1.インスリンによる糖尿病治療とは?
1-1. 糖尿病の病態とインスリンとは?
ご存知のとおり、糖尿病には、「1型糖尿病」と「2型糖尿病」があります。インスリンは、膵臓から分泌され、血液中の血糖を下げるはたらきをもつ重要なホルモンです。
1型糖尿病では、発症の原因が生活習慣とは無関係で、このインスリン分泌が何らかの原因で出なくなる疾患です。この場合、外からインスリンを補う必要があるため、飲み薬ではなく、インスリン療法が治療の中心です。
一方、糖尿病の多くの方は、2型糖尿病で、遺伝的な要因や不規則な食事、運動不足、肥満などの生活習慣が原因で、インスリンのはたらきが低下することによって起こる疾患です。これには、主に2つの要因があり、膵臓のインスリンの分泌機能が低下してしまっている場合と、インスリンは分泌されているものの効きにくくなっている場合とがあります。
まずは、食事療法、運動療法による生活習慣の改善の指導が行われ、症状に合わせてお薬による治療、そして、インスリン療法が用いられることがあります。
1-2. 糖尿病で怖いのは自覚症状なく進行する合併症
1型糖尿病の方や、2型糖尿病の症状が進行している場合、治療せずに放置(インスリン注射を怠るなど)すると、急激に高血糖状態となり、ケトン体が血液中に急激に増え、最悪の場合、意識障害や昏睡にまで至る「ケトアシドーシス」とよばれる症状が現れる場合があります。このような状態にならないよう、定期的に医療機関を受診し、治療を心がけることが大切です。
一方で、糖尿病において最も怖いのは、自覚症状なく進行する「合併症」です。代表的な合併症としては、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害があります。そのため、糖尿病治療の目的は、血糖値を下げ、良好に血糖コントロールを行うことによって、これらの合併症の発症と進行をおさえることです。
1-3. 糖尿病の治療薬とインスリン療法について
1型糖尿病では、インスリン療法、2型糖尿病では、生活習慣の改善、お薬による治療、インスリン療法が用いられます。糖尿病治療に用いられるお薬には、現在様々なタイプのお薬があります。基本的には、生活習慣の改善(食事・運動療法)を行い、これらのお薬を使用しても血糖コントロールができない場合に、インスリン療法が導入されます。
インスリン療法の原則は、本来持っている体内のインスリンのはたらきを外から補うことです。
本来持っている体内のインスリンのはたらきには、大きく2つのタイプがあります。
常時、一定の血糖値を保つため、常に少量ずつ分泌されている「基礎分泌」と、食事を摂った後に急激に上がった血糖値を下げようと分泌される「追加分泌」があります。
インスリン療法においては、このような本来体内に備わっているインスリンの分泌パターンに合わせて治療されます。
2.糖尿病に用いられるインスリン製剤の種類
糖尿病の治療に用いられるインスリン製剤の種類は、主に5つのタイプがあります。
「超速効型」「速効型」「中間型」「持効型」「混合型」です。
基本的には、次のような使い分けがなされます。
- 超速効型・速効型→インスリンの追加分泌を補う
- 中間型・時効型→インスリンの基礎分泌を補う
- 混合型→インスリンの基礎分泌・追加分泌の両者を補う
<超速効型>
・ノボラピッド(インスリンアスパルト)
・ヒューマログ(インスリンリスプロ)
・アピドラ(インスリングルリジン)
<速効型>
・ノボリンR(生合成ヒト中性インスリン)
・ヒューマリンR(ヒトインスリン)
<中間型>
・ノボリンN(生合成ヒトイソフェンインスリン)
・ヒューマリンN(ヒトイソフェンインスリン)
<持効型>
・トレシーバ(インスリンデグルデク)
・レベミル(インスリンデテミル)
・ランタス(インスリングラルギン) ※バイオシミラー医薬品あり
<混合型>
・ノボラピッド30/50/70ミックス(二相性プロタミン結晶性インスリンアスパルト)
・ノボリン30R(生合成ヒト二相性イソフェンインスリン)
・ヒューマログミックス25(インスリンリスプロ混合製剤-25)
・ヒューマログミックス50(インスリンリスプロ混合製剤-50)
