1.生理痛に痛み止めを使って大丈夫?

痛み止めを使って問題なし

生理痛に対して、痛み止めを飲むことで対処したいと考える方も多いでしょう。一方で、「痛み止めに頼ると身体によくないのでは?」とか「痛み止めを使っていると、クセになるのでは?」といった懸念を持つ方もいることでしょう。この、「生理痛に痛み止めを使ってよいか?」は、このコラムの中心的なテーマでもありますが、最初に結論をいえば、この問いに対する答えは、イエスです。生理痛に対して痛み止めを使うことをためらう必要は、まったくありません。

 

結論だけをいえば、これで終わりなのですが、「なぜそうなのか?」を知っておけば、一度目にした知識がより記憶にとどまりやすくなると思います。また、生理痛に痛み止めを使うことが適切であるのは、比較的明快な論理的説明によっても裏付けられます。

 

そこで、おススメの痛み止めを紹介したあとに、生理痛が起きる仕組み、そしてそれに対して痛み止めがどのようにはたらきかけるのかを説明していきます。これを機会に月に一度付き合っていく生理の仕組みについて知っておいて損はありません。

 

2.どの痛み止めがいい?

さきほど、「おススメの痛み止めを紹介する」と書きましたが、いきなり結論をいってしまえば、これといったおススメはありません。というのも、実はどの痛み止めもほとんど効果は変わらないからです。したがって、端的にいえば「どれでもよい」となります。

 

こう書くと、「どの薬もイマイチ」というニュアンスを暗に含んでいるように感じるかもしれませんが、そうではなく、どの薬を使っても十分な効果が期待できる、という意味です (2)。もう少しいえば、わざわざ病院を受診して処方してもらわなくても、市販薬でも問題ありません。病院でもらう薬でも、市販薬でも、単純な痛み止めであれば有効成分に本質的な差はほとんどないといえます。

 

具体的にこうした薬をどのようなタイミングで使うのがよいかに関しては、明確なデータはありませんが、理論的には痛みが生じてすぐ、まだ程度の軽いときに使用するのがよいと推定できます。この理由には、後述する痛みの原因となる物質が関与します。痛み止めは体内でこの痛みの原因物質が合成される量を減らすのですが、すでにできた原因物質をどうにかできるわけではありません。痛みが強くなってきた段階では、すでに原因物質が体内にたくさんあるわけですから、この時点で薬を飲んでも効果が薄いと考えられるのです。

 

また、痛み止めを使用する回数ですが、基本的に頓服 (とんぷく)、つまり痛みが生じて薬が必要になったときに服用する、という方針でよいでしょう。この場合、よく受ける質問として、「1回薬を飲んでから、次を飲むまでどのくらい間隔を開ければよいか?」があります。これについては、ものによって異なるのでケースバイケースです、がもっとも正確な回答になります。

 

ですが、一般論をいえば、「その薬が1日何回服用するように設定されているか」から、およその予測をすることが可能です。市販薬のパッケージなどには「1日〇回服用する」などと書かれていると思います。ここから、その薬の効果持続時間がだいたい見当がつきます。したがって、その持続時間を過ぎたころに、次の服用をするのが合理的ということです。具体的な服用間隔は、次のような対応関係になります。

 

1日1回の薬:1日ごと

1日2回の薬:10-12時間ごと

1日3回の薬:5-6時間ごと

 

なお、市販の痛み止めの中には、生理痛専用であることをうたったものもありますが、これらに含まれる主要な有効成分も結局他のものと大差ないので、実際にはあまりこだわらなくても問題ありません。購入するときに薬剤師に使用目的を伝えれば、適切なものを選んでくれるでしょうから、ぜひ相談してみてください。

 

ただし、後述のように痛み止めの中には、他の成分と比較して生理痛に対する効果が若干劣るものがあります。したがって、これらは避けた方がよいでしょう。こうした観点から、生理痛に使える市販薬の候補をいくつかリストアップすると、次のようなものが挙げられます。

 

エルペインコーワ (有効成分:イブプロフェン+ブチルスコポラミン)

リングルアイビー (有効成分:イブプロフェン)

イブ (有効成分:イブプロフェン)

ただし、これらはあくまでも一例であり、特別に効果が高いというわけではないことは再度強調しておきます。また、「上に出ている薬には、どれもイブプロフェンが含まれているな。ということは、実はイブプロフェンが生理痛に特によく効くのでは?」と考えるかもしれませんが、そういうことはありません。単純に、市販薬含まれる痛み止め成分としてイブプロフェンが汎用されている関係上、たまたまいくつかの薬をピックアップしたところ、有効成分が重複しただけです。

