1.骨粗鬆症とは

骨粗鬆症(こつそしょうしょう)とは、骨がもろくなる状態であり、非常に簡単にいえば骨折する危険性が高まった状態を指します (1)。アメリカでの統計によれば、65歳以上の女性の26%、85歳以上の女性の50%以上が骨粗鬆症であることからもわかるように、極めて頻度の高い病気です (2)。


どうして女性にばかり言及するかといえば、骨粗鬆症は女性に多い病気だからです。この理由は、この後詳しく述べるように、骨の強度を保つ上で女性ホルモンが大きな役割を果たしているからです。女性の場合は、閉経を期に女性ホルモンの量が大きく減少しますので、高齢になるほど骨粗鬆症になりやすくなるのです。

1-1 骨粗鬆症の治療目的は骨折の予防

このように、特に女性においてはありふれた病気である一方、骨粗鬆症がもたらす健康への悪影響はかなり深刻なものがあります。骨粗鬆症では骨折の危険性が高まっていることは冒頭で述べましたが、特に骨折しやすい部位というのが知られており、具体的には以下の部位です (1)。

・椎体
・大腿骨近位部
・下腿骨
・橈骨遠位端
・上腕骨近位部
・肋骨

 

これらのうち、特に重要なのが大腿骨近位部 (脚の付け根のこと) 骨折です。なぜなら、この部分が骨折すると、それが原因で歩行をはじめとした日常生活のいろいろな動作ができなくなったり、場合によっては寝たきりになる可能性もあるからです。さらには、直接的に死亡リスクも上昇すると知られています (1)。したがって、大腿骨近位部をはじめとした骨折を予防することは、骨粗鬆症の治療におけるもっとも重要な目的となります。

 

この病気の治療においては、骨密度などが参照されます。骨密度は骨の強さ (骨強度といいます) のうち70%くらいを決定する重要なファクターですが、骨密度が高くなっても、必ずしも骨折の予防に結びつくとはいえない場合もあり得るので、骨密度と骨折予防では、どちらかといえば後者の方が直接的に重要といえます。

1-2 カルシウムだけではない骨の構造

一般に「骨といえばカルシウム」と思われていることでしょう。しかし、骨というのは単純なカルシウムの塊ではありません。鉄筋コンクリートの建造物に例えるなら、カルシウムはコンクリートに相当します。これがないと、隙間だらけになってしまい建物とはいえませんから、コンクリートが重要なのは間違いありません。しかし、建物の強度を考えるとこれだけでは不十分で、鉄筋をいれなければちょっとしたきっかけで崩れてしまいます。骨において鉄筋と同じようなはたらきをする物質は、タンパク質です。

 

ここで重要なのは、骨がもろくなる原因には、コンクリートに相当するカルシウムに問題があるパターンと、鉄筋に相当するタンパク質に問題があるパターンがあることです。つまり、「カルシウムさえ摂っていれば、すべてうまくいく」わけではないのです。

1-3 なぜ骨はもろくなる?骨の破壊と再生

さて、骨粗鬆症の治療について理解するうえでは、この病気でなぜ骨がもろくなるのか、その仕組みを知ることが役立ちます。そこで、まずはこの点を説明します。

 

実は、生体における骨は常に破壊と再生を繰り返しています。つまり、古くなった骨は壊されて取り除かれ、その結果できた隙間が新しい骨によって埋められる、という過程が繰り返されています。このうち、前半の骨が取り除かれるところを「骨吸収」、後半の新しい骨ができるところを「骨形成」と呼びます (1)。また、骨吸収と骨形成を含めた、骨の生まれ変わりの過程を包括的に、「骨リモデリング」と呼びます。

 

骨密度を維持するためには、骨吸収によって破壊される骨の量と、骨形成によって作られる骨の量は同じである必要があります (3)。これによって、正常な生体では骨の量が一定に保たれているわけですが、何らかの原因により次のいずれかが起こると骨の量が減るので、骨がもろくなります。

 

●骨吸収が過剰になる
●骨形成が不足する

 

裏を返せば、上記のいずれか、または両方を改善することが骨粗鬆症の治療に役立ちます。この病気に使用される薬は、基本的にこれらのいずれかを目的にしたものです。

 

