登場人物

★ゆきさん
雪原 匠(ゆきはら たくみ) 49歳 男性
ゆきさん薬局の管理薬剤師&オーナー
顔の見える薬剤師を目指し、日々奮闘している

★ 田畑 ゆず
田畑 ゆず(たばた ゆず) 2歳
良性乳児痙攣
かかりつけ薬局はなく、病院近くの様々な薬局で薬をもらっている

★石原 真優
石原 真優(いしはら まひろ) 25歳女性
ゆきさんにあこがれて、ゆきさん薬局で働く薬剤師
素直で明るく、真優ちゃんと呼ばれ、スタッフにかわいがられている

併用薬の飲み合わせを確認します

ゆずちゃんのお母さんが小児科の処方箋を持って、ゆきさん薬局を訪れました。
ゆきさん、咳止め、痰切りが処方されているのを確認して、後輩の真優ちゃんに任せることにしました。

「真優ちゃん、この薬、出してもらえる」とゆきさんは指示しました。

「はーい」と明るく答えて、真優ちゃんがお薬の入ったトレーをもって、ゆずちゃんのお母さんを「田畑さん、お薬の用意が出来ました」とお呼びしました。

薬局では薬を出すことを「投薬」というのですが、ゆきさんはその言葉が好きではありません。
お薬を院内で出すのが主流であったころ、患者さんは薬を投薬口と書かれたところでお薬をもらっていたのですが、混雑している病院では、ほとんど説明がなされず、まさに字の通り、お薬を投げて渡すイメージがあったのです。
それで、ゆきさんは「投薬お願いします」という言葉に抵抗を感じるようになりました。

ゆきさん、真優ちゃんの服薬指導(患者さんとのコミュニケーション)が気になり、電子薬歴を開きました。ゆきさん薬局では、電子薬歴なのでパソコンの端末があれば同時に同じ患者さんの薬歴を見ることが出来ます。

真優ちゃん、まずはお薬手帳で併用薬を確認しました。
「ゆずちゃんは、テグレトールを飲んでいるのですね」

田畑さん
「はい、てんかんではなく良性乳児痙攣って言われているのですが、『一応薬を飲んでおきましょう』と言われて、それからずっと飲んでいるんです」

真優ちゃん
「それは心配ですね」
ゆきさん、真優ちゃんが患者さんの気持ちになって、相槌を打っているのを見て、うれしそうに見守りました。
「ところで、今日受診された主な症状は『せき』ですね?」

田畑さん
「はい、咳をしてとまらないので診てもらいました」
真優ちゃん
「今日は2種類の薬が出ています。1つはアスベリンという咳止めです。もう1つはカルボシステインという痰切りです。今日の薬はシロップで2つの薬を混ぜてあります。1日3回で利用ください」

田畑さん
「この薬は飲み切った方が良いですか?」

真優ちゃん
「咳止めと痰切りは症状を抑える薬で、根本的な原因を治療する薬ではありません。従って、飲みきる必要は無く、必要に応じて利用するので構いません。ただし、2つの薬を混ぜて、しかも飲む量をあわせるために水も足しているので、長期保存出来ません。1週間以上経ってからは、利用することは止めてください。また、アスベリンは懸濁しているのでその都度混ぜてほしいのですが、あまり強く振ると泡だってしまいます。優しく混ぜるようにして下さい」

田畑さん
「テグレトールとの飲み合せは大丈夫ですか?」

真優ちゃん
「大丈夫ですよ。安心して利用ください」

ゆきさん、真優ちゃんの服薬指導を満足そうに見ていましたが、薬歴で田畑さんがうちに来ている頻度を見て、真優ちゃんに「田畑さんのお薬手帳を見せてくれる」とお願いしました。ゆきさんは、田畑さんがテグレトール以外の薬で、他の薬局にも行っていると思ったのです。