 

したがって、これも繰り返しですが、上記の薬に近いものであれば、特定の品目にこだわる必要性はありません。上に挙げた薬の陳列されている近くには、似たような薬が置かれているはずですから、その参考にする程度でよいでしょう。


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3.痛み止めを選ぶ際の注意点~生理痛の仕組みと痛み止めとの関係~

ただし、生理痛に用いる痛み止めの選択にあたって、少しだけ注意すべき点があります。それは先ほど述べた、痛み止めの中に一部、生理痛に対する効果が他の種類に劣る成分があることです。

 

3-1. 「アスピリン」と「アセトアミノフェン」は避ける

具体的には、「アスピリン」と「アセトアミノフェン」という成分がそれです。これらも生理痛をやわらげる効果はあるのですが、他の種類の痛み止めと比べてやや効果が低いことがしられています (2)。したがって、これらを使っても大きな問題はないものの、効果が低いものをあえて選択する理由もないので、避けた方が賢明ということです。

どうしてこうしたことが起こるのか。それを理解するうえで、生理痛が起きる仕組みについて知ることが役立ちます。そこで、ここからは生理痛のメカニズムについて説明していくことにします。

3-2. 生理痛の原因となる「プロスタグランジン」

生理痛は、その名の通り生理に伴って起こる腹痛その他の痛みを指しますから、発生に女性ホルモンが関係していることは、何となく予測がつくと思います。これは事実です。

 

一口に「女性ホルモン」といっても、実は大きく2つに分けられます。1つは「卵胞ホルモン (エストロゲン)」、もう1つを「黄体ホルモン (プロゲステロン)」といいます。これらのうち、生理痛とより深くかかわるのは、後者の黄体ホルモンです。名前を見ていただければお分かりのように、黄体ホルモンは「黄体」から主に分泌されるものです。この黄体とは、卵子が排卵された後の卵胞が変化してできるものです。したがって、排卵後しばらくして、卵胞が黄体に変化すると、黄体ホルモンの量が増えてきます。

 

黄体ホルモンのはたらきの一つに、「子宮内膜」という組織を成熟させることが挙げられます。子宮内膜は、子宮の内部表面にある組織ですが、妊娠が成立しなかった場合、はがれて血液とともに出てきます。これが月経です。黄体ホルモンは、子宮内膜に作用し、その成熟を促すだけでなく、その内部に「プロスタグランジン」という物質の量を増やすはたらきも持っています。実は、この物質が生理痛の大きな原因となっているのです。

 

プロスタグランジンは、一般に「発痛物質」として知られています (3)。単独でも痛みを起こすほか、この物質があることで、他のきっかけによる痛みを感じやすくなる作用も有しています。早い話が、プロスタグランジンが増えると、痛みが増すのです。さきほど、「痛みの原因物質」と表現したのは、これのことです。

 

つまり、排卵後に卵胞が黄体に変化→黄体ホルモンの量が増える→それによってプロスタグランジンが増える→痛みが起こる、という仕組みです。

 

3-3. 痛み止めはプロスタグランジンの量を減らす

ということは、上に示した過程のうち、どこか一か所以上をストップすれば、生理痛をやわらげることが可能です。実は、痛み止めは上記の仕組みを理解していれば、とても理にかなった薬であることがわかります。

 

というのも、多くの痛み止めは、プロスタグランジンの合成される量を減らす作用を持っているからです。少し専門的な話をすれば、そのメカニズムは、こういうことです。プロスタグランジンが体内で合成される際にはたらく、「シクロオキシゲナーゼ」という酵素があります。ちなみに、英語名の頭文字をとって「COX」と表記されることが多く、この場合「コックス」と読みます。多くの痛み止めは、このCOXのはたらきを弱める効果を持っています。つまり、プロスタグランジンの合成に必要な物質のはたらきを抑えるので、その合成量を減らすことができるのです。

 

たった今、「多くの痛み止め」という表現を使いましたが、このようにCOXのはたらきを邪魔することでプロスタグランジンの量を減らして痛みをやわらげる効果をもつ痛み止めを特に、「NSAID (「エヌセイド」と読みます)」と呼びます。痛み止めとして使う薬の中には、別の作用メカニズムを持った成分もありますが、実際に使われる機会やその種類はNSAIDが圧倒的に多いのが現状です。

