目次:なぜ、HIVに感染すると免疫機能が低下するの?

・なぜ、HIVに感染すると免疫機能が低下するのか?
 >HIVに感染すると白血球が減る
・病状の2つの指標
 >CD4陽性T細胞
 >HIVRNA
・薬はいつから飲むのがよいのか?
 >近年は「できるだけ早く」がスタンダード
・薬でHIV感染症を完治させることは可能か?
 >HIV感染症の完治が事実上不可能な理由

なぜ、HIVに感染すると免疫機能が低下するのか?

HIV感染症によって、免疫機能が低下することは前回の記事で述べました。
今回は、HIV感染症の治療にも大きくかかわる、この免疫機能低下について解説します。

HIVに感染すると白血球が減る

HIVによって免疫機能が低下するメカニズムをひとことで表現すれば、「CD4陽性T細胞の数が減るから」です。

CD4陽性T細胞とは、免疫機能を担う「T細胞」という細胞のグループの中で、特に「CD4」という物質を表面に持っている種類のことを指します (1)。

「免疫機能を担うのは、白血球では?」と思うかもしれません。その通りなのですが、一口に「白血球」といっても、細かく見るといろいろな種類があり、T細胞はその一種です。

ここでは「CD4陽性T細胞=CD4を持つ、ある種の白血球」と考えてください。

免疫機能の司令塔に相当

なぜ、CD4にこだわるかといえば、その理由は大きく2つあります。

1つ目は、CD4を持つ細胞は、免疫機能上重要なものが多いからです。CD4を持つT細胞はいくつか種類がありますが、もっとも重要なのは「ヘルパーT細胞」と呼ばれるものです (1)。

ヘルパーT細胞は、その名の通り、他の白血球の機能を助ける (ヘルプする) はたらきをします。

具体的には、ヘルパーT細胞が病原体などの異物を発見すると、他の白血球に向かって「外敵を排除しろ」というシグナルを送ります。これをキャッチした他の白血球が、その異物を飲み込んだり、破壊したりします。

つまり、ヘルパーT細胞は、免疫機能のなかでも「司令塔」に相当する 重要なポジションにあるのです。HIVはこれを減らすため、非常に危険なのです。

HIVはCD4にとりつく

もう1つの理由は、HIVが細胞に侵入するときに、CD4が必要だからです。

HIVは、CD4にくっつく「手」のような物質を持っており、これを使ってCD4陽性T細胞にくっつき、中に侵入します (1)。

逆にいえば、CD4を持っていない細胞には、HIVは侵入しません。HIVといえども、中に侵入できなければ、その細胞に対して悪さをすることはできません。

だからこそ、HIV感染症ではCD4陽性T細胞が減っていくのです。

病状の2つの指標

① CD4陽性T細胞

CD4陽性T細胞の数は、HIV感染症がどの程度進行しているかの、1つの指標になります。もちろん、CD4陽性T細胞は多いほどよく、少ないと病気が進行している、ということです。そのため、AIDSの治療を受けている人は「CD4値が増えた」「CD4値が減った」という情報を主治医からよく耳にするはずです。

健康な人のCD4陽性T細胞数は、血液1μLあたり500-1000個程度ですが、HIV感染症によってこれが200未満になると、さまざまな感染症のリスクが高まることが知られています (2)。

これに加えて、もう1つHIV感染症の進行の度合いをあらわす指標が知られています。それが「HIV RNA」です (2)。

② HIVRNA

HIVが持つ「RNA」とは何か?

「RNA」とは聞き慣れない単語かもしれません。しかし、生物の遺伝情報が書き込まれた「DNA」はご存知と思います。RNAは、その親戚のようなものだと思ってください。

ウイルスの種類によっては、遺伝情報の記録装置として、DNAの代わりにRNAを使う場合があります。HIVもその一種です。

要するに、HIV RNAは、HIVのなかにある物質なので、これが多いということは体内にいるHIVの量も多いことを意味します。逆に、薬を飲んでHIV RNAが減ったということは、治療が効いたということです。

こうしたことから、CD4陽性T細胞およびHIV RNAは、それぞれ主に次の指標として参照されます。

●CD4陽性T細胞:患者の免疫力がどのくらいあるか
●HIV RNA:治療がどのくらい効いたか

薬はいつから飲むのがよいのか?

