目次

・日本の医療費、薬剤費はなぜ問題に?
>高齢化の波
>医療費
>薬代
・医療費や薬剤費が増えることの問題点
・医療費や薬剤費が高くなる理由
>超高額医薬品の発売
>革新的な薬は高価
>最高の医療を提供する姿勢
・日本もようやく薬の費用対効果を算出する方向性に
>諸外国での実情
>費用対効果を算出するデメリット
・まとめ

日本の医療費、薬剤費はなぜ問題に?

高齢化の波

日本人ならもはや誰もが知っているとは思いますが、日本では高年齢化が進行しています。
高年齢者は、がん、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病を始め、膝や腰の痛みなど身体機能面の病気も増加するため病院を受診する頻度が増えます。

医療費

医療費とは、病院での診察代や検査代などの費用、薬局での薬代などの費用の総額のことです。
毎年厚生労働省が集計をしており、年々増加して直近では40兆円を超えています。(1)
日本の国家予算が約100兆円ですから、それと比較すると医療費の巨大さがお分かりいただけるでしょう。
また、医療費の内の薬剤費(入院中、外来、調剤薬局の合計)も年々増加していて、直近では10兆円程度になります。(2)

薬代

薬代は、「薬価(やっか)」と呼ばれる厚生労働省が決める公定価格で、2年に一度見直されます。
一つ一つを見ればほとんどの薬は毎回安くなっているにも関わらず、薬剤費の合計をすると増加する傾向にあります。(3)
理由は使用される薬が安いものでは無く、高いものが使われているからです。
この記事のポイントはここにあります。なぜ、安価な薬を使わず、高い薬が使われるのでしょう?

医療費や薬剤費が増えることの問題点

病院を受診したりその後薬局で薬をもらう時に支払うお金(自己負担額)は、総額の3割である人が大半でしょう。
しかし、75歳以上の高年齢者で、収入が少ない場合は1割負担で済みます。
自己負担額以外の7割~9割は、皆さんが加入している「健康保険」が支払います。
健康保険は勤め先によって変わり、無職や自営の方は「国民健康保険」、中小規模のサラリーマンは「協会けんぽ」、大企業のサラリーマンは「健康保険組合」、公務員や教師は「共済組合」などになります。
さらに75歳以上の方は特別な健康保険である「後期高齢者医療制度」に加入します。

国民健康保険と後期高齢者医療制度で使用されるお金は、税金であるため医療費が高くなるとどんどんと徴収される税金が上がっていきます。
医療費を多く使用するのは若者より高年齢者ですが、後期高齢者医療制度は税金だけでは到底運営できないため、協会けんぽや健康保険組合がお金を拠出しています。
その割合は、健康保険によって異なりますが、おおよそ健康保険の収入の約半分になります。(4)
健康保険の収入は私たちの給料から支払われますから、普段全く病院を受診しない人でも税金と健康保険料の両方で医療費をかなり負担していることになります。

医療費や薬剤費が高くなる理由

超高額医薬品の発売

最近話題になっている抗がん剤「オプジーボ」は、一人あたり3500万円/年もかかる可能性があることが指摘されています。(5)
またオプジーボで隠れていますが、C型肝炎治療薬「ハーボニー」や「ソバルディ」もかなり高価で、1回の治療で500万円近くかかることがあります。(6)
特にハーボニーやソバルディは、これまでほとんど治療できなったC型肝炎が100%治せる薬ですから革新的すぎると言えるでしょう。
昔は治療が難しかった病気を治せる時代になりつつありますが、引き換えに薬剤費が高くなる状況です。

革新的な薬は高価

新発売となる薬の薬価の決め方は2種類あって、一つは同じような薬がすでに発売されている時に使用される方法、もう一つは全く新しい薬や特別にスゴイ薬に使用される方法です。
前者の場合は比較対象の薬があるので既存の薬と同じくらいか少し安い薬価となりますが、後者は比較対象がありませんから、製薬会社が発売までに要した研究開発費と発売後の売り上げ予測などの総合評価で決定します。
製薬企業は少しでもよい医療を提供できるよう開発し続けるため、同じ病気の治療薬でも革新性が認められれば薬価が高くなります。