 

さきほど紹介した「イブプロフェン」なども代表的なNSAIDの一つです。「病院でもらう薬でも、市販薬でも生理痛に対する効果はほとんど変わらない」と前に述べたのも、どちらも結局はNSAIDであることが大半だからです。

 

3-4. アセトアミノフェンは黄体由来のプロスタグランジンには影響しない

さて、生理痛の仕組みについての説明は以上となりますが、これを踏まえると、アセトアミノフェンの効果が多くのNSAIDに劣る理由が分かります。

 

その理由とは、アセトアミノフェンの痛みをやわらげる仕組みが、NSAIDのそれとは異なるからです。アセトアミノフェンはNSAIDには分類されない痛み止めで、簡単にいえば一時的に脳が痛みを感じにくくする作用を持っています (4)。つまり、生理痛の主な原因となっているプロスタグランジンを減らす効果はない、ということです。こうした痛みを抑えるメカニズムの違いによって、効果の差異が生じていると推測されます。

 

3-5. アスピリンの効果が低い理由はよく分からない

一方で、アスピリンの効果が他のNSAIDに劣る理由は、よく分かりません。というのも、アスピリンもNSAIDの一種で、プロスタグランジンの量を減らす効果は持っています (4)。したがって、理屈の上ではなぜ効果が低いのかは説明がつかないのですが、実際に使って比べてみると、こうした違いが観察されるということです。このようなケースは、臨床ではよくあり、その場合は実際に使用した時の結果を信用するべきです。簡単にいえば、「論より証拠」なのです。

 

いずれにしても、生理痛に使う場合には、アスピリンとアセトアミノフェン以外の痛み止めを選んでおけば、まずハズレはないことはいえます。

 

 

4.痛み止めの有用性と限界

このように、生理痛の治療にまさしく合理的な痛み止めですが、これを使っても大丈夫か?というのが本来のテーマでした。これに対する回答は、冒頭で述べた通りイエスです。

 

「そうは言っても、わざわざ黄体からプロスタグランジンが出ているのだから、これを薬で無理やり減らすのはよくないのでは?」と考えるかもしれません。確かに、プロスタグランジンには痛みを起こす以外にも、子宮を収縮させるなど別の生理機能もあります (5)。ですが、だからといって生理痛があるときにこれを痛み止めで減らすと何か不都合が生じるか?と問われれば、特に何もありません。

 

生理痛を我慢しても、何もよいことはありません。後述するように、薬を使う上で注意すべき点はもちろんありますが、そのデメリットを考慮してもなお、痛み止めを使った場合のメリットの方が圧倒的に上のケースが大半です。

 

4-1. 「痛み止めがクセになる」ことはない

生理痛に限らず、痛み止めを使うことをためらう方の意見として、「痛み止めに頼っていると、クセになるから」というものがよく聞かれます。しかしながら、これは根拠のない推定であり、なおかつ事実でもありません。NSAIDにいわゆる「依存性」は知られていません。つまり、痛み止めの成分自体に、薬物依存を起こすはたらきがそもそもないということです。

 

「いや、そういうことじゃなくて、生理痛になるたびに痛み止めに頼ることになるのを心配しているんだ」と思うでしょうか。そういう意味合いならば、確かにしばらくの期間、生理痛が起きたときには痛み止めを使用するのが、半ば習慣となる可能性はあり得ます。

 

ただしこれは、例えば時々歯茎が腫れて痛む人が、そうしたときに痛み止めを使うのと、本質的には変わるところがありません。これは問題ある対応でしょうか?もちろん違います。あえて相違点を挙げるなら、歯が痛むのは不定期である一方、生理痛はおおむね毎月規則的に生じることでしょう。

 

しかし、生理痛ならば症状の特に強い期間と、そうでもない期間があるのが普通です。当然、個人差はありますが、生理痛の持続期間はおおむね8-72時間です (6)。ということは、1カ月のうちに痛み止めを使う必要のある期間もそのくらいになるはずで、この程度の使用量なら大きな問題が生じることは、極めて稀です。

 

加えて、一般に生理痛は年齢を重ねたり、出産などをきっかけにしたりして、その程度が改善することが多いものです (6)。こうしたことを考え合わせれば、たとえ一時的に、生理痛に痛み止めを使うことが習慣化したとしても、それに伴うリスクは小さく、いずれは痛み止めの必要性自体が低減してくるので、なおさらリスクは小さくなると推定されます。となれば、結論はやはり上と同様で、痛み止めを使うメリットが、副作用などのデメリットを大きく上回ると思います。

