1.ボルタレンとロキソニンはどこが違う?
1-1. 成分の違い
ボルタレンはジクロフェナクナトリウム、ロキソニンにはロキソプロフェンナトリウムという成分が入っています。
両薬剤は名前も化学構造式も異なりますが、どちらも抗炎症薬です。
因みに、炎症を抑える薬として、非常に有名なステロイド剤(副腎皮質ホルモン)があります。
ボルタレンやロキソニンも抗炎症作用を持っていますが、ステロイド剤ではないため、「非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)」と呼ばれています。
炎症を抑えるだけでなく、熱を下げ、痛みを抑える働きもあります。
非ステロイド抗炎薬は、さらに化学構造式ごとに細かく分類されます。ボルタレンとロキソニンは化学構造式が異なるため、分類されるグループが異なります。
ボルタレン:フェニル酢酸系
ロキソニン:プロピオン酸系
この両薬剤の異なる化学構造式はそのまま、効果の強さとか即効性などの違いに影響してきます。
1-2. 即効性、持続性などの違い
それぞれの添付文書を参考にしています。
但し、効き出す時間とか持続時間などは個体差(肝臓、腎臓などの状態)の影響を受けやすいため、それらの時間は表示していません。
とはいえ、最高血中濃度や半減期などからおおよその時間の推定は可能で、これらの数字はその薬の設計に重要な資料の一つとなっています。
①即効性
薬剤の濃度が最高血中濃度に達するまでの時間がロキソニンの方がボルタレンよりも短いので、即効性はロキソニンの方があります。
②持続性
体内に入った薬剤の血中濃度が半分になるまでの時間を「半減期」といいます。半減期が長いほど、薬剤が体内に残っている時間が長いことになるため、持続性がある、持続時間が長いということになります。
ボルタレンとロキソニンの半減期の差がほとんどなく、持続時間はほぼ同程度ということになります。
ただ、両薬剤の添付文書にある投与後の血中濃度の推移のグラフを比較しますと、若干、ボルタレンの方の持続時間が長いように見受けられます。
③効果の強さ
効果の強さも非常に個体差の影響を受けます。同じ薬でもよく効いた人と効かなかった人がいます。
効果の強さは添付文書だけの情報ではわかりにくいものがありますが、医師の治療経験、その他の資料などから、ボルタレンの方の効果が強いようです。
色々ある非ステロイド抗炎症薬の中では、ボルタレンが一番強力な効果をもっているといわれています。
また、後述しますが、ボルタレンの副作用の方が強いという面からも効果が強いと推定することができます。
ただ、最近は製剤技術の進歩もあり、副作用が少なくて効果が良い薬がどんどん、開発されていることも事実です。
では、ボルタレンとロキソニンの副作用について検討してみましょう。両薬剤共、同じような効果を持った薬で副作用も似ているのですか、若干の違いはあります。
1-3. 副作用の違い
ボルタレンとロキソニンの添付文書を比較しますと、全体的な副作用の出現率に違いがみられます。
ボルタレン:総症例35.653件中、副作用例2.794件:7.71%
ロキソニン:総症例13.486件中、副作用例409件:3.03%
上記の数字から見ると、全体的にボルタレンの方の副作用出現率が高くなっています。
色々な副作用の症状がある中で、ボルタレンもロキソニンも消化器障害が一番、多くなっています。
下記を見ますと、消化器障害についてもボルタレンの方が副作用出現率が高くなっています。
ボルタレン:6.63%
ロキソニン:2.25%
1-4. 剤形(薬の形)の違い
ボルタレンもロキソニンも飲み薬だけでなく、貼り薬など多種の剤形が存在しています。
ボルタレン
・飲み薬(ボルタレン錠・ボルタレンSRカプセル)
