登場人物

★ゆきさん
雪原 匠(ゆきはら たくみ) 49歳 男性
ゆきさん薬局の薬剤師
優しくて、おだやかな性格

★山田 孝雄
山田 孝雄(やまだ たかお) 61歳
最近やっと薬をきちんと飲むようになった患者さん
高血圧症

血圧は、なぜ下げなければいけないの?

いつものように山田さんが、ニコニコしながら、ゆきさん薬局に入ってこられました。
山田さんはゆきさんよりも年上ですが、きちんと薬を飲んでいないのでよくゆきさんに怒られます。
それで、入ってくるときは少しばつが悪そうに、照れくさそうに入ってくるのです。

ゆきさんは、受け取った処方箋を見ながら話し始めました。
「山田さん、薬増えちゃったじゃないですか」

山田さん
「いや、血圧が普段なら140ちょっとだったんだけど、今日は150まで上がっちゃって、薬が1種類増えてしまったよ」

ゆきさん、少し残念そうに話しました。
「ここのところ、心を入れ替えてきちんと薬を飲んでいたのにねえ」

山田さん、まじめな顔で、答えました。
「いや、そうなんだよ。ゆきさんに言われて、少しはきちんと飲んでいたんだけど、ここのところ忙しくて病院に行けなくて、2週間薬を飲まなかったら上がってしまって。まあ、飲んでいても140代で少し高めだったんだけどね」

ゆきさん、薬を利用する意義、意味をお話しすれば、今後もきちんと薬を飲んでもらえると考え、次のような質問をしました。
「そうですね、もともと少し高かったので、薬が増えるのは仕方ないところです。ところで山田さん、何で血圧が高いと良くないか知っていますか?」

山田さん
「いろんな病気になりやすくなるからでしょ」

ゆきさん
「結果的にそうなるんですが、血圧が上がることによって何が起きるか説明しますね。よく血管をゴムホースに例えてお話をするんですが、ゴムホースにいつもめいっぱいの圧力をかけて水を流していると、ゴムホースが耐え切れなくなって、破裂しそうになるでしょ。血管も同様にいつも圧がかかった状態になると、血管が破裂して心筋梗塞や脳梗塞を起こす確率が上がるんです」
山田さん
「そうは言っても、自覚症状が無いから、薬を飲む気にならないんだよね」

ゆきさん
「そう、自覚症状が無いから、高血圧のことをサイレントキラーと言うんです。でも放置していると怖いんですよ」

山田さん
「言い訳になるけど、仕事で忙しかったから、なかなか病院に行けなかったんだよね」

ゆきさん
「健康あっての仕事ですよ。私も忘れっぽいので他人のことは言える立場ではないけど、後悔している他人もたくさん見ているので、気をつけてくださいよ」

山田さん、「あー、はい」と答えて、受診出来なかった理由と対処法の相談を始めました。

処方薬は何日分処方してもらえるの?

山田さん
「いつも処方される日数は30日分だけど、本当は何日分処方してもらえるものなの?」

ゆきさん
「処方日数は薬によって違います。危険性の高い薬や新しい薬は14日や30日と決まっていますが、ほとんどの薬は日数制限は無いんです」

山田さん
「じゃー、半年とか1年分でも処方してもらえるの?」

ゆきさん
「理屈では可能です。でも、医師はやみくもに処方しているわけではありません。治療の経過や副作用が起きていないか等、確認しなければいけません。つまり医師が責任のもてる範囲で処方しているのです」

山田さん
「そりゃ、そうだね」

ゆきさん
「例えば、メンタルの薬をもらっている患者さんがいたのですが、その人はすぐに手持ちにある薬を全て飲んでしまうんです。不安だと感じると手元にある薬をどんどん飲むんですね。その方には1週間ずつ処方してもらっていました。自殺願望もあったので、参りましたよ」

山田さん
「それは、危険だね」
「結局、その患者さんは入院されました」と、ゆきさんが答えました。
「他にもこんな例があります。頻尿の薬が認知症の患者さんに処方されていたのですが、その患者さんは1か月分ずつ処方されているのに、2週間ごとに薬を取りに来るのですね。受診して処方してもらっていること、薬をもらっていることを忘れるし、薬も無くしてしまうのです。この方はご家族と来てもらうようにしてもらいました。病状が安定しているからと言って、1回に3か月分処方していたら、飲みすぎたりして大変なことになっていたでしょう」

山田さん
「僕のは、ずっと同じ血圧の薬だけから、そんなに問題が無いんじゃない?認知症も無いつもりだし」と笑いながら話しました。

ゆきさん
「残念ながら、そんな事は無いんですよ。同じ薬をずっと飲んでいても肝機能脳数値が悪くなることもあります。血液検査をしないとわからないことも多いのですが、顔色を見ているだけでもわかることは、結構多いんです。肝臓が悪くなると、顔の肌の色が変わったり、ごつごつしたりしてきますから。親しくしている医師と食事をしているとき、『最近の若い医師は検査結果に頼ることが多いが、ある程度顔色を診てわからないとだめだよ』と話していました。処方箋をもらうだけで検査をしていなくても、顔色を診て判断してくれる医師や薬剤師にめぐりあえるとよいですよね」

山田さん
「ふーん」

ゆきさん
「山田さんのかかりつけ医の花田先生は、高齢者や認知症の患者さんは2週間、中高年で病状が安定していて認知症で無い人には30日と決めているようです。まあ、私も医師だったらそれぐらいだろうなと思います」

困ったら、気軽に相談してくれれば良かったのに!

山田さん
「そうかあ、1か月分しかもらえないのは仕方が無いのか。いや今回の場合ね、薬をもらった後、薬が終わる頃での出張が入って、受診できなくなったんだよ。次の受診は、薬が終わる頃にしないといけないんでしょ?」

ゆきさん
「あら、山田さん以外とまじめなんだね!」と話しながら「そんなこと医師や私に素直に相談してくれれば良かったのに」と応えました。

山田さん
「えー、そうなの?」

ゆきさん
「そうですよ。今の世の中、みんな色んな都合があって忙しいのだから、全て予定通り動ける人なんていませんよ」

「そりゃ、そうだね」と山田さん照れくさそうに笑っていました。

ゆきさん
「医療費はご存知のように、自己負担と保険からの支払でまかなっています。はっきりはわかりませんが、保険者(社会保険や国民健康保険等支払う方)は大体3ヶ月から6ヶ月で適正に薬が処方されているか確認しているようです。3ヶ月の間に4か月分も出ていたら、おかしいなということになるんです。しかし、そのつじつまが合えば、正々堂々と薬をもらうことは出来ます。予め出張がわかっていれば、1ヶ月を超えて処方してもらうことも可能ですし、薬が無くなる頃でなくても、追加の処方箋をもらう事は可能です」

山田さん「そうかあ、薬を切らすことなくもらえたんだ。勝手に判断しちゃだめだね」

「せっかくここに良い薬剤師がいるんだから、自己判断せず、上手に利用してくれなきゃ!」と肩をすくめて応えるゆきさんでした。

※ゆきさん薬局の物語に登場する人物は、フィクションです