1.筋肉の役割と筋肉量の目安について
筋肉はボディメイクをする上で必要不可欠な存在です。
その筋肉の役割を理解して、筋肉を付ける必要性や意義をしっかりと認識していきましょう。
その後に、必要な筋肉量の目安についても説明していきます。
1-1. 筋肉の役割とは
筋肉は動物の持つ組織のひとつで、収縮することにより力を発生させる運動器官です。
筋肉は骨格筋と内臓筋、心筋と分類されますが、主に我々が認識している身体の筋肉(脚、肩、胸、背中、腕、腹筋群など)は骨格筋になります。
構造上の分類としては、横紋筋と平滑筋の2つに分けられます。
骨格筋や心筋は横紋筋で成り立っており、内臓筋の大半は平滑筋で成り立っています。
もっと身近に分かりやすく説明すると、焼肉を食べる際に赤身部位やハツ(心臓)は繊維っぽい感じがあり、これが横紋筋の特徴でもあります。
この繊維(=横紋)は骨に腱として付着し、繊維が収縮して骨同士を動かすこと(=運動)を可能としています。
ホルモン(小腸)はコリコリしたゴムチューブみたいで繊維っぽさが全く無いです。
これは平滑筋の特徴でもあり、円状に縮むことで内臓としての運搬運動を可能としています。
話を骨格筋に戻していきますが、骨格筋の働きや役割は以下のようになります。
・運動作用:筋収縮により、筋が付着する骨を動かします。
筋力の強さは筋断面積の大きさに比例すると言われています。
・姿勢保持:筋収縮により、立位姿勢を維持します。
・熱源作用:筋収縮(ふるえ熱生産)に使用されるエネルギーの75%以上が熱として放出して、体温を上昇させます。身体全体の熱生産の60%は筋肉によるものです。
筋肉量が多ければ基礎代謝が向上して太りにくい身体になる理由が、筋肉の熱源作用によるものです。
・ポンプ作用:収縮と弛緩の繰り返しにより、静脈・リンパ管を圧迫して還流を促進します(筋ポンプ)。
筋肉量が少ないと還流が悪くなり、浮腫みの原因や代謝低下の原因に繋がります。
・保護:衝撃から骨や内臓を保護します。
・内分泌:脂肪の分解を促進し、脳の神経細胞の減少を抑制(「ミオカイン」インターロイキン-6の抑制)します。
要は、筋肉量が多いと、熱源作用により基礎代謝が向上し太りにくい身体になります。
また、ポンプ作用によって浮腫みや代謝低下を防ぎ、脂肪分解の促進や脳の神経細胞の減少までも抑制してくれます。
筋肉は太りにくい身体/浮腫みにくい身体作りに必須ですし、なんと脳の神経細胞にも良いのです!
筋肉と基礎代謝についてもう少し詳しく説明します。
表にある通り、筋肉と脂肪組織(=体脂肪)を比較したときに、1㎏あたり3培近く筋肉の方が代謝が高い(表を参照)のです。
同じ体重でも、筋肉量が多い方が太りにくい身体、体脂肪が多いと太りやすい身体と言えます。
更に、筋肉からは脂肪分解を促進させる分泌物が、体脂肪からは脂肪を蓄積させる分泌物(女性ホルモン)が分泌されます。
筋肉は脂肪を退かせ、脂肪は脂肪を呼ぶ結果となります。
是非、体重に見合った筋肉量をしっかりと付けていきましょう!
表.体組織とエネルギー代謝
臓器・組織 重量 (kg) |
エネルギー代謝量 |
比率 (%) |
||
(kcal/kg/日) |
(kcal/日) |
|||
全身 |
70 |
24 |
1700 |
100 |
骨格筋 |
28 |
13 |
370 |
22 |
脂肪組織 |
15 |
4.5 |
70 |
4 |
肝臓 |
1.8 |
200 |
360 |
21 |
脳 |
1.4 |
240 |
340 |
20 |
心臓 |
0.3 |
440 |
145 |
9 |
腎臓 |
0.3 |
440 |
137 |
8 |
その他 |
23.2 |
12 |
277 |
16 |
1-2. 筋肉量の目安とは
まず、筋肉量の求め方ですが、体組成計の種類によっては表示される物もあります。
体組成計で表記されない場合は以下のように計算しましょう。
体重kg×体脂肪率% = 体脂肪量kg
体重kg-体脂肪量kg = 除脂肪体重kg
除脂肪体重kg÷2 = 筋肉量kg(おおよそ)
除脂肪体重から骨量や内臓などを除いた物が筋肉量になります。
目安にする数値としては、除脂肪体重でも筋肉量でもどちらでも構いません。
除脂肪体重の平均は男性:53㎏、女性:36.4㎏になります。
筋肉量の平均はおおよそ男性:26.5㎏、女性:18.2㎏になります。
この平均よりも下回っている場合は、まずは平均値を目標にして食事管理とトレーニングを実施すると良いでしょう。
更に、肉体美を追求したい、もしくは食事管理の規制を緩めても太らない身体作りを目指す場合は、更に多くの筋肉量を目標にすると良いでしょう。
身長やトレーニング内容にもよりますが、男性ならば除脂肪体重60㎏、筋肉量30㎏。
女性ならば除脂肪体重40㎏、筋肉量20㎏を手に入れて、かつ無駄な体脂肪が付いていないときは、逆三角形でメリハリのある美しいボディラインの肉体が手に入るでしょう!
