目次
事業承継とは?
事業承継とは、一言で表すと「事業を受け継ぐ」という意味となります。具体的に事業承継によって引き継がれるものは以下の3つです。
- 「人」:後継者の育成や選定、経営権など
- 「資産」:資金、株式、事業用資産など
- 「知的財産」:経営理念、特許、ブランド、ノウハウなど
事業承継では、経営理念などの知的財産まで引継ぎを行うため、事業承継前後で一貫した経営方針となり残った従業員の不安や混乱を軽減できるメリットがあります。
事業承継に類似したことばで事業継承があります。承継と継承では、いずれも何かを引き継ぐという点では共通しています。しかし、事業継承では経営理念などの「知的財産」は引き継がれないという点には注意が必要です。似た言葉ですが、事業引継ぎ後の対応にも影響が出る内容ですので、違いを覚えておきましょう。
薬局における事業承継の現状
薬局業界における事業承継の現状についてまとめていきます。事業承継に大きな影響を及ぼしている要因として、薬局経営者の高齢化と業界再編の2つが挙げられます。
高齢化と承継問題
まず事業承継に大きな影響を与えている要因の一つが、中小規模薬局経営者の高齢化と後継者不足です。
調剤報酬改定による技術料の引き下げにより、薬局経営にネガティブなイメージを持つ薬剤師が多く、親族が薬剤師であったとしても経営を引き継がないケースが増加しています。また、安定した環境を求めて大手調剤グループやドラッグストアへの就職を希望する薬剤師が多く、中小規模薬局の従業員自体が不足傾向にあることから、従業員への事業承継も難しいという現状です。
中小規模薬局ついて、後継者が確保できない・高齢化のため早く承継したいという背景から、M&Aの案件が増加しています。
業界再編の現状
先にも述べた通り薬局業界ではM&Aが盛んに行われており、業界の縮図が変わってきています。
M&Aは中小薬局のみならず大手の薬局やドラッグストアでも行われています。マツモトキヨシとココカラファインの経営統合は印象に残っている方も多いのではないでしょうか。大手どうしのM&Aにより、より売り上げシェアの大きい企業が誕生しています。また、電子処方箋やオンライン診療のインフラ整備により、Amazonなど資金力のある企業の参入も目立っています。M&Aにより規模が拡大した大手は、潤沢な資金と資源を武器に、環境変化にあわせた業務体系の構築をスピーディーに行います。中小薬局がこうした大手に対抗していくためには、在宅医療への積極的介入やセルフメディケーションの拠点としての機能を発揮するなど、国が提唱する薬局ビジョンを実践していく必要があります。
調剤報酬改定の内容を踏まえても、こうした業界のトレンドにのることができない薬局はますます経営が難しくなっていくでしょう。
事業承継はどんな理由で行われるのか
薬局の事業承継を行う理由は大きく2つ存在します。1つは人材不足、もう1つは業界の変化です。
前者では、薬局経営者の高齢化や後継者問題、薬剤師不足などが該当します。後者は、たび重なる調剤報酬改定や他業界から資本力をもつ企業が参入することによる競合他社の増加が挙げられます。
特に中小規模の薬局では、これらの問題が深刻化しています。人員不足や業界の変化に対応することが困難になったため、早い段階で薬局事業の譲渡を検討する経営者が増加していることが、事業承継の案件増加の原因となっています。
事業承継に必要な準備事項
実際に事業承継を行うために必要な主な準備事項ついて解説します。
経営状況、経営課題等の見える化
事業を承継するための準備として、経営状況や経営課題の見える化が重要です。経営状況については、社外環境の変化やそれにともなう経営上のリスクなどについても把握する必要があります。経営状況を見える化する際、経営資源には知的資産など貸借対照表には計上されない資産についても含まれる点には注意が必要です。また経営課題の見える化は、事業承継を円滑に行うために重要で、課題に対しては早期対応が必要です。経営課題の見える化には、後継者候補の有無の確認・検討や、親族や関係者と後継者との関係整備、親族内承継の相続に関する事項などの取り組みが該当します。
