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ぜんそくの治療目標

ぜんそくの治療目標は、「健康な人と変わらない日常生活を送る」ことです。
そのためには、以下が大切です。
- 気道炎症を抑えて症状をコントロールする(憎悪やぜんそく症状がない状態を保つ)
- 将来のために、呼吸機能を維持し、治療による副作用の発現を回避する
・ぐっすり眠りたい
・仕事に集中できる
・学校や遊びに没頭したい
・発作を心配せずに出かけたい
・天気に予定を左右されたくない
・家事がはかどる
など
診断~治療の流れ
症状や頻度などの問診や、検査を経てぜんそくかどうかや、重症度の診断がされます。重症度によって治療の進め方が異なってきます。既に治療中の方はコントロール状態などを加味して再度治療方針を決定していきます。コントロール良好な状態を維持できるよう治療を進めていきます。

ぜんそくの重症度
日本アレルギー学会のガイドラインでは、表に示したように症状や頻度、検査の値から重症度を判断することが推奨されています。注意しなければいけないポイントとして、治療中は薬のおかげで症状が落ち着いていることがあり、患者さんは症状が出ない=治ったと勘違いして治療を自己中断してしまうことがあります。治療を中断すると気道炎症が再度悪化し、ぜんそく症状が悪化しますので、自己判断で治療を中止せず、医師の指導のもと治療をすすめましょう。

ぜんそくの薬物治療 ~重症度毎の治療ステップ~
ぜんそくの治療は、日本アレルギー学会のガイドラインでは強さにより4つの治療ステップに分けています。どのステップの治療を行うかは、ぜんそく症状の程度や検査の数値を目安に判定された重症度にしたがって検討します(表1)。小児や成人など年齢によっても治療に使用される薬が異なっていきます。
基本的な治療
治療薬には、気道炎症を抑えて発作を予防する長期管理薬(コントローラー)と発作を止める薬(リリーバー)に分けられます。気管支ぜんそくの病態は気動炎症なので、気道の炎症を抑える薬剤を中心に治療を行い、症状に合わせて気管支拡張薬を併用していきます。コントローラーのうち気道炎症を抑える薬剤としては、吸入ステロイド薬、ロイコトリエン受容体拮抗薬、抗アレルギー薬などがありますが、その中で最も重要で基本的な薬剤が吸入ステロイド薬です。発作がなくても毎日定期的に使用することで、少しずつ気道の炎症が改善され、発作が起きにくくなります。
コントローラーとして用いられる気管支拡張薬としては、長時間作用型β₂刺激薬や長時間作用型抗コリン薬、テオフィリン徐放製剤などがあります。
リリーバーとしては、気道を広げて呼吸を楽にしてくれる短時間作用型β₂刺激薬の吸入を使用します。
リリーバーやコントローラーとして用いる薬剤の多くは吸入薬です。吸入薬は病気の局所に作用して内服薬に比べて副作用が少ないというメリットがあります。最近は吸入ステロイド薬に長時間作用型気管支拡張薬を混ぜた合剤が発売され、治療の主役となっています。

薬のタイプはさまざま
前述のようにぜんそく治療で用いる薬剤の中心は吸入薬です。ぜんそくで使用される吸入薬には、エアゾルやミストを吸入するものや粉末(ドライパウダー)を吸引するものなど様々なタイプなどがあり、使用する器具や使い心地が異なり、またさまざまなタイプのお薬がありますので、ご自身の続けやすいお薬を主治医と相談してみるようにしましょう。吸入薬のほかに、張り薬や内服薬などを併用することもあります。吸入ステロイド薬
強力な炎症を抑える作用があり、気動の炎症を抑え気道の過敏反応を鎮めてくれることで、発作の程度を軽くしてくれます。気動粘膜の炎症や気道を収縮させる発作はリモデリングを進めるので、吸入ステロイド薬で気動炎症を抑えることで症状をコントロールし、リモデリングの進行を抑得ることが重要です。
ステロイドというと副作用を懸念される方が多いですが、炎症のある部位に直接薬が届き、胃腸などを経由しないので内服のステロイド薬に比べて副作用も軽微なため長期間使用することが可能です。吸入ステロイドなどの吸入薬は、正しく理解し、正しく使わないと、効果が半減します。吸入の仕方は個々の薬剤により異なるので医師や薬剤師から吸入の指導を受けて適切に使用するように成しましょう。

