1.インフルエンザワクチンの効果、どのように考える?

インフルエンザに限りませんが、ワクチンの感染症に対する効果は直接的な保護作用間接的な保護作用に分けることができます。前者はワクチン接種を受けた個人にもたらされる直接的な感染症の予防効果であるのに対して、後者は感染症に対して集団の大部分が免疫を持っている場合に生じる、間接的な効果のことです。間接的な保護作用はいわゆる集団免疫のことですが、これについては後半で詳しく解説します。

 

さて、インフルエンザワクチンを接種したのに、インフルエンザにかかってしまった……。そんな経験がある方も少なくないでしょう。どのようなワクチンでも、完全に感染症を防ぐことができるわけではありません。しかし、一般的にワクチンの接種で得られる効果は、生活習慣病の治療に用いられるような薬の特定の疾患に対する予防効果よりも、はるかに大きなものです。

 

ワクチンの効果を客観的に把握する上で分かりやすい指標が、ワクチン接種必要数(Numberneededtovaccinate:以下NNV)です。このNNVは「感染症の発症を一人予防するために何人にワクチンを接種すればよいか」を示す数値で、例えばNNVが9であれば、9人にワクチンを接種すると、そのうち1人の感染症を予防できることを意味します。

 

当然ながらNNVの値が小さいほど、ワクチンの効果が高いことを意味しますが、NNVが9ということはワクチンを接種した9人のうち、8人には予防効果が得られなかったことになります。それって、ほとんど効いていないんじゃない?……と思われる方もいるかもしれません。しかしながら、一般的に治療(ワクチン接種)必要数が一桁であることは、かなり大きな効果であることを意味します。

 

例えば、生活習慣病で用いられるコレステロールを下げる薬や、血糖値を下げる薬について言えば、心臓病や脳卒中を予防するための治療必要数は3桁以上になることも少なくないのです。もちろん、これらの薬の効果は特定の疾患に対する予防効果のみではなく、血糖値を下げたり、コレステロールを下げることも効果の一つであり、このような効果に対する治療必要数は小さくなるでしょう。とはいえ、生活レベルにおいて重要なのは、やはり健康に大きな影響を及ぼす疾患をどれだけ予防できるかということですよね。

 

2.インフルエンザワクチンの直接的な保護効果

インフルエンザワクチンの効果(直接的な保護作用)について、小児2)、一般的な健常成人3)、高齢者4)に対するインフルエンザ様症状の予防効果(NNV)を【図1】に示します。なお、インフルエンザ様症状とは、38度以上の発熱かつ急性呼吸器症状(鼻水・鼻閉、咽頭痛、咳のいずれか1つ以上)を呈した状態のことで、インフルエンザウイルスだけでなく、一般的な風邪のウイルスによる症状も含まれます。

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【図1】インフルエンザ様症状に対するワクチンのNNV(参考文献2~4より作成)

 

【図1】を見ても明らかなように、インフルエンザ様症状に対するワクチンの効果は小児で大きく(NNVが小さい)、高齢者で小さい(NNVが大きい)ことが分かります。実際、高齢者においてはインフルエンザワクチンの接種率が増加しても、インフルエンザ流行に伴う超過死亡は減らないとする研究5)が報告されています。

 

超過死亡とは、インフルエンザが流行したことによって、インフルエンザに関連した死亡がどれほど増加したかを示す推定値のことです。つまり、インフルエンザの流行によって直接的、及び間接的に生じた死亡数のことであり、仮にインフルエンザワクチンの有効率が100%であるなら、ワクチン接種によって回避できたであろう死亡数を意味します。

 

高齢者でインフルエンザワクチンの効果が小さい理由として、ワクチンを接種しても免疫が付きにくい可能性が指摘されています6)7)。もちろん、ワクチンの効果が全くないわけではありません。感染症を防ぐことができる確率は小児や健常成人と比較して、相対的に小さいということです。しかし、小児に対するワクチン接種を行うことで、ワクチンの効果を得られにくい高齢者に対しても、感染リスクを低下させることが知られています。

 

