1.GLP1製剤トリルシティとは?
はじめに、トルリシティの成分と特徴、痩せる効果について解説します。
1-1. トリルシティの成分と特徴
トルリシティの有効成分は「デュラグルチド」で、トルリシティは「GLP1製剤」とも呼ばれます。GLP1(グルカゴン様ペプチド-1)は食事をすると小腸から分泌されるホルモンの一つで、血糖降下作用があるインスリンを分泌させる働きがあります。デュラグルチドはGLP1と同じ作用を持ち、かつ酵素による分解を受けにくいようにデザインされた薬です。
デュラグルチドには、以下の特徴があります。
①血糖値に依存してインスリンを分泌させる
②週1回の自己注射薬である
インスリンを継続的に分泌させる薬と違って、デュラグルチドは血糖値が高いときにのみインスリンを分泌させます。したがって、低血糖の副作用が起こりにくいのが特徴です。そして口から服用するのではなく、自分でお腹や太ももなどの皮下に注射するタイプの薬剤です。デュラグルチドは注射が週1回で済むので、毎日飲むはずの薬をついつい飲み忘れてしまうという人には向いています。
またデュラグルチドをはじめとしてGLP1製剤が注目されている理由の一つに、食欲を低下させる作用があることが挙げられます。消化管ホルモンGLP1は食欲をコントロールしている摂食中枢に働きかけるほか、胃腸の働きを抑制して「もうお腹はいっぱいだ」と脳に認識させる作用があると考えられています。
実際に、アメリカでは2014年に肥満症の治療薬としてGLP1製剤である「リラグルチド」(商品名:サクセンダ)が承認されました。さらにアジアでは韓国で2018年よりサクセンダの販売が開始され、痩せ薬として話題を呼んでいます。
1-2. トリルシティは痩せる効果はあるのか?
トルリシティの販売元である日本イーラーリリー株式会社は、トルリシティの体重減少効果について「2型糖尿病患者を対象とした試験では、トルリシティの単独投与による明らかな体重変化は認められていない」と報告しています。
一方で数種類の経口血糖降下薬との併用による影響を評価した試験では、血糖降下薬の種類によって、体重が減少したもの、体重の変化がほとんどなかったもの、逆に体重が増加したものに分けられました。この結果からも、「トルリシティに痩せる効果がある」とは一概には言えません。
しかしトルリシティの副作用に食欲減退(発現頻度1~5%未満)があり、少数ではありますが食欲の低下を感じた人もいるようです。
1-3. トリルシティはどんな方に処方される?
トルリシティの適応は「2型糖尿病」です。インスリンを分泌するのは膵臓のβ細胞という器官ですが、この器官の働きがある程度維持され、インスリンを分泌できている方であれば、トルリシティは使用可能です。
一方で、トルリシティはインスリンの代替薬ではないので、1型糖尿病でインスリンがほとんど分泌されない方や、重度のインスリン依存状態の方は使用できません。トルリシティではありませんが、他のGLP1製剤でインスリンから切り替えた結果、糖尿病ケトアシドーシスという重篤な副作用を発症した例が報告されています。インスリンからの切り替えは、検査を行いインスリンの分泌能が保たれているかどうかを見極めてから、慎重に判断する必要があります。
また経口血糖降下薬の中には、消化管ホルモンGLP1を分解するDPP4という酵素を阻害する「DPP4阻害薬」(商品名:ジャヌビア、ネシーナなど)もあります。GLP1の分解を抑制することで、インスリン分泌を促進させるというわけです。しかしトルリシティもDPP4阻害薬も、GLP1の効果を高めるという点では作用するポイントが同じなので、トルリシティとDPP4阻害薬を併用した場合、保険請求が通らないというケースもありえます。また販売元も、「トルリシティとDDP4阻害薬を併用した場合の有効性、安全性は確立していない」と報告しています。すでにDPP4を服用している場合は、トルリシティとの併用はできない可能性があることを理解しておきましょう。
GLP1製剤には、大きく分けて1日1~2回注射のタイプと、週1回注射のタイプがあります。現在日本で販売されているGLP1製剤は、以下の5製品です。
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有効成分 |
商品名 |
注射回数 |
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エキセナチド |
バイエッタ |
1日2回 |
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リキシセナチド |
リキスミア |
1日1回 |
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リラグルチド |
ビクトーザ |
1日1回 |
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エキセナチド(徐放型) |
ビディリオン |
週1回 |
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デュラグルチド |
トルリシティ |
週1回 |
なお、アメリカや韓国で肥満症の治療薬として販売されているサクセンダ(成分名:リラグルチド)は、日本では「ビクトーザ」という名前で販売されています。しかし日本では、ビクトーザをはじめとして、GLP1製剤の肥満に対する適応はありません。また海外で販売されているリラグルチドに関しても、2型糖尿病の治療に使う場合と肥満症の治療に使う場合では1回に注射する用量も異なります。
日本ではGLP1製剤はあくまで2型糖尿病の治療薬であるということ、肥満症の治療薬として保険適用は認められないことを理解しておきましょう。
2.自己注射について
トルリシティの大きな特徴は、週1回の自己注射である点です。自己注射をしたことがない人は、どのような手順ですればいいのか、痛みはないのかなど、疑問や不安があることでしょう。ここからは自己注射の手順と痛みの程度、さらに注射薬や針の管理について解説します。
2-1. どんな手順で注射を打つ?
