早く効く薬って、いったい何?ポイントは吸収!

毎日パソコンに向かって仕事をしていると急に襲ってくる偏頭痛。
集中力もなくなるし、なにより気分が落ち込みます。

カバンから取り出して、ゴクッと頭痛薬を飲む。
頭痛薬を飲んでから痛みがなくなるまでの時間は、普段の何倍にも長く感じますね。

「薬を飲んでから効果がでるまでの時間を、できるだけ短くしたい」

そんな思いで研究者たちは日夜研究を繰り返しました。
その結果、昔と比べて早く効く薬が開発され、みなさんに届けられています。

さて、早く効く薬というのは何が変わったのでしょうか?
薬が効くために重要なのが、食道から体の中に取り込まれる過程です。
体の中に取り込まれるのが早ければ、効果がでるのも早くなりますからね。
薬が体の中に取り込まれることを、吸収とよんでいます。

では、吸収を早くするにはどうしたら良いのでしょう?
答えは水に溶けやすくするんです。
まとめると、水に溶けやすい→吸収が早い→早く効く となります。

早く効く(吸収が早い)薬を作るための3つの方法

今回は早く効く薬を作るために、研究者たちが発見した3つの方法を紹介します。
1つ目は、塩(えん)を作ること
2つ目は、結晶の形を変えること
3つ目は、非晶質を作ること
この3つの方法で、薬はより早く効くようになります。
それでは1つずつ、詳しく説明していきますね。

1.水と仲良くなるために、積極的に手を伸ばそう

最初に塩(えん)を作って水に溶けやすくする方法を説明します。
水に溶けるというのは、水に受け入れてもらうようなものです。
そして水は、いつでも手を伸ばして色々な物質と仲良くしようとしています。

けれども水に溶けにくい薬は、両手をポケットに入れてすました顔をしています。仲良くなろうと手を伸ばしている水を無視して、1人フヨフヨと浮いています。本当は仲良くなりたいのに。

このような薬でも水に手が伸ばせるようにするのが、「塩(えん)を作る」ということです。
例えば、ナトリウムイオンと一緒なら薬はイオンになって水分子と手をつなぐことができます。薬をナトリウムイオンや塩化物イオン、グルコン酸やリンゴ酸とくっつけて塩(えん)を作ると、水の中でイオン化し、水に溶けやすくなるのです。

親水性と疎水性

少し専門的な話をしますね。

水に溶けやすい性質のことを親水性といい、塩化ナトリウム(食塩)やグルコース(砂糖)が含まれるグループです。親水性のグループに含まれるものは、水の中で+や−に帯電(たいでん)する性質を持ちます。

逆に、水に溶けにくい性質のことを疎水性といい、油や多くの化学物質が含まれるグループです。疎水性のグループに含まれるものは、水の中でも帯電しません。

水分子自体も+や−に帯電しますので、+と−で引き寄せあう親水性グループと相性がいいんです。

塩(えん)を作ることで、疎水性の薬を親水性に変えることができます。
先ほど説明した通り、親水性グループと水は相性がいいので、親水性になった薬は水と手を取り合うことができるようになります。

2.水と親しくなるために、外見を変えてみてはどうだろう

次に、結晶の形を変える方法について説明します。
塩(えん)を作ることのできない薬を溶けやすくするために、結晶の形を変えることもあります。

結晶の形を変えるといっても、ダイヤモンドのブリリアントカットをプリンセスカットに変えるのとは違いますよ。ダイヤモンドを炭に変えるくらいの変化をさせます。ダイヤモンドと炭って、同じ炭素分子の結晶で分子の並び方が違うだけだって知っていましたか?

結晶は分子の並び方を変えるだけで、ダイヤモンドと炭くらい大きく変化します。
これを利用して、溶けにくい結晶から溶けにくい結晶へ形を変えるんです。

恥ずかしがり屋で自分から手を伸ばすことができなかった薬が、水に馴染もうと外見から変わっているみたいですね。

見た目が変わるだけで、水との相性も大きく変わります。

3.最後の手段、周りに助けてもらっていつもとは違う自分を演出しよう

塩(えん)も作れない、結晶の形を変えることもできない、こんな頑固な薬もあります。
自分から手を伸ばすことも、外見を変えることもできないときはどうしたら良いでしょうか?

薬の場合、周りの助けを借りてまったく新しい自分に変えてもらいます。
それが非晶質です。非晶質とは、結晶では非(あらず)という字のごとく、上の2つとは違い結晶ではありません。

非晶質は液体です。でも、固体になりかけの液体なんです。
日本物理学会では「動きが凍結した液体」と説明しています。(※1)
※1 ガラスは固体? 液体?
液体を融点以下に冷却していくと,分子がつまっていき, 独立には運動できなくなる.まわりの分子を巻き込んで協 同的に動くようになり,どんどん動きにくくなっていく. これは,満員電車で 1 人が動こうとすると,周囲の人たち もいっしょに動かなければならないのと同じである.この 動きが遅くなった極限がガラスである.
ガラス以外にも身近な物の中に非晶質はたくさんあります。飴やゴムなども非晶質です。
こちらの方が、動きが凍結した液体というのを想像しやすいですね。

水に溶けやすくするため、薬を無理やり非晶質にすることがあります。無理やりっていうところがポイントですよ。ガラスや飴、ゴムのように自然に非晶質になったものは安定しています。

しかし、無理やり非晶質にしたものは、ちょっとした刺激で非晶質から結晶へ戻ってしまいます。

イメージしやすいように、水が一瞬で氷に変わる動画を紹介しますね。

過冷却水の実験(Supercooling Experiment) - YouTube

過冷却状態(約-4℃)の水をゆっくりと注ぐと一瞬で氷になります。 ミネラルウォーター、精製水、水道水の3種で実験しました。
出典: youtu.be
正確には非晶質とは違いますが、ちょっとした刺激で液体から結晶に変わる様子が見られますよ。さすがにこのまま薬にすることはできないので、不安定な非晶質を安定に支える工夫をしています。

周りに支えられて、まったく新しい自分に変化しているんですね。

まとめ

今回は早く効く薬って何が違うの? 早く吸収させるためにはどうしたら良いの? という疑問にお答えするため、水に溶けやすくする方法を紹介しました。

1つ目は、塩(えん)を作ること。
2つ目は、結晶の形を変えること。
3つ目は、非晶質を作ること。

この3つの方法で、薬はより水に溶けやすくなり、より早く吸収されるようになります。

どうでしょう?
次に薬を飲むときに、この話を思い出してみては。

いつもよりも早く薬が効くかもしれませんよ。
ちなみにこの効果のことを、プラセボっていいます(笑)