1.便秘薬の分類と副作用

(1)便秘薬の分類:吸収されるもの・されないものがある

便秘薬には、消化管から吸収される薬とされない薬があります

 

消化管から吸収されないものは、身体を素通りするのと同じことなので、全身に対する作用を期待する薬としては使用できません。

ところが、こうした成分でも薬として使用できる例外的なケースがあります。それはもっぱら胃や腸のなかで作用することを期待する場合です。こうした成分を含んだ薬の場合は、身体の中に成分が入らないことは、無用な副作用のリスクを低減できるため、むしろメリットになります。

(2)分類ごとの商品名と副作用

実は、便秘薬の多くは、消化管からほとんど吸収されません。便秘薬にはたくさんの種類がありますが、現在日本で使用される頻度の高い薬を分類すると、次のようになります (2)。

 

吸収されないもの

・酸化マグネシウム:商品名「マグミット」など

・センノシド:商品名「プルゼニド」「新サラリン」「コーラックハーブ」など

・リナクロチド:商品名「リンゼス」 (医療用のみ)

 

吸収されるもの

・ルビプロストン:商品名「アミティーザ」 (医療用のみ)

 

これらのうち、特に「酸化マグネシウム」と「センノシド」はよく使用される薬で、普通に病院でもらう便秘薬は、大半がこれらのどちらかまたはその亜種といえるものです。上記のラインナップに加えた「リナクロチド」と「ルビプロストン」は、比較的最近開発された、新しい作用メカニズムを持った便秘薬です。ただし、その使用頻度はあまり高くなく、しかも医療用医薬品しかないので、病院を受診しないともらえない薬です。そのため、目にする機会も少ないと思います。「そういう薬もあるのか」程度の理解で十分でしょう。

 

そこで、まずはこの酸化マグネシウムおよびセンノシドの2成分を中心に、以下で詳しく述べていきます。

酸化マグネシウム

酸化マグネシウムは、病院などから処方される機会も便秘薬のなかで圧倒的に多く (2)、また現在では市販薬も販売されていることから (3)、目にする機会は多いと思います。

 

この薬が便秘に効く仕組みは、腸の中に水分を保持することで、便を柔らかくすることです (4)。どうして酸化マグネシウムを飲むと、腸の中の水分が増えるのか、その仕組みはこういうことです。

 

ナメクジに塩をかけて退治した経験は、誰しもあると思います。塩をかけたその後の経過をつぶさに観察すると、ナメクジの体内から水分が抜けて、干からびたようになるのが分かります。これは、塩の主成分である「ナトリウム (正確には、塩化ナトリウム)」という物質が原因です。

 

ナトリウムは、俗に「塩分」とか「ミネラル」と呼ばれる物質の一種で、こうした物質は一般的に水を引き付ける性質を持っています。ナメクジの体表は粘膜がむき出しで、水分が自由に出入りできるので、塩を振りかけた身体の外側に水分が移動し、こうしたことが起こるのです。

 

ちなみに、よく「塩分をとり過ぎると血圧が上がる」といわれますが、あれは食塩に含まれるナトリウムを体内に取り込むことで、身体に余分な水分を呼び込んでしまうからです。水分が多くなり血液量が増え過ぎると、血管が押し広げられます。多くなった血液を送り出すポンプである心臓も、より強く拍動します。こうして血圧が上がります。

 

それはさておき、マグネシウムもミネラルの一種なので、ナトリウムと同じように水を引き付ける性質を有しています。これにより便が水分を多く含むようになり、柔らかくなるのです。その作用メカニズムの関係上、水分が少なく、便が固くなっているタイプの便秘に特に効果的です。

 

酸化マグネシウムの副作用は、そのほとんどが下痢です (4)。これは要するに、便秘を改善する効果が出過ぎたため、すなわち「効きすぎ」ということです。飲む量を増やせばその分便が柔らかくなり、減らせば硬くなります。どのくらいの量が適しているかはかなりの個人差があるので、様子を見ながら量を調整していくのがよいでしょう。