2.薬以外の骨粗鬆症の治療

ここからは、骨粗鬆症の治療について説明します。

 

実際に骨折してしまった場合には、安静を保つ・ギプスやコルセットを装着する、といった治療が行われます。部位や程度によっては、手術が考慮されるケースもあります。このあたりについては、必要になった段階で整形外科医と相談で決まります。

 

むしろ重要なのは、骨折をしないようにする、予防の方です。基本的に、「骨粗鬆症の治療」といった場合、こちらを指すと考えていただいて問題ないでしょう。ここでも、治療=予防として述べていきます。

 

骨粗鬆症の治療には、大きく分けると2つあり、1つは「薬を使った治療」、もう1つは「薬を使わない治療」です。まずは、後者の薬を使わない治療について説明します。

 

2-1 カルシウムをたくさん摂るのは有用か?(食事)

「薬を使わない治療」には、大きく食事と運動が挙げられます。このうち、まずは食事について、お伝えします。先ほども少し書いたように、骨の構成成分として、カルシウムが重要です。一般にも、「カルシウムをたくさん摂ると骨によい」と考えられていますが、これは実際にはどうなのでしょうか。

 

結論からいえば、「確かによい影響はあるが、その程度はかなり小さい」と答えるのが、もっとも正確だと考えられます。

 

カルシウムを多く摂取することで、確かに骨密度が高くなりますが、その増加率は約1%と考えられています (4)。いくつかの研究では、カルシウムをたくさん摂ることで骨折が減ったという結果が得られていますが、他の研究結果も加味して分析すると、この効果は誤差範囲とみなすのが妥当と思われます (4)。

 

カルシウムは、摂り過ぎてもよくありません。具体的には腎臓や尿路の結石ができるリスクが増大します (5)。特にサプリメントなどの形で摂取した場合にその危険性が高いと考えられています。一方で、食品からの摂取は問題ないようです。したがって、骨粗鬆症が心配だからといって、自己判断でサプリなどを使ってカルシウムを摂りまくることは、すべきではありません。

 

こうしたことから、極めてありきたりな結論になりますが、適切な食事からほどほどにカルシウムを摂るのが無難と考えられます。

2-2 運動は専門家の指導の元に行うべきである(運動)

運動が、骨密度に影響を及ぼすことは、広く知られており (6)、運動をすることで骨の強度は向上します。

 

そのため、一般論をいえば運動するのはよい、といえます。しかし、どのような運動を、どの程度行うのが適切かは個別のケースによってかなり幅があるため、こちらは一般論的に語ることが実質不可能です。実際に行うときには、専門家の指導を受けて、それを守ることが重要です。

 

3.骨粗鬆症の薬物治療

さて、ここからは薬を使った骨粗鬆症の治療について説明します。

3-1. 骨粗鬆症に使用されるお薬の種類

骨粗鬆症に使用できる薬にはたくさんの種類があり、作用のメカニズム、薬の形状 (飲み薬・注射薬など)、使い方なども様々です。現在使用されているもののうち、主要なものをリストアップすると、次の通りです。

 

●カルシウム薬
●女性ホルモン
●選択的エストロゲン受容体モジュレーター (SERM)
●ビタミンD3
●ビタミンK2
●ビスホスホネート
●副甲状腺ホルモン
●抗RANKL抗体薬

 

それぞれについて、もう少し解説します。

①カルシウム薬は他の薬の補助に使うことが多い

代表的な薬の成分名 (商品名)


●L-アスパラギン酸カルシウム (アスパラCA)
●リン酸水素カルシウム

 

カルシウムの効果については、食事の部分で言及しました。効果については、先ほど紹介した通りで、カルシウムだけで劇的な効果を得ることは通常できません。そのため、他の薬と一緒に使用することで、その効果を補助することが多くなります。カルシウム薬には飲み薬 (錠剤、粉薬) と注射がありますが、骨粗鬆症に使うのは飲み薬だけです。

 

副作用として頻度が高いのは便秘です (4)。これが起こる場合は、たいてい薬の量が多すぎるため、投与量を調整する必要があります。また、先ほど取り上げた結石の他にも、カルシウムの摂り過ぎには弊害があります。

