■登場人物

★ゆきさん
雪原 匠(ゆきはら たくみ) 49歳 男性
ゆきさん薬局の管理薬剤師&オーナー
顔の見える薬剤師を目指し、日々奮闘している

★田辺 哲夫 
田辺 哲夫(たなべ てつお) 58歳 男性
仕事は引退して、認知症の母親みちさんの面倒を見ている
高血圧、時々睡眠薬ももらっている

週刊誌に書いてあるけど大丈夫?

お母様の薬を良く取りに来られる田辺さん、今日は本人の高血圧の薬を取りに来られました。いつもと同じ薬なので、ゆきさんは手早く用意をして、田辺さんと早速話し始めました。

田辺さん
「ゆきさん、この間週刊誌に俺が飲んでいる薬も載ってたけど、大丈夫かい?」
田辺さんはARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)に分類されるブロプレスという薬を飲んでいました。

ゆきさん
「それで、週刊誌には何て書いてあったの?」
ゆきさんはこんな質問もあろうかと思って、既に週刊誌を買って読んでいましたが、患者さんが週刊誌を読んで、どのように理解しているのかを確認する為、わざとに内容を田辺さんに質問したのです。

田辺さん
「製薬会社が儲ける為に作った薬で、そんなに効果も無いとか書いてあったよ」

ゆきさんは、案の定、正しく理解されていないなと感じながら、続けて質問しました。
「それで、花田先生にも相談はされたのですか?」
花田先生は、ここら辺では有名な循環器科の先生で、花田先生がどのように答えるかも興味があったのです。

田辺さん笑いながら、「『三流雑誌の記事なんて、信じちゃダメだよ』と言ってた。でも、あんなに大々的に書かれていたら、気になるよなあ」と話しました。

ゆきさんも笑いながら、「三流雑誌とは随分ですね。まあ、間違ったことは書いていないと思うけど、誤解されやすい書き方でしたよね」
田辺さん
「じゃあ、やっぱり効かない薬を飲まされていることになるのかい?」

ゆきさん
「ARBは効かないのではなくて、効果が穏やかなんです。田辺さん、薬をお渡しする時に皆さんが気にすることは、何だと思います?」

田辺さん
「そりゃ、効果だろ!」

ゆきさん
「その通り。その次に気にするのは何だと思いますか?」

田辺さん
「副作用だよ」

ゆきさん
「そう、皆さん効果と副作用を気にするのです。『効かなければ、効く薬がほしい』、『効き過ぎれば、もっと穏やかな薬、安全な薬がほしい』となるわけです」

田辺さん「ふーん」とうなずきました。

ゆきさんは、説明を続けました。「つまり、ほどほどが良いんですよ。血圧だって、急に下げ過ぎれば体が悲鳴を上げるし、下がらなければ薬を飲んでいる意味が無くなります」

田辺さん
「じゃあ、今飲んでいる薬は、程よく効果のある薬ということ?」

ゆきさん
「そういうことです。効果にフォーカスすれば、副作用が心配だということになるし、副作用にフォーカスすれば、効かない薬ということになりがちです。私見ですけど、週刊誌だって売れないとダメじゃないですか。だから多くの人が利用している薬に対して、このような問題点を上げて、皆さんが注目するような記事を書くんだと思います。でも、この記事を読むことによって、薬を飲むことを止めて、病気を悪化させることがあったら、どうなるのかなと心配します。高血圧であれば、心筋梗塞、脳梗塞を起こすリスクを上げるわけです」

田辺さん
「意味がある薬を飲んでいるのがわかって、良かったよ」

セカンドオピニオンや、薬剤師の意見を聞こう

ゆきさん
「あの週刊誌は、薬の問題だけでは無く、もう一つ問題提起しているのですよ」

田辺さん
「え、そうなのかい」

ゆきさん
「『そもそも血圧が少し高いからといって、降圧剤を飲む必要はない』と書いてあるのです」

田辺さん
「それは、俺らに言われても困る話だよね」

ゆきさん
「そうですよね。『医師から薬を飲んだ方が良い』と言われれば、それを信じて良いのかわからないということになりますから」

田辺さん
「それじゃあ、誰を信じて良いかわからなくなるなあ」

ゆきさん
「かかりつけの医師以外、他の医師に意見を求めたくなりますよね。そういうことをセカンドオピニオンと言います」

田辺さん
「聞いた事はあるが、手術するような大事でもないのに、他の医師に確認しに行くのも大変だよ」

ゆきさん「そうですよね。そんな時は、僕を利用してくれれば良いんです」と自分の胸をたたきながら笑顔で答えました。

田辺さん
「なるほど、薬局で相談するのか。考えたこともなかったよ」

ゆきさん
「薬局なら、気軽に違うところに行って質問できるでしょ。気になることを質問して、親身に相談に乗ってくれる気に入った薬局が見つかれば、そこをかかりつけ薬局にすれば良いんです。まあ、田辺さんなら僕に聞いてくれるとは思いますけど」

田辺さん笑いながら「それで、俺がこの薬を飲むのは妥当かい?」と質問しました。

判断材料を揃えてから質問しよう

ゆきさん
「随分と安直に質問してくれますね!質問されても、判断材料が無いと答えられないですよ。前に渡した血圧手帳をつけていますか?」

田辺さん「あー、つけてるよ。丁度無くなるところだから、もらおうと思っていたんだ」と言いながら、血圧手帳を見せてくれました。

ゆきさん、上が120代、下が80代と安定している手帳のグラフを見ながら話しました。「田辺さん、低すぎるわけでもなく、血圧安定しているから良いんじゃない。花田先生にも毎回見せているんでしょ?」

田辺さん
「もちろん見せているよ。花田先生も安定しているから、『このまま薬を続けましょう』と言っていた」

ゆきさん
「ところで、食生活、運動とか気をつけていることはありますか?」

田辺さん
「特に、今までと変わらずだよ」

ゆきさん
「高血圧は生活習慣病の一つです。生活習慣を改善して、体重が減った等の変化があれば、薬を止めたり変更することも考えた方が良いかもしれませんが、今までの生活と変わらずで、薬も飲んで安定しているのであれば、そのまま継続して飲んだ方が良いと思います」

田辺さん
「では、このままで良いんだね」

ゆきさん
「良いと思いますよ。それに花田先生にもきちんと相談しているし、信頼関係もできているのだから、このまま花田先生にお願いして診てもらうのが良いですよ」

田辺さん
「そうか、ゆきさん安心したよ。どうもありがとう」

薬だけでなく、安心を売るのも薬剤師の仕事だと思うゆきさんでした。

※ゆきさん薬局の物語に登場する人物は、フィクションです