1.西洋医学と東洋医学の違い

現在、医療の中心になっているのは西洋医学です。西洋医学では体の悪い部分を見つけ出し、手術で切除したり、薬で直接治したりします。病気の治療というと西洋医学のイメージを持つ方が多いのではないでしょうか?

 

これに対して東洋医学は、悪い部分ができる原因を考え、体質を改善することで、体の内側から病気の原因に対して働きかけ、病気を治療したり未然に防いだりするという考え方になります。東洋医学では漢方薬の他に、鍼やお灸、あん摩による治療が行われます。

 

2.複数の生薬を組み合わせて作られる漢方薬

漢方薬は植物や動物、鉱物などを加工して作られた生薬を複数組み合わせて作られています。補中益気湯の場合、以下のように10種類もの生薬が組み合わせて作られています。

黄耆(オウギ): マメ科キバナオウギ又はナイモウオウギの根を乾燥したもの
蒼朮(ソウジュツ):キク科ホソバオケラの根茎を乾燥したもの
人参(ニンジン):ウコギ科チョウセンニンジンの根を乾燥したもの
当帰(トウキ):セリ科トウキ属植物の根を乾燥したもの
柴胡(サイコ):ミシマサイコの根を乾燥したもの
大棗(タイソウ):クロウメモドキ科ナツメの果実を乾燥したもの
陳皮(チンピ):ミカン科ウンシュウミカンの果皮を乾燥したもの
甘草(カンゾウ):マメ科カンゾウ属植物の根や根茎を乾燥したもの
升麻(ショウマ):サラシナショウマの根茎を乾燥したもの
生姜(ショウキョウ):ショウガ科ショウガの根茎

一つ一つの生薬も様々な薬効を持っていますが、漢方薬では複数の生薬を組み合わせることで、お互いの欠点を補ったり、効果を強め合ったりできるように作られています。患者さんの状態(証)ごとに様々な漢方薬の組み合わせ(処方)が存在します。

 

補中益気湯ってどんな薬?

補中益気湯は、漢方の古典「脾胃論」に以下のように記載されています。

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内傷不足ノ病、筍モ謝リ認メテ外感有余ノ病ト作シテ反テ之ヲ瀉スレバ、即チ其ノ虚ヲ虚スル也。実ヲ実シ、虚ヲ虚ス。此ノ如クシテ死スル者ハ、医之ヲ殺スノミ。

シカル時ハ即チ如何セン。惟レ当ニ辛甘温ノ剤ヲ以テ其ノ中ヲ補シ、其ノ陽ヲ升シ、甘寒ヲ以テ其ノ火ヲ瀉スレバ即チ愈ユベシ。経ニ曰ク、労スル者ハ之ヲ温メ、損スル者ハ之ヲ益スト。又云ウ、温ハ能ク大熱ヲ除クト。大イニ苦寒ノ薬ヲ忌ム。其ノ脾胃ヲ損スレバナリ。脾胃ノ証初メテ得ル時ハ即チ熱中ス。今立チテ始メニ得ルノ証ヲ治ス。

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「温ハ能ク大熱ヲ除クト。大イニ苦寒ノ薬ヲ忌ム。」とありますが、脾胃(中)の内傷に夜大熱には温剤がよく、苦寒の薬を用いてはならないという意味です。一見、熱が高くなり、体が病邪と戦っているように見えても、実際は体力が消耗してしまった結果起きている見せかけの発熱のことがあります。その場合、病邪を攻めるとますます消耗してしまうため、気を補うことが先決となります。この考えに基づいて作られたのが補中益気湯でその名前は「中即ち脾胃を補い元気を益す薬」 という意味です。

 

2-1. 捕気剤の筆頭に挙げられる補中益気湯

東洋医学には「気血水」という考え方があります。その中でも「気」とはいわゆる元気(エネルギー)の元です。気が不足、もしくはしてその作用を発揮できなくなっている状態を「虚気」と言います。気を補うことで虚気を解消し、元の状態に戻す薬剤を「捕気剤」と呼びます。