・貼り薬(ボルタレンテープ:15㎎/30㎎)
・塗り薬(ボルタレンゲル・ボルタレンローション)
・坐薬(ボルタレンサポ:12.5㎎/25㎎/50㎎)
○市販品
ロキソニン
・飲み薬(ロキソニン錠60㎎・ロキソニン細粒10%)
・貼り薬(ロキソニンテープ50㎎/100㎎・ロキソニンパップ100㎎)
・塗り薬(ロキソニンゲル1%)
○市販品
1-5. 価格の違い
ボルタレン錠25㎎ 11.2円(1錠につき)
ボルタレンSR37.5㎎ 16.5円(1カプセルにつき)
ロキソニン錠60㎎ 14.5円(1錠につき)
ロキソニン細粒10% 26.5円(1gにつき)
2.ボルタレンとロキソニンの共通点
2-1. 痛みを抑える作用のメカニズム
炎症が起きようとする部位には、炎症物質であるプロスタグランジン(以後PG)が分泌されます。
ボルタレンもロキソニンもPGができないようにすることで、痛みを抑えたり、熱を下げたりします。
PGはアラキドン酸にシクロオキシゲナーゼという酵素が働き、生成されます。
ボルタレンをはじめとする非ステロイド抗炎症薬はこのシクロオキシゲナーゼの働きを抑えることでPGの生成を抑制⇒炎症を抑えるというメカニズムへと導きます。
ちなみに、どの非ステロイド抗炎症薬も程度の差こそあれ、副作用に胃障害があると、必ず言われます。その理由はPGの生成を抑制するところにあります。
PGは胃酸の分泌を抑制し、胃粘膜を保護する働きを持っています。そのため、非ステロイド抗炎症薬を飲むと、痛みや熱は改善されるかわりにPG減少による胃障害がおきやすくなります。
2-2. 基本的な服用の注意点
・痛み止めの薬はその病気を治すものではなく、発現した症状を抑える薬であることを理解しておきましょう。
・高齢者は生理機能低下があるため、副作用出現を極力、抑えられるよう少量から始めるなどの工夫をしてみます。
・妊娠中や授乳中に飲むのは安全性が確立されていないため、その危険性を上回るほどの有益な結果が得られる場合に限って服用しますが、医師が判断しますので妊婦さんは自己判断では飲まないようにしなければいけません。
(ロキソニン:長期による非ステロイド抗炎症薬は一時的な不妊が認められたという報告があります)
・小児以下は安全性が確立されていないので、飲まないようにしましょう。
特にウイルス性疾患(たとえば、インフルエンザ)の時に服用すると、脳症(たとえば、インフルエンザ脳症)になりやすくなります。飲む飲まないの判断は医師にゆだねます。
ドラッグストアなどで小児用の風邪薬や痛み止めを購入する時は、「アセトアミノフェン」入りの製品を選択しましょう。
2-3. 併用の可否
ボルタレン、ロキソニン、どちらの添付文書にも「他の消炎鎮痛剤との併用は避けることが望ましい」と掲載されています。
従って、ボルタレンとロキソニンの併用はもちろん、それ以外の非ステロイド抗炎症薬との併用もしないようにしましょう。
3.ボルタレンとロキソニンの市販品について
ロキソニンの飲み薬は、医療用と同レベルのものが第一類医薬品(薬剤師の対面販売が義務付けられる)の枠内で購入できます。
一方のボルタレンの飲み薬は一切、市販品はありません。貼り薬はあります。
また、貼り薬などの外用剤においては、ボルタレンとロキソニンの取り扱いは違います。
市販のボルタレンシリーズの貼り薬などの外用剤は第二類医薬品で、ロキソニンSシリーズの外用剤は第二類医薬品です。
4.まとめ
ボルタレンやロキソニンに限らず、飲み薬から貼り薬、塗り薬まで非常に多くの非ステロイド抗炎症薬が市場に出回っています。
便宜性が向上していく分、安全性確保が脅かされています。
特に高齢者、妊娠、授乳中の人に対する使用警告、一般の併用警告は非常に重要なことで、服用上の注意喚起を行うことは薬剤師の責務だと感じています。