1.結核ってどんな病気?

結核とは、結核菌によって引き起こされる感染症全般を指します。

一般的に肺結核のイメージが強いかと思いますが、肺以外にも腎臓や骨、脳などに感染してしまうこともあります。今回の記事では結核=肺結核としてまとめていこうと思います。

(肺)結核の初期症状は咳、痰、発熱など、風邪と似た症状です。結核菌が肺の中の組織を破壊していくことで、呼吸機能が低下し、組織からの出血により血痰や喀血といった症状が現れます。そのまま進行していくことで、全身が衰弱し、死亡してしまいます。

結核が進行し、気管支を通じて結核菌が呼吸や痰から排出される状態を活動性結核と言います。活動性結核になってしまうと人から人への感染を防ぐために、隔離しなければいけません。結核が悪化・蔓延するのを防ぐためには早期発見が大切です。4~8週間以上長引く咳がある場合には、病院を受診しましょう。

2.結核菌と耐性菌

結核は抗結核薬の投与によって治療されます。

ここで注意しなければいけないのは、薬物投与後も生き残った結核菌の一部が耐性を獲得してしまうということです。耐性を獲得した結核菌にはその薬が効かなくなってしまうので、耐性を持った結核菌が生き残ることのないように、複数の薬剤を組み合わせて治療を行います。一つの薬に耐性を獲得したとしても、その菌が増える前に別の薬で倒すことで耐性菌が生き残ってしまうのを防ぐためです。

例えば、

薬A:生き残って耐性を獲得する結核菌は全体の1%
薬B:生き残って耐性を獲得する結核菌は全体の2%

とした場合、単独で使用すればそれぞれ1%、2%の耐性菌が生き残ってしまいます。

ですが、AとBを組み合わせて使用した場合はどうでしょう?

この場合、両方に同時に耐性を獲得しない限り耐性菌は生き残ることができません。単純に考えると、1%×2%=0.2%となり、耐性菌の出現する確率が大きく低くなることがわかると思います。そのため、結核菌治療には複数の薬剤を同時に組み合わせて行います。(実際にはもっと複雑な話ですが、例え話として単純に表現しています)

3.代表的な抗結核薬

結核を治療するために様々な抗結核薬が開発されてきました。現在、一般的に使用される代表的な薬物は以下の5種類です。

 

 ・リファンピシン(RFP)

 ・イソニアジド(INH)

 ・ピラジナビド(PZA)

 ・エタンブトール(EB)

 ・ストレプトマイシン(SM)

 

この中でも、RFP、INHは、強力な抗結核菌作用を持つため、治療に必須の第一選択薬(疾患に対して最初に投与すべき治療薬のこと)とされています。

4.抗結核薬による治療方法

結核治療は複数の薬剤を組み合わせて使用します。
現在、標準的な治療として行われているものには大きく分けて2種類あり、A法、B法と呼ばれています。

 

【A法】RFP+INH+PZA+EB(もしくはSM)の4剤併用を2ヶ月間

     → その後、RFP+INHの2剤併用を4カ月間(合計6ヶ月間)

【B法】RFP+INH+EB(もしくはSM)の3剤併用を2ヶ月間

     → その後、RFP+INHの2剤併用を7ヶ月間(合計9ヶ月間)

 

基本的にはA法による治療が行われますが、副作用等のリスクによってPZAを使用できない場合や高齢者にはB法が用いられます1)

5.抗結核薬それぞれの特徴

ここからはそれぞれの抗結核薬の特徴についてまとめていきます。

①リファンピシン(RFP)

 ・アプテシン®カプセル

 ・リファジン®カプセル など

通常、「リファンピシンとして1回450mg(力価)(3カプセル)を1日1回」「原則として朝食前空腹時」服用します。これは、食事により血中濃度の低下が見られるという報告2)3)4)があるためです。ですが、食後に飲んでも血中濃度には大きな差はないという報告5)もあること、また、食後に飲むことで胃の負担を軽減させたり、飲み忘れを防ぐために他の薬と一緒に飲むようにした方が良いという考え6)から、実際には他の薬と一緒に食後に服用することが多くなっています。