 

高カルシウム血症」で、血液中のカルシウム濃度が上昇し過ぎた状態です。単にカルシウムを多く摂っただけでこれを起こすことは稀ですが、他の骨粗鬆症治療薬を一緒に使うとリスクが上昇するケースがあります。高カルシウム血症の主な自覚症状は、身体のだるさや、のどの渇きです。

 

②女性ホルモンは有効だが長期使用は避ける

代表的な薬の成分名 (商品名)


●エストラジオール (ジュリナ)
●エストリオール (エストリール、ホーリン)

 

冒頭で、「女性ホルモンが骨の強度に大きな影響を与える」ことを書きました。具体的には、女性ホルモンは骨形成を促進し、骨吸収を抑制します。これはいずれも、骨を強くする方向のはたらきですから、要約すれば「女性ホルモンは骨を強くする」といえます。

 

その女性ホルモンですが、女性においては閉経を期に量が減ることも、先ほど述べた通りです。女性ホルモンの薬は、このように不足したホルモンを補充することを目的としたもので、理屈としても非常に納得しやすいと思います。基本的に錠剤の形で使用されますが、2日ごとに貼りかえる、テープ製剤もあります。

 

効果は確かで、骨密度を高めてくれるほか、各種部位の骨折予防効果も知られています (1)。その一方で、問題点もはっきりしています。これには大きく2つあり、1つは血栓のリスク、もう1つは乳がんです。

 

女性ホルモンには、血液を固まりやすくするはたらきもあります。そのため、血管の中で血の塊 (血栓) ができやすくなります。生じた血栓は、血管を詰まらせて、その血管が養う臓器に深刻なダメージを与えることがあります。したがって、女性ホルモンの薬を使う場合、血栓ができやすくなることを念頭に置いておく必要があります。具体的な症状でいえば、脚や腕の痛み・腫れ、息切れ、胸の痛みなどがみられます。

 

もう1つの乳がんについて。乳がんの一部は、その発生や増殖に女性ホルモンが関係します。そのため、女性ホルモンの薬を使うことは、乳がんのリスクを高めることにつながります。しかしながら、種々の研究の結果として、現在では短期間の使用ならば特に問題ないと考えられています。具体的には、5年以上継続的に女性ホルモンの薬を使って、初めて問題になる程度です (1, 7-9)。

 

③選択的エストロゲン受容体モジュレーターは女性ホルモンを改善した薬である

代表的な薬の成分名 (商品名)


●ラロキシフェン (エビスタ)
●バゼドキシフェン (ビビアント)

 

骨粗鬆症の薬は長期間飲むことが必要ですから、5年以上使った場合の安全性に不明な点の多い女性ホルモンには、やはり不安が残ります。

 

そこで開発されたのが、「選択的エストロゲン受容体モジュレーター」です。名前が長いので、英語の頭文字をとって「SERM」と表記するのが一般的です。これは何かといえば、骨ではエストロゲン (女性ホルモンの一種です) と同じように作用して、一方で乳房においてはエストロゲンのはたらきを弱める効果を持った飲み薬です。

 

これによって、女性ホルモンの持つ骨を丈夫にする効果を残しつつ、乳がんのリスクを回避できる、ある意味とても都合のよい薬です。女性ホルモンの改良型といってもよいでしょう。そのため、昨今では女性ホルモンより、SERMが好んで使用される傾向にあります。

 

しかしながら、血栓のリスクは女性ホルモンと同様にあるので、これに準じた注意は必要です。

④ビタミンD3はカルシウムの吸収を助ける

代表的な薬の成分名 (商品名)


●アルファカルシドール (アルファロール)
●エルデカルシトール (エディロール)
●カルシトリオール (ロカルトロール)

 

ビタミンD3は、食品でいえば魚やきのこなどに多く含まれています (1)。このビタミンの主なはたらきは、腸からカルシウムが吸収されるのを助けることです。したがって、ビタミンD3もまた、骨粗鬆症の治療に有用です。

 

医薬品としては、ビタミンD3そのものの他に、これをモデルに人工的に作った合成品とがあります。骨折予防の効果でいえば、合成品の方が高いことが知られているので (10)、医療現場では主にそちらが使用されています。