 

補中益気湯に含まれる各生薬の働き

補中益気湯を構成する生薬が、それぞれどのような働きを持つのか簡単にまとめてみたいと思います。

 

黄耆・・・脾に作用して気を補うだけでなく、肺の働きも補い、脾で作られた気が全身に巡るのを助けます

蒼朮・・・汗をかかせることで体の余分な水分を抜きます

人参・・・黄耆と協力して気の不足を補います

当帰・・・虚気によって不足している血を補います

柴胡・・・脾胃で作られた気を肺に運ぶのを助けます

大棗・・・脾胃に働きかけ、気を肺に運びます

陳皮・・・補われた気が滞らないように気の巡りを進めます

甘草・・・人参と同じように、脾に作用して気を補います。

升麻・・・柴胡と同じように脾胃で作られた気を肺に運ぶのを助けます

大棗・・・脾胃に働きかけ、気を肺に運びます

生姜・・・大棗と同じように脾胃に働きかけ、気を肺に運びます。

 

このような働きを持つ生薬の組み合わせにより補中益気湯は気を補充し、エネルギーを高め、倦怠感を解消したり、それに伴う様々な症状に対して効果を発揮します。

 

2-2. 医薬品として使用されている補中益気湯

補中益気湯は医療用医薬品としての承認を受けており、医療保険の対象となっています。承認されている効能・効果は以下のような内容になります。

消化機能が衰え、四肢倦怠感著しい虚弱体質者の次の諸症:
夏やせ、病後の体力増強、結核症、食欲不振、胃下垂、感冒、痔、脱肛、子宮下垂、陰萎、半身不随、多汗症

記載されている内容をみてみると、「結核症」「痔」「脱肛」なんてものもあるので少し驚いてしまうかもしれません。

医療用医薬品として承認されている補中益気湯は13種類あり、メーカーや剤型(顆粒、細粒、散、錠剤)が異なり、中には生薬の配合量が異なりますが、効果に大きな差はありません。

 

補中益気湯は一般用医薬品としても多く販売されています。ほとんどが「補中益気湯」という名前を冠しているのでわかりやすいと思いますが。「リハビット®︎」のように商品名に「補中益気湯」を含まないものもあるので名前だけで判断しないように注意が必要です。

 

3.補中益気湯によるインフルエンザ予防効果

体力を充実させる補中益気湯には免疫力を高める効果も期待できます。

免疫強化については医療保険では認められていませんが、補中益気湯が免疫を活性化させるメカニズムについての研究が複数行われていますし、インフルエンザの感染を抑えることができたという研究成果も報告されています。

2009年 新型インフルエンザ(A/H1N1 pdm2009)が流行した際、愛生病院の職員を対象として、補中益気湯の服用の有無がインフルエンザ感染に影響するかどうかの研究が行われました。(帝京大学 新見正則氏)対象は358人の職員で、補中益気湯を服用しなかった179名のうち7例がインフルエンザに感染、補中益気湯を服用した179名(途中でやめた人を含める)のうち1例がインフルエンザに感染しました。この結果から、補中益気湯で新型インフルエンザを予防できる可能性があることがわかります。

 

4.まとめ

補中益気湯は慢性的な疲れや消化機能の衰えに伴う様々な症状に対する適応を持ち、医療用だけでなく一般用医薬品としても広く使用されている漢方薬です。気を補充させることで、体のエネルギーを高め、様々な症状を緩和します。免疫力を向上させる働きについても注目されており、インフルエンザ感染の予防を示唆する研究結果も報告されています。

 

5.参考

ツムラ補中益気湯エキス顆粒(医療用) 添付文書

高山宏世 「腹証図解 漢方常用処方解説 改訂版」, 2019

タケダの生薬・漢方薬事典 生薬図鑑(https://takeda-kenko.jp/kenkolife/encyclopedia/)Niimi, M.et al. BMJ. 2009, 339: b5213.