1.パーキンソン病とは?

パーキンソン病は、一般に中年以降に発症し、手などがふるえる(振戦)、動きが乏しくなる(無動)、動作が遅くなる(動作緩慢)、歩行のバランスがわるくなり転びやすくなるなどの姿勢・運動・歩行の異常などを主な症状とする病気です。運動障害以外にも様々な症状が見られるのですが、これらの運動症状が一番目立つので、パーキンソン病の4大症状と呼ばれています。時間とともに徐々に症状が進行していくのが特徴です。

 

2.パーキンソン病はどうして起きるの?

脳の神経伝達物質の一つである、ドーパミンが欠乏することが、症状の原因の大きな1つだと考えられています。脳幹にある黒質と言われる場所の神経細胞がドーパミンを作っていますが、ドーパミンは黒質の神経細胞の突起の先端から脳の大脳基底核という場所に分泌されます。黒質の神経細胞が機能低下し減少していくことにより、脳内の大脳基底核といわれる場所のドーパミンが欠乏するのです。ドーパミンは運動を司る神経系(この場合大脳基底核)に対しては、いわば潤滑油のように働くので、これが欠乏すると動作が遅くなったり、小さくなるという症状が出現するのです。

 

パーキンソン病の患者さんではこの黒質の神経細胞の減少がある年齢から、たいていは中年期以降から起き始めますが、その減少のスピードが一般の人より早いため、通常初老から高齢にかけて症状が出現してきます。発症の時点では、細胞の減少は既に健常人に比較して20%程度にまで減っているといわれています。発症後も神経細胞が減っていき、症状がゆっくり進行していくのが特徴です。

 

3.パーキンソン病は治せるの?

パーキンソン病の治療は、この欠乏したドーパミンを補うことが治療の基本になります。薬物の治療により上で述べたような運動症状が改善し、動作が速くなったり、動作が大きくできるようになるなど、運動症状が改善するのです。手の震えなどの不随意運動も軽快します。後で述べるようにドーパミンの欠乏を補い、臨床症状を改善させるための多くの薬剤があります。

 

 ドーパミンの作用の他、作用機序の異なる抗パーキンソン病薬も続々と出てきており、神経疾患の中でも治療の進歩の著しい病気の一つです。一方で、黒質の神経細胞が減少していく理由はまだよくわかっておらず、黒質の神経細胞の減少を抑制する治療、つまり根本的にパーキンソン病を治療する方法は今のところありません。その意味では、現在行われている薬物治療は症状をよくするための“対症療法”と言うこともできますが、適切な治療を続けることで、運動動作を改善し、ADLを保ち自立した生活を出来るだけ長く続けることができます。

 

患者さんによってはパーキンソン病と診断されたのがショックで、最初はできるだけ薬を飲まないように頑張ろうとする方もいらっしゃいますが、薬をのむことで、より進行が速くなるということはないとされています。従って、無理に我慢しないで必要な治療を受けることが、ADLを保ち、元気な生活を続けるために重要です。それではパーキンソン病の薬物治療と治療薬についてご説明していきます。

 

4.パーキンソン病の薬物治療 −主な治療薬-

パーキンソン病の治療は薬剤療法が基本です。以下に述べるようないろいろな作用機序の薬剤が用いられています。

 

4-1. 薬物療法の基本となる:レボドパ(L-ドーパ、L-dopa)

薬物療法の基本となるドーパミンの薬で、現在でもパーキンソン病には最も効果の高い薬剤です。

 

脳で不足しているドーパミンを補うためには、ドーパミン自体ではなくドーパミンの前駆体であるレボドパ(L-ドパ、L-dopa)が投与されます。ドーパミンを直接投与すればいいじゃないかと思われるかもしれませんが、直接経口投与しても吐き気などの副作用がつよく出たり、腸管で分解されたりするために、うまく吸収されません。一部ドーパミンが腸管から吸収されて血管の中に入ったとしても、今度は血管と脳の間には血液中の物質を選択的に通過させるバリアー(脳血管関門)があり、ドーパミンはこの関門を越えて脳内に入っていくことができません。そこで脳血管関門を通過することのできるドーパミンの前駆物質であるL-dopaが投与されるわけです。

 

L-dopaは腸管で吸収されたのち血液-脳関門をこえて、ドーパ脱炭酸酵素により中枢(脳)でドーパミンに変換されます。実は中枢だけでなく、消化管にもドーパ脱炭酸酵素が存在するため、ここで投与されたL-dopaは一部ドーパミンに変換され、強い吐き気などを引き起こします。そこでL-dopaは消化管でのドーパ脱炭酸酵素の作用を阻害するために、この酵素の阻害薬であるカルビドーパやベンセラジドなどとの合剤として投与されます。

 

L-dopaは服用後1ー2時間後に血中濃度が高まり作用が最大になり、3ー4時間経つと効果がうすれてきますが、パーキンソン病の初期にはこのような効果の時間的な変化がそれほど目立つわけではありません。しかしだんだん病気が進行してくると、後でも述べるように、経時的な効果の変化(オン・オフ)が目立ってきます。

 

L-dopa−ドーパ脱炭酸酵素阻害薬の合剤にはL-dopa+ベンセラジド(マドパーⓇ・イーシードパールⓇ)、レボドパ+カルビドパ(メネシットⓇ)などがあります。薬価も安く切れ味もよいので、現在でも一番よく使われる薬です。その意味では治療はこの薬だけで十分な気もするかもしれませんが、治療が長期にわたると、単独のL-dopa投与では後で述べるような運動合併症をきたしやすいため、他の薬剤を併用したほうがよいのです。

 

4-2. ドパミンアゴニスト

L-dopaに次いでよく用いられる薬です。ドパミンアゴニストは、L-ドーパと同様、脳の神経細胞にあるドーパミン受容体という受容体に結合して作用します。しかし、効果はL-ドーパほどの切れ味はなく、緩やかにじわじわと持続的に効く感じで、服用してから効果がでてくるまでの時間がL-dopaよりもかかります。長く飲みつづけても後述のウェアリング-オフ現象やジスキネジアが生じにくいとされるため、L-ドーパと併用して使われることが多いです。70歳未満の患者さんについてはドパミンアゴニストから開始し、L-dopaを加えていくこともあります。70歳以上の患者さんでは、ジスキネジアが若年者に比較して起きにくいため、臨床効果を優先してL-dopaから開始することが多いです。

 

副作用としては、嘔気や眠気、浮腫(むくみ)などがあります。突発性睡眠といって急に眠くなって寝てしまう症状が出現することもありますので、運転などをする人が内服する場合は注意が必要です。麦角系のドパミンアゴニストは心臓弁膜症などの副作用があることが知られていましたが、最近は殆ど、非麦角系のドパミンアゴニストが用いられています。せん妄・幻覚・妄想・病的賭博・性欲亢進などの精神症状を起こすこともあるので、特に高齢者に使用するときには注意しないといけません。

 

ドパミンアゴニストには、プラミペキソール塩酸塩水和物(ビ・シフロールⓇ)、ロピニロール塩酸塩(レキップⓇ)などがあります。これらに対応して、24時間効果が持続し、一日に一回の投与で十分な製剤としてミラペックス®、レキップCR®があります。貼付薬としてロチゴチンパッチ(ニュープロⓇ)も出てきています。通常の薬物療法で十分な効果が得られないオフ症状に対しては、ドパミンアゴニストの一つである、アポモルヒネ(アポモルフィン)の注射(アポカインⓇ)が用いられることがあります。

 

4-3. モノアミンオキシダーゼB(MAO-B)阻害薬

いったん放出されたドーパミンは脳内でドーパミンを分解する酵素であるモノアミンオキシダーゼ monoamine oxidase B で分解されます。モノアミンオキシダーゼB(MAO-B)阻害薬はこの酵素を阻害する薬剤です。それ自体はドーパミン受容体に結合する作用はありませんが、L-dopaの分解を遅くするため、その作用時間を延長します。MAO-B阻害薬にはセレギリン塩酸塩(エフピーODⓇ)などがあります。

 

4-4. カテコール-O-メチルトランスフェラーゼ阻害薬(COMT阻害薬)

やはりそれ自体はドーパミン受容体の作用を持っていない薬ですが、 末梢で(脳以外の部位で)ドーパミンを分解する酵素であるカテコール-O-メチルトランスフェラーゼを阻害することにより、ドーパミンの作用時間を延長します。エンタカポン(コムタンⓇ)などがあります。最近では、L-dopaとCOMT阻害薬の合剤(スタレボ配合錠Ⓡ)も用いられるようになってきています。

 

4-5. アマンタジン塩酸塩

もともとはインフルエンザの薬として開発された薬剤ですが、ドーパミンの放出を刺激促進する作用もあることからパーキンソン病の治療に用いられるようになりました。シンメトレルⓇが代表的なもので、この薬剤はジスキネジアにも効果があります。

 

4-6. その他の薬剤

このほか、従来抗てんかん薬として用いられてきたゾニサミド(トレリーフⓇ)や、アデノシンA2A 受容体拮抗薬であるイストラデフィリン(ノウリアストⓇ)など、近年新しい作用機序の薬剤もパーキンソン病の治療に用いられるようになってきています。これらの薬剤は従来の薬と違って、ドーパミン受容体に結合したり、ドーパミンの放出を促す作用の薬ではありません。そのため、L-dopaやドパミンアゴニストでは効果のなかった症状に効果が期待されます。

