1. 漢方薬とは?

1-1. 歴史

薬草の栽培など薬に関する記録は紀元前、古代文明の頃からあります。植物の草や根、木の皮、動物、鉱物などの生薬について調査して、まとめ上げられた「神農本草(しんのうほんぞう)」は中国医学の基礎を築いたとされています。

 

この「神農本草」は中国の炎帝、神農が書いたとされていますが、実際には後漢の名医である張仲景が関わっていたのではないかと思われます。張仲景は実用的な漢方の古典である「傷寒論」も遺しています。日本では「傷寒論」を土台に日本独自の「実験漢方医学」が江戸時代初期に樹立されました。明治時代にはドイツ医学が導入され漢方医学は葬られた形となりましたが、臨床実績で優れた点を見直され、1976年(昭和51年)から保険適用されるようになっています。

現在、日本薬局方では漢方薬の成分である生薬の薬理成分同定や試験法、規格が定められています。

1-2. 漢方における「証」

西洋医学における薬では、どのような病気に効くのかという適用疾患が薬の添付文書などに記載されています。漢方薬では適用疾患に加えて、どのような状態の人に効くのかという「証」があります。「証」とは病気を跳ね返す体力が有るのか無いのか、病気の初期で体が熱っぽいのか病気が続いていて体力を消耗しているのか、新陳代謝が盛んなのか落ちてるのかという状態の事です。

 

それらの状態と病気に応じて漢方薬は処方されます。

1-3. 生薬成分

漢方薬のほとんどは4~10種類の生薬成分が混合されています。さらに各生薬成分中の薬理活性物質も複数あるので、薬理作用は複合的で複雑となります。長い年月の臨床経験や分析結果によって、漢方薬は薬として医療に用いられています。

 

1-4. 効果を発揮する時間

漢方薬は即効性が無いと信じている方も多いのですが、例えば喘息やアレルギーに効果を示す小青竜湯には即効性が期待できます。生薬成分の中で低分子な物質は吸収が速く、麻黄中のエフェドリンや生姜中のショーガオールなどは服薬2時間程度で血中濃度が最高値に達します。一方、腸内細菌により分解されて効力を発揮する甘草中のグリチルリチンや大黄中のセンノシドは服薬してから6~12時間後に血中濃度が最高に達します。

 

1-5. 副作用

漢方薬は安全性が高いですが副作用が無いことはありません。20種類以上の漢方薬において咳や発熱の症状を示す間質性肺炎という重篤な副作用の恐れがあります。また約7割の漢方薬に含まれる甘草は、服薬している全ての漢方薬に含まれる甘草の合計量が2.5gを超えると、偽アルドステロン症と呼ばれる副作用の懸念があります。葛根湯や桔梗湯にも甘草が含まれているため偽アルドステロン症については後述します。

 

2. 葛根湯とは?

2-1. 葛根湯の作用と効果

葛根湯は7種類の生薬を水のみで煎出して乾燥させた漢方エキス製剤です。各生薬成分の含有量と用途を下表にまとめています。

 

生薬名

1日用量の含まれる量(g)

用途

葛根(かっこん)

4.0

解熱、鎮攣

大棗(たいそう)

3.0

鎮静、鎮痛、強壮

麻黄(まおう)

3.0

咳を鎮める、痰を切る、発汗、解熱

甘草(かんぞう)

2.0

咳を鎮める、痰を切る、鎮攣

桂皮(けいひ)

2.0

胃を丈夫にする、血液循環促進

芍薬(しゃくやく)

2.0

消化管や子宮の痙攣を鎮める

生姜(しょうきょう)

2.0

鎮攣、解熱、鎮痛、鎮咳

 


以上の生薬を組み合わせた葛根湯は、比較的体力のある人が汗を掻いていない状態で訴える頭痛、発熱、悪寒、肩こりの症状に効きます。


病気としては風邪、発熱、肩こり、じんましん、上半身の神経痛や炎症(結膜炎、角膜炎、中耳炎、扁桃腺炎、乳腺炎、リンパ節炎)などです。葛根湯は日本の4施設で、136名の風邪に罹った患者の症状を改善したという臨床試験の報告があります。また肩こりの患者40名に2週間から8週間の服用で効果が認められています。

 

2-2. 葛根湯の使い方

成人に対して1日7.5gを2~3回に分けて、食前や食間に服薬します。症状や年齢に応じて服薬量は増やしたり減らしたりします。


漢方薬の生薬として多く用いられている甘草は、腸内細菌により分解されて薬の効果を示す成分グリチルリチンに変わります。腸内細菌は食べ物の分解にも関わるため甘草と食べ物が腸の中に一緒に存在すると、腸内細菌が食べ物の分解に取られグリチルリチンが出来にくくなるのです。そのため漢方薬は食前や食間などの空腹時に服用することで効果を発揮します。

その他にも大黄や人参という生薬も甘草と同じ理由で食べ物が腸内に無い方が効果を発揮しやすく、生薬の麻黄は空腹時の服用で副作用が出にくくなります。空腹時に漢方薬を服薬する理由は、以上の理由に依ります。

 

2-3. 葛根湯の副作用と注意点

甘草を含んでいるため血液中のカリウムが低下することや血圧が高くなる偽アルドステロン症という副作用には注意して下さい。これらの症状が認められた場合には医師の指示に従い葛根湯の服薬を中止します。また葛根湯に含まれている麻黄の薬理成分であるエフェドリンは交感神経を興奮させます。そのため体が弱っている方や胃腸虚弱、循環器や腎臓に重い病気をお持ちの方は症状を悪化させることがあるので注意が必要です。

 

3.桔梗湯とは?

3-1. 桔梗湯の作用と効果

桔梗湯は甘草(かんぞう)と桔梗(ききょう)の2種類の生薬から成る漢方薬です。1日用量中に甘草は3.0g、桔梗は2.0gが含まれています。甘草は咳や痙攣を鎮めることや痰を切る効果があります。桔梗は痰を排出するために用いられます。これらの生薬を配合した桔梗湯は扁桃炎や扁桃周囲炎など喉が腫れて痛む症状に効果を発揮します。

 

3-2. 桔梗湯の使い方

成人には1日7.5gを2~3回に分けて、食前や食間に服薬します。症状や年齢に応じて服薬する量は増減させます。


漢方薬は生薬を煎じたものをスプレードライ製法などによってエキス製剤としたものです。煎じ薬の服用法どおりにするならば、熱湯で溶かしてから人肌に戻して服薬するのが望ましいです。しかし、忙しい方は無理があるため、水やぬるま湯で薬を服薬するのが現状です。

 

3-3. 桔梗湯の副作用と注意点

桔梗湯に含まれる甘草の量が多いため薬理成分のグリチルリチンにより血液中のカリウムの低下や血圧の上昇などの偽アルドステロン症には注意しなければなりません。アルドステロン症と診断されている方や血中のカリウム値が基準値より低い方は桔梗湯を服薬してはいけません。また低カリウム症により手足の痙攣や麻痺などのミオパチーが起こります。既にミオパチーの症状のある方にも桔梗湯の服薬は禁じられています。

 

4. 葛根湯と桔梗湯の違い

これまでの説明でお分かりのように、葛根湯と桔梗湯は構成している生薬成分が違うことの他に、風邪のひき初めで悪寒や頭痛などがある場合には葛根湯を、主な症状が喉の痛みである方は桔梗湯を服薬します。

両方の症状が認め認められる場合には葛根湯と桔梗湯の両方が処方されます。このような薬の用いられ方の違いの他にも、葛根湯は飲み始めに少し甘味を感じますが後に苦く辛くなってくるのに対して、桔梗湯は甘いという点が違います。

 

5. 終わりに

今回は薬の添付文書とインタビューフォーム、今日の治療薬2019、生薬学(津村研究所所長・三橋博編集)を参考に漢方薬全体についてと、葛根湯と桔梗湯という2種類の漢方薬について、まとめてみました。漢方薬は風邪の他にも痛みや心身疲れ、不眠、食欲不振などにも用いられます。その使われ方と注意点に気をつけて服薬してください。