1. ナロンエースはどのような薬か

1-1. ナロンエースについて

ナロンエースを含む「ナロンシリーズ」は、大正製薬が販売している痛み止めの市販薬です。名前を聞いたことのある方も多いでしょう。市販の痛み止めは大抵そうなのですが、効能・効果 (効果のある病気や症状のことです) として頭痛や腰痛などのほかに、歯痛が記載されています。

 

これはこうした痛み止めが、歯が痛いときにも使用可能なことを意味します。歯の痛みは待ったなしであることも多いですから、歯科を受診するまでの急場しのぎとして、痛み止めを使うのは十分に合理的な行動です。

 

歯が痛くなる原因

ここでは詳しくは触れませんが、歯が痛くなる原因は多様です。誰でもすぐに思いつくものとしては、う蝕 (虫歯) や歯周病が挙げられます。そのほか、歯や歯ぐきとは別の場所に起こった病気の症状として、歯の痛みが自覚されるケースもあります。医療者のあいだで有名なのは、心筋梗塞や狭心症、つまり心臓の病気です。これらは、心臓に酸素や栄養を供給する「冠動脈」という血管が詰まったり、細くなったりすることで心臓が酸欠を起こす病気です。そのため、胸の痛みや息切れなどを起こすのですが、これらに付随して歯の痛みが起こることがあります。この理由は、心臓の周辺にいくつかの神経が固まっており、ある神経に加わった刺激が別の神経に乗り移ることであると考えられています。このように、歯の痛みは純粋に歯や歯ぐきだけの問題とは限らず、別の重大な病気のサインでもあります。軽視せずに、歯科を受診することを勧めます。

少し横道にそれました、ナロンエースに話を戻します。現在「ナロンエース」と名前がつく薬には、いくつかの種類がありますが、それらに共通して含まれる成分は、イブプロフェンとエテンザミドです。これらが、直接的な痛み止め成分です。効果のメカニズムもほとんど同じで、両者とも痛みを増幅するはたらきをする物質「プロスタグランジン」が体内で作られる量を減らします (1)。これにより痛みをやわらげるわけですが、虫歯の原因となる菌を減らす効果などはありません。つまりが完全な対症療法であり、この薬だけで根本的な解決にはなりません。あくまでも、受診までの一時しのぎであることは繰り返し強調しておく必要があります。

1-2. ナロンシリーズの製品一覧と特徴

現在、販売されている製品の一覧と簡単な特徴を以下に示します (2-5)。

●ナロンエース

有効成分
・イブプロフェン
・エテンザミド
・ブロモバレリル尿素
・無水カフェイン

イブプロフェン・エテンザミドの2種類の痛み止め成分に、これらを補助する成分が2種類配合されたもの。

 

●ナロンエースT

有効成分
・イブプロフェン
・エテンザミド
・ブロモバレリル尿素
・無水カフェイン

有効成分の種類や量は、上のナロンエースと同じで、粒を小さくして飲みやすくしたもの。

 

●ナロンエースR

有効成分
・イブプロフェン
・エテンザミド
・ブロモバレリル尿素
・無水カフェイン
・乾燥水酸化アルミニウムゲル

ナロンエースおよびTと同じ成分に、胃の粘膜を守る乾燥水酸化アルミニウムゲルを加えたもの。

 

●ナロンエースロイヤル頭痛薬

有効成分
・イブプロフェン
・エテンザミド
・酸化マグネシウム

酸化マグネシウムは、乾燥水酸化アルミニウムゲルと同じく胃の粘膜を守る成分。有効成分の種類が少なくシンプルになっているほか、エテンザミドの量がほかと比較して多い。

2.ほかの痛み止めとの比較

痛み止めの本体であるイブプロフェンとエテンザミドですが、このうちエテンザミドはあまり頻繁には使われない成分です。そのため、使用成績に関するデータなども十分に報告されていないことから、ここではイブプロフェンに絞って述べていきます。

 

イブプロフェンはNSAIDs (非ステロイド性抗炎症薬) というグループに属する成分です。これと似た作用を持つ薬として、アセトアミノフェンが挙げられます。NSAIDsやアセトアミノフェンといった痛み止めは、下痢をしている際のおなかの痛みなど、一部を除いたさまざまな部位の痛みに有効です。ただし、部位や原因となる病気などによって、どの成分が効きやすいのか若干の違いが認められることもあります。今回のテーマである歯痛に関していえば、イブプロフェンの効果はアセトアミノフェンより幾分高いと知られています (6)。

 

NSAIDsには、イブプロフェン以外にも多くの薬があります。これら、NSAIDs同士で痛み止めとしての効果に優劣があるかといわれれば、現時点では明らかな差は知られていません (1)。同じ人を対象にして似たような薬を使い比べれば、効果や副作用に多少の違いがあるのが普通です。しかし、これは薬自体の優劣というよりも、むしろ個々の薬と人との相性の問題であることが一般的です。いわゆる、薬の「合う・合わない」というものです。したがって、これまで痛み止めを使った経験がほとんどない人の場合では、どの成分を選ぶかにはあまりこだわらなくても問題ありません。どれを使っても、それなりに効果があります。イブプロフェンとは違う成分の話になりますが、先ほど挙げたアセトアミノフェンと、ロキソプロフェンおよびメフェナム酸という2種類のNSAIDsを使って、歯痛をやわらげる効果を比較した試験では、どの薬でもおおむね似たような結果となりました (7)。

 