表.日本人の性別と年齢ごとの身長,体重および除脂肪体重の値
性別 |
年齢群 |
身長cm |
体重kg |
除脂肪体重㎏ |
男性 |
18~24歳 |
171.3±5.6 |
64.2±9.4 |
52.5±5.1 |
25~34歳 |
170.7±5.4 |
68.0±11.8 |
52.6±5.7 |
|
35~44歳 |
170.9±7.0 |
70.4±10.9 |
53.6±5.8 |
|
女性 |
18~24歳 |
159.2±5.4 |
51.9±6.6 |
36.4±3.2 |
25~34歳 |
158.9±5.4 |
52.9±9.6 |
36.4±3.2 |
|
35~44歳 |
158.6±5.4 |
52.9±7.2 |
36.6±2.8 |
2.筋肉が増える/減るメカニズムについて
筋肉の必要性を理解したところですので、その筋肉を増やすメカニズムを説明していきます。
また、効率良く筋肉を増やすためには減らさないようにすることの方が大切ですので、筋肉が減ってしまうメカニズムについても併せて説明していきます。
3.筋肉が増えるメカニズムについて
人間には適応力が備わっており、筋肉が増えるのは物理的な負荷(=ストレス)への適応反応と言えます。
これは「身体(筋肉)の機能は適度に使うと発達し、使わなければ委縮(退化)し、過度に使えば障害をおこす」という、生物学のルーの法則に基づいた考え方です。
ルーの三原則は、現代のトレーニングに用いられている「トレーニングの三大原理」の元になります。
トレーニングの三大原則は、過負荷性、可逆性、特異性になります。
過負荷性は、筋トレにおいては筋肉に対して限界を感じる負荷を与える必要があるという意味です。
可逆性は、筋肉の成長は筋トレによる負荷への適応反応によるもので、筋トレを中断すると徐々に元に戻るので継続して筋トレを実施する必要があるという意味です。
特異性は、鍛えたい部位に応じて適切な種目を選択する必要があるという意味です。
筋肉に与えるストレスとしては、物理的なものと化学的なものの2つに分類されます。
物理的なストレスとは、バーベルなどの重量の負荷によって筋肉に掛かるストレスです。
化学的なストレスとは、筋トレを実施していく中で血中の乳酸濃度が高まったり、酸素濃度が低くなる状態などのストレスです。
特に、筋トレの刺激としては物理的かつエキセントリック※なストレスによって効率良く筋肥大(筋肉量の増加)が起きるとされています。
※エキセントリックとは負荷を掛けながら筋肉を伸ばす(=伸張)伸張性収縮の刺激です。
腕立て伏せなら身体を床に近づけるとき、スクワットならしゃがみに行くときのネガティブ動作で入る刺激です。
要は、負荷を掛けながらゆっくりとフルレンジ(最大可動域)でネガティブ動作を実施すると筋肉が成長しやすいということです。
参考文献:運動による骨格筋の肥大機構の文献的研究
山田 茂・大橋 文・木崎恵梨子 食生活科学科 スポーツ・栄養学研究室
https://ci.nii.ac.jp/els/contentscinii_20171010002036.pdf?id=ART0009874750
次に、栄養面に付いて深掘りしていきます。
筋肥大でまず大切なことは、十分なタンパク質量を摂取することです。
一般的には1日に体重×2gのタンパク質を摂取することが目安になります。
分かりやすく言うとタンパク質は筋肉の材料となるので、筋肉量を増やす際は必要量の摂取が必須になります。
また、タンパク質は体内で分解されると、タンパク質→ペプチド→アミノ酸へと分解されますが、必須アミノ酸のロイシンがmTOR※を活性化して筋肥大を促すとされています。
※mTOR(エムトア)は細胞内シグナル伝達に関与するタンパク質キナーゼの一種で、体組織(筋肉、体脂肪、骨、内臓など)の合成を促進する作用があります。
筋肥大を目的とするならば、タンパク質の摂取と併せて糖質の摂取をした方が効率的です。
これは、糖質はエネルギー利用されやすい栄養素ですので筋分解防止やパフォーマンス向上作用があるからです。
そしてさらに、糖質摂取した際に分泌されるインスリンがmTORを活性化して筋肥大を促すからです。
これらのことを考慮すると、筋肥大を目的とするときはタンパク質や糖質といった栄養摂取状態を良くする必要があり、ボディビルダーが脂肪燃焼の減量期と筋肉を付ける増量期を設ける理由でもあります。
(ただし、トレーニング歴の浅い初心者の場合はトレーニングの刺激にまだ身体が適応していないため、ダイエットしながらある程度の筋肥大は可能とされています。)
参考文献:筋肥大におけるmTORシグナル伝達系の役割
The role of mTOR signaling in the regulation of protein synthesis and muscle mass during immobilization in mice. You JS, et. al., 2015