1.カンピロバクター食中毒とは?

食中毒(感染性胃腸炎)の原因となる代表的な菌としては、カンピロバクター、サルモネラ、腸管病原性大腸菌、腸炎ビブリオなどがあります。中でも、近年、カンピロバクターの発生件数が最も多く、年間事件数300件、患者数2000人程度で推移しています※。

※参考 カンピロバクター食中毒予防について 厚生労働省
 

1-1. カンピロバクター食中毒の原因

カンピロバクターは、鶏、豚、牛などの家畜や犬や猫などのペット、野生動物など多くの動物が保有している菌です。
実は、カンピロバクターとひとくちにいっても、さらにカンピロバクター・ジェジュニ、カンピロバクター・コリなどの様々な種類があります。
食中毒の原因は、これらのカンピロバクター属の細菌によって引き起こされます。最も多いの原因は、カンピロバクター・ジェジュニです。

 

菌に汚染された生の鶏肉(刺レバー、刺身など)や、少し加熱を加えた鶏肉(タタキやとりわさなど)、加熱が不十分の調理品を食べることや飲料水で感染するケースが報告されています。特に、鶏肉に関連した発生件数が多くみられます。

1-2. カンピロバクター食中毒の症状と期間

カンピロバクターの潜伏期間(感染から症状が出るまでの期間)は、約2日~11日と長めなのが特徴で、原因となる食べ物が思い出せない頃に発症するケースもあります。
症状としては、次のようなものがあります。

 

発熱
下痢(水様便、血便など)
腹痛
倦怠感
悪心・嘔吐 など

 

発熱の症状が先に出て、後から下痢の症状が出るケースや、発熱などを伴わず、下痢症状のみ出るケースもあります。
多くの場合は、予後良好で、1週間ほどで治癒していきます。命に関わるケースは稀ですが、小さなお子さん、ご高齢の方、その他、抵抗力が弱っている方他の場合には、重症化する危険もあるため、注意が必要です。

 

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ギラン・バレー症候群(GBS)について


カンピロバクターに感染したことが引き金となって起こり得る病気として、ギラン・バレー症候群があります。(1993年3月~1998年2月までに行われたアンケート調査によると、国内でのギラン・バレー症候群の発症率は、人口10万人に対して、1.15人と推定されています。)
カンピロバクターに感染後、数週間を経て末梢神経に障害を生じるギラン・バレー症候群が発症するケースが稀にあります。初期症状としては、手足のしびれや脱力感を発症し、手足の力が入らなくなってきます。症状がひどい場合には、手足が麻痺したり、呼吸をつかさどる筋肉が麻痺すると人工呼吸管理が必要となることもあります。
一般的には、1ヶ月以内に症状のピークを迎えると、徐々に症状は回復に向かっていきます。重症の場合には回復までに時間がかかることや、何らかの障害を残す方が1年後に約2割といわれているため、非常に注意すべき疾患となりますです。

※参考:ギランバレー症候群、フィッシャー症候群診療ガイドライン2013

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1-3. カンピロバクター食中毒の予防方法

家庭や身近なところでできる予防方法としては次のようなことがあります。

 

・生肉や十分に加熱されていない鶏肉を食べない・食べさせない
・生肉は十分に加熱調理(中心部を75度以上で1分間以上加熱)を行う
・生肉は、他の食品と調理器具や容器を分けて管理する
・生肉を取り扱った場合には、十分に手洗いしてから他の食品を取り扱う

 

特に、外食時やBBQなどの屋外イベント時には、加熱が十分に行われているか判断がしづらくなるため、慎重になる必要があります。

 

2.カンピロバクター食中毒に用いられるお薬

2-1. 対症療法(症状に合わせて薬を処方)

カンピロバクターによる食中毒の疑いがあると診断された場合でも、基本的に、特効薬というものはなく、対症療法(症状に合わせた治療)を行いながら、安静にし、自然治癒させていくことが基本です。そのため、症状を和らげるために、頓服の解熱剤や、ビオフェルミンなどの整腸剤、吐き気止めなどが処方される程度です。

 

<解熱剤>
高熱になった場合に備えて、解熱剤が処方されることがあります。
小さなお子さんの場合は、坐薬で処方されることも多くあります。子どもの場合は、もともとの体温が高いこともあり、多少熱が高くても、本人の顔色が良さそうであれば、特に服用する必要はありません。