あえてイブプロフェンの特徴を紹介するならば、50年以上にわたって80以上の国や地域で使用されている、非常に歴史ある薬であることが挙げられます (8)。登場して間もない薬は、まだ有効性や安全性に関するデータが十分に蓄積されていませんから、後々になって未知の副作用が出てくることがまれにあります。その点、イブプロフェンのように昔から使われている薬は、そうした情報がすでに出尽くしていますから、ある意味で安心といえます。

 

3.ブロモバレリル尿素について

ここまでを読んでいただいた方は、「ナロンエースはなかなかよさそうだ」と感じているかもしれません。しかしながら、率直にいえば個人的にはあまり使用を推奨したくない薬です。私の薬局に痛み止めを買いに来た人にも、ナロンエースを勧めることは原則としてありません。

 

その理由は、ロイヤル頭痛薬以外のナロンエースに含まれる「ブロモバレリル尿素」という成分です。上では詳しく触れませんでしたが、これは睡眠薬として使用されることがある成分です。「なぜ痛み止めの薬に睡眠薬が配合されているのか?」と疑問に感じることでしょう。これは、私にもよくわかりません。メーカーによれば「鎮痛効果を高める」目的で入れられているそうですが (9)、薬理学などの観点からはピンと来ないのが正直なところです。

 

むしろ、副作用のほうが問題となります。まず、だれもがすぐに思いつくであろう、眠気です。もともと睡眠薬として使用される成分が含まれているのですから、これは当然に起こりえます。ほかの多くの痛み止めには、眠くなる成分が入っていないので、この点はナロンエースの明確な短所といえます。

 

また、ブロモバレリル尿素は長期的に使用した場合に、別の問題を起こすことも知られています。具体的には、依存性そして慢性ブロム中毒です。前者の依存性についてはご存じの方も多いでしょうが、特定の薬などを使い続けたのち、それをやめたときに精神または身体に症状を起こすものです。もっとも、睡眠薬として使われる成分にはたいてい依存性がありますので、これはブロモバレリル尿素に限った話ではないのですが。

 

ブロモバレリル尿素に特異的なものは、慢性ブロム中毒です。「ブロム」とは日本語で「臭素」の意味です。ブロモバレリル尿素にはこの臭素という元素が含まれており、長期間服用を続けることで臭素が体内に蓄積し、歩行障害、ふるえ、幻覚などの症状を起こします (10,11)。

 

こうしたことから、ナロンエースは長期の使用には向いていません。実際に、ブロモバレリル尿素を含んだ痛み止めを使い続けたことによると思われる、ブロム中毒が日本において複数報告されています (10,11)。私を含めて、このような成分を含んだ薬が、市販薬として誰でも購入可能な状態にあることを問題視する専門家もいます。イブプロフェンを含んだ痛み止めは、ほかにもたくさんありますから、この成分を使いたい場合はそちらを検討したほうが賢明だと思います。

 

あえてナロンシリーズで歯痛におすすめの製品を挙げるなら、ブロモバレリル尿素が入っていない「ナロンエースロイヤル頭痛薬」です。名前に「頭痛薬」とありますが、ほかの痛みにも有効ですし、効能・効果にも歯痛が記載されていますから、これを歯が痛いときに服用するのには問題がありません。もっとも、さきほども書いたように歯の痛みは急に起こることも多く、急ぎで薬が必要になることもありますから、そうしたケースですでに手元にあるナロンエース (ロイヤル頭痛薬以外も含む) を数回服用するのは構わないと思います。依存性やブロム中毒は、数回服用した程度では、深刻な問題となることはまず考えられないからです。そのときは、さきほど紹介した眠気さえクリアできれば大丈夫です。

 

4.まとめ

ここまで解説したように、ナロンエースは痛み止めとしての効果だけを見れば優秀と評価できるのですが、一緒に入れられている別成分のために基本的には推奨できない薬となっています (ロイヤル頭痛薬は除く)。よく「薬は自己判断で使わず、専門家に相談してから使用しましょう」などといわれるのは、こうしたある意味で危険な薬がだれでも簡単に手に入る現状があるからです。歯痛のような緊急時はそうもいっていられないかもしれませんが、ナロンエース以外の薬についても、できるだけ専門家へ相談のうえで使うようにしてください。

 

■ナロンエースはイブプロフェンとエテンザミドという2種類の痛み止めを含んだ薬である
■歯の痛みをやわらげる効果は、イブプロフェンのほうが類似するアセトアミノフェンより高い傾向にある
■ナロンエースには依存性などを生じる成分「ブロモバレリル尿素」が含まれているものもあるので、長期の使用は避ける

5.参考文献

1. Rainsford KD, Ibuprofen: pharmacology, efficacy and safety. Inflammopharmacology. 2009 Dec;17(6):275-342. PMID: 19949916
2. ナロンエース 添付文書 大正製薬(株)
3. ナロンエースT 添付文書 大正製薬(株)
4. ナロンエースR 添付文書 大正製薬(株)
4. ナロンエースロイヤル頭痛薬 添付文書 大正製薬(株)
6. Cooper SA, et al. J Clin Pharmacol. 1989 Nov;29(11):1026-30. PMID: 2689471
7. 和達礼子ほか 歯薬療法 2013 32(1):16-27.
8. Rainsford KD, Int J Clin Pract Suppl. 2013 Jan;(178):9-20. PMID: 23163543
9. 大正製薬商品情報サイト https://www.catalog-taisho.com
10. Arai A, et al. Intern Med. 1997 Oct;36(10):742-6. PMID: 9372340
11. Kawakami T, et al. Intern Med. 1998 Sep;37(9):788-91. PMID: 9804091