 

このクラスの薬は、カプセルの他、粉薬・水薬・注射薬など、いろいろな形があるのが一つの特徴で、飲みやすさなどの観点から細やかな対応がしやすいといえます。

カルシウムの吸収をよくする、という効果から予想できるように、副作用として有名なのは先ほども出てきた「高カルシウム血症」です。ビタミンD3は、その性質上カルシウムと併用することも多いので、その際には特に気を付ける必要が生じます。

⑤ビタミンK2は他の薬との飲み合わせに注意

代表的な薬の成分名 (商品名)


●メナテトレノン (グラケー)

 

納豆や緑黄色野菜に多く含まれる、これまたビタミンの一種です (1)。骨に対する作用としては、骨吸収を抑制したり、骨を構成するタンパク質を正常に保つ、などが挙げられます。

 

骨粗鬆症に使うビタミンK2の薬は、カプセル剤のみです。使用上の注意点として、この薬は「食後」に飲まないと効きません。なぜなら、ビタミンKは油に溶けやすい性質を持っているため、身体に吸収されるために食事中の油などが必要だからです。

 

また、ビタミンK2には一緒に使用できない薬があります。「ワルファリン」という薬で、これは血液が固まりにくくする効を持ち、特定の不整脈を持っている人に使用することが多い薬です。ビタミンK2は、このワルファリンの効果を弱めるため、同時には使用できません。

⑥ビスホスホネートは飲み方に特徴がある

代表的な薬の成分名 (商品名)


●アレンドロン酸 (フォサマック、ボナロン)
●ミノドロン酸 (ボノテオ、リカルボン)
●リセドロン酸 (アクトネル、ベネット)

 

ビスホスホネートとは、特定の化学構造を持った薬の総称です。その作用のメカニズムは、骨吸収を担う「破骨細胞」のはたらきを弱めることにあります。骨粗鬆症に使用する薬の中でも、治療効果についての検討が活発に行われているクラスで、骨折の予防効果が複数の研究で確かめられています (12)。こうしたことから、実際の治療でもかなりの頻度で使われます。

 

このように、効果の面では優れているのですが、使うにあたって注意を要する点が多いことも、ビスホスホネートの特徴です。具体的には、飲み方と副作用がこれにあたります。順に紹介しましょう。

 

まずは、飲み方について。ビスホスホネートには、毎日飲むタイプの他週1回だけ飲むタイプ月1回だけ飲むタイプ、などいろいろな飲み方をする薬があります。どうしてこのようなことになっているかといえば、ビスホスホネートは先ほど書いた「破骨細胞」に取り込まれて、身体の中に長期間留まる性質があるからです。

 

つまり、余剰の成分を骨の中にストックしておくことができるため、一度にたくさんの量を飲むことで、代わりに飲む回数を減らすことができるのです (一方で、他の大部分の薬ではこうしたことはできず、一度にたくさんの量を飲むと、それに伴って身体から排泄されるスピードも上がります)。したがって、飲む頻度の少ないビスホスホネートは、頻度の高いそれと比べて、一度に飲む量は増えます。

 

飲む回数が減れば、服用の手間も減りますから、一般には薬を決められた用法で飲みやすくなります。ところで、飲む回数の違い (例えば、毎日飲むタイプと週1回のタイプ) で、薬の効果に差があるのか、気になるかもしれません。この点についてはいくつかの研究で検証されていますが、あまり大きな違いは知られていません (1)。したがって、現時点では「きちんと飲めるなら、どの飲み方の薬でもよい」と考えるのが妥当といえます。

 

週1回の薬なら曜日を決めて (例えば、毎週月曜日)、月1回の薬なら日を決めて (例えば、毎月1日) 飲むことになります。しかし、このような変則的な飲み方は、逆に忘れやすいという人がいるのも事実で、こうした場合は、むしろ毎日飲むタイプの方が確実かもしれません。たった今書いたように、効果の面ではどの飲み方でも大差ないので、自分の使いやすい薬を選択してもらえばよいと思います。

 