 

4-7. 抗コリン薬

古くから使われているパーキンソン病治療薬で、トリヘキシフェニジル塩酸塩(アーテンⓇ)、ビペリデン(アキネトンⓇ)などがあります。特にふるえ(振戦)に効果があります。ドーパミンが欠乏することにより、脳内で相対的に過剰になっているアセチルコリンを神経伝達物質とする神経系の働きを抑えるために用いられます。しかし副作用として唾液の分泌を抑える働きがあるため、口が渇きます。また、もの忘れや幻覚・せん妄などアルツハイマー病に似た症状を引き起こすことがあるため、とくに高齢者への使用は慎重にする必要があります。

 

4-8. ゾニサミド(トレリーフⓇ)

振戦に効果があり、最近は段々使われなくなってきている抗コリン薬に代わって、よく用いられます。本来は抗てんかん薬として用いられてきた薬なので、眠気が出やすいのが難点です。ただレボドパを含む上述のような薬物療法で十分な効果が得られない場合や、薬の効いていない時間(オフ時間)の短縮などに効果があります。

 

4-9. イストラデフィリン(ノウリアストⓇ)

アデノシンA2A 受容体というドーパミン受容体以外の受容体に結合して働くので、これまでの薬が効かない症例で効果が期待できる場合があります。抗パーキンソン病薬は眠気がでやすい薬も多いのですが、イストラデフィリンは眠気が起きづらく、眠気のある症例で使いやすいという特徴があります。

 

4.パーキンソン病と運動合併症 -その対策-

薬物療法の基本となるL-dopaは投与開始3~4 年は非常に効果があり、患者さんもADLが保たれて大変良い状態で過ごすことができます。しかしこの時期を過ぎると、いろいろ治療上問題が出てくることがあります。

 

まず第一に、治療を継続しても薬剤の効果が段々目減りしていきます。

 

同じ量の薬を飲んでも、薬効の減弱が起こり、持続時間が短縮し、次の服用までに効果がとぎれるようになる状態をウェアリング-オフwearing offと呼んでいます。なぜ目減りするかというと、進行とともに神経細胞が減少していくこと、さらに神経細胞はパーキンソン病の初期ではいったん放出されたドパミンを再取り込みして貯蔵する能力があるものの、進行するとその貯蔵能力を失い投与したドパミンが細胞内に取り込まれず、すぐにそのまま放出・分解されてしまうようになることも原因になると考えられます。

 

そのため、L-dopaの服用後に血中濃度が上がると動きやすくなるオンの状態なり、時間とともに濃度が低下すると効果が減弱して動きが悪くなるオフの状態になってしまいます。初期のうちは、このような時間的な変化は目立たないのですが、パーキンソン病が進行してくると、このオンとオフの差が目立つようになります。ポンプを用いて腸に直接一定の量のL-dopaを持続投与することができれば血中濃度の上下を避けることができます。実際最近は、胃瘻を増設し空腸までチューブを挿入し、レボドパ・カルビドパ水和物(デュオドーパⓇ)配合経腸用液を注入する方法も用いられるようになっています。

 

この他にも、長期間の投与によって出現してくる運動合併症(症状の日内変動)といわれる症状があります。オン・オフon off 現象とは、服薬時間に関係なく、突然スイッチを切ったように薬の効果が切れてしまうものです。

 

最もよくみられるのは、ジスキネジアdyskinesiaといって、持続的に四肢や頸部を落ち着きなく動かすような不随意の動きです。これもL-dopaを使い始めた当初は目立ちませんが、長期の治療で進行とともに出現してきます。通常L-dopaなどを服用して1-2時間経過し、血中濃度が高くなった時点で起きやすく、薬の血中濃度が落ちてくるにつれて収まってきます。血中濃度が下がってしまった時点ではジスキネジアはとまりますが、動作緩慢などの臨床症状も出現し、運動症状は悪くなっているのが普通です(オフの状態)。

 

以上のような運動合併症は、L-dopaのような血中半減期の短い薬剤の長期投与で起きやすいことが知られています。その原因として、血中半減期の短い薬の投与に伴いL-dopaの血中濃度がアップ・ダウンを繰り返すことが関係すると考えられています。逆に血中濃度を一定に保ったり、ドーパミン受容体への薬剤の作用をできるだけ一定にしておくことにより防ぐことができると考えられています。そこで上で述べたような各種の薬剤が併用して用いられるのです。

