1.漢方薬は高血圧治療に効く?
東洋医学の歴史は2千年以上です。
東洋医学の診断法のひとつに指を手首の血管に触れて脈の状態を診る「脈診」が古くからあります。
しかし、血圧計を使って診察室や家庭での血圧を数値として測定することは、東洋医学の歴史からするとずっと最近のことです。
高血圧症(血圧が高い)というものは血圧を測定して診断できるものです。
つまり東洋医学においてはもともと高血圧かどうかを診断するものではありませんし、「正常な数値」という概念もありません。
「血圧の数値が正常より高いから、正常値に下げるために薬を飲む」という発想は西洋医学的なものです。
では、先人たちは血圧が高い人を治療していなかったのか、というとそうでもありません。
血圧計が示す血圧が高いか低いか、ではなくて、
頭のふらつき、頭痛、立ちくらみ、顔面の紅潮、目の充血、耳鳴り、動悸、精神的な緊張や興奮、などの症状から患者の状態を推測します。
これらは血圧の変動が関係しているかもしれない症状です。
そういう症状に対しての治療を行ってきた歴史があります。
最近では、漢方薬でその症状を改善することによって、実際に血圧が安定する効果も認められてきており、 高血圧症に漢方薬が使われることも増えてきています。
2.積極的な降圧が必要な場合は降圧剤(西洋医療)を優先して
漢方薬も高血圧の治療に用いることはできます。
しかし、現在使われている降圧剤と同じくらい確実に血圧が下がります、と言える漢方薬は残念ながらありません。
どの薬をどのくらいの量で服用すれば血圧がどの程度下がるのか、漢方薬でははっきりと示すことができません。
降圧剤の場合は、どの薬を使ったとしてもある程度効果がみられると思いますが、体質に合っていない漢方薬を使った場合は全く効果のないこともあるからです。
血圧を下げることが目的のときは、漢方薬の効果は降圧剤には劣ります。
主な降圧薬には、
血管の筋肉をやわらかくするCa拮抗薬、α遮断薬、β遮断薬、血圧を上げるアンジオテンシンというホルモンを抑えることになるARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)、ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)、尿を出しやすくする利尿薬など様々な種類があり、 それぞれ異なる作用機序があります。
それらの特徴を考慮して患者さんに合った薬が処方されます。
または状態によっては2~3種類を併用して、しっかりと血圧の管理をすることができます。
血圧が高ければ高いほど心筋梗塞や脳卒中のリスクは上がります。
日本人の死因の第2位と第4位は、心疾患と脳血管疾患です。
速やかに血圧を下げる必要のあるときは降圧剤の服用をお勧めします。
3.降圧剤と漢方薬の併用が効果的なワケ
現代では、漢方薬と降圧剤の良い点を両方取り入れることができます。
血圧を下げる効果は、西洋医学的治療(降圧剤)の方が確実です。
降圧剤を使用して、血圧が下がれば、血圧が高いことで起こっていた不快な症状も改善することがあります。
一方、高血圧に伴う自覚症状、降圧剤だけでは改善しない不快な症状の改善には漢方薬が向いています。
漢方薬を使用して、血圧に影響していそうな体質や症状を改善すれば、血圧が上がりにくくなります。
降圧剤→血圧が下がる→高血圧の随伴症状も改善することがある。
漢方薬→自覚症状を改善する→血圧が下がることがある。
つまり降圧剤と漢方薬を適切に選択して組み合わせることで、高血圧とその症状とを同時に治すことができ、
結果、薬の使用量を減らすことも可能となります。
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4.高血圧治療に使われる漢方薬の例
漢方薬を使う場合は、数値を目標にするのではなくて、表れている症状や、血圧を高めてしまう原因(体質)に応じて考えなければいけません。
電圧=電流×電気抵抗であるのと同様に、
血圧は、心拍出量×末梢の血管抵抗で表されます。
心臓の拍出量が増えたり、または、血管内の血液の流れが悪くなっていたりするほど、血圧が上がってきます。
例えば、 塩分の摂り過ぎや腎臓のはたらきが悪くてむくみ、体液量が増えている、
ストレスなどで交感神経が優位となり心臓の収縮が強くなっている、
または、 動脈硬化で血管の壁が厚く硬く(血管内が細く)なっている、
