性皮膚炎の治療は、どのように行なわれているのでしょうか?
2000年に初めてアトピー性皮膚炎の診療ガイドラインが出来ました。このなかでは、一般的に、外用薬(塗り薬)を使って治療を始めます。
外用薬だけでは、うまくいかない場合には、使い方をみなおし、それでも治らない場合は、飲み薬や注射なども使ってかゆみを抑えます
治療の目標は「症状がないか、あっても軽微で、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない状態に到達し、それを維持すること」と定義されています。
軟膏やクリームを使った外用療法とは

ガイドラインによると、アトピー性皮膚炎には様々な治療法があり
外用療法として
- 保湿外用剤
- ステロイド外用薬
-ウイーク
-ミディアム
-ストロング
-ベリーストロング
-ストロンゲスト - プロトピック
などが選択できます。
ステロイド外用薬は価格的に安く、よく効きます。
また、新たに外用免疫抑制剤を使う方法も出てきており、まずステロイドで落ち着かせてから、導入し切り替えることもできます。
もう少し細かく見ていきましょう。
◆保湿外用剤
・皮膚を保湿する塗り薬です。
・皮膚の乾燥を改善してバリア機能を回復し、かゆみを抑えます。
・入浴後は皮膚が乾燥する前に保湿外用薬を塗りましょう。
・症状が改善した後も保湿を続けることが大切です。
◆ステロイド外用薬
炎症を抑える塗り薬です。効果の強さによって5つのランクがあり重症度や塗る場所で使い分けます。
怖がり過ぎずに「必要な量」を「必要な期間」きちんと塗ることが大切です。
◆プロトピック
・ステロイド外用薬とは異なるメカニズムで炎症を抑える塗り薬です。
・特にステロイド外用薬の副作用があらわれやすい顔や首などの湿疹にしばしば使われます。小見出し④: 保湿剤のまとめ
・ワセリンよりも保湿成分を含むクリームやフォーム・ローションの方が保湿効果は高い。
・たくさん塗っても保湿効果はさほど上がらない。ペタペタする程度でいい。
・塗る量よりも塗る回数が大切。 1日2回を推奨。(薄くてもいいから塗ることが大切)
・入浴直後に塗っても、入浴1時間後に塗っても保湿効果に差はない。
保湿剤の塗り方
これまでの軟膏やクリームを使った外用療法で効果が出なかった原因は、外用量が十分ではなかったことや、正しく塗れなかったことが考えられるでしょう。塗り方については、従来は「リアクティブ療法」と呼ばれる方法が主流でした。これは、症状が出たら、薬を塗る方法です。最近使われることの多い「プロアクティブ療法」では、症状の有無にかかわらず、初期段階でしっかり薬を塗り、見た目の症状だけでなく潜在的な炎症を抑えていきます。この方法では、正常な皮膚を持続できるので副作用を最小限に抑えることが可能になります。
全身療法とは

外用療法で良くならない場合は、躊躇せず全身療法に切り替えていくことも需要です
全身療法では、主に
・デュピルマブ(注射剤)
・経口JAK阻害薬
・シクロスポリン
・経口ステロイド
・光線療法
が用いられます
◆デュピルマブ(注射剤)
皮膚の内部で起きている炎症をピンポイントにブロックする注射剤で、高い効果と安全性が両立されています。皮膚の症状だけでなく、かゆみも改善する薬です。
◆経口JAK阻害薬
現在3種類発売されています。かゆみに対する高い効果を持っていますが、長期的な安全性がまだ確立されておらず、血液検査などを定期的に実施しながら治療していきます。
◆シクロスポリン
免疫を抑制し症状を改善する薬です。副作用の観点から比較的短期間に限って使用することが推奨されています。
◆経口ステロイド
急激に症状が悪化した場合や、非常に症状が重いアトピー性皮膚炎に限って短期間使用する飲み薬です。長期間の使用は避け、医師が必要と判断した時期のみ使用します
◆光線療法
医療機器を使って紫外線をあて、皮膚の炎症を改善する治療法です。
他の治療で症状が改善しない場合や、副作用で他の治療ができない場合に行います。
新規全身治療薬の登場
新規全身治療薬の登場がアトピー性皮膚炎の治療を大きく変えました。
全身療法を考慮すべき患者さんには
- 6カ月の標準治療でも効果不十分な場合
- 検査を受け中等症以上と医師が判断した場合(紅皮症、広範囲の掻破、びらん、苔癬化など)
- 難治性病変(治りにくい方)顔だけ顕著に症状が出ているなど
- 長年ステロイドを利用していて症状が改善されていない
- QOL低下(受験や結婚式など、イベントまでに症状を改善したい方)
などの方がいらっしゃいます。全身療法では体の中に直接薬を入れることが多く、古くから飲み薬が存在していますが、長期間安定した状態にするために新たに注射剤も登場しています。
全身療法で新しい治療薬が登場したことで、いままで症状が改善しない患者様にも光が見えてきました。
たとえば、TARCという特にアトピー性皮膚炎や気管支喘息などのアレルギー性疾患において、血中の濃度が上昇することが知られている物質は、成人であれば450 pg/ml未満が理想とされますが、全身療法で、一時はTARC20,000pg/mlだった患者様が非常に低い数値で安定するという結果も得られています。症状が改善しない患者様にとって、非常に有用な治療法だと考えています。
まとめ

アトピー性皮膚炎の治療は、大きく変化しました。アレルゲンを避けることが、治療の中心となった時代はおわり、肌のバリア機能の向上そのものを目指すようになっています。
現在、医療機関ではアトピー性皮膚炎の診療ガイドラインに基づいた治療がおこなわれています。
まず外用療法が行われ、必要量の軟膏やクリームを塗って短期間に徹底的な改善を目指します。皮膚の回復後は、症状の有無にかかわらず、初期段階でしっかり薬を塗り、見た目の症状だけでなくのみならず、潜在的な炎症を抑える「プロアクティブ療法」に移行します。皮膚症状に改善が見られない場合は全身療法も使われます。
新しい薬も治療法も出てきています。普通の皮膚を維持しながら、普通の生活をすることも夢ではありません。ぜひ、アトピー性皮膚炎の治療を検討してみてください。
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