β₂刺激薬(長時間作用型、短時間作用型)
このお薬は、発作が起こった時にすぐに効くタイプ(短時間作用型)と症状のない予防的には効き目がゆっくりかつ長く続くタイプ(長時間作用型)があり、剤型として飲み薬、貼り薬、吸入薬の3種類がありますが吸入薬が主に用いられます。気管支が拡張すると息が吐きやすくなり呼吸が楽になるなど自覚症状がよくなりますが、炎症を抑える効果はありません。
そのため、コントローラーとして用いる場合には、必ず吸入ステロイド薬と併用します。短時間作用型β₂刺激薬に吸入は発作が起こった場合に使用され即効性がありますが、決められた量や回数を超えて使うと、動悸や手の振るえ、頻脈などの副作用が起こることがあるので過度の使用は避けるようにしてください。短時間作用型β₂刺激薬などの発作治療薬のみで治療すると気道の炎症が進み、かえってぜんそくが悪化してしまうことがあり、注意が必要です。
気管支を拡げる作用があり、他の気管支拡張薬では不十分な場合や慢性閉塞性肺疾患(COPD)を併発しているときなどに使われます。長期管理薬として使用するときは、必ず吸入ステロイド薬と一緒に使います。
・テオフィリン徐放薬
気管支を広げる作用に加えて気道炎症を抑える作用もあります。徐放剤というゆっくりと効果が現れる飲み薬がコントローラーとして用いられます。吸入気管支拡張薬で効果が不十分であったり吸入薬がうまく使用できない場合に用いられます。
・ロイコトリエン受容体拮抗薬
喘息のアレルギー反応を抑え、気管支を拡げる作用と炎症を抑える作用をもつ薬剤で、吸入ステロイドより気道炎症を抑える効果低いため、吸入ステロイドと併用することが多いですが、単独でも使用できます。
鼻の粘膜の炎症や鼻づまりにも効果があるので、アレルギー性鼻炎を伴う喘息にも使用されます。
くすりの効果が出るまでに、数日から2週間程度の投与期間が必要です。
・抗アレルギー薬(ロイコトリエン以外)
抗アレルギー薬は、アレルギー反応を抑える薬で、特に小児のアトピー型ぜんそくの方に発作予防として処方されます。メディエーター遊離抑制薬、ヒスタミン(H1)受容体拮抗薬、トロンボキサン阻害・拮抗薬、Th2サイトカイン阻害薬などがあり、個々の患者さんにあった薬剤が処方されます。
抗アレルギー薬には発作をすぐ止める作用はなく、効果が出るまでに2~8週間かかります。
ぜんそくの治療ステップ

ぜんそくの新しい治療薬
治療効果や副作用、使用方法などが改良された新しい薬剤が次々と開発されています。ぜんそくの新しい治療法について説明します。
生物学的製剤
ぜんそくの治療として吸入薬や内服薬を併用しても症状を十分にコントロールできない重症ぜんそく患者に対して、生物学的製剤と呼ばれる薬が使用できるようになっています。この薬は炎症を引き起こすおおもとの物質を抑えるはたらきがあり、体内での炎症物質の増加を抑える作用があります。ほかの薬剤でのコントロールが難しい症例などに対し、日本国内でも使用が可能です。・どこで処方してもらえますか?
呼吸器専門医あるいはアレルギー専門医、または3年以上の気管支ぜんそくに関する内科診療の臨床研修を修了している医師のもとで、処方されます。
・どんな場合に処方されますか?
高用量の吸入ステロイド薬に加えて、その他の長期管理薬を複数併用していてもステロイド薬の全身投与が必要になるようなコントロールが不十分で重症な場合に用いられます。
現在、5種類の生物学的製剤の使用することができますが、ぜんそくの気道炎症の病態により使用する薬剤が異なりますので、専門医にぜんそくの病態を評価してもらい、病態に合った薬剤を選択することが重要です。

大人のぜんそく(成人ぜんそく)
環境要因のコントロールが大切
成人ぜんそくの場合、発作は睡眠不足や喫煙、飲酒などの環境要因でも誘発されてしまうことがあります。日ごろからきちんと治療を続けておくことに加え、生活習慣を見直し、体調を都整えるような生活をすると、症状の改善が期待できます。精神的ストレスでも悪くなることがある
強いストレスは誰にとっても悪影響を及ぼします。できるだけストレスを減らしたり軽くしたりすることで、ぜんそく症状が軽くなることもあります。ぜんそく自体がストレスになり、やりたいことをあきらめる必要はありません。必要以上に生活を制限しないようにして、主治医の指導のもとに前向きに治療に取り組みましょう。適切治療により調子が良くなれば、ストレスによる悪循環がたたれて症状が軽くなