緑内障とは高くなった眼圧により視神経が圧迫され、害される疾患です。そのため、緑内障の治療には眼圧を下げる点眼薬が使用されます。点眼液には様々な種類がありますが、今回はその中でも多く使用されているプロスタグランジンF誘導体キサラタン®(ラタノプロスト)点眼液についてまとめてみようと思います。

目次:キサラタン®点眼液の特徴・副作用・注意点

■キサラタン®とは?眼圧を下げる効果を持つ点眼液
・緑内障と高眼圧症
・キサラタンの有効成分「ラタノプロスト」の働き
■キサラタン®の注意点・副作用
・回数を増やしても効果が強くなるわけではない?
・特徴的な副作用
・保管方法
■参考

キサラタン®とは?眼圧を下げる効果を持つ点眼液

キサラタン®点眼液は眼圧を下げる効果を持つため、緑内障や高眼圧症に使用される薬剤です。まずは、その働きについて簡単にまとめます。

緑内障と高眼圧症

眼圧が高いことを緑内障と言うと思っている方も多いようなのですが、眼圧が高い状態は高眼圧症と言います。緑内障というのは、高くなった眼圧によって視神経が障害を受けてしまう状態です。(一般的に正常とされる眼圧であっても視神経が障害を受けてしまう正常眼圧緑内障も存在します。)

房水と眼圧

人間の体内では血液を通じて様々な組織に栄養分が届けられています。何らかの理由で血液の流れが滞ってしまうと血圧が上昇します。
それに対して、眼球には血管が通っていない組織が存在するため、血液の代わりに房水(ぼうすい:眼球を充たす液体)を通じて栄養分が供給されています。血圧と同じように、何らかの理由で房水の流れが滞ると眼圧は上昇してしまいます。

キサラタンの有効成分「ラタノプロスト」の働き

ラタノプロストは強力な生理活性物質であるプロスタグランジンの構造を一部変化させた成分(誘導体)です。点眼されたラタノプロストはプロスタノイドFP受容体に結合することで、房水の排出を促進することができます。その結果、優れた眼圧降下作用を発揮します。その作用は非常に強力で、ラタノプロストをはじめとするプロスタグランジン関連薬(他にトラボプロスト、タフルプロスト、ビマトプロストがあります)は緑内障治療の際、一番に選ばれる薬(第一選択薬)に位置付けられています。1)

キサラタン®の注意点と副作用

ここからはキサラタン®点眼液を使用する上で知っておいて欲しい注意点についてまとめていきます。

回数を増やしても効果が強くなるわけではない?

キサラタン®点眼液は「1回1滴、1日1回点眼する」ことで効果を発揮します。1日1回で強い眼圧降下作用が発揮できるのなら回数を増やせばもっとよく効くのでは?と思う人もいるかもしれませんがそれは間違いです。キサラタン®点眼液の添付文書を見てみると、「用法及び用量に関連する使用上の注意」の項目には次のように記載されています。
『頻回投与により眼圧下降作用が減弱する可能性があるので、1日1回を超えて投与しないこと。』2)
つまり、使えば使うほど効果が上がるなんてことはなく、むしろ効果が下がってしまう可能性があるのです。海外での臨床試験になりますが、1日2回の点眼を行なった場合、使用日数が増えるに従って効果が減弱していくことが報告されています。3)単純に効果の上昇が期待できないだけでなく、使用頻度が増えることで副作用の可能性も高まります。「1回1滴、1日1回」を守って使用するようにしてください。

キサラタンの特徴的な副作用

キサラタンに限らず、プロスタグランジン関連薬には共通する副作用がいくつか存在します。その中でも以下の副作用が特徴的です。
 ・虹彩色素沈着/眼瞼色素沈着
 ・眼瞼部多毛/睫毛の異常
 ・眼瞼溝深化

虹彩色素沈着/眼瞼色素沈着

虹彩とは目の中心にある黒目の部分(瞳孔)と白目の間の部分です。この部分が縮んだり伸びたりすることで目に入る光の量を調節しています。日本人の場合、虹彩は黒や褐色の人が多いです。