血液がサラサラではなく、ドロドロ血になっているなど様々考えられます。
黄連解毒湯 (おうれんげどくとう)
または、三黄瀉心湯( さんおうしゃしんとう)
いずれも清熱剤と言われる漢方薬で、炎症を除く作用のみならず、ほてりやのぼせなどの熱症状を冷やしたり、イライラや興奮などを鎮静させたりする効果があります。
緊張や興奮すると顔が赤くなる、頭にカーッと血がのぼる、頭がガンガンと脈打つ、という人に適します。
降圧剤のCa拮抗薬の副作用でほてりや顔面紅潮の出てしまう人に使われることもあります。
便秘傾向のある場合には黄連解毒湯よりも、大黄が配合されている三黄瀉心湯の方が合います。
柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
社会的な立場上、イライラすることがあっても発散することができず、ストレスを内に溜めてしまうことがあります。
柴胡加竜骨牡蛎湯は、苛立ちや、精神不安、動悸などを落ち着かせる効果のある漢方薬です。
主にストレスが原因で血圧が上がっていると思われる場合に適します。
釣藤散(ちょうとうさん)
釣藤鈎(チョウトウコウ)という血管拡張作用のある生薬が配合されます。
動脈硬化の進行が疑われるときによく使われます。
このタイプの方は早朝の血圧が高く、そして血圧が上がるのに伴い慢性的に(特に朝方に)頭重感や耳鳴りが表れやすいと言われています。
七物降下湯(しちもつこうかとう)
これも釣藤鈎が配合された漢方薬です。
高齢で下半身の冷えがあり、貧血ぎみ、のぼせ傾向 があるなどの場合に適します。腎性高血圧にも用いられます。
通導散(つうどうさん)
または 、桃核承気湯(とうかくじょうきとう)
いずれも漢方的に瘀血(おけつ)(=血液の流れの滞り)を治すのに使われる漢方薬です。
血液の流れが悪いために、頭痛やめまい、肩こり等も起こりやすくなります。
降圧剤を服用しても拡張期血圧(下の血圧)だけがなかなか改善しないときに使われることがあります。
桃核承気湯は、便秘傾向でのぼせやイライラの症状がある方に適します。
同じように便秘ぎみで、より瘀血の程度がつよい方に通導散が使われます。
大柴胡湯(だいさいことう)
または、防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)
食生活の乱れやストレスによる過食などが原因で肥満傾向の方は、 体重を減らすことで、血圧が下がってくることがあります。
高血圧症に、肥満、糖尿病、高脂血症などが合併するとさらに動脈硬化が進行します。
食事療法や運動療法も重要です。
肥満や糖尿病を伴う高血圧症の方には、体質改善の目的で、大柴胡湯や防風通聖散が用いられることがあります。
八味地黄丸(はちみじおうがん)
または、牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)
高齢者の高血圧で、夜間頻尿、腰痛などを伴うときに用いられます。
八味地黄丸に、水の偏りを改善する生薬をプラスしたのが牛車腎気丸です。
心不全が起こってきて、下肢などに浮腫がみられるときには牛車腎気丸の方が適します。
※漢方薬に配合される生薬の中に、甘草や麻黄など、摂取量が過剰になると副作用として血圧が上昇するものがあります。
高血圧の方で、すでに漢方薬を常用しており、数種類の漢方薬を併用することになるときには注意が必要かもしれません。
専門家に相談の上、ご使用ください。
5.まとめ
降圧剤の種類は豊富にありますので、それらをしっかり服用すれば血圧はかなりコントロールできるようになっています。
しかし血圧が高くなる原因は、
食事、遺伝、加齢、喫煙、自律神経、気温、不眠、ホルモン分泌の異常、腎疾患、薬の副作用、等々非常に多岐にわたります。
血圧が高くても降圧剤さえ飲んでおけば良い、ということはありません。
単に数値を下げようとするだけでなく、高血圧の原因に応じたそれぞれの対策をとるべきです。
漢方薬の種類も豊富にあります。
一人ひとりの体調や体質に合わせて治療するという点で、漢方薬は優れています。
降圧剤を服用しているけどいま一つ血圧が下がりきらない時、
血圧が高い以外にそれに関連して気になる不調がある時は、
漢方薬の併用を考えてみてはいかがでしょうか?
早めに対策をとっておけば、降圧剤の使用量を減らすこともできるかもしれません。
