1.そもそもピロリ菌って?
今は、一般的に知られるようになったピロリ菌ですが、正式名は、ヘリコバクターピロリ。1983年に発見された、胃の中、胃粘膜に生息するらせん型の細菌です。ピロリ菌は、胃酸を中和するアンモニアを作り出す「ウレアーゼ」 という酵素を出すことで、胃の中でも生息することができます。
現在までに、胃・十二指腸潰瘍の患っている方のほとんどの患者さんで、ピロリ菌の感染が深く関連していることが明らかとなっており、ピロリ菌による感染は、慢性胃炎、胃・十二指腸潰瘍の原因となりうることや、また胃がんになるリスクを高めるとされています。
そして、ピロリ菌を除菌することによって消化性潰瘍の再発が著名に低下することが報告されています。2000年には、消化性潰瘍と診断された方に対するピロリ菌の感染診断、治療が保険適用となり、その後適応が拡大され、ピロリ菌の除菌というものが一般的に行われるようになってきました。
それに伴い、ピロリ菌の感染の有無が分かる検査も一般的に受けら れるようになってきました。内視鏡検査が確実ですが、 内視鏡を使わない検査方法(尿素呼気試験法、抗体測定、糞便中抗原測定など)などもあります。また、検査キットを購入し、自宅で行いセンターに郵送を行ってできる手軽なものも見られるようになりました。
2.ピロリ菌の除菌に用いるお薬
ピロリ菌の除菌は、患者さんの疾患の治療上有効であると考えられた場合に行われます。ピロリ菌の除菌は、主に2つの抗菌薬と胃酸の分泌を抑えるお薬(PPI)を用いて行われます。(3剤療法)
これら3つの種類のお薬を1日2回、朝・夕食後、計7日間続けて服用します。
お薬の種類と数が多いため、飲み間違いや飲み忘れを防ぐために、朝・夕食後で服用するお薬を1シートごとにまとめて分かりやすくしたような除菌用の「パック製剤」もあります。
2-1. 除菌に用いられる2つの抗菌薬
ピロリ菌の除菌には、除菌効果を高めるため2つの抗菌薬が用いられます。
●アモキシシリン(お薬例:サワシリン、パセトシンなど)
●クラリスロマイシン(お薬例:クラリス、クラリシッドなど)
※一次除菌でうまくいかなかった場合、「クラリスロマイシン」を「メトロニダゾール(お薬例:フラジール)」に変更して二次除菌が行われます。
アモキシシリンは、ペニシリン系とよばれるタイプの抗生物質です。ピロリ菌に対しての耐性が少ないという特徴があります。細菌が持っている細胞壁の合成を阻害することによって、抗菌作用を示します。ペニシリン系のお薬で過去にアレルギーがあった方は、ペニシリンアレルギーを起こす可能性があるため、注意が必要です。
クラリスロマイシンは、マクロライド系とよばれるタイプの抗生物質です。細菌のタンパク合成を阻害することによって抗菌作用を示します。一次除菌でうまくいかなかった場合には、クラリスロマイシンに対して耐性を持った菌がうまれる可能性があります。そのため、二次除菌では、クラリスロマイシンではなく、メトロニダゾールに変更して行います。
2-2. 胃酸の分泌を抑えるお薬(PPI)
ピロリ菌の除菌には、胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬(PPI)とよばれるお薬が用いられます。
●ランソプラゾール(お薬名:タケプロンなど)
●ボノプラザン(お薬名:タケキャブなど)
●ラベプラゾール(お薬名:パリエットなど)
●オメプラゾール(お薬名:オメプラールなど) など
胃の分泌腺にある壁細胞には、胃酸の分泌を行うプロトンポンプとよばれる装置があります。プロトンポンプ阻害薬は、プロトンポンプに作用し、そのはたらきを妨げることによって、胃酸の分泌をおさえるお薬です。現状ある胃薬の中でも、強い効果を期待でき、通常は、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、逆流性食道炎など幅広い疾患に対して使用されます。
プロトンポンプ阻害薬は、ピロリ菌に対する抗菌薬の効果をより高める(抗菌薬は酸に弱いため、胃酸の分泌を抑えることで、胃内での抗菌薬の安定性や活性を維持する)などの理由で一緒に服用します。
2-3. ピロリ菌除菌用パック製剤一覧
