1.高血圧でむくみが生じるのはなぜ?

1-1.高血圧の自覚症状はほぼない!むくみは病態の進行を疑え

高血圧で最も大切なこと。初期段階では「自覚症状がほぼない」ということです。血圧が140/90mmHg以上を高血圧と呼びますが、この段階ではむくみなどの自覚症状はあまりみられません。むくみの原因が高血圧で、むくみの自覚症状がみられる場合は、高血圧の状態がかなり続いていたと考えた方がいいでしょう。

 

高血圧が原因でむくみが生じているのなら、それは病態進行のサインといえるのです。

 

では、高血圧はどうしてむくみを引き起こすのでしょうか?

1-2.血圧上昇に要注意!むくみの原因は動脈硬化にあり

高血圧は常に血管に圧力がかかっている状態のことをいいます。血圧が高くなると、血管は高い負荷に負けないように血管を厚くします。血管が厚くなると、本来の弾力性が失われて硬くなり傷つきやすくなります。

 

イメージとしては、ゴムホースがガラス管に変化するような感じ。この状態が動脈硬化で、これが心臓で起これば心臓病、腎臓で起これば腎臓病を引き起こします。高血圧が原因でむくみが生じている場合、高血圧だけでなく動脈硬化、心臓病、腎臓病など病態が進行している可能性が考えられます。

 

高血圧が原因でむくみが……というよりは「高血圧が原因で生じた病態が進行してむくみが生じている」という表現の方が正確かもしれません。

 

1-3.高血圧が原因の合併症!心臓病と腎臓病はむくみを引き起こす

心臓はポンプとして全身に血液を送る働きを持っているため、動脈硬化によりポンプの働きが低下すると、血液のめぐりが悪くなって水分が体にたまってしまいます。結果として、足や手、顔にむくみが生じてくるのです。

 

腎臓は体内の老廃物を処理する、ゴミ処理場のような働きをする臓器です。腎臓も高血圧によって動脈硬化が起こると、処理機能が低下してしまいます。処理機能が低下すると体内に有害物質がたまったり、体内の水分量を一定に保てなくなったりして、むくみを引き起こしてしまうのです。

 

高血圧が原因でむくみが生じている場合は、心臓病や腎臓病などの病態が進行している可能性も考えられます。

 

・高血圧の治療を受けたけど途中でやめてしまった
・健康診断で血圧に異常があったけど放置してしまった

 

このような経験のある人はただのむくみと考えず、病態の進行の可能性を考えることが大切です。

1-4.高血圧の治療薬、カルシウム拮抗薬でもむくみが生じる

高血圧の治療中の場合は、高血圧の治療薬によってむくみが生じる可能性も考えられます。高血圧の治療薬としてよく使われるカルシウム拮抗薬は、むくみの副作用が確認されています。

 

カルシウム拮抗薬によるむくみの特徴は以下の2点です。

 

・足にむくみがみられる
・利尿薬では改善が望めない

 

利尿薬は本来むくみを改善する薬。しかし、カルシウム拮抗薬が原因のむくみは通常のむくみと発生機序が異なるため、利尿薬では改善できません。

 

2.高血圧だけじゃないむくみの原因

2-1.病気でなくてもむくみは生じる

むくみの原因は様々。病気以外の要因でも生じるため、高血圧でむくみがあるからといって高血圧が原因とは言い切れません。ただ高血圧は、ほとんど自覚症状なく病態が進行する病気です。むくみという症状を捉えたとき、病態進行の可能性を疑うことはとても大切です。

 

2-2.水分の摂取不足もむくみの原因に

むくみというと水分の過剰摂取をイメージしますが、水分の摂取不足でも生じます。水分の摂取不足の状態になると、身体が水をため込もうとするためです。日常的に水分が足りない場合は、慢性的なむくみが生じていることも考えられます。

 

2-3.妊娠高血圧症候群だった人はむくみに要注意

出産のときに妊娠中毒症、あるいは妊娠高血圧症候群といわれた覚えのある方はむくみにも注意が必要です。産後から何十年経過してから、高血圧、虚血性心疾患、糖尿病、脂質異常症などのメタボリックシンドロームが見つかる頻度が高いためです。そのため、過去に妊娠高血圧症候群と言われたことがある人は食事、生活習慣などの健康管理に注意しましょう。

 

2-4.経験者も多い!?下肢静脈瘤

下肢静脈瘤は足の血管がこぶのように膨らむ良性の病気です。午後から夕方にむくみが強くなるのが特徴的で女性に多くみられます。高血圧の治療中=むくみは起こらないと考える方もいるようですが、高血圧の治療をしていても静脈瘤や下肢のむくみは起こります。

 

2-5.栄養失調でむくみ?

特に高齢者で栄養状態があまりよくない人は、血液の中のタンパクが極端に減ってしまい、血管の中に水分をとどめることができくなります。そのため、血管の外に水分が漏れ出てしまってむくみが悪化することがあります。

3.高血圧と足や顔のむくみが気になるときの対策

3-1.自覚症状が出るまで待たない

高血圧はほとんど自覚症状がないため、健康診断などで指摘された段階での治療開始がとても大切です。高血圧でむくみも気になって……という状態ならば気づいた今が受診のタイミング。血圧が高いのは知っていたけど、特に自覚症状がないから放置していたならば、このタイミングで受診しましょう。

 

3-2. 高血圧に気づくポイントは健康診断

健康診断で再検査の通知が出たとき、どうしていますか?「まだ症状がないから、症状が出てからでいいや」と私も高血圧を知らなければ後回しにしてしまうと思います。「高血圧とライフスタイルに関する意識調査」では高血圧の診断を受けていても約50%は病院を受診していないという調査結果が得られています(詳細はこちら)。

 

高血圧は自覚症状の乏しさから「サイレントキラー」とも呼ばれており、知らないうちに病態が進行してしまう病気です。高血圧に気づくポイントは健康診断。症状がなくても血圧が高ければ、治療開始の合図です。治療開始後、血圧が安定してきたら、治療をやめるタイミングについて主治医と相談しましょう。

3-3. 高血圧が原因のむくみは漢方ではなく受診が大切

漢方ブームの昨今、とりあえずむくみは漢方で対処したいと考える人もいるのではないでしょうか。私自身も風邪を引いたらとりあえず葛根湯!と服用しているので、気持ちは大変よくわかります。

 

ただ高血圧があり、むくみがある場合に考えたいことは次の2点でした。

 

・病態の進行でむくみがある
・カルシウム拮抗薬が原因でむくみがある

 

単純にむくみが治ればいい、血圧が下がればOKということではなく、原因に対する正しい対処法が必要。原因によってすべき対処法が異なるため、高血圧があり、むくみがある場合は漢方でむくみの対処ではなく内科や循環器内科を受診することが大切です。

3-4.塩分を控えるための目安!食塩相当量を抑えよう

高血圧にもむくみにも有効な日常対策に塩分制限があります。自分で料理をするのであれば塩分は調節できますが、外食ではなかなか難しいもの。外食中心なら、少しでも塩分を控えるために「食塩相当量」を覚えましょう。食塩相当量とはナトリウム量を食塩量に換算した値で下記の式により簡単に求められます。

 

ナトリウム(mg)×2.54÷1000=食塩相当量(g)

 

高血圧の人の場合、食塩は1日6g未満の摂取に抑えることを日本高血圧学会は推奨しています。外食中心ならこれからはナトリウム量に注目してみましょう。

3-5.積極的に摂りたい食品は青魚!サプリメントでもOK

高血圧の人が日常的に食べるもので意識したいのは青魚。サバやサンマ、イワシなどいわゆる光り物が青魚です。青魚にはn-3系脂肪酸(EPA、DHA)が豊富に含まれています。

 

高血圧の人は心血管疾患のリスクが高いのですが、n-3系脂肪酸は心血管疾患リスクを低減させるといわれています。2012年4月に消費者庁が公表した「食品の機能性評価モデル事業の結果報告」でもn-3系脂肪酸の心血管疾患リスク低減は、科学的根拠レベルが高い総合評価Aの判定を受けています。

 

ここで気になるのがどれくらい摂取したらいいの?ということ。健康の維持増進、生活習慣病の予防のためにどのくらいの量を食べればよいか国が定めた「日本人の食事摂取基準(2015年版)」では、n-3系脂肪酸は1日1g以上の摂取が目標量として設定されています。

 

私がサプリメント関連の仕事をしていたときは、n-3系脂肪酸を青魚から補う場合は週に3〜4回は青魚を食べなきゃといわれていました。和食が大好き!という人でない限り、正直なかなか難しい摂取量だと思います。

 

このようなときのためにサプリメントがあるのです。n-3系脂肪酸をサプリメントで補いたいならEPA、DHA配合の製品を選べばOK。青魚の積極的な摂取とサプリメントを併用することで、1日1g以上のn-3系脂肪酸の摂取を目指しましょう。

3-6.運動は人によっては推奨されない場合も

高血圧もむくみも運動すれば解決する!という話を聞いたことがあるかもしれません。有酸素運動による降圧効果は確立されています。ただし、すでに高血圧の場合は服薬で血圧をコントロールしながら生活習慣を整えることが大切。

 

高血圧の薬は一生飲まなければいけないような誤解がありますが、血圧のコントロールが正しくできれば飲まなくてもよいのです。そのためにも早期の段階で服薬をしながら、生活習慣を整え、薬の減量をまずは目指しましょう。

 

また、以下のような場合には、運動は推奨されません。

 

・すでに心血管疾患がある場合
・180/110 mmHg以上の高血圧がある場合

 

血圧の確認は自分でもできますが、心血管疾患の確認は自分ではできません。服薬を中断してしまった場合でも、今の自分の状態を把握するためにまずは受診をしてみてください。

3-7.カルシウム拮抗薬がむくみの原因なら薬の変更を

前述したようにカルシウム拮抗薬がむくみの原因となっている場合、利尿薬が効かないため治療薬の種類を変える必要があります。飲んでいる薬の種類が合わずむくみが生じている可能性も考えられるのです。高血圧の治療薬の選択肢はたくさんあるので、病院を受診する際に相談してみましょう。

 

4.まとめ

最後にもう一度、要点をおさらいしておきましょう。

 

・むくみの原因はたくさんある

・高血圧でむくみがある場合、病態進行の可能性あり

・病態進行は自己判断できないため、病院を受診すべき

・高血圧の治療薬でもむくみが生じることもある

・高血圧は自覚症状がないまま病態が進行する

・健康診断の結果が高血圧治療開始の合図

 

病院を受診せずにできるむくみの対処法は、高血圧がない人には有効かもしれません。
しかし、高血圧でむくみがある人の場合は手遅れにならないためにも病態の進行の可能性を考えるべきなのです。

 

高血圧でむくみが気になる場合はネットの情報に左右されず、病態進行を疑いましょう。
むくみという自覚症状を捉えた時点での病院受診は、自分の命を守るためにもとても大切です。

参考

高血圧治療ガイドライン2014(詳細はこちら
日本高血圧学会HP(詳細はこちら
高血圧とライフスタイルに関する意識調査(詳細はこちら
日本人の食事摂取基準(2015年版)(詳細はこちら
消費者庁「食品の機能性評価モデル事業の結果報告」(詳細はこちら