プロスタグランジン関連薬を使用することで、この虹彩のメラニン色素が増加し、黒くなってしまうことがあります。これを虹彩色素沈着と言います。薬を使用するのをやめればそれ以上黒くなることはありませんが、一度黒くなった虹彩は元には戻りません。ただ、上でも述べたように、日本人の場合、虹彩は黒や褐色であることが多いので、それほど気にならない人も多いかもしれません。ただ、片目にだけ点眼する場合、左右の目で色が変わってくるので目立ってしまうかもしれません。

また、瞼のメラニン色素が増殖してしまう可能性もあります。これを眼瞼色素沈着と言います。長期間プロスタグランジン関連薬を使用し続けることで、瞼が黒くなってしまうことがあります。これについては中止すれば戻る場合もありますが、目立つ部分だけに気になることが多いと思います。そのため、キサラタン®を始めとするプロスタグランジン関連薬を使用した後は洗顔を行うように指導されることが一般的です。洗顔を確実に行うために、1日1回の使用を「朝の洗顔前」や「夜の入浴前」に指定することもあります。もし、どうしても洗顔ができない場合は濡れたタオル等で目の周りをしっかり拭いてください。

眼瞼部多毛/睫毛の異常

グラシュビスタ®の記事にも書きましたが、プロスタグランジン関連薬はまつ毛の毛包に作用し、毛周期の成長期を長くする働きを持っています。この作用により、キサラタン®を継続して使用していると目の周りの毛が増えてしまったり、睫毛が濃く、長く、太くなってしまったりすることがあります。この副作用についても、点眼後に洗顔等を行うことで起こりにくくすることが可能とされています。

眼瞼溝深化

眼瞼溝深化とは瞼の溝が深くなる・・・というその言葉のままの副作用です。プロスタグランジン関連薬は瞼の脂肪を減らす作用を持っています。瞼の脂肪が減ってしまった結果、瞼にシワがよりやすくなり、深くなってしまうというのが眼瞼溝深化です。ただし、この副作用の発生頻度はかなり低いといわれています。

キサラタンの保管方法

キサラタン®は、開封前は「2〜8℃、遮光」で保管するようになっていますので冷蔵庫での保管が基本となっています。ですが、開封後は専用の袋(遮光袋)に入れていれば「室温(1〜30℃)」で保管可能となっています。
よく、旅行に持って行く際にどのように保管すればいいか心配される方がいますが、よほど暑い環境(夏場の車のダッシュボード等)に置いておかない限り問題なく旅行中も使用可能というわけです。

ただし、点眼液の期限は一般的に開封後4週間とされています。キサラタン®点眼液についても同様なのでそこは忘れないようにしてください。

ジェネリックは開封前も室温保存可能?

キサラタン®点眼液は様々なメーカーからジェネリック医薬品が販売されています。ジェネリック医薬品では多くのメーカーが添加物に工夫を加えることで、開封前から室温保存を可能としています。

開封前から室温保存可能なものを以下にまとめておきます。

 ・ラタノプロスト点眼液0.005%「TYK」
 ・ラタノプロスト点眼液0.005%「ニットー」
 ・ラタノプロスト点眼液0.005%「NP」
 ・ラタノプロスト点眼液0.005%「TS」
 ・ラタノプロスト点眼液0.005%「サワイ」
 ・ラタノプロスト点眼液0.005%「サンド」
 ・ラタノプロスト点眼液0.005%「タカタ」
 ・ラタノプロスト点眼液0.005%「トーワ」
 ・ラタノプロスト点眼液0.005%「ニッテン」
 ・ラタノプロスト点眼液0.005%「日医工」
 ・ラタノプロスト点眼液0.005%「科研」
 ・ラタノプロスト点眼液0.005%「CH」
 ・ラタノプロスト点眼液0.005%「NS」
 ・ラタノプロスト点眼液0.005%「TOA」
 ・ラタノプロスト点眼液0.005%「ケミファ」
 ・ラタノプロストPF点眼液0.005%「日点」

ただし、ラタノプロストに限らないことですが、ジェネリックは各社様々な工夫を行なっているものもあります。ラタノプロストの場合、室温保存できるかどうか以外にも特徴がありますので、興味がある方は薬局等で相談してみてください。

参考

1)緑内障診療ガイドライン 第3版 日本緑内障学会
2)キサラタン®点眼液0.005% 添付文書 ファイザー株式会社
3))キサラタン®点眼液0.005% インタビューフォーム ファイザー株式会社