病気と薬の飲み合わせも確認します

ゆきさん、おもむろにお薬手帳を確認しながら田畑さんに話しかけました。「テグレトールをもらっている先生に、何か注意することは聞いていますか?」

田畑さん
「いえ、特に言われていません。1年前に起こして乳児期の痙攣で、それ以降起きていないので、そろそろ薬も止められるかなと言われています」

ゆきさん
「それは、良かった。ずっと薬を飲み続けることになったら嫌ですもんね」

田畑さん
「そうなんです。ところで、何か気をつけることがあるんですか?」

ゆきさん
「実は薬によって、痙攣を起こす確立が上がる場合があるんです」

田畑さん
「えー、本当ですか」

ゆきさん
「子供の場合には、まずテオフィリンという喘息の薬を気にします。ゆずちゃんは、喘息も無い様なので、それは大丈夫ですが、風邪薬でも気にする薬があります。抗ヒスタミン薬と言って、鼻水に利用する薬です。抗ヒスタミン薬は、アトピーなどのアレルギーにも利用しますが、ゆずちゃんはアレルギーも無いので大丈夫でしょう。でも鼻かぜの時には、よく利用します」

ゆきさんは、お薬手帳をめくりながら、抗ヒスタミン薬を利用した事がないか探しました。

「お母さん、1ヶ月前に飲ませたポララミンというのが、抗ヒスタミン薬になります。熱性痙攣を起こしたことがあるお子さんには、飲まない様に注意する薬です。でもこの時、飲んで問題なかったのでしょ?」

田畑さん
「ええ、何も問題ありませんでした」

今後の対策も考えます

ゆきさん、真優ちゃんに「ごめんね、席変わってもらえる」と言いながら、田端さんに話を続けました。
「田畑さん、乳児の痙攣で原因がわからないものもたくさんあります」

田畑さん
「先生も、そう言っていました」

ゆきさん
「一度痙攣を起こして、その後問題がなければ、良性の痙攣と判断し、2年間を目安にお薬を無くしていくことが多い様です。でも、その間に再発したら、また心配することになります。だったら痙攣を起こす確率はなるべく下げたいですよね」

田畑さん、何時まで続けるのだろうという不安感から、感極まって「そうなんです」とつぶやきました。

ゆきさん
「痙攣を診てもらっている先生にも、『薬剤師に抗ヒスタミン薬に注意するように言われたけど』と話して確認してみてください」

田畑さんは、涙をこらえながら「はい」と答えていました。

ゆきさん
「病院を受診する時、薬局で薬をもらう時に、お薬手帳を見せるとともに、『良性痙攣の経験がありますが、大丈夫ですか』と確認するようにして下さい」

田畑さんはそれを聞いて、安心したように何度もお辞儀をしながら薬局を後にしました。
ゆきさんは、「真優ちゃんごめんね。途中から話に入って」と謝りながら、「薬剤師は薬だけ見るのではなく、患者さんを見なければいけないんだよ」と声をかけました。真優ちゃんは笑顔で「いえ、全然。とても勉強になりました」と答えました。

※※

数日後、田端さんがテグレトールの処方箋を持って来られました。

ゆきさんを見つけるなり、「良性痙攣でアドバイスを頂いたゆずの母です。先日は、ありがとうございました。医師の先生と相談したのですが、ゆきさん先生の言う通りとおっしゃっていました。本当にありがとうございました」

ゆきさん
「そうですか。それは良かった。ところで田畑さん、うちにテグレトール細粒の在庫が無いので、すぐに用意できませんが、手持ちありますか?」

田畑さん
「3日分くらいは、手持ちがあるから大丈夫です。ご面倒でなければ今後も処方箋持ってきて良いですか?」

ゆきさん
「もちろんです。でも、うちであまり出ていない薬だから、いつも取り寄せになるかもしれませんが、それでも良いですか?」

田畑さん
「ここでもらいたいので、よろしくお願いします」

患者さんに気を使わせてしまったものの、『これが本当のかかりつけ薬剤師の利用法なんだ』と、心の中で胸を張るゆきさんでした。

※ゆきさん薬局の物語に登場する人物は、フィクションです