後日に詳しく触れますが、HIV感染症の治療は、薬を飲むことで行います。これにより、HIVの増殖を抑え込むわけですが、薬を飲み始めるタイミングは、いつがよいのでしょうか。

この点については、かつては「CD4陽性T細胞が、ある程度減ったら治療を開始する」というスタンスが一般的でした。

近年は「できるだけ早く」がスタンダード

しかし、最近になって、治療開始は早めにした方が、真のエンドポイントを改善する効果が高いことが知られるようになりました。その根拠となるデータは、いずれも2015年に発表された「START」と「TEMPRANO」という2つの大規模研究です (3, 4)。

これらは、いずれもCD4陽性T細胞が、まだ比較的多いHIV感染症患者に対して、早めに薬を開始する場合と、CD4陽性T細胞が減るまで待ってから開始する場合で、治療効果を比較したものです。結果として、早めに薬を始めたグループの方が、死亡率などが低いことが分かりました (3, 4)。

こうしたことから、現在では「HIV感染が確認されたら、CD4陽性T細胞の数にかかわらず、薬を開始する」というのが、世界的にスタンダードなアプローチになっています (2, 5-7)。

薬でHIV感染症を完治させることは可能か?

HIV感染症の治療に使う薬については、日進月歩といった状態で、一昔前に比べれば、かなり進歩したといってよいでしょう。

しかし、残念ながら現在の医療水準をもってしても、薬でHIV感染症を完治させることは、事実上不可能です。

HIV感染症の完治が事実上不可能な理由

メモリーT細胞のなかにHIVが長期間潜伏する

これは、HIVが「メモリーT細胞」という、T細胞の一種にも感染することが原因とされています (8)。メモリーT細胞は、一度体内に侵入した異物に関する記憶 (メモリー) を担当します。

「おたふくかぜ」を思い出してほしいのですが、子供のころに一度かかると、普通はその後一生かかることはありません。これは、過去に感染した記憶を、メモリーT細胞がずっと覚えているからです。

メモリーT細胞のもう1つの特徴として、とても寿命が長いことが挙げられます。だからこそ、記憶担当として役立つのですが、HIV感染症においては、この寿命の長さがアダになります。

HIV感染症を完治させるには、メモリーT細胞のなかにいるHIVも駆除しなければなりませんが、これにかかる時間は、なんと平均73.4年です (2)。

そうこうしているうちに、人間の寿命の方が尽きてしまうケースが大半ですので、結果的に、HIV感染症の薬は一生飲み続ける必要があるのです。

まとめ

■HIVはCD4陽性T細胞に感染し、これを破壊する
■CD4陽性T細胞のメインは、ヘルパーT細胞という免疫機能の司令塔である
■CD4陽性T細胞がどのくらい残っているかは、患者の免疫機能を評価するうえで役立つ
■HIV RNAは、治療がどのくらい効いたのかの指標となる
■HIV感染症の薬は、できるだけ早く開始し、通常は一生継続する

参考文献

(1) 矢野明彦 他 医学・薬学のための免疫学 東京科学同人
(2) HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究班 抗HIV治療ガイドライン http://www.haart-support.jp/pdf/guideline2016v2.pdf
(3) INSIGHT START Study Group, Initiation of Antiretroviral Therapy in Early Asymptomatic HIV Infection. N Engl J Med. 2015 Aug 27;373(9):795-807. PMID: 26192873
(4) TEMPRANO ANRS 12136 Study Group, A Trial of Early Antiretrovirals and Isoniazid Preventive Therapy in Africa. N Engl J Med. 2015 Aug 27;373(9):808-22. PMID: 26193126
(5) World Health Organization, Consolidated guidelines on the use of antiretroviral drugs for treating and preventing HIV infection Recommendations for a public health approach - Second edition 2016
(6) European AIDS Clinical Society, GUIDELINES Version 8.0 October 2015
(7) DHHS Panel on Antiretroviral Guidelines for Adultsand Adolescents, Guidelines for the Use of Antiretroviral Agents in HIV-1-Infected Adults and Adolescents
(8) Wei X, et al. Viral dynamics in human immunodeficiency virus type 1 infection. Nature. 1995 Jan 12;373(6510):117-22. PMID: 7529365