リファンピシンの注意点

リファンピシンを服用していると、尿や便、唾液、痰、汗、涙液等が橙赤色等に着色します。これは、リファンピシンとその代謝物が体液等を介して排出されるためです。ソフトコンタクトレンズが変色してしまうこともあるので注意が必要です。

また、リファンピシンは他の薬との相互作用(飲み合わせ)が多いことが知られています。これは、リファンピシンが人の体の中に存在する様々な薬物の吸収・代謝・排泄に関与する酵素やたんぱく質に影響を与えるためです。今回は、特に影響が大きいとされている薬(併用禁忌)をまとめます。ちなみに、以下の薬はグラゾプレビル水和物を除いて、全てリファンピシンと一緒に飲むことで効果が下がるといわれている薬です。

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リファンピシンと一緒に飲むと効果が下がる薬

肺高血圧症治療薬:

 ・タダラフィル(アドシルカ®錠)

 ・マシテンタン (オプスミット®錠)

抗血小板剤:チカグレロル (ブリリンタ®錠)

抗真菌薬:ボリコナゾール(ブイフェンド®錠/ドライシロップ/静注用)

 

HIV治療薬:

 ・インジナビル硫酸塩エタノール付加物(クリキシバン®カプセル)
 ・サキナビルメシル酸塩(インビラーゼ®カプセル/錠)

 ・ネルフィナビルメシル酸塩(ビラセプト®錠)

 ・ホスアンプレナビルカルシウム水和物(レクシヴァ®錠)

 ・アタザナビル硫酸塩(レイアタッツ®カプセル)

 ・リルピビリン塩酸塩(エジュラント®錠、コムプレラ®配合錠)

 ・エルビテグラビル/コビシスタット含有製剤(スタリビルド®配合錠)

 

C型肝炎治療薬:

 ・テラプレビル(テラビック®錠)

 ・シメプレビルナトリウム(ソブリアード®カプセル)

 ・ダクラタスビル塩酸塩(ダクルインザ®錠)

 ・アスナプレビル(スンベプラ®カプセル)

 ・バニプレビル(バニヘップ®カプセル)

 ・ソホスブビル (ソバルディ®錠)

 ・レジパスビル アセトン付加物・ソホスブビル (ハーボニー®配合錠)

 ・オムビタスビル水和物/パリタプレビル水和物/リトナビル (ヴィキラックス®配合錠)

 ・エルバスビル (エレルサ®錠)

 ・グラゾプレビル水和物 (グラジナ®錠)

   ※グラゾプレビル水和物は併用初期に血中濃度上昇→併用継続で血中濃度低下

 ・ダクラタスビル塩酸塩/アスナプレビル/ベクラブビル塩酸塩(ジメンシー®配合錠)

 

吸虫駆除剤:プラジカンテル(ビルトリシド®錠)7)8)

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②イソニアジド(INH)

 ・イスコチン®錠/原末/注

通常、「イソニアジドとして1日量200~500mg(4~10mg/kg)〈2~5錠〉を1~3回に分けて、毎日又は週2日」服用します。9)

イソニアジドの注意点

イソニアジドは体内のビタミンB6を不足させる性質を持っています。ビタミンB6が不足することで神経の働きに影響し、手足の痺れ等(神経障害)を引き起こしてしまう可能性があります。そこで、ビタミンB6由来の化合物であるピリドキサールリン酸エステル(ピドキサール®)を併用して副作用を予防します。ただし、しっかり食事が摂れている人は必要ないという意見もあります。

③ピラジナミド(PZA)

 ・ピラマイド®原末

通常、「ピラジナミドとして、1日量1.5~2.0gを1~3回に分けて」服用します。錠剤やカプセルは作られておらず、粉薬のみが存在します。10)

ピラジナミドの注意点

ラジナミドで問題になるのが肝障害の副作用です。発現頻度が多く、死亡例も存在することから使用しにくい薬剤と考えられていましたが、抗結核作用が優れているため、初期強化治療に重要です。すでに肝臓に疾患を持っている人などはピラジナミドの服用を避け、B法による治療が選択されます。

④エタンブトール(EB)

 ・エサンブトール®錠

 ・エブトール®錠

通常、「エタンブトール塩酸塩として1日量0.75~1gを1~2回に分けて」服用します。

単独での抗結核作用は強くはありませんが、他の抗結核薬と組み合わせて服用することで効果を発揮します。11)12)

