製薬企業で薬を作っているラクダです。
みなさんが手に取る薬には錠剤や注射剤、液剤などたくさんの種類があります。厚生労働省では13種類に分類して統計をとっていますが、今後、再生医療の研究がすすめば、薬の種類はより増えていくでしょう。
さて、薬にはたくさんの種類があることを紹介しましたが、最も多く作られている錠剤は何割くらいだと思いますか?これまで使ったことがある薬を思い返すと、近い数字が出るかもしれません。
答えは約5割。半分は「錠剤」です(※)。
薬の作り方をパスタに例えて解説
と言っても、急に見たこともない機械の名前が出てきてもイメージできませんよね?
ジェットミルで粉砕した原薬をV型混合機で賦形剤と混ぜ、エキセントリック型打錠機で...
上記は好きな名前の機械を並べただけですが、読むだけで疲れてしまったかと思います。そこで、錠剤の代わりに、ほうれん草を練り込んだパスタで想像してみましょう。ほうれん草が薬の主成分、小麦粉は量を増やすための成分です。さぁ、想像力を膨らませてください。錠剤の作り方を説明していきますよ。
薬の作り方①ほうれん草と小麦粉を均一に混ぜる
そこで、ほうれん草を小麦粉と同じようにパウダー状に粉砕しましょう。乾燥させたほうれん草をすり潰してパウダー状にしたら、次はふるいにかけます。残ってしまったほうれん草の筋や塊をふるいで取り除き、大きさの揃ったほうれん草パウダーをはかりを使って秤量(ひょうりょう:はかりで重さをはかること)します。同じように、小麦粉もふるいにかけ、はかりで重さを計ってください。小麦粉にほうれん草パウダーを入れ、均一に混ざるまでかき混ぜましょう。
これで秤量工程と混合工程は終了です。
錠剤でも同じように、主成分の粉砕、ふるった材料の秤量、主成分とその他の材料の混合を行なっています。
薬の作り方②水とこねて作った塊を、穴から押し出して細かい粒にする
小麦粉なら我慢できますが、微量でも影響の大きい薬は我慢できませんよね。なので、扱いやすい乾燥した粒に作り変えます。
話をパスタに戻しましょう。
先ほど作った均一な粉に、水を少しずつ加えてこねていきます。水が多すぎるとビチャビチャになってしまうので、適量の水を少しずつ、こねながら加えます。大きな1つの塊になったら、パスタマシンに入るように形を整え、麺を作ります。生地を入れ、ハンドルを回して押し出しましょう。
できあがった生麺を乾燥させれば、見慣れた乾麺のできあがりです。この時、水分が残っていると痛みやすいし、乾燥させすぎると麺が壊れやすくなってしまいます。
錠剤も似た作り方をします。混合工程の後に水や結合剤を加え、こねて1つの塊を作ります。これを練合と呼んでいます。練合で作った塊を粒状にするのは造粒工程(ぞうりゅうこうてい)です。イメージしやすいのは、ザルでこすことでしょうか。塊をザルに乗せ上から押すと、長めの粒ができあがります。
秤量後、練合・造粒工程を経てできあがったのが顆粒(かりゅう)です。漢方薬で多く利用される顆粒剤は、こうやってできあがります。
薬の作り方③顆粒を臼と杵を使って押し固める打錠工程
顆粒にした錠剤の材料を計りとり、臼の中に詰めます。その後、杵でぎゅーっと押し固めるんです。その強さは約10kN(キロニュートン)にもなります。10kNというのは、1トンの重りで押し潰しているということです。具体例を挙げると、クロサイやキリンがつま先立ちで錠剤1粒の上に乗って全体重をかけているくらいの力です。
みなさんの手元にある錠剤は、実はすごい力で作られているんですね。
造粒工程で作られた顆粒を、臼と杵で押し固めてできあがったのが錠剤です。
まとめ
秤量では散剤(粉薬)、造粒では顆粒剤(漢方で多い形)、打錠では錠剤(1番多い形)ができあがります。散剤→顆粒剤→錠剤と進化しているみたいだなと、書いていて面白かったです。
医薬品の製造というと「難しそう」と思われる方が多いと思います。
でも、こうやって考えると薬も食品も似たような物なんだなって感じませんか?
もちろん工場では、もっと効率的に、大量に、安定的に、衛生的に作れるような工夫をたくさんしています。でも、本質的にはキッチンで作る料理も、工場で作る医薬品も誰かのためを思って作るという意味では同じものです。このコラムを通して、薬を少しでも身近に感じていただけたら嬉しいです。