事業承継に向けた経営改善
事業承継は、経営者交代による事業の発展や好転のチャンスです。たとえ親族内承継の場合でも、現経営者は事業の維持・発展に努め、より良い状態で後継者へ事業を引き継ぐスタンスでいる必要があります。親族内承継が減少している要因の一つに、事業の将来性に対する不安があります。こうした観点から、事業や経営状態を磨き上げ、後継者候補が魅力的に感じる状態にすることも事業承継の準備として重要です。承継方法の決定
事業の承継方法は大きく「親族内承継」「従業員承継」「M&Aによる承継」の3つに分類されます。各承継方法のメリットとデメリットは以下の通りです。「親族内承継」
・メリット:内外の関係者から受け入れやれやすい、後継者の十分な準備期間の確保が可能、相続等により株式等を移転できる
・デメリット:親族に薬剤師が必要、将来性を考慮し親族が承継に応じないケースが増えている
「従業員承継」
・メリット:経営能力を見極めて承継することが可能、経営方針などの一貫性を保ちやすい
・デメリット:承継する従業員の資金力が必要、承継前に親族間の調整を行い承継後の紛争防止に努める必要がある
「M&Aによる承継」
・メリット:会社売却益を得ることができる、親族や社内に適任者がいない場合でも対応が可能、企業改革の好機となるケースも
・デメリット:手続きが煩雑、早期に着手し企業価値を高める必要がある、マッチング候補を見つけるまでの期間に幅があるため十分な時間的余裕が必要
薬局の現況、上記承継方法のメリット・デメリットを踏まえ、どの承継方法が最適か決定します。
事業承継の計画
親族内承継、従業員承継を行う場合には事業承継計画を策定することが重要です。事業承継計画とは、事業承継にあたり自社内外の状況を整理し、将来を見据え、「いつ・どのように・何を・誰に」承継するのかを具体的な計画にしたものです。事業承継計画は実際の後継者や親族と共同して策定し、取引先や従業員などの関係者と共有しておくことで、信頼関係の維持や関係者からの協力を得られやすくなります。事業承継時に注意したいこと
1については、前述した通り承継方法には大きく3つの方法があり、さらにM&Aにおいては株式譲渡や事業譲渡の手法があります。
どの方法もメリット・デメリットがあるため薬局の現況を踏まえ最適な方法を選ぶ必要があります。また、M&Aにおいては、専門的な知識や煩雑な手続きが必要であることから当事者のみで承継を完結させることが困難です。そのため、早期に信頼できる相談先を選定することが重要となります。
また事業承継を円滑に進めるためには事前の準備がとても重要です。特に親族内・従業員承継においては、早期に後継者候補者の選定・育成を行うことで承継後の経営を円滑に行うことができます。また、承継準備の項目にて取り上げた「経営状況・課題の見える化」「事業承継計画の策定」などについても、事業承継を行うための基盤となるため後回しにせず早期に取りかかる必要があります。
事業承継は煩雑で長い時間を要することから、事前準備にどれだけ早く着手することができるかが円滑に承継を行うために重要である点は念頭においておきましょう。
調剤薬局の継承案件12選
東京近郊の譲受希望案件 6選
譲受 希望価格(万円) | 譲受 希望時期 | 希望月間処方箋(枚) | 希望月間技術料(万円) | 都道府県 |
5000 | すぐにでも | 1500 | 150 | 東京 神奈川 千葉 埼玉 |
3000 | すぐにでも | 800 | 120 | 埼玉県内、東京都及び川口市近隣 |
3000 | すぐにでも | 500 | 130 | 埼玉県 東京都 千葉県 栃木県 群馬県 |
3000 | すぐにでも | 500 | 180 | 東京都品川区、目黒区、大田区 |
2000 | すぐにでも | 450 | 100 | 東京都西部 神奈川県北部 埼玉県南部 沖縄県 |