 

一方で、他の副作用はほとんど報告されていません。これは繰り返し述べているように、酸化マグネシウムは基本的に消化管から吸収されない薬だからです。

 

これはすべての薬に共通していえることですが、消化管から吸収できるのは、水に溶けた成分だけです (1)。ところが、酸化マグネシウムはとても水に溶けにくい物質ですから (5)、そもそも身体に吸収できる状況が整わないためです。

センノシド

酸化マグネシウムと並ぶ、二大便秘薬とでも呼ぶべき薬が、センノシドです。昔から「便秘によい」と知られている「センナ茶」というお茶を聞いたことがある方もいるでしょう。これは、その名の通り「センナ」というマメ科の植物を原料として作られたお茶なのですが、そのセンナに含まれる成分が、このセンノシドです (6)。

これも酸化マグネシウムと同じく、消化管から吸収されることなく作用するタイプの便秘薬ですが (7)、その効果の仕組みはずいぶん異なります。

 

腸は筋肉で出来ており、規則的な収縮運動をすることで、食べ物や便を肛門側に運んでいます。こうした腸の動きのことを「蠕動運動 (ぜんどううんどう)」と呼びます。センノシドは、この蠕動運動を活発にします (8)。すると、これまで腸のなかに滞っていた便が押し出されるので、便通が促される、という仕組みです。

 

さて、センノシドがこうした作用をもった成分であることを踏まえれば、その副作用も自ずと明らかと思います。1つ目は、酸化マグネシウムと同じく、下痢です (8)。これも要するに「効きすぎ」が原因です。やはり、どの程度の薬の量が適しているかは、個人差やその時々の状態によって異なるので、便通次第で調整していくのが基本です。

 

もう1つ、こちらは酸化マグネシウムとは異なるところですが、センノシドは比較的腹痛を起こしやすい便秘薬です (8)。というのも、腸の蠕動運動が激しすぎると、それにともなってお腹が痛くなるためです。これも元をただせば「効きすぎ」によるものなので、起きた場合は減量が基本です。

2.安心して服用するための注意点

酸化マグネシウムとセンノシドは、いずれも消化管から吸入されることなく効果を発揮する便秘薬という点で共通していますが、特記すべき相違点もあります。

 

それは、酸化マグネシウムは純粋に便に作用するのに対し、センノシドは人体の機能に作用する点です。こうした違いによって、両者の使用上の注意も異なってきます。

(1)マグネシウム製剤はほとんどの人が安全に使える?

酸化マグネシウムをはじめとした、マグネシウムを主成分にする便秘薬は、ヒトの身体に対してはたらきかけるわけではありません。そのため、「この人には絶対使えない」という制約 (これを「禁忌」といいます) は、これといってありません。

したがって、便が固いタイプの便秘であれば、マグネシウム製剤を使っておけば、まず大きな問題ないといえます。ただし、これには例外といえる状況が2つほどあります。

注意点①飲み合わせに注意する

1つ目は、マグネシウム製剤と一緒に、他の特定の薬を服用している場合です。

いわゆる「飲み合わせ」ですが、何がマズいかといえば、マグネシウムと一緒に飲んだ薬の効果が低くなってしまうことです。

この仕組みですが、特定の化学構造を持った成分は、マグネシウムとくっつく性質があります (4)。こうなった成分は、消化管から吸収されなくなり、そのまま排泄されてしまいます。

 

こうした飲み合わせが問題になることが多いのが、抗生物質です。もちろん、すべての抗生物質がこうした飲み合わせを起こすわけではありませんが、該当するものが割と多いので、マグネシウムを普段飲んでいる人が、何らかのきっかけで抗生物質を飲む場合には、薬剤師に確認してもらうのがよいでしょう。

 

具体的に、マグネシウムと一緒に飲まない方がよい抗生物質の一例は、次の通りです (4)。

  • テトラサイクリン系:ドキシサイクリン(ビブラマイシンなど
  • ニューキノロン系:シプロフロキサシン(シプロキサン®)、レボフロキサシン(クラビット®)、トスフロキサシン(オゼックス®)など
  • 一部のセフェム系:セフジニル(セフゾン®)など