トルリシティは、「アテオス」という専用のペンを使って注射します。専用の容器に充填された1回使いきりの状態で渡されるので、従来の注射製剤のように注射針を毎回付け替えたり、目盛りで投与量を調節したりする必要がありません。使い方もわかりやすくて簡単です。
<トルリシティを打つ手順>
①底面についているグレーのキャップを外す
②底面を皮膚にあてたまま、ロックリングを回してロックを解除する
③緑色の注入ボタンを押す
なお注射前にアルコール消毒する場合は、アルコールが乾いてから注射しましょう。注入ボタンを押すと、1回目の「カチッ」という音がします。これが薬の注入が始まった合図です。その後数秒間待つと、今度は2回目の「カチッ」という音がします。これは注入が終わった合図なので、アテオスを皮膚から離して注射は完了です。
2-2. 痛みは大丈夫?
アテオスの中に充填されている注射針は、採血で使うものよりも細い針を使っています。採血より痛みは少ないので、ご安心ください。
またアテオスで注射したときの痛みを評価した臨床試験もあります。アテオスの使用後の痛みを、痛みなしを0として0から11まで評価してもらったところ、45.7%が「痛みなし(スコア0)」、28.9%が「弱い痛み(スコア1)」という回答でした。平均スコアは1.0と低く、アテオスによる痛みはほとんどないと考えてよいでしょう。
なお、注射する部位はお腹や太もも、他の方に注射してもらう場合は上腕でも可能です。注射部位は少しずらすかあるいはローテーションし、毎回全く同じ場所に打たないようにしてください。トルリシティは週1回の注射なのでもともと体への負担は少ないですが、打つ場所を変えることで、繰り返し注射による痛みや腫れを軽減できます。
2-3. 注射薬・針等の管理方法
トルリシティは冷蔵保存(2~8℃)なので、病院や薬局から持ち帰ったら、必ず自宅の冷蔵庫に保存してください。使用する直前に冷蔵庫から取り出して使用します。
注射後は、アテオスの中に注射針が戻る構造になっています。使用後のアテオスは、病院または薬局に持ち込んで処理してもらうのが一般的です。医師から指示があれば、それに従ってください。また、家庭から出る医療廃棄物の処理に関しては各自治体によって対応が異なるので、そちらも合わせて確認しておきましょう。以下は名古屋市の例ですが、廃棄の仕方がまとめられています。
3.トリルシティで治療をする際の注意点
トルリシティで治療するにあたって、どのような副作用があるのか、あるいは低血糖が現れたときにはどのように対処すればよいのか、確認しておきましょう。
3-1. どんな副作用がある?
トルリシティで多い副作用には、吐き気、下痢、腹痛などの胃腸の症状が挙げられます。しかしこれらは継続するにつれ軽減されるため、自己判断で注射を中止しないようにしましょう。副作用がつらい場合は、主治医に相談してください。吐き気がある場合は、油を控える、食事の量を減らすなどして対処しましょう。
3-2. 低血糖の可能性とその対策
トルリシティは血糖値が高いときにインスリン分泌を促進させる薬であるため、従来の経口血糖降下薬と比べて低血糖のリスクは低いと言われています。しかし特に経口血糖降下薬やインスリンを併用している場合は、低血糖の可能性が0とは言い切れません。
実際に、経口血糖降下薬との併用療法を評価した臨床試験では、26%で低血糖の発現が認められました。また併用している経口血糖降下薬の種類によっても、低血糖の発現頻度は3.3~33.6%とばらつきがあります。さらにトルリシティの販売直後に行われた調査でも、低血糖の報告は27件あり、そのうちインスリン併用患者では重篤な低血糖に至ったケースも報告されています。
トルリシティやその他の糖尿病治療薬を使用していて、動悸や冷や汗、手足の震え、頭痛などの症状が現れた場合は、低血糖の可能性があります。低血糖が疑われる場合は、ブドウ糖を10gほど摂取するか、ブドウ糖を含むコーラやジュースなどの清涼飲料水を飲み、症状が落ち着くまで安静にしてください。また低血糖を繰り返さないためにも、低血糖の症状が現れたことは必ず主治医に報告しましょう。
4.痩せたいと思ってトリルシティを使用したいと思った方へ
トルリシティをはじめGLP1製剤には食欲を抑える効果があり、一部のGLP1製剤は海外で肥満症の治療薬としても承認されています。しかし日本では、GLP1製剤の肥満症への適応はありません。トルリシティはあくまで2型糖尿病の治療薬であり、目指すゴールは「体重を減らすこと」ではなく「血糖値を適切な範囲でコントロールすること」です。
ただ、トルリシティは血糖値に依存してインスリンの分泌を促進させること、週1回の自己注射で済むことなどのメリットがあります。自身の状態やライフスタイルによって使用可能な場合もあるので、気になる点は主治医に確認してみるとよいでしょう。
5.おわりに
海外では一部のGLP1製剤が痩せ薬として注目されています。しかし日本ではGLP1製剤の肥満症に対する適応はありません。またGLP1製剤はもともと2型糖尿病の治療薬であり、使用する上ではベネフィットとリスクをしっかり理解しておくことが重要です。
トルリシティは週1回の注射で血糖値をコントロールする薬です。自身の状態によっては使用可能な場合もあるので、気になる方は主治医に相談してみるとよいでしょう。
※参考サイト
https://www.dm-town.com/life/ryouhou05.html?link_id=sd11
https://medical-tribune.co.jp/mtpronews/1412/1412064.html
トルリシティ添付文書ならびに各製品情報
