登場人物

★ゆきさん
雪原 匠(ゆきはら たくみ) 49歳 男性
ゆきさん薬局の薬剤師
優しくて、おだやかな性格

★松沢 裕康
松沢 裕康(まつざわ ひろやす) 46歳男性
風邪薬の処方箋を持ってこられた初めての患者さん
精神神経科で治療中

ジェネリック医薬品をお勧めするとき

雨が降っているある日のこと、ゆきさんが暇にしていると、見慣れぬ男性が入って来られました。

「患者さんは誰もいないし、ゆっくり話せるからラッキーな人だな」と思いながらゆきさんは処方箋を受け取りました。
処方箋を見て、「何だ風邪薬か、そんなに説明することもないかな」なんて思いながら準備をし、レセコン(診療報酬明細書を作成する機械)で初めて来られる患者さんであることを確認して、声をかけました。

ゆきさん
「松沢さん、こちらの薬局初めてですね」

松沢さん
「はい」

ゆきさん
「ジェネリック医薬品て、ご存知ですか?」

松沢さん
「名前はよく聞くのですが、よくわかりません」

ゆきさん
「メーカー違いのお安くなる薬です。患者さんの希望で処方箋に書いてある薬から安い薬に変更できますよ」

松沢さん
「効果、副作用とかは変わらないんですか?」

ゆきさん
「主成分は変わらないので、基本的に変わりません。うちでジェネリック変更をお勧めしないのは、ずっと飲み続けている薬で患者さん自身での管理が難しくなるだろうなと思うとき、味や錠剤の大きさが変わるとき、貼心地、塗り心地が変わるとき等です」

松沢さん
「そうなんですね。お任せします」

ゆきさん薬局では患者さんが、「ジェネリック変更は、薬局にお任せします」と答える率が高いのです。ゆきさんが誠心誠意説明している姿が、患者さんに伝わっているようです。

ゆきさんが「お薬手帳はお持ちですか?」と尋ねると、
松沢さん「ありますよ」と言ってかばんから出してくれました。

ゆきさん、お薬手帳を受け取り、内容を見て「ありがとうございます。特に飲み合わせに問題がある薬は無さそうですね。お薬の準備をしますから、こちらの質問票をお書きになって、お待ちください」と話しながら、質問票を手渡しました。

気軽に質問の出来る環境を作ります

ゆきさん
「松沢さん、お薬の準備ができました。今日はどうされましたか?」

松沢さん
「のどが痛くて受診しました」

ゆきさん
「結構腫れていると、先生に言われませんでしたか」

松沢さん
「はい」
ゆきさん
「そうでしょう。抗生物質、のどの炎症を抑える薬、鎮痛剤、ひどい炎症のときに利用するステロイドが出ています。ステロイドが出ているので、腫れが激しいのかなと思いました。1日1回と3回、1回1錠と2錠、それぞれ飲み方が違います。薬袋に書いてあるので確認して、間違えないようにお飲みください。抗生物質は、ぶり返さないためにも飲み切った方が良いですよ」

ゆきさん、子供や高齢者でない限り、薬情(説明書)や薬袋を見ればわかるような、わかりきった説明はなるべくしないようにしています。
自分が患者さんの立場だったら、くどく説明する人には質問をしたくないからです。

一方、他に困っていることがないか、顔色、行動、お薬手帳から確認をします。

ゆきさんは続けて、お薬手帳を見ながら、話し始めました。
「メンタルの薬をしばらく飲まれているのですね。ずっと継続で飲まれているようですから、これで安定しているのでしょう。併用してかまいませんよ」

ゆきさん、松沢さんが口元を緩めホッとする顔を見て、少し間を取りました。

他の薬局でもらった薬の相談にも乗っています

すると、松沢さんから「つかぬ事を質問してよいですか?」と質問が始まりました。
「大学病院の精神神経科で適応障害の治療をしています。ソラナックスを2ヶ月かけて徐々に減らしてきて、先日やっと止められると思って止めた途端に、離脱症状が出てきたんです。みなさん離脱症状は、出るものなんですか」

ゆきさん
「具体的にどんなことが起きたのですか?」

松沢さん
「頭痛、肩こり、ざわざわ感、顔のほてりです」

ゆきさん
「それは、おつらいですね」
松沢さん
「本当に錠剤カッターで切って、やすりで削るようなことまでして減らしてきたのに、完全に止めたら離脱症状が出てしまって、がっかりしているんです」

ゆきさん
「やすりで削れるまで減らせたんですよね。減らせて良かったじゃないですか。減らせなくて困っている人も、たくさんいるんですよ」

松沢さん「はあ」と言って、驚いたような、あっけにとられたような顔をしていました。でも、これだけは言わなければという感じで続けました。「やすりで削るまでしたのに、離脱症状は出るんですか?」

ゆきさん
「治り方とか、薬の量なんて、人それぞれですよ。他人は他人、自分は自分ですから。それよりも、出来なかった苦しみより、出来た喜びを感じなければだめですよ」

松沢さん、「人それぞれ、そうですよね」と自分に言い聞かせるように答えました。

ゆきさん
「そのうち、やすりで削っている大変さと、薬がないつらさの勝負になるんでしょう。そして、そんなときがあったなあとなるんですよ、きっと」

松沢さん、少し吹っ切れたような表情で「どうもありがとう」と言って帰られました。

その日から、松沢さんは大学病院の処方箋も持ってきてくれるようになりました。薬剤師は薬を道具として利用していますが、心で治すものだなと実感するゆきさんでした
※ゆきさん薬局の物語に登場する人物は、フィクションです