 

・カロナール(成分名:アセトアミノフェン)
・ロキソニン(成分名:ロキソプロフェン)
・アンヒバ、アルピニー(成分名:アセトアミノフェン) など

 

<整腸剤>
善玉菌を摂取し、腸内細菌の環境を整えることによって、お腹の不調を和らげ、下痢症状を和らげる効果を期待できます。
もともとヒトの腸内に住んでいる腸内細菌がお薬になっているため、安全性は高く、副作用の心配はほとんどありません。

 

・ビオフェルミン錠剤(成分名:ビフィズス菌)
・ビオフェルミン散(成分名:ラクトミン、糖化菌)
・ミヤBM細粒/錠(成分名:酪酸菌) など

 

<吐き気止め>
嘔吐を繰り返し、脱水症状の危険がある場合には、医師の指示のもと、吐き気止めが処方されることがあります。子どもの場合は、飲み薬だと一緒に吐いてしまうこともあり、坐薬で処方されることも多くあります。

 

・ナウゼリン(成分名:ドンペリドン)
・プリンペラン(成分名:メトクロプラミド) など

2-2 抗生物質は?

一般的には、抗生物質は処方されず、対症療法のみで治療が行われます。しかし、症状が重症化している場合や、患者さんの背景(持病の有無や年齢、体力など)によって、医師が判断し、抗生物質が処方されるケースもあります。
その場合は、マクロライド系と呼ばれるタイプの抗生物質が第一選択として処方されます。

 

<マクロライド系抗生物質>
・クラリス、クラリシッド(成分名:クラリスロマイシン)
・エリスロマイシン(成分名:エリスロマイシン)
・ジスロマック(成分名:アジスロマイシン)

 

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下痢止めのお薬について:


下痢症状がみられる場合でも、病院で下痢止めが処方されるケースはあまりありません。早く症状を改善させるためには、本来の体の防御反応である、「菌を体外に排出する」ことが重要になります。そのため、むやみに下痢止めを服用すると、排便が進まず、治りが遅くなってしまう可能性があります。
自己判断で、市販薬なども含み、下痢止めを服用するのは避けるようにしましょう。
但し、医師の判断・指示によって、下痢止めが処方された場合には、その指示に従うようにしましょう。

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3.食中毒になったら注意すべき脱水症状

カンピロバクターによる食中毒では、激しい下痢や嘔吐などの症状が数日続く場合があります。その場合に、特に注意が必要となるのが「脱水症状」です。食欲が落ち、何も口にできない場合には、そのリスクが高まり、病院で点滴により、水分・栄養の補給をしてもらう必要が出てきます。
特に、体の水分量を調節する機能が未熟な小さなお子さんや、体の水分量が少ないご高齢の方の場合、脱水症状を起こしやすいといわれています。

 

しばらく飲食がとれず、次のような症状がみられる場合には、すぐに医療機関を受診するようにしましょう。

・おしっこが少ない・出ていない
・くちびるが乾いている
・顔色が悪い
・ぐったりしている

 

脱水症状にならないためには、水分を意識して頻繁に摂取することに加えて、十分な電解質(ミネラル)の補給を行うことが大切です。
スポーツドリンクで補給することもできますが、より十分な電解質を補給するためには、市販で購入可能な、オーエスワンなどの「経口補水液」をおすすめします。

 

・OS-1(オーエスワン) / 大塚製薬
・明治アクアサポート / 明治
・Newからだ浸透補水液 / アリナミン製薬
・アクアライトORS / 和光堂  など

 

4.おわりに

今回は、カンピロバクター食中毒の基本的な知識を解説するとともに、治療に用いられるお薬や、脱水症状など注意すべきことをお伝え致しました。


カンピロバクター食中毒の治療は、基本的には対症療法で、しっかりと休養し治癒させることが大切です。飲食がとれず、下痢症状が続くと脱水症状の危険があるため、意識的に摂取するようにしましょう。


食中毒の症状がみられる場合には、はやめに医療機関を受診し、適切な処置を受けるようにしましょう。また、しばらくたっても症状が治まらない場合や、今までと違うような気になる症状が出た場合には、重症化している可能性がありますので、早急に医療機関を受診するようにしましょう。

 

参考:
JAID/JSC 感染症治療ガイドライン2015 腸管感染症
カンピロバクター感染症とは NIID国立感染症研究所