1.アネロンとはどのような薬か
アネロンは、酔い止めとして市販されている薬の商品名です。病院から処方されるものではなく、薬局や薬店で購入するタイプです。現在、流通しているアネロンには以下の2種類があります (1,2)。
■アネロン「ニスキャップ」
■アネロン「キャップ」
いずれもカプセル薬ですが、「ニスキャップ」は大人用、「キャップ」は子供用です。これらは、同種の有効成分を量違いで含んでいます。具体的には、以下の5つの有効成分が1つのカプセルに入っています。
■フェニラミン
■アミノ安息香酸エチル
■スコポラミン
■無水カフェイン
■ピリドキシン
上に挙げた成分のうち、酔い止めの効果として重要なのは、フェニラミンとスコポラミンです。その他の成分については、アミノ安息香酸エチルは乗り物酔いに伴って起こる吐き気の予防、無水カフェインは頭痛の軽減をそれぞれ目的としたもので、いわば補助的な成分です。ピリドキシンはビタミンです。残るフェニラミンとスコポラミンのはたらきについては、乗り物酔いが生じる仕組みと併せて、以下で説明します。
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2.乗り物酔いと酔い止めの効く仕組み
ここまで、特に断りなく「乗り物酔い」という表現を使いましたが、これは医学的に正確な病名ではありません。正しくは、「動揺病」または「加速度病」といいます。ですが、小難しいためこの記事では以下でも「乗り物酔い」の表記を用います。乗り物酔いが起こる仕組みについては、完全には明らかになっていないものの、現時点で次のようなことがわかっています。
ヒトの耳の奥 (内耳) には、前庭という感覚器官があります。「耳の中のカタツムリ」といった表現を聞いたことがある方もいらっしゃるでしょうが、そのカタツムリは前庭の一部のことです。前庭は、平衡感覚に関与することが知られています。乗り物は加減速やカーブなどの運動をしますが、これらは前庭の刺激することで自律神経の機能を乱し、吐き気・発汗・顔面蒼白などの症状を起こします。これが乗り物酔いです。ちなみに、自律神経とは意思と無関係に内臓その他のはたらきを調整している神経のことです。
以上を考慮すれば、乗り物酔いを改善する方法も見えてきます。つまり、前庭への刺激によって生じた、自律神経の異常を正常化すればよいのです。もうお分かりかもしれませんが、この目的に合致するのが、先ほど挙げたフェニラミンとスコポラミンです (3)。この2つは神経の伝達に必要な物質のはたらきを抑制する作用を持ちます。こうした物質にはたくさんの種類があるのですが、フェニラミンとスコポラミンで影響する物質が異なります。具体的には、フェニラミンはヒスタミン、スコポラミンはアセチルコリンという物質にかかわります。
3.アネロンと他の酔い止めはどこが違うか?
アネロンに含まれる成分のうち、フェニラミンはヒスタミンの作用を抑えるため「抗ヒスタミン薬」と呼ばれます。実は、こうした「抗ヒスタミン薬+スコポラミン」という組み合わせの酔い止めは、他にもたくさんあります。酔い止めに配合される抗ヒスタミン薬には、他に次のようなものがあります。
■ジフェンヒドラミン
■メクリジン
■ジメンヒドリナート
では、これらの抗ヒスタミン薬の種類によって、酔い止めの効果に差があるのか?と問われれば、現時点で明らかな差は知られていません。どれでもそれなりに効果があります (4)。つまり、単純に酔い止めの効果として見た場合、薬の種類によって一般的な優劣はないので、数種類を試してみてもっとも感触がよかったものを選択すればよいわけです。
他の酔い止めと比較してアネロンで特記すべき特徴として、1日1回で済むことが挙げられます (1)。他の製品の場合、効果の持続時間の関係から1日2-3回の服用が必要なことが多いので、服用の手間が減るのはメリットといえるでしょう。
ここから先、アネロンを使用するにあたっての注意点を書きますが、たった今述べたように、市販の酔い止めに含まれる成分の組み合わせはどれも似たようなものです。そのため、以下の内容は他の酔い止めにも当てはまると考えていただいて問題ありません。
4.酔い止めの使用上の注意
■乗る30分前に飲む