ビスホスホネートの飲み方には、細かな制約がいろいろとあります。文字で書くと、

「朝起きてすぐ、コップ一杯 (200mLくらい) の水道水 (ミネラルウォーターは不可) で飲む。その後30分以上は横にならない」

となります。これを、文字通りそのまま実践することが重要です。その理由について、少し説明します。

 

「朝起きてすぐ」飲む必要があることについて


実は、ビスホスホネートは極めて吸収されにくい薬で、他の食べ物や薬と混ざってしまうとそれに邪魔されて、十分な量を身体に取り入れることができなくなります。そのため、胃の中が空っぽなタイミングに飲む必要が生じ、それは「朝起きてすぐ」というわけです。なお、「それだったら、寝る前でもよいのでは?」と感じるかもしれませんが、これがダメな理由は後述します。

 

②飲むときに使う飲み物を「コップ一杯の水」にする必要がある点について


ビスホスホネートは、食道に付着すると潰瘍や炎症を起こす性質があります

 

錠剤を飲み込むときに使う水の量が不十分だと、薬が胃までうまく流れず、食道に張り付くリスクが増大します。そのため、水の量についても、細かい決まりがあるのです。また、飲み物には、必ず「水道水」を使うようにしてください。これは、先ほど述べたように、他の食べ物とビスホスホネートが混ざると、吸収ができなくなるからです。


特によくないのが、カルシウムやマグネシウムなどの、ミネラル分です。市販のミネラルウォーター (特に、「硬水」と呼ばれるタイプ) には、その名の通りこうしたミネラル分が比較的多く含まれていますから、ビスホスホネートを飲むときには使えません。したがって、飲むときに使う飲み物は、お茶でもコーヒーでもジュースでもミネラルウォーターでもなく、水道水である必要があるのです。

 

「飲んでから30分は横にならない」点について

これは、たった今述べた、食道に対する悪影響を軽減するためです。立った状態、または椅子に座った状態で錠剤を飲めば、重力に従ってスムーズに薬が胃まで到達します。一方、横になっていると、同じ理屈で錠剤は食道に付着する方向に動きやすくなります。


つまり、「30分」というのは飲んだ錠剤が胃まで到達するのにかかるだいたいの目安で、その間は寝転がらないようにする必要があるのです。これが先ほど述べた、ビスホスホネートを寝る前に飲んではいけない理由です。

 

副作用について

一つは先ほどから何度も出て来ている、食道潰瘍です。これともう一つ、ビスホスホネートに特徴的な副作用に「顎骨壊死」というものがあります。これは字のままですが、顎の骨が壊死するものです。非常に怖い、という印象を持つかもしれませんが、頻度としては極めて稀です。報告によって幅はあるものの、おおむねビスホスホネート使用者年間10万人のうち、1-90件くらいと考えられています (12)。

 

ただし、顎骨壊死を起こしやすくする要因があります。それは、顎の骨に対する侵襲的な歯科処置です。「侵襲的な歯科処置」とは、簡単に言い換えれば、顎の骨に負担をかけるような治療のことで、具体例を挙げれば、歯を抜くなどです。こうした事情があるため、ビスホスホネートを使っている場合は、必ずそのことを歯科医師に伝える必要があります。

 

なお、侵襲的でない歯科処置、すなわち歯のクリーニングなどならば危険はほとんどありません。むしろ、口の中を清潔に保つことは推奨されることですから、そうした歯科治療までためらう必要はありません。

 

⑦副甲状腺ホルモンは、期間限定で使用できる

代表的な薬の成分名 (商品名)


●テリパラチド (フォルテオ)

 

副甲状腺ホルモンとは、カルシウムの血液中濃度をコントロールするホルモンです。これに少し手を加えて、人工的に合成した薬が骨粗鬆症の治療に用いられています。薬の形状としては、インスリン注射のように、自分で1日1回注射するものです。そのため、慣れるまでは少し大変に感じるかもしれません。

 

この薬は、骨リモデリングのうち、骨形成を促進するタイプです。効果は高く、骨折予防効果も各部位で認められています (1)。こうしたこともあり、骨粗鬆症のなかでも、特に骨折の危険性が高いと考えられるケースで使用される薬です (13)。

 