注意点②腎不全の人は服用を控える

マグネシウム製剤を避けた方がよい、もう1つのケースとして、服用する人の腎臓機能が、極端に悪い場合が挙げられます。この理由は、マグネシウムをはじめとしたミネラルは、腎臓を経由して尿中に排泄されるため、腎不全の人では蓄積しやすいからです。

 

ミネラルに関してはどれもそうですが、体内における量は多すぎても少なすぎてもよくなく、ちょうどよい量を保つ必要があります。腎機能が悪い人は、マグネシウムを排泄する能力も低いので、そうでない人と比べてマグネシウムの摂取量を減らさなければならないのです。そのため、腎不全の人はマグネシウム製剤を避けた方がよい場合があります。

 

ただし、今挙げた動物実験では、体重1kgあたり200-400mgの酸化マグネシウムを投与してはじめて、排泄される量が増加しています (9)。この量を体重60kgのヒトに換算すると1日12000-24000mgとなります。先ほど述べたように、酸化マグネシウムをどの程度使うかは、かなりの個人差があるものの、一般的には1日1000-2000mg程度のものです。したがって、動物実験ではヒトが使う5-10倍ほどの量が使用されていることには注意する必要があるでしょう。

 

(2)大腸刺激性の薬は連用を避けるべき

センノシドをはじめとした、腸の蠕動運動を活発にするタイプの便秘薬は、「大腸刺激性下剤」などと呼ばれることがあります。これら大腸刺激性の薬は、一般に安全性は高いものの、別の意味合いから気を付けるべき点があります。それは、連用すると徐々に効果が薄くなる点です。

 

この理由ですが、センノシドなどは腸の蠕動運動を促す効果を持つことは、繰り返し述べました。換言すると、腸の筋肉を酷使しているようなものです。

 

重い荷物を何度も持ち上げていると、そのうち筋肉が力を出せなくなり、荷物も持ち上がらなくなります。大腸刺激性の薬を連用した腸においても、これと同じことが起きます。つまり、腸が疲れて、それ以上動けなくなってしまいます。

 

腸の筋肉運動が止まるということは、すなわち便秘が悪化することとイコールです。さらに、この状態で大腸刺激性の便秘薬を使っても、その効果の本質である蠕動運動をする余力が腸にないわけですから、効果が出ないのです。

 

つまり、こうした薬を使い過ぎると、便秘が悪化するばかりか、同じ薬を飲んでも効かなくなり、その後の対処が困難になるのです。したがって、大腸刺激性の薬は連用を避けて、必要なときだけピンポイントで使うようにするのが好ましいでしょう。

3. 妊娠・授乳中の便秘薬使用に関して

一般に便秘は女性に多く、18-20歳の日本人女性の26%が、「自分は便秘である」と回答するほどです (10)。この点を考慮すれば、便秘薬を使う機会が多いのも、必然的に女性になります。

 

そこで、薬の服用に関する女性特有の問題・疑問が生じます。それは妊娠および授乳中に薬を使用してよいのか?です。これまで紹介してきた、酸化マグネシウムとセンノシドに関して、この観点からもう少し紹介しましょう。

(1)酸化マグネシウムは基本的に問題ない

まず、酸化マグネシウムについてですが、こちらは妊娠・授乳中いずれの場合でも問題なく服用できます。

 

この理由は、これまで散々述べてきたように、酸化マグネシウムがほとんど体内に吸収されないためです。また、マグネシウムはもともと人体に存在する物質で、胎児や子供に明らかに毒性が高いものではないことも挙げられます。したがって、普通に服用する分には、大きな問題につながるケースはまずないといえます。

(2)センノシドについては不明な点が多い

次にセンノシドの方ですが、こちらに関しては、評価が難しいので、妊娠中に使用したい場合は、かかりつけの医療者にたずねてからにした方がよいでしょう。

 