飲み薬というのは、服用してすぐには効きません。これは、口から飲み込んだ薬が消化管を移動して、小腸まで到達して初めて身体に吸収されるため、その分の時間がかかるからです。酔い止めの場合、その効果を期待するのは当然ながら乗り物に乗っているときです。乗り込んでから飲んだのでは、薬の効果が出始めるまでに酔ってしまう可能性があります。そのため、酔い止めは乗り物に乗り込む30分前のタイミングで飲むのが理想です。もちろん、実際に酔ってしまってから飲んでも効果はありますが、より上手に使用するためにはこのようにした方がよいでしょう。
■使用してはいけない人
酔い止めに含まれる抗ヒスタミン薬やスコポラミンは、緑内障や前立腺肥大の症状を悪化させるため、こうした持病がある人は通常、服用できません。なお、これらの病気を持つ人は、他にも使えない薬がいろいろとあるので、その都度に確認するのがよいでしょう。
■頻度の高い副作用は眠気
酔い止めの副作用として注意すべきものに、眠気があります。これには、抗ヒスタミン薬の影響が大きいと考えられています。乗り物からの景色を楽しみたい場合や、釣りの際の船酔い予防に酔い止めを使うときは、この副作用が問題となりやすいでしょう。さきほど少し触れましたが、抗ヒスタミン薬にはたくさんの種類があります。酔い止めとして用いられるのは、比較的眠気が強い成分です。こうしたものを「鎮静性抗ヒスタミン薬」と呼びます。
その逆に、眠気を起こしにくい「非鎮静性抗ヒスタミン薬」というものもあるのですが、残念なことにこちらは酔い止めとしての効果がほとんどないと知られています (4)。少なくとも当面は、眠気のない酔い止めは登場しないでしょう。もっとも、寝ることは乗り物酔いへの代表的な対処法の1つでもあります。自分で運転する場合はそういうわけにもいかないでしょうが、単に乗っているだけならば、酔い止めの眠気に任せて、いっそのことそのまま眠ってしまうのも手です。
■自覚のない副作用に注意
もう1つ、注意すべき副作用があります。こちらは眠気と比べてあまり一般に知られていませんが、重要なものです。
それは、判断力や注意力の低下です。眠気などを自覚しないで、こうしたことが起こり得ます。この副作用を起こす原因として、よく知られているのは抗ヒスタミン薬です。しかし、スコポラミンでも同様の副作用が起こることが分かっています (5)。酔い止めにはこれらの両方が入っていることが多いので、よりリスクが高いと考えるべきです。専門的には、こうした現象を「インペアードパフォーマンス」と呼びます。
自分で乗り物を運転しないならば、眠気と同様に大きな問題にはならないでしょう。ただし、状況によっては危険です。例えば、海釣りの際の船酔い予防に酔い止めを飲む場合。このとき、海までの行き帰りで車を運転すると、インペアードパフォーマンスが問題となります。運転中にこの影響を受けていると、交通事故を起こす可能性が高くなります。実際、抗ヒスタミン薬によって運転能力にかなりの悪影響が生じることが知られています (6)。このようなシチュエーションでは、酔いにくい人に運転を任せるなどした方がよいでしょう。アネロンは1日1回で済むことは上で書きましたが、これは裏を返せば副作用も長引くことを意味しますから、より注意が必要です。
5.まとめ
■アネロンは1日1回服用で済む酔い止めである
■有効成分のうち重要なのはフェニラミンとスコポラミンで、これは他の酔い止めとも類似する
■乗り物に乗り込む30分前に服用するとよい
■副作用として眠気を生じるほか、自覚のない判断力・注意力の低下を起こすため注意する
6.参考文献
- アネロン「ニスキャップ」 添付文書 エスエス製薬(株)
- アネロン「キャップ」 添付文書 エスエス製薬(株)
- Spinks A, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2011 Jun 15;(6):CD002851. PMID: 21678338
- Sutton M, et al. Am Fam Physician. 2012 Jul 15;86(2):192-5. PMID: 22962932
- Koller G, et al. Neuropsychobiology. 2003;48(2):87-94. PMID: 14504417
- Verster JC, et al. Ann Allergy Asthma Immunol. 2004 Mar;92(3):294-303. PMID: 15049392