3.インフルエンザワクチンの間接的な保護効果

日本では、学童に対するインフルエンザワクチンの集団接種が1994年に中止され、任意接種に移行しました。そのため、同ワクチンの年間接種量は大きく減少してしまいました。1994年前後のインフルエンザワクチン接種状況と超過死亡の関連を比較した研究8)では、1962年の学童に対するインフルエンザワクチンの集団接種開始に伴って、それまで米国の3~4倍だった日本人の超過死亡が、米国と同程度にまで低下したと報告されています。ところが94年以降、学童への集団接種が中止されたために、日本の超過死亡率は再度上昇していたことも明らかとなりました。また、学童に対する集団接種が行われていた1978~94年と、学童に対する集団接種中止後の1995~2006年において、65歳以上の日本人高齢者に対するインフルエンザ関連の超過死亡を比較した研究9)によれば、童に対するインフルエンザワクチンの集団接種は、高齢者の死亡率を36%低下させると推定されています。

 

高齢者に対してインフルエンザワクチンの予防効果があまり期待できないのだとしても、学童にワクチンを接種することで、学童個人のインフルエンザ感染リスクを低下させるだけでなく、高齢者を含めた社会全体の超過死亡の抑制につながる可能性があります10)11)。このような、社会全体に及ぼすワクチンの感染症予防効果こそが、間接的な保護作用なのです。

 

ワクチンを接種しても感染症に罹ってしまうことはあります。【図1】に示したNNVを見れば明らかなように、ワクチンの有効率は個人レベルでみれば100%ではありません。ただ集団レベルでみれば、多くの人がワクチンを接種することにより感染症の拡大を強力に抑止、さらには死亡リスクの低減を期待することができます12)ワクチンの恩恵は接種した本人だけでなく社会全体にもたらされるのです。

 

4.インフルエンザワクチンの副反応と、接種回数

インフルエンザワクチンの副反応として、接種部位の炎症や痒みなどを挙げることができますが、一般的に症状の程度は軽く、数日で収まることがほとんどです。なお、インフルエンザワクチンには鶏卵を用いて培養した不活化ウイルスが含まれており、卵アレルギーのある人では、強いアレルギー反応を起こすのではないかと考えられてきました。しかしながら近年の研究報告13)14)では、卵アレルギーのある人でも安全にワクチンを接種できる可能性が示されています。ただ、アレルギーの程度は医師の判断によるものですから、卵アレルギーの人やその疑いがある人は、ワクチンを接種する際に医師に相談されることをお勧めします。

 

インフルエンザワクチンの接種回数は、成人では1回が一般的です。他方で、13歳未満の小児では、1回目の接種の後、2~4週間の間隔をおいて2回目を接種します。小児では1回のみの接種よりも、2回接種したほうが、インフルエンザに対する免疫が付きやすいと考えられているからです15)

 

ただ、1回の接種と比べて、2回の接種でどれだけインフルエンザの予防効果が高まるかについて、質の高い研究報告はありません。新型インフルエンザが流行した2009年では、インフルエンザワクチンの供給が一時的に不足しましたが、このような状況においては、2回の接種をするよりも、1回の接種で倍の人数にワクチンを提供した方が集団としての感染症リスクが低下するのではないかと考えられています16)。個人の感染予防効果という観点では2回のワクチン接種が有用かもしれませんが、集団の感染予防効果という観点からすれば、より多くの人がワクチンを接種することが大切だと言えるでしょう。

 

【参考文献】

1)SciRep.2019Jan30;9(1):929.PMID:30700747
2)CochraneDatabaseSystRev.2018Feb1;2(2):CD004879.PMID:29388195
3)CochraneDatabaseSystRev.2018Feb1;2(2):CD001269.PMID:29388196
4)CochraneDatabaseSystRev.2018Feb1;2(2):CD004876.PMID:29388197
5)ArchInternMed.2005Feb14;165(3):265-72.PMID:15710788
6)JImmunol.2004Jul1;173(1):673-81.PMID:15210831
7)JClinInvest.2011Aug;121(8):3109-19.PMID:21785218
8)NEnglJMed.2001Mar22;344(12):889-96.PMID:11259722
9)PLoSOne.2011;6(11):e26282.PMID:22087226
10)ClinInfectDis.2005Oct1;41(7):939-47.PMID:16142657
11)JAMA.2010Mar10;303(10):943-50.PMID:20215608
12) Eur Respir J. 2009 Jul;34(1):56-62. PMID: 19213779
13) J Allergy Clin Immunol. 2015 Aug;136(2):376-81PMID: 25684279
14) BMJ. 2015 Dec 8;351:h6291. PMID: 26645895
15) J Infect Dis. 2006 Oct 15;194(8):1032-9. PMID: 16991077
16) Euro Surveill. 2009 Nov 12;14(45):19396.PMID: 19941790