 

5.薬物治療以外の治療

薬物療法のみで十分な治療効果の見られない患者さんで、視床下核や淡蒼球など大脳基底核といわれる脳の深部に、手術的に電極を植え込み電気刺激する脳深部刺激療法(深部電極治療、deep brain stimulation、 DBS)が行われることがあります。

 

もちろん手術ですから薬物治療に比較するとリスクがありますので、適応をよく考えて行わないといけません。電極により常時脳に刺激を与えますので、オフの時間の短縮や薬の減量が期待できます。薬物療法が行っているにもかかわらず効果が不十分で、とくにオフ時間の症状を改善する必要がある患者さん、ジスキネジアがつよく、抗パーキンソン病薬を減量する必要がある若い患者さんに特に有効であるといわれています。iPS細胞を用いた治療も研究開発されているところですが、臨床で一般に使えるようになるには、もう少し時間がかかるかもしれません。

 

6.治療の効果を最大にするには?

これまで述べてきたように、パーキンソン病の治療は薬物療法が基本になります。

 

薬のうちでも最も切れのあるL-dopaは、投与開始3~4 年は非常に効果があり、この時期はあまり困ることは起きません。主治医の先生とよく相談して、適切な量の薬を処方してもらってください。過度に我慢してADLの悪い状態で過ごすのもよくないですし、かといってL-dopaに頼りすぎ、量を多くのみすぎていると、比較的早期からジスキネジアが出やすくなってしまいます。より効果の持続時間の長いドパミンアゴニストや、MAO-B阻害薬、COMT阻害薬を組み合わせて使用することによりジスキネジアはある程度予防できるといわれています。

 

深部電極治療は日本でも広く行われるようになりましたが、全例で行われるわけではありません。特に高齢者は、ジスキネジアが若い患者さんほどは出ないことが多い上、体力的なこともあって適応になる人は若い患者さんに比べると少なくなります。また年齢が高くなるほど、あるいは進行した症例では、治療の効果も小さくなってきます。

また、L-dopaなど薬物療法で全く効果のない人では深部電極治療を行っても効果がないといわれています。主治医の先生に相談しながら、専門施設で適応になるかどうかをきちんとみてもらうことが重要です。

 

L-dopaをはじめとする抗パーキンソン病薬は、いったん投与量を決めたら日によって変えないほうがよいといわれています。急激なパーキンソン病薬の中止により、発熱・意識障害や筋強剛が強く起きて体ががちがちに硬くなる悪性症候群をきたすことがあります。とくに高齢者で、脱水傾向がある人に起こりやすいと言われています。 

 

薬物治療を始めたはよいが、薬の効果が全くないという場合にはどうしたらよいのでしょうか。パーキンソン病の患者さんでは、診断が正しければ抗パーキンソン病薬は8ー9割の人では何らかの効果があるとされています。従って全く薬が効かない場合は、診断がパーキンソン病でないこともあるのです。

 

パーキンソン症候群(パーキンソニズム)は、パーキンソン症状をきたす疾患を総称して呼ぶ言葉ですが、このうちパーキンソン病自体が最も多く、全体の7~8 割程度を占めています。

 

従って残りの2-3割の患者さんは、症状は似ているけれどパーキンソン病ではない患者さんということになります。病態からいっても、単純に脳のドーパミン不足による症状というわけではないため、薬物治療もパーキンソン病に対してほどは効果がないのです。

パーキンソン症候群には、大脳基底核の脳梗塞や脳出血による脳血管性パーキンソニズムや、抗精神病薬・胃十二指腸潰瘍の治療薬などの副作用による薬剤性パーキンソニズムが多いといわれています。この他、一酸化炭素中毒などの中毒性パーキンソニズム、進行性核上性麻痺・大脳皮質基底核変性症などの神経変性疾患に伴うパーキンソン症候群もあります。薬の治療効果があまりない場合、よく主治医に相談してみましょう。

 

7.おわりに

抗パーキンソン病薬などの薬物療法や脳深部刺激など新しい治療法の開発により、パーキンソン病の経過は著しく改善し、平均余命は健常人と変わらないようになりました。

 

症状の進行を止める方法は今のところありませんが、適切な治療を行えば治療開始後7~10年程度は通常の生活をすることが可能になってきています。それだけに、早めに診断し、治療を開始することによってADLの低下をできるだけ抑えるようにすることが何よりも大切です。

 

“どうせ進行するのだから”とあきらめないで、治療を継続していくことも重要です。最近ではiPSを用いた治療も開発が行われています。実際に臨床場面で使われるようになるまでにはもう少し時間がかかるかもしれませんが、希望をもって治療を続けることが大切です。