関東地方の譲受希望案件 2選
譲受 希望価格(万円) | 譲受 希望時期 | 希望月間処方箋(枚) | 希望月間技術料(万円) | 都道府県 |
3000 | すぐにでも | 800 | 120 | 埼玉県内、東京都及び川口市近隣 |
2000 | すぐにでも | 600 | 150 | 茨城、栃木、埼玉 |
関西地方の譲受希望案件 3選
譲受 希望価格(万円) | 譲受 希望時期 | 希望月間処方箋(枚) | 希望月間技術料(万円) | 都道府県 |
3000 | すぐにでも | 800 | 150 | 大阪府、兵庫県、京都府 |
3000 | すぐにでも | 800 | 160 | 兵庫県 |
2000 | 1年以内 | 700 | 150 | 大阪・和歌山・三重・奈良・滋賀・兵庫 |
中国・四国地方の譲受希望案件
譲受 希望価格(万円) | 譲受 希望時期 | 希望月間処方箋(枚) | 希望月間技術料(万円) | 都道府県 |
3000 | すぐにでも | 1000 | 200 | 広島県及びその隣県 |
『事業承継』に関するQ&A
事業承継に関する疑問点について解説していきます。
・月の技術料と処方箋応需枚数
・時価純資産価額
・営業権(営業利益より算出される価格基準)
この中でも、月の技術料と処方箋応需枚数は薬局の月間売上に大きく影響を与える数値であり、事業承継の価格相場を決める重要な要素になります。
実際の案件では、おおよそ数百万円から数千万円での売却希望設定が多く、売上高や売却までの期間により価格の差が生じています。
この言葉を象徴するように、2024年6月の調剤報酬改定においても、処方箋受付回数が多く集中率の高い門前薬局などでは、調剤基本料1を算定することができません。また、調剤基本料1が算定できない場合、加算の中でも重要な地域支援体制加算の算定要件が厳しくなります。今後も門前薬局に対しては、厳しい改定が続くと予想されます。
また、オンライン診療や電子処方箋、オンライン服薬指導など医療DXの整備により、患者が薬局を選ぶ基準が「立地」から「薬局・薬剤師の質」に転換することが想定されます。現在は立地面での優位性により処方箋を獲得している門前薬局が大半であるため、こうした業界トレンドの変化に対応できなければ患者数の減少は免れないでしょう。
一方で在宅業務では、患者宅や施設への移動や訪問先での薬剤の管理、往診同行など通常の外来業務に比べ時間と労力が必要となります。また、緩和医療を受けている患者がいる場合には、開局時間外に緊急で調剤が必要となるケースもあります。そのため、売り上げを増やしていくためには、効率的な業務手順の検討や従業員の業務負担軽減措置の整備などが求められます。
まとめ
薬局の事業承継について解説をしてきました。薬局業界では調剤報酬改定、後継者不足の観点から今後も事業承継が盛んに行われることが予想されます。いずれの承継方法においても承継する側、引き継ぐ側それぞれ時間をかけ入念な準備が必要です。
中小企業庁によると、後継者育成の準備期間として5年以上の期間と考えている経営者が最も多いというデータがでています。最終的に事業承継をしようと考えている場合には、承継予定の5年ほど前から後継者育成などの準備を進めましょう。また、業績悪化により売却額が下がる・後継者がみつかりにくくなるなどの問題点が発生する可能性があるため、承継完了までに経営状況を維持することも重要です。
事前の準備や承継の手続きを円滑に行うために、早い段階で信頼できる相談先をみつけることを検討してみましょう。
※掲載内容は執筆時点での情報です。
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小浦 良祐 薬剤師
執筆・監修者新卒で大手ドラッグストアに就職し、管理薬剤師のほか地域連携担当、リクルーターを経験。その後、調剤薬局へ転職し在宅医療と予防医療について学ぶ。また、患者さんの経済的な不安を解消したいと思い2021年に2級ファイナ...