目次:HIVとAIDSの違いとは?

・「HIV」と「AIDS」の違い
・AIDSとはどのような病気か
・HIV感染症の典型的な経過
 >急性感染期
 >無症候期
 >AIDS発症期
・HIVの感染経路
・まとめ

「HIV」と「AIDS」の違い

HIVはウイルスの名前・AIDSは病気の名前

これから何回かに分けて、HIVとそれに関係する薬について解説していきます。
それに先立ちまして、用語の解説をしておきます。

「HIV」と「AIDS (エイズ)」の2つの用語は、しばしば混同されていますが、それぞれ意味が異なりますので、この違いを整理しましょう。

それぞれ、次の英語の略記です (1)。

●HIV:Human Immunodeficiency Virus
●AIDS:Acquired Immunodeficiency Syndrome

これらを日本語訳すると、HIVは「ヒト免疫不全ウイルス」に、AIDSは「後天性免疫不全症候群」になります。

ご存知のように、ウイルスとは病原体である微生物を指します。一方、症候群とは「いくつかの症状の組み合わせ」という意味です。

要するに、HIVはウイルスの名前で、AIDSは病気の名前です。もっと分かりやすく書けば「AIDSの原因となる病原体がHIVである」ということです。

AIDSとはどのような病気か

ウイルスに感染してから発症までは1~10年程度

AIDSの日本語は、先ほど紹介したように「後天性免疫不全症候群」です。HIVは「ヒト免疫不全ウイルス」なので、ヒトを免疫不全の状態にいたらしめる能力をもちます。要するに、免疫力を低下させるウイルスです。

生まれつきのものは「先天性」と呼びますが、 「後天性」とは、その逆の「生まれつきでなく」という意味合いです。そのためAIDSは、「HIVに感染することで、免疫機能に異常をきたした病気」と理解していただければ問題ありません。

ところで、HIVに感染しても、すぐに免疫不全状態になるわけではありません。さまざまな条件に左右されますが、感染してから発症までは1~10年程度かかるといわれています (1, 2)。

そのため、「HIVには感染しているが、AIDSはまだ発症していない」段階が存在します。この連載では、今後AIDS発症の有無にかかわらず、HIVに感染した状態を「HIV感染症」と呼ぶことにします (2)。

HIV感染症の典型的な経過

HIV感染症は、その時間経過にもとづいて、大きく次の3つのステージに分けられます (2)。

●急性感染期
●無症候期
●AIDS発症期

急性感染期

「かぜっぽい」症状が出る

HIVに感染すると、その後1-2週間でウイルスが体内で急激に増えていきます (2)。

これに伴って、ウイルスの増殖を抑え込もうとする免疫反応が起こってきます。当初は、ウイルスが増える勢いが優勢で一気にウイルスが増えますが、しばらくするとこれを抑える免疫機能によってウイルスは減少します。

やがて、あるところでウイルスの増殖スピードと、免疫がウイルスを排除するスピードが釣り合った状態に落ち着きます。ここまでの過程を「急性感染期」と呼びます (2)。

HIVに感染した人のうち40~90%程度に、初期にウイルスが増える段階で、次のような症状がみられます (3)。

●発熱
●リンパ節の腫れ
●咽頭炎
●皮疹
●筋肉痛
●関節痛

一見して明らかなように、いわゆる「かぜっぽい」症状が並んでいます。急性感染期におけるこうした症状は、HIV感染のサインとなるのですが、こうしたことから「かぜでもひいたのかな?」と見逃されがちといえます。

無症候期

特に症状がない時期

急性感染期が過ぎると、ウイルス増殖の勢いと、免疫機能とが拮抗したステージに入ります。この間は、ウイルスの量は増えも減りもせず、ほとんど一定のところを保っています。

このステージでは、どういった症状がみられるかといえば、特に症状はありません。これは、まだHIVによって免疫機能が完全にやられていないためですが、ともあれウイルスは体内に存在しています。これを無症候期と呼びます。

そのため、症状こそありませんが、無症候期にも着々とHIVによる免疫機能の破壊は続いています。ただし、この段階ではすぐに大きな問題が起きることは稀なので、HIV感染症においては無症候期ができるだけ長く続いてくれた方がよいわけです。

では、どのくらい無症候期は続くのか、気になるところと思います。この点については、かつては10年くらいだろうと考えられていました。

しかし、最近になって無症候期がどのくらい続くかには、個人差が大きいと知られるようになりました。アメリカの調査では新規のHIV感染者のうち36%が1年以内にAIDSを発症したという報告もあります (4)。

したがって、無症候期の長さについては、個々のケースでまちまちなので、一概にいえないのが現状です。

AIDS発症期

免疫機能が極端に低下する

無症候期がある程度続くと、免疫系へのダメージが蓄積し、ある時点で免疫不全レベルにまで達します。これ以降をAIDS発症期と呼びます。

AIDSになると、免疫機能が極端に低下するため、いろいろな病原体による感染症にかかりやすくなります。また、通常の免疫機能を持つ人では極めて稀な悪性腫瘍 (いわゆる「がん」) を発症しやすくなります (1, 2)。

こうしたことから、何も治療を行わない場合、AIDSを発症してから2年程度で死亡するといわれています (2)。

HIVの感染経路

HIVは、どこからヒトに感染するのでしょうか。

まず、大前提として知っておいていただきたいことは、HIVはとても弱いウイルスであり、感染する能力は非常に弱いということです (1)。

そのため、感染するのはHIVが直接血液に入り込むか、これに準じたケースだけです。具体的にいえば、次の3つが重要な感染経路になります (5)。

●血液
●性行為による感染
●母子感染

HIV感染者の血液や精液などの体液にはHIVが含まれているので、感染のもとになります (6)。しかし、これらも正常な皮膚に触れただけで感染することはありません (5)。

したがって、ごく一般的な人付き合いの範疇で、HIVがヒトからヒトに感染する可能性は、ほぼないといってよいでしょう。口の中を出血していない限り、キス程度で感染することもありません。

まとめ

■HIVは「後天性免疫不全症候群 (AIDS)」の原因となるウイルスである
■HIV感染症は、急性感染期・無症候期・AIDS発症期の3つのステージからなる
■HIVは血液をはじめとした体液が感染のもとになるが、感染力は極めて弱い

参考文献

(1) 東匡伸・小熊惠二・堀田博 編集 シンプル微生物学改定第5版 南江堂
(2) HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究班 抗HIV治療ガイドライン http://www.haart-support.jp/pdf/guideline2016v2.pdf
(3) DHHS Panel on Antiretroviral Guidelines for Adultsand Adolescents. Guidelines for the Use of Antiretroviral Agents in HIV-1-Infected Adults and Adolescents
(4) CDC; Cases of HIV Infection and AIDS in the United States and Dependent Areas, 2007.(http://www.cdc.gov/hiv/topics/surveillance/resources/reports/2007report/table2.htm)
(5) 藤井 輝久 III.HIVの感染経路 日本内科学会雑誌 2009;98:2762-2766
(6) Liuzzi G, et al. Analysis of HIV-1 load in blood, semen and saliva: evidence for different viral compartments in a cross-sectional and longitudinal study. AIDS. 1996 Dec;10(14):F51-6. PMID: 8970677