エタンブトールの注意点

エタンブトールの特徴的な副作用として、視力障害(視力低下、中心暗点、視野狭窄、色覚異常等)が知られています。この視力障害は発症初期であれば回復可能と言われているので、服用開始前〜服用中は定期的に視力検査を行い、視力障害が発生していないかのチェックを行います。

⑤ストレプトマイシン(SM)

 ・硫酸ストレプトマイシン注射用1g「明治」

消化管からの吸収が良くないので飲み薬では使用できず、注射のみが存在します。

通常、「ストレプトマイシンとして1日1g(力価)を筋肉内注射する。週2~3日、あるいははじめの1~3ヵ月は毎日、その後週2日投与する。また必要に応じて局所に投与する。」

エタンブトールと同様に、単独での抗結核作用は強くはありませんが、他の抗結核薬と組み合わせて服用することで効果を発揮します。13)

ストレプトマイシンの注意点

第8脳神経障害と言って、耳鳴りやめまい、難聴等の症状が現れることがあります。早期に発見して症状の悪化を防ぐために、服用中は定期的に聴力検査を行います。

6.危険な多剤耐性結核菌とは?

近年、抗結核薬に対して耐性を獲得した結核菌が発見され問題になっています。中でも、第一選択である抗結核薬であるリファンピシンとイソニアジドに対して耐性を獲得してしまった結核菌を多剤耐性結核菌と呼んでいます。

 

主要な薬剤による治療が行えないため、外科的手術が必要になるケースもあり、それでも通常の結核と比較して、治療できる可能性はかなり低くなります。さらに、多剤耐性結核菌に効果を発揮できる他の抗結核薬に対する耐性までを獲得した超多剤耐性結核菌と呼ばれるものも現れています。

 

そんな中、多剤耐性結核菌用の薬剤も開発されています。デルティバ®錠(成分:デラマニド)は多剤耐性肺結核に対する適応のみを取得した新薬(2014年に承認)です。

 

不整脈や不眠、頭痛などの副作用はありますが、多剤耐性結核菌に対する切り札の一つとなっています。この薬剤に耐性を持った結核菌が蔓延してしまうと大変なので、使用について様々な制限が決められています。

7.まとめ

今回は抗結核薬についてまとめていました。恐ろしい病気だとは知っていても既に過去の病とイメージしている人が多いのではないでしょうか?

 

ですが、結核は決して過去の病気ではなく、現在でも罹患する可能性のある病気です。しっかりとした管理のもとで治療を行わないと治癒しないばかりか、耐性を獲得してしまい治療不可能となってしまう結核菌。そのため、副作用等のリスクはありますが、複数の薬剤を組み合わせ、長期間にわたって治療を行うようになっています。また、耐性菌が生まれ、それが他人に感染していくことで、薬物による治療ができない感染症の蔓延につながってしまう可能性があります。

 

結核の薬物治療について知り、耐性菌が蔓延しないように心がけることが大切です。

8.参考文献

1)日本結核病学会教育委員会:結核症の基礎知識(改訂第4版).kekkaku Vol.89,No.4:521〜545,2014
2) Riess WSymp Rimactane:1968;36-44
3) 甲斐敬次郎 他: 医薬ジャーナル:1986;22(1) 113-117
4) 西村冨啓 他: 日本臨床薬理学会総会(第24回,2003)
5) 束村道雄 他: 結核:1972;47(4) 69-73
6) 青木正和医師・看護職のための結核病学:4治療2結核化学療法の原則と実際((財)結核予防会/平成21年度改訂版):2009;1-27
7)アプテシンカプセル 添付文書 科研製薬株式会社
8)リファジンカプセル 添付文書 第一三共株式会社
9)イスコチン原末/イスコチン錠 添付文書 第一三共株式会社
10)ピラマイド原末 添付文書 第一三共株式会社
11)エサンブトール錠 添付文書 サンド株式会社
12)エブトール錠 添付文書 科研製薬株式会社
13)硫酸ストレプトマイシン注射用1g「明治」 添付文書 Meiji Seika ファルマ株式会社