一方で、授乳中の服用に関しては、まず問題ないといえます。センノシドは、服用した量の一部が母乳中に移行すると知られていますが (8)、その量は極めて少なく、母乳を飲んだ赤ちゃんに何らかの影響を与えうる程度にはならないと考えられます。

 

評価が難しいのは、妊娠中の服用です。具体的に何を懸念しているかといえば、流産のリスクです。というのも、センノシドが腸の筋肉の動きを促す作用を持っていたことを思い出してください。筋肉にもいくつか種類があるのですが、腸などほとんどの内臓を構成する筋肉は「平滑筋 (へいかつきん)」という種類です。

 

そして、子宮の筋肉もこの平滑筋です。センノシドが腸の平滑筋を収縮させる効果を持つということは、子宮の平滑筋も収縮させる可能性があるということです。子宮が収縮すれば、それはすなわち分娩が促させることとイコールです。

 

こうしたロジックから、センノシドの能書である「添付文書」にも、「妊婦には原則禁忌である」旨が記載されています。

 

ただし、ここでは「原則禁忌」の意味をしっかり考える必要があります。「原則」ということは、「絶対ダメというわけではない」からです。この場合、気にするべきは「本当に意味がある程度のリスク増加が起こるのか?」です。

 

しかしながら、センノシドに関する臨床研究は、あまり行われておらず、評価の根拠となるデータが乏しいのが実情です。

 

数少ない参考になりそうなデータは、2009年に発表されたハンガリーにおける研究結果です。これは、もともとセンナを服用することで、先天疾患を持った赤ちゃんが生まれる頻度が増えるか調査することを目的としたものです (11)。ターゲットにしているのがセンナで、センノシドとは異なるのですが、センナの主成分はセンノシドなので、参考にはなってくれるでしょう。

 

その結果ですが、センナに先天性疾患を明らかに増やす効果は見られず、またセンナを服用した場合、妊娠期間がわずかに長くなっていました (11)。これは、センノシドが流産リスクを増やすという仮説とは矛盾する結果です。

 

こうしたことを考え合わせれば、例え妊娠中でも状況次第でセンノシドを使うことには、ある程度の妥当性があると考えられます。ただし、薬を使う・使わないの判断は、それによってもたらされるメリット・デメリットのバランスで評価すべきです。これはどんな薬・どんな状態でも当てはまる原則ですが、妊娠中の薬の使用に関してはより徹底して吟味すべき原則でもあります。やはりおススメは、かかりつけの医療者に相談することです。

4.まとめ

 

■現在汎用されている便秘薬は、ほとんど消化管から吸収されないものである
■酸化マグネシウムは、多くのケースで安全に使えるが、他の薬との飲み合わせに注意が必要である
■センノシドをはじめとした大腸刺激性の便秘薬は、連用すると効果が落ちるので、漫然と使うべきではない
■妊娠・授乳中の便秘薬使用は、かかりつけの医療者に尋ねるのがよい

 

5.参考文献

(1) 瀬崎仁 他 薬剤学第4版 廣川書店
(2) 第1回NDBオープンデータ 
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000139390.html
(3) 酸化マグネシウムE便秘薬 添付文書 健栄製薬株式会社
(4) マグミット錠 添付文書 丸石製薬株式会社
(5) Material Safety Data Sheet "Magnesium oxide"
http://fscimage.fishersci.com/msds/13450.htm
(6) 奥田拓男 編 資源・応用薬用植物学 第2版 廣川書店
(7) Sasaki K, et al. Planta Med. 1979 Dec;37(4):370-8. PMID: 538110
(8) プルゼニド錠 添付文書 田辺三菱製薬株式会社
(9) マグミット錠 インタビューフォーム 丸石製薬株式会社
(10) Murakami K, et al. Eur J Clin Nutr. 2006 May;60(5):650-7. PMID: 16340942
(11) Acs N, et al. Reprod Toxicol. 2009 Jul;28(1):100-4. PMID: 19491001