4-2. NSAIDによる胃潰瘍は有名だが、実害は少ない

先ほどから、生理痛に対して痛み止めを使用するメリットを強調していますが、もちろんこれにはデメリットもあります。ともあれ、重い副作用が起きることは極めて稀で、実際には大きな問題につながらないことが大半です。

 

NSAIDの副作用としてもっとも有名なのは、胃潰瘍をはじめとした消化器の疾患・症状です。どうしてこの副作用が起きるかといえば、NSAIDによって体内での合成量が減るプロスタグランジンには、胃の粘膜を保護するはたらきもあるからです (7)。これは非常に有名な副作用で、薬学部の1回生でも知っているほどです。

 

しかしながら、ものすごく頻度が高いかと問われれば、案外そうでもなく、何もしなかった場合と比較して胃潰瘍の発生頻度を2倍に上昇させる程度であると考えられています (8)。もちろん、もともと胃が弱い人は注意が必要ですが、通常健康な人が短期間使用するうえでは、無視できる程度の影響であることがほとんどです。

4-2. 痛み止めが効かない場合は?

むしろ注意したほうがよいのは、痛み止めを使っても効かなかった、あるいは効果が不十分であった場合です。このようなケースでは婦人科等を受診したほうがよいでしょう。

 

その理由の1つ目は、別の薬が生理痛の改善に効果的である可能性があるからです。具体的には、ピルのことです。ピルが生理痛をやわらげる仕組みは、NSAIDとはまた異なります。最初の方で述べましたが、生理痛において痛みの原因となるプロスタグランジンが増えるのには、黄体ホルモンのはたらきが重要です。ということは、黄体ホルモンの量を減らすことができれば、それによるプロスタグランジンの増加も防ぐことができます。つまり、ピルによる鎮痛効果はNSAIDのそれとは異なるので、NSAIDが効かなかったケースでも効果が期待できるということです。

 

現状ピルには市販薬がありません。したがって、病院で処方してもらう必要がありますから、婦人科の受診をおススメします。

 

もう1つの理由は、別の病気が原因で生理痛が起きている可能性があるからです。これまで説明していた、黄体ホルモンによるプロスタグランジン増加によって生じる生理痛は、医学的には「機能性月経困難症」と呼びます。小難しい表現ですが、意味合いとしては、純粋にホルモン等の影響で起きている生理痛、といった程度です。

 

これに対して、背景に別の病気があり、それが原因となって起きている生理痛を「器質性月経困難症」と呼びます。具体的には、子宮内膜症や子宮筋腫などの病気がこの原因となります。器質的月経困難症でも、痛み止めが多少は効きますが、それよりも原因となっている病気の治療がはるかに重要になります。あまりにも生理痛が強かったり、痛み止めがあまり効かないことが続くときは、婦人科の受診をおすすめします。

 

つまりまとめれば、生理痛に対してひとまず痛み止めで様子見をするのは十分に合理的であり、それで解決困難である場合には、専門機関である婦人科を頼るのが望ましいということです。

5.まとめ

■生理痛に対して痛み止めの使用をためらう必要はない
■痛み止めの種類による効果の差はほとんどないが、アスピリンとアセトアミノフェンはやや効果が低い
■痛み止めの副作用としては胃潰瘍などが有名だが、特に持病等がなければ実害は少ない
■痛み止めの効果が不十分な場合は、婦人科に受診して適切な処置を受けることが痛みの軽減に役立つ

6.参考文献

(1) 日本産婦人科学会・日本産婦人科医会 産婦人科診療ガイドライン-婦人科外来編2014
(2) Marjoribanks J, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2015 Jul 30;(7):CD001751. PMID: 26224322
(3) Ito S, et al. Neurosci Res. 2001 Dec;41(4):299-332. PMID: 11755218
(4) 赤池昭紀 他 疾患別薬理学第4番 廣川書店
(5) Kelly AJ, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2009 Oct 7;(4):CD003101. PMID: 19821301
(6) Latthe PM, et al. BMJ Clin Evid. 2014 Oct 21;2014. pii: 0813. PMID: 25338194
(7) Miller TA, Am J Physiol. 1983 Nov;245(5 Pt 1):G601-23. PMID: 6195926
(8) Lee SP, et al. Clin Endosc. 2016 Dec 23. doi: 10.5946/ce.2016.129. PMID: 28008163