この薬のデメリットは、長期使用ができないことです。具体的には、合計で24カ月間しか使用できません (13)。これは、長期間使用すると、骨形成を骨吸収が上回り、骨の量が減少することが知られているからです。したがって、期間限定で使用できる薬ということになります。

 

⑧抗RANKL抗体薬は半年に1回の投与で済む

代表的な薬の成分名 (商品名)


●デノスマブ (プラリア)

 

このクラスで現在使用されているのは、「デノスマブ」という成分1種類だけです。

 

まず、「抗RANKL抗体薬」という名前が難しそうに感じることでしょう。「RANKL」とは、骨吸収を起こす細胞である「破骨細胞」が成熟するのに必要な物質です。デノスマブは、このRANKLに結合し、その機能を邪魔します。その結果、骨吸収が抑制されるので、骨量が増えることになります。

 

骨粗鬆症に対して使用するデノスマブは、6カ月に1回だけ、病院で注射してもらいます。

 

これで半年間、効果が持続します。骨密度や骨折予防に対する効果も、十分に認められています (12)。こう書くと、非常に便利な薬に思えますが、特有の弊害もあります。これは、一度の投与で長期間効果が持続する薬全般にいえることですが、投与回数が少なくて済むということは、薬が身体から抜けるのにも時間がかかるということです。

 

そのため、例えば副作用が起きるなどして、「やっぱりやめよう」と思っても、すみやかな対処が困難です。

 

その副作用ですが、デノスマブもビスホスホネートと同様に、顎骨壊死を生じることが知られています。

 

侵襲的な歯科処置によって、リスクが増大する点も同様です。これらの薬を使っている最中に、やむを得ずそうした歯科治療を行う必要が生じた場合、一時的に薬を中止することがよくあります。

 

しかし、デノスマブの場合、薬が抜けるまでの期間が非常に長いので、歯科での治療開始が遅れることになりがちです。こうしたことがないように、日ごろから定期的に歯科でのメンテナンスを受けておくことが、とりわけ望ましい薬といえるでしょう。

 

副作用としてもう1つ。デノスマブを使用していると、血液中のカルシウム濃度が低くなりやすいことが知られています。この低下分を補正するために、カルシウム補充用の薬を一緒に使うのが普通です。

4. まとめ

今一度まとめておけば、骨粗鬆症の薬を使用する目的は、骨折を予防したり、骨密度を高めることにあります。

 

骨粗鬆症に使用する薬の場合、これらの効果は、どのクラスの薬でもそれなりに認められるため、個々のケースにおける事情や好みで選択余地が広いといえます。そのため、薬を使うにあたっては、主治医とよく相談することが重要です。

骨粗鬆症は、骨折のリスクが増大する病気で、治療の目的はこれを予防することである
カルシウムを大量摂取しても、それほど治療上の効果はなく、弊害が大きいのでやめるべきである
ビスホスホネートやデノスマブを使用中に歯科を受診する場合、そのことを必ず歯科医師に伝える

 

参考文献:

(1) 日本骨粗鬆症学会・日本骨代謝学会・骨粗鬆症財団 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版
(2) Gass M, et al. Am J Med. 2006 Apr;119(4 Suppl 1):S3-S11. PMID: 16563939
(3) Parfitt AM, Metab Bone Dis Relat Res. 1982;4(1):1-6. PMID: 7121250
(4) WHO technical report series 921 Prevention and management of osteoporosis. 2003.
(5) Curhan GC, et al. Ann Intern Med. 1997 Apr 1;126(7):497-504. PMID: 9092314
(6) Valimaki MJ, et al. BMJ. 1994 Jul 23;309(6949):230-5. PMID: 8069139
(7) Rossouw JE, et al. JAMA. 2002 Jul 17;288(3):321-33. PMID: 12117397
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(9) Chlebowski RT, et al. JAMA. 2010 Oct 20;304(15):1684-92. PMID: 20959578
(10) Vestergaard P, et al. BMJ Clin Evid. 2011 May 3;2011. pii: 1109. PMID: 21542947
(12) Compston J, et al. Arch Osteoporos. 2017 Dec;12(1):43. PMID: 28425085
(13) フォルテオ皮下注キット600μg 添付文書 日本イーライリリー株式会社