例えば、血を固まりにくくする薬「ワーファリン1mg」の薬価は9.6円/錠ですが、同じような薬「プラザキサ110mg」は239.3円/錠です。
全く同じ作用の薬ではありませんから「症状によって」という前提ですが、ワーファリンからプラザキサへの切り替えはありえます。
もしワーファリンで済むような方をプラザキサに変更している事例があれば、薬剤費は高くなります。
このような事例が起こる原因は、後述する日本の診療ガイドラインにあります。

最高の医療を提供する姿勢

日本では「有効性」と「安全性」の面しか考慮されずに、医師が使用する診療ガイドラインが作成されてきました。
診察の過程で患者さんの経済状況を知り、個別に安い治療を行うことはありますが、多くは診療ガイドラインに沿った治療が行われているように思えます。
ガイドラインが作成された時点で、有効性や安全性の面で最高の治療方法が推奨されています。
病状によっては最高の治療を行わなくても昔からある安い「それなりの薬」で何とかなる可能性があるにも関わらず、ガイドラインで推奨された薬が薬価に関係なく使用されていることになります。
また、受診者側も最高の治療を望む傾向にあると言えます。

日本もようやく薬の費用対効果を算出する方向性に

企業活動する上では当たり前に行う費用対効果の算出ですが、日本の医療業界では全くなされていませんでした。
薬を飲んでその後どうなるかの把握は長期間になりますし、日々いろいろな変化があって薬による影響なのかを調べるのは困難を極めるのが理由だと考えられます。
そうはいっても医療費、薬剤費の増加が止まらず、超高額医薬品が誕生する中ではそんなことを言っていられない状況です。

さすがにいきなり全ての薬について実施するのは難しいので、まずは超高額な7品目の医薬品についてのみ試験的に行い、次の薬価改定時の参考にすると厚生労働省が発表しています。
オプジーボは3500万円/年で生存期間を3か月延長できる薬で、ハーボニーは1回約500万円でほぼ100%治せる薬です。
コストパフォーマンスに見合った治療なのかどうかは、とても気になりますよね。

諸外国での実情

低所得者を除いて民間の医療保険しかないアメリカでは、薬の費用対効果は当然実施しています。
むしろそれをやりすぎているのか、加入している医療保険によっては希望の治療を受けることができないなんてケースもあります。

アメリカ以外には、イギリス・ドイツ・フランス・オーストラリアで薬の費用対効果による評価が行われています。
多くは、薬を服用することによって「生活の質」と「生存年数」がどれだけ変化したかを評価する手法が用いられています。
QALYs(クォーリー)という指標を使って、薬の効果を数値化したものです。

日本でもこの指標を使用して費用対効果を算出するとのことです。
とはいってもQALYsを使う手法が確立されているわけではなく、各国でも手探りで行っている部分もあるようです。
費用対効果を算出する手法が未確定ではあるものの、何もしないのでは医療費が高額になっている現状を変えることは困難になります。
日本は世界一の高年齢化社会ですから、悠長なことを言っていられません。とにかく医療費を少しでも抑えられる可能性があるものは試す必要があります。

費用対効果を算出するデメリット

上記の諸外国ではすでに始まっていますが、費用対効果が低い場合は保険適用から外すこともあって、使用できる患者が激減し製薬会社の収益に影響します。
そうすると研究開発力の低下につながり、革新的な医薬品が世に出にくくなる可能性があります。

また、「希少疾病用医薬品(オーファンドラッグ)」と呼ばれる患者数が少なく使用できる対象が5万人未満の薬は、国からの支援があるものの製薬企業は採算度外視で研究開発・販売をします。
希少疾病のみならず多くの病気で特効薬はなく、費用対効果の算出が進み過ぎると製薬会社は採算の見合わない薬の研究開発をやめてしまい、逆に私たちの首を絞めてしまう可能性があります。
医療費を適正化するための一つとして医薬品の費用対効果の算出が効果的なのは分かりますが、やりすぎないようにしてもらいたいものです。

まとめ

高年齢化が進む中で医療費が年々増加しています。
医療の発展と共に効果が高く安全な薬が世に出て治療の成果が上がっている一方で、それらの薬は既存の薬に比較して高額になっていることが多いのが現状です。
日本の医療に対する姿勢として、有効性と安全性が優先され費用についてはあまり考慮されていませんでした。
ところが最近では超高額な薬が発売されたことで薬の費用が注目され、諸外国ではすでに始まっている費用対効果による評価が試験的に始まりました。
結果は2018年の薬価改定の時です。
生活に直接関わってくる問題であるだけに、どういう結果になるのか注目するべきではないでしょうか。

参考文献