・ライゾデグ配合(インスリンデグルデク/インスリンアスパルト) など
また、インスリン製剤には、使用用途に合わせて、主に3つの剤型があります。
「プレフィルド/キット製剤」「カートリッジ製剤」「バイアル製剤」です。
日々、より使いやすいように開発が進んでいます。
<プレフィルド/キット製剤>
インスリン製剤と注入器が一体となっており、使い捨てタイプのものです。カートリッジなどを交換する手間がなく、一般的に使用されることが多いです。
デバイス(注入器)名としては、フレックスタッチ、フレックスペン、イノレット、ミリオペン、ソロスターなどがあります。
<カートリッジ製剤>
専用のペン型注入器にセットして使います。ペン型注入器は長く使用でき、中身のカートリッジを変更することによって、使い続けることができます。
専用のペン型注入器としては、ノボペンエコー、ノボペン4、ヒューマペンラグジュラ、ヒューマペンラグジュラHD、イタンゴなどがあります。
<バイアル製剤>
専用の注射器で吸引して使用します。皮下注射が基本ですが、点滴や静脈内投与で使用することもあります。
【インスリン製剤の選択やインスリン強化療法について】
1型糖尿病においては、本来体内に備わっているインスリンの分泌パターンに合わせて、1日3回、各食前に超速効型(又は速効型)、1日1-2回、持効型(又は中間型)、合計1日4〜5回注射することが一般的です。このような治療法を「インスリン強化療法」といいます。
2型糖尿病においては、インスリンの分泌機能が残っていることも多く、その方の症状や生活スタイルに合わせて、超速効型、速効型、中間型、持効型、混合型のどれを使用し、どう組み合わせ、どの頻度(回数)で使用するかが選択されます。
1日数回注射をするのが大変な場合には、初めは、飲み薬と併用して持効型インスリンを1日1回注射するなどの治療法が用いられることもあります。インスリンの分泌機能が低下し、血糖コントロールをより厳密に行っていく場合には、インスリン強化療法が用いられます。
3.インスリンってどうやって注射するの?
基本的には、インスリン製剤は、自分自身で「皮下注射」で行います。
皮下注射とは、皮膚のすぐ下にある皮下組織に対して注射するものです。皮下注射は、筋肉注射など他の注射と比較すると痛みは少ないです。吸収が早いとされるお腹に注射することが多いですが、その他に、上腕外側、おしり、太もも部分などに注射することもあります。
注射を行う部分を消毒してから、皮下組織の下にある筋肉内に入らないように、皮膚をつまみながら注射します。注射する場所は、皮膚が硬くならないように、毎回数cmずつずらして実施していきます。
専用注入器の操作方法はとても簡単で、基本的には、針をつけて、量を調整し、ボタンを押すだけで注射することができます。専用の針も、細く短く開発されており、注射している感じがしないぐらい痛みがないものです。注射している感覚がないのが不安なので、少し太めの針が良いという患者さんもいらっしゃるぐらいです。
4.インスリン療法への誤解を解消
続いて、インスリン療法に対して抱きがちな誤解について解消していきます。
4-1. インスリン療法は、糖尿病治療の最終手段?
2型糖尿病において、インスリン療法をはじめることが、症状の悪化や糖尿病治療の最後の手段と考えられがちですが、ひとえにそういうわけではありません。
基本的には、食事療法、運動療法を行い、お薬による治療によっても血糖コントロールが改善しない場合にインスリン療法が行われます。
お薬による治療で血糖コントロールがうまくいかない場合には、早めにインスリン療法を導入することで、血糖コントロールを改善させ、合併症の発症・進行を抑えることができます。また、高血糖状態が続くことや、飲み薬の作用によって、インスリンを出そうと働きつづける膵臓を休ませ、自身のインスリンの分泌機能を回復させる効果も期待できます。
その他、1型糖尿病の方、糖尿病を合併する妊婦の方、著しい高血糖によって昏睡状態(その傾向)がみられる場合、重度の感染症がみられる場合、重度の肝障害、腎障害を合併しているような場合などにも、インスリン療法が勧められることがあります。
4-2. インスリン注射は痛い?難しい?体の負担になる?
予防接種や採血などでイメージする注射とは異なり、痛みは、ほとんどありません。専用の注射針は細くて短く、先端部分も痛みが少なくなるように工夫されています。注射に苦手意識がある方でも、実際に使用してみるとイメージと違ったと安心される方も多くいます。
日々、デバイス(注入器)が進歩しており、小型化が進み、ペンのような形で、携帯しやすくなっています。又、操作はとても簡単で、基本的には、針をつけて、量を調整し、ボタンを押すだけで注射することができます。
目の不自由な場合でも操作しやすいように工夫されているデバイス(注入器)もあります。
注射に苦手意識があり、インスリン注射を躊躇している場合には、一度、どんなデバイス(注入器)で、どのような操作方法でやるのか、見せてもらうと良いでしょう。
4-3. インスリン療法は、一生続くの?
1型糖尿病の方の場合やインスリン分泌機能を失っている場合には、外からインスリンを補充しなければならないため、インスリン療法は続ける必要があります。
一方で、インスリン療法を導入し、血糖コントロールが改善し、膵臓のインスリン分泌機能が回復してきた場合、インスリンの量や回数を徐々に減らし、やがてインスリン療法から移行できる可能性も十分にあります。そのためには、指示どおりにインスリン療法を実施し、食事療法、運動療法など生活習慣の改善を行うことはもちろんのこと、医師との相談の上、治療を前向きに進めていくことが大切です。
4-4. インスリンの副作用は怖い?
インスリン療法における主な副作用は、「低血糖症状」です。インスリンには、血糖値を下げ、良好な血糖コントロールが期待できる分、その裏返しで低血糖症状という副作用があります。低血糖症状は、インスリン療法に限らず、糖尿病の治療に用いられる飲み薬全般でも起こりうる副作用です。
そのため、低血糖症状に対する適切な処置方法を把握し、血糖の自己測定などで自身を管理することが大切になってきます。ご自身で管理することで、リスクを軽減することが可能です。
低血糖の症状としては、
初期症状・・・強い空腹感、冷や汗、動悸、手指の震えなど
中期症状・・・脱力感・疲労感、めまい、ものがぼやけるなど
後期症状・・・昏睡、けいれんなど
日頃から、ブドウ糖などを準備・携帯しておき、万が一、低血糖症状を感じた場合には、ブドウ糖10g、または砂糖20g、若しくは、市販の糖分を含むジュース(200ml-350ml)を飲むようにしましょう。
また、症状がみられる場合には、医師と都度相談し、適切なインスリンの量・回数を調整してもらうことが大切です。
低血糖への過度な心配のあまり、空腹感を感じた際の飲食が自然と増え、体重が長期的に増える可能性もあります。医師や栄養士の指導のもと、適切な食事療法を心がけるようにしましょう。
5.まとめ
今回は、インスリンによる糖尿病治療について正しい知識を解説するとともに、インスリン療法に抱きがちな誤解について解消できるよう説明しました。
インスリン注射というと、「怖い」「糖尿病治療の最終手段」のように考えていらっしゃる方も多いと思いますが、症状によっては、早めにインスリン療法を導入することで血糖コントロールが良くなるケースも多くあります。
糖尿病で怖いのは、自覚症状なく進行する合併症です。先が見えない治療において不安なことも多くあると思いますが、リスクとベネフィットを考え、最善の治療を医師とともに行っていくことが大切です。少しでも不安なことがある場合には、医師や身近な医療従事者に相談するようにしましょう。
参考:
糖尿病診療ガイドライン2016 日本糖尿病学会
