1.そもそも前立腺肥大とは

男性には、膀胱の下に尿道を取り囲むように「前立腺」という器官があります。前立腺は、精液の一部となる前立腺液を分泌して、精子へ栄養を与えたり、保護したりする働きがあることがわかっています。さらに、射精のために精子が尿道へ移動する運動を助けます。

 

この前立腺が肥大してしまう状態を「前立腺肥大」といいます。

前立腺肥大になると、尿道を圧迫してしまうため、尿道が狭くなり、排尿しづらくなります。すっきり排尿できないと、排尿回数が増え、力まないと排尿できなかったり、排尿するまでに時間がかかったりするようになります。

症状が進んでくると、排尿後も尿が膀胱に残った状態になり、お漏らしをしてしまったり、腎機能が低下してしまったりもします。

 

前立腺が肥大する原因は、未だ明確にはなっていませんが、前立腺の働きには、男性ホルモンが関与しており、前立腺肥大にも男性ホルモンが関与していると考えられています。

 

前立腺の肥大により、尿道の前立腺に取り囲まれている部分が圧迫され、尿が出にくくなっている状態を改善する治療薬としては、前立腺を小さくしたり、尿道を拡げる作用のある薬が有効となります。

2-1. α1アドレナリン受容体遮断薬

代表的なお薬:ハルナール(タムスロシン)、ユリーフ(シロドシン)、フリバス(ナフトピジル)

 

特徴:

前立腺肥大による排尿障害の改善の第一選択として推奨されているのが、α1アドレナリン受容体遮断薬です。

排尿に関わる神経に交感神経が刺激されると、前立腺や尿道の筋肉が緊張し、尿道が狭くなります。α1アドレナリン受容体遮断薬は、その交感神経のα1受容体を遮断して、交感神経の刺激を抑え、尿道をゆるめ、尿を出やすくします。

主に内服開始後1週間ほどで改善効果がみられます。

 

副作用と注意点:

α1受容体は血管にもあるため、α1受容体遮断薬の作用により、血管が拡がり、急激に血圧が低下し、めまいや立ちくらみを起こす場合があります。しかし、前立腺肥大による排尿障害に使用されるハルナールやユリーフ、フリバスは、前立腺や尿道の筋肉にあるα1受容体への選択性が高いため、比較的めまい、立ちくらみの副作用は少なくなっています。

 

α1アドレナリン受容体遮断薬の中でも、「ユリーフ」は、射精障害(精液が少ない、精液が逆流する)の副作用を起こす頻度が高いです。

α1受容体をより詳細にタイプ分けすると、α1A受容体とα1D受容体があります。ユリーフは、α1A受容体を選択的にブロックします。精嚢や精管にあるα1受容体のタイプがα1A受容体であるため、精嚢や精管の機能が低下し、射精障害の副作用を起こしやすくなるのです。

 

2-2. PDE5(ホスホジエステラーゼ5)阻害薬

代表的なお薬:ザルティア(タダラフィル)

 

特徴:

前立腺肥大症の薬として最も新しい薬として、PDE5(ホスホジエステラーゼ5)阻害薬があります。

ホスホジエステラーゼ5とは、前立腺や膀胱、尿道に多く存在して、血管や筋肉を収縮させる働きのある酵素です。ザルティアは、この酵素の働きを阻害することにより、血管を拡げ、筋肉を緩めることで、排尿障害を改善します。

ザルティアの主成分であるタダラフィルは、シアリスという商品名でED(勃起不全)治療薬としても用いられています。

 

副作用と注意点:

血管を拡げる作用があるため、ほてりや動悸、一過性に血圧低下を起こす可能性があるため注意が必要です。

その他、主な副作用としては、消化不良や頭痛、筋肉痛、背部痛などがあります。

 

陰茎内の血流もよくしますので、6時間以上持続する持続勃起が起こる可能性があります。速やかな対処が必要となりますので、4時間以上持続する状態がみられたら、直ちに医師の診察を受けましょう。

 

2-3. 5α還元酵素阻害薬

代表的なお薬:アボルブ(デュタステリド)

 

特徴:

先述のように、前立腺の肥大には、男性ホルモンの働きが影響すると考えられています。

5α還元酵素は、男性ホルモンである「テストステロン」を、より強力な作用のある「ジヒドロテストステロン」に変える働きがあります。アボルブは、この5α還元酵素の働きを阻害するため、男性ホルモンの働きが弱くし、前立腺を小さくする働きに期待できます。

効果が見られるまでに数ヶ月かかります。

アボルブの主成分であるデュタステリドは、ザガーロという商品名でAGA(男性型脱毛症)の治療薬としても用いられています。

 

副作用と注意点:

男性ホルモンの働きを弱めるため、勃起不全や性欲減退といった性機能障害が起こることがあります。しかし、血液中のテストステロン値を低下させることはないため、その発生頻度は比較的少ないと報告されています。

 

また、男性ホルモンの働きが弱くなると相対的に女性ホルモンの働きが強くなり、女性のように乳房が膨らんできて、痛みや不快感を生じる症状がでることがあります。

 

アボルブは、前立腺を小さくするため、前立腺がんの症状を自覚しづらくなり、さらに、前立腺がんの指標となる検査の値(PSA値)も低くしてしまうため、がんの発見が遅れてしまう可能性があります。

 

さらに、アボルブは皮膚からの吸収があります。男性ホルモンの働きを弱めるため、妊婦や子どもがアボルブに触れると、胎児や子どもの成長に異常を起こす可能性があります。妊婦や子どもが薬に触れないように注意が必要です。

 

2-4. 抗アンドロゲン薬

代表的なお薬:プロスタール(酢酸クロルマジノン)など

 

特徴:

抗アンドロゲン(抗男性ホルモン)薬は、精巣でテストステロンが作られるのを抑え、また、血中のテストステロンが前立腺細胞に取り込まれるのも抑えます。その結果男性ホルモンの働きが弱まり、肥大した前立腺が小さくなり、排尿障害が改善されます。

症状の改善効果がみられるまでに時間がかかります。

 

副作用と注意点:

抗アンドロゲン薬は、血液中のテストステロン(男性ホルモン)が低下するため、勃起障害や性欲減退がみられることがあります。

 

前立腺がんの指標となるPSA値を低下させてしまいますので、前立腺がんの発見が遅れてしまう可能性がありますので注意が必要です。

 

2-5. 植物製剤

代表的なお薬:エビプロスタット、セルニルトン

 

特徴:

前立腺の炎症を抑える場合や、症状の緩和に使用されます。α1アドレナリン受容体遮断薬と一緒に使用されることが多いです。

 

副作用と注意点:

植物製剤は、効果が穏やかである分、副作用も少ないです。

 

 

2-6. 漢方薬

代表的なお薬:八味地黄丸、牛車腎気丸など

 

特徴:

前立腺肥大による症状の緩和に使用されます。

漢方薬は、症状と個人の体質に合ったものを選ぶことが大切です。

 

副作用と注意点:

漢方薬は、体質に合っていれば副作用も起こしにくいとはいわれていますが、全く副作用がないというわけではありません。

他の薬との併用を希望する場合は、主治医とよく相談しましょう。

 

3.前立腺治療中に注意したい他のお薬との飲み合わせ

抗コリン、抗ヒスタミン薬が主な禁忌薬として知られています。

 

他に、風邪薬や抗精神病薬にも、同様に飲み合わせの悪い成分が包含されていることがあります。持病があるなど、他の処方薬を服用している場合には注意が必要です。前立腺肥大の治療薬を処方された際、きちんと禁忌薬に関しての説明を受けることが大切です。

 

4.まとめ

ここでは、前立腺肥大について説明するとともに、前立腺肥大の治療に用いられる、主に6つの種類のお薬の特徴や副作用について解説しました。

 

前立腺肥大の治療に用いられるお薬は、長期間継続して服用する必要があります。それぞれの薬の特徴や副作用を理解し、気になる症状が現れた場合は、早期に主治医に相談して、薬と上手く付き合っていきましょう。

 

参考

 前立腺肥大症 診療ガイドライン(日本泌尿器科学会)

 ハルナールインタビューフォーム

 ユリーフインタビューフォーム

 フリバスインタビューフォーム

 ザルティアインタビューフォーム

 アボルブインタビューフォーム

 プロスタールインタビューフォーム

 治療薬マニュアル  など