1.どうして片頭痛では吐き気・嘔吐が起こりやすい?
片頭痛では、緊張性頭痛といわれる他のタイプの頭痛より嘔気・嘔吐が伴いやすいと言われています。片頭痛で悪心・嘔吐が起こりやすいのはどうしてでしょうか。
片頭痛の発作の際は、まず最初に脳の血管が収縮して、その後拡張が起きると言われています。脳の血管が拡張すると、その壁にある神経を通じて三叉神経が刺激されます。
この三叉神経からの刺激が大脳に伝わりますが、刺激を受けると痛みの伝達物質(神経ペプチド)が放出され、血管が拡張します。血管が拡張すると、ますます周りの三叉神経が刺激されます。すると血管の周りに無菌性の炎症が生じて、痛みが起きると考えられています。さらに次々と炎症が引き起こされ、炎症反応が次々に血管を広がっていきます。この刺激が脳の脳幹といわれる部分にある嘔吐中枢にも広がるため、吐き気や嘔吐の症状が起きるとされています。
血管性頭痛ではなく、筋緊張性頭痛などメカニズムの異なる頭痛でも軽い吐き気が起きることもあるのですが、多くの場合、吐き気は片頭痛でみられるほどひどくはありません。吐き気や嘔吐は、片頭痛などの血管性頭痛にとくにみられやすいのです。
2.片頭痛の吐き気・嘔吐への対処法
上で述べたようなメカニズムで吐き気や嘔吐が起きていることを考えれば、頭痛そのものを頭痛薬でコントロールできれば、吐き気や嘔吐も軽くなることが考えられます。
実際、頭痛の治療自体がうまくいけば悪心もおさまってくることがあります。例えば軽度か中等度の頭痛ではアセトアミノフェンや非ステロイド性の消炎鎮痛剤が用いられることも多いですが、頭痛が改善するとともに吐き気も改善します。またアセトアミノフェンは軽度ー中等度の片頭痛発作に対しても効果がありますが、トリプタン製剤に比べて効果が弱いので、吐き気を抑える作用があるドンペリドン(ナウゼリン®)などとの併用が勧められています。
また、頭痛の薬自体によって嘔気・嘔吐が出る場合もあります。従来は片頭痛には血管を収縮させる薬であるエルゴタミン製剤といわれる薬が多く使われていました。エルゴタミン製剤は、中等度から重症の片頭痛ではあまり効果がない場合もあり、嘔吐や吐き気を伴いやすいのが特徴です。普通の消炎鎮痛剤も過度に使っていると、胃粘膜などが荒れて、吐き気が出てくることもあります。薬剤乱用性の頭痛では、このようなことも注意しないといけません。
3.コントロールできない吐き気・嘔吐への対応
頭痛に加えて吐き気や嘔吐があると、症状がつらいだけでなく、生活の質(QOL)も落ちてしまいます。加えて、吐き気・嘔吐がつよいとそもそもトリプタン製剤など頭痛薬をのめない、飲んでもはいてしまったりして吸収されない、といった問題もでてきます。このように嘔吐がつよく、頭痛の薬を飲むのも困難な場合は、どうしたらよいのでしょうか。
このような場合には、吐き気止め(制吐剤)を先に内服するか、もしくはトリプタンと一緒に内服すると、うまく対処できることがあります。吐き気止めをのんでも悪心・嘔吐が収まらず、頭痛薬の内服が難しい人では、スマトリプタン皮下注射、あるいは点鼻薬が用いられます。
4.頭痛に使われる吐き気止めの種類
片頭痛に伴う症状である悪心、嘔吐に対する薬には、経口・静脈注射、筋注、座薬など様々な形態があります。
最もよく用いられるのは、メトクロプラミド(プリンペラン®)、ドンペリドン(ナウゼリン®)などの吐き気止めです。副作用も少ないことから、積極的に片頭痛の薬と併用することが勧められていますし、実際よく使われています(慢性頭痛の診療ガイドライン)。
ただ吐き気・嘔吐が強い場合は、薬を内服することさえできなかったり、飲んでも吐いたりしてしまうこともあります。このような場合には、静脈注射、筋注、座薬などが用いられます。例えばメトクロプラミドは静脈注射、ドンペリドンは坐剤、プロクロルペラジン(ノバミン)は筋注などが用いられています。
これらの薬は、吐き気を抑えるだけでなく、消化管の運動を高めて、トリプタン製剤など頭痛薬の吸収を高める効果もあります。例えば、片頭痛の治療薬である、スマトリプタン単独では不十分であった患者さんに、メトクロプラミドを用いると効果があるといわれています。また、吐き気止めとエルゴタミン製剤、アセトアミノフェンなどの消炎鎮痛剤を併用した場合も、単独の投与に比べて、頭痛の改善効果が大きかったり、消化器症状の改善がみられることもあります。この他、吐き気防止の作用がある抗ヒスタミン剤が役立つ場合もあります。
5.妊娠・月経と片頭痛と嘔吐の関係
女性では片頭痛が月経周期に伴って起きることもあります。月経時の頭痛に対しては、トリプタンに加えてメフェナム酸と制吐剤(ドンペリドン)を併用することが予防につながることもあります。ドンペリドン、メトクロプラミドは副作用が少ないので積極的に使ったほうがよいと述べましたが、ドンペリドンは動物実験で催奇形性があるために、妊娠中禁忌とされています。この場合メトクロプラミドを使うことができますが、それでも有益と考えられる場合のみ内服することができます。
頭痛の頻度が少なければ、実際には重要な問題が生じにくいと考えられます。しかし、妊娠初期に片頭痛発作が頻回に起きる場合には、制吐剤が使いづらく、十分な水分補給と炭水化物の少量頻回の摂取が勧められます。
6.まとめ
嘔吐や悪心は苦しいばかりでなく、そもそも頭痛薬が飲めなくなったりするので、片頭痛の大変なやましい随伴症状です。しかしこのような場合にも、いろいろ対応の仕方があることがおわかりいただけたでしょうか。このような場合には一人で悩まず、普段みてもらっている先生によく相談しながら、治療をしていくことが大切です。