除菌に使用されるお薬は数が多く、飲み間違いや飲み忘れを防ぐため、ひとまとめに飲みやすくした除菌用パック製剤があります。朝・夕で服用しなければいけないお薬がそれぞれ1シートになっており、7日分(7シート)あることでわかりやすくなっています。
除菌用パック製剤でない場合も、薬局において希望によっては、飲みやすく分包(一包化)してくれるケースもあります。しっかり飲める自信がない場合には、事前に医師や薬剤師に相談するようにしましょう。
パック製剤では、基本的には、含まれている抗生物質の種類は一次除菌、二次除菌用とそれぞれで一緒ですが、プロトンポンプ阻害薬(PPI)の種類が違ってきます。
<一次除菌用>
●ラベキュアパック400/800
成分:アモキシシリン、クラリスロマイシン、ラベプラゾール
●ランサップ400/800
成分:アモキシシリン、クラリスロマイシン、ランソプラゾール
●ボノサップパック400/800
成分:アモキシシリン、クラリスロマイシン、ボノプラザン
<二次除菌用>
●ラベファインパック
成分:アモキシシリン、メトロニダゾール、ラベプラゾール
●ランピオンパック
成分:アモキシシリン、メトロニダゾール、ランソプラゾール
●ボノピオンパック
成分:アモキシシリン、メトロニダゾール、ボノプラザン
3.ピロリ菌除菌中に注意すべきこと
続いて、ピロリ菌のお薬による除菌中に注意すべきことについて解説します。
3-1. お薬の副作用症状について
ピロリ菌除菌に用いる3種類のお薬による副作用症状が出ることがあります。
主には、次のような症状があります。
●軟便・下痢症状
●腹部の張り
●悪心・嘔吐
●味覚症状
●肝機能障害
●発疹などのアレルギー症状
軟便・下痢症状を和らげるため、整腸剤が合わせて処方されることもあります。お腹が不安な方は、事前に医師と相談すると良いでしょう。
軽度の症状であれば、2-3日様子をみることで軽快することが多いですが、ひどい腹痛・下痢症状、血便などを伴うような場合やいつもとは明らかに違う症状、生活に支障をきたすような場合には、我慢せずにすぐに主治医や薬剤師に相談するようにしましょう。薬の服用を続けるかどうかの判断は明らかな場合を除いて自己判断で行わず、必ず指示を仰ぐようにしましょう。
3-2. お薬の飲み合わせ
3種類のお薬を服用するため、飲み合わせに注意が必要となるお薬が沢山あります。飲み合わせによっては、効果を弱めてしまったり、副作用のリスクを高めてしまう場合もあります。
飲み合わせに注意が必要なお薬が多くて掲載しきれないため、ここでは具体的なお薬名は省略しますが、他に飲んでいるお薬や治療中の疾患がある場合には、必ず医師や薬剤師に事前に伝えるようにしましょう。
3-3. お酒(アルコール)、喫煙は控えましょう
ピロリ菌の除菌率を少しでも高めるため、ピロリ菌除菌中は、お酒(アルコール)の摂取や喫煙を控えるようにしましょう。一次除菌、二次除菌とうまくいかなかった場合には、三次除菌は保険適用外となってしまいます。
お酒(アルコール)の摂取は、メトロニダゾールを用いる二次除菌の際には、お薬との相性が悪く、特に禁酒指導が求められます。
また、お酒(アルコール)やお酒と嗜むおつまみなどを摂取することで、胃酸の分泌が促進され、お薬の効果に影響が出る可能性や肝臓への負担が増えるなどの可能性も否定できないことから、除菌率や安全性を高めるためには控えることを強く勧めます。
また、喫煙習慣が除菌率を低下させるといった報告があります※。
そのため、お酒(アルコール)と同様に、除菌率を高めるためには、喫煙も控えることを強くお勧めします。
※Miyoshi M, et al. T. A randomized open trial for comparison of proton pump inhibitors, omeprazole versus rabeprazole, in dual therapy for Helicobacter pylori infection in relation to CYP2C19 genetic polymorphism. J Gastroenterol Hepatol 2001; 16: 723-8.。
4.ピロリ菌の除菌に関するよくある疑問
4-1. お薬によるピロリ菌の除菌率(成功率)は?
除菌率はおよそ70%で、一次除菌でうまくいかず、二次除菌まで行った場合の除菌率はおよそ90%です。保険適用となるのは、二次除菌までなので、二次除菌でもうまくいかなかった場合には、三次除菌は保険適用外となりますので、自己負担で行うことになります。
また、近年、除菌率が年々低下しているとの報告もあります。一次除菌で使用するクラリスロマイシンは一般的な感染症にも用いられることが多いために、他の病気に対する治療で服用する中で、耐性を持った菌が現れていると考えられています。
4-2. 除菌に失敗した場合はどうなるの?
1回目の除菌に失敗した場合は、今回の説明のとおり、抗菌薬の種類を変更して二次除菌を行います。一次除菌と二次除菌の期間の間隔による除菌率の違いがあるという報告はないため、医師との相談の上、すすめるようにしましょう。
また、二次除菌がうまくいかなかった場合は、三次除菌を行えますが、保険適用外です。三次除菌では、ニューキノロン系の抗菌薬などさらに違う種類のお薬が用いられます。
4-3. 飲み忘れてしまったらどうすれば良い?
除菌を成功させるためには、7日間、1日2回を必ず守って服用するようにしましょう。
万が一、飲み忘れてしまったことに気づいた場合
●気づいたのがすぐの場合には、気づいた時点で飲みましょう。次の服用までその分、間隔をあけます。
●次に服用する時間が近い場合には、飲み忘れた分は服用せず、次の回のタイミングで1回分を服用します。飲み忘れてしまったことは医師や薬剤師に報告しましょう。
飲み忘れたからといって、2回分を一度に飲んだりするようなことは絶対にしないようにしましょう。飲み忘れて不安な場合には、医師や薬剤師に相談してみましょう。
4-4. ピロリ菌は感染する?
ピロリ菌の感染経路は、まだ解明できていない部分が多くあります。
考えられているのが、経口感染、ピロリ菌感染者の唾液を介した感染などです。
胃のはたらきが不十分な幼少時に起こり慢性的に持続すると考えられており、成人における感染は、一過性のものである可能性が高いとされています。そのため、感染している大人から子どもへの食べ物の口移しなどには注意をしたほうが良いかもしれませんが、解明されていないことも多いため、過度に慎重になりすぎないようにしましょう。
5.おわりに
今回は、ピロリ菌の除菌に用いられるお薬の作用・副作用を解説するとともに、除菌中に注意すべきことやよくある疑問についてお答えするような形で説明しました。
ピロリ菌の有無を知るための検査を受けることによって胃がんになるリスクを知る手がかりとなりえます。また、ピロリ菌の除菌を行うことは、消化性潰瘍、また胃がんになるリスクを下げることにつながります。
7日間1日2回と、服用しなければいけないお薬の量も非常に多いですが、しっかりと指示どおりに服用することが大切です。除菌率を少しでも高めるためには、お酒(アルコール)の摂取や喫煙を控えるようにしましょう。
これからピロリ菌の除菌をされる方、実際に除菌中の方のために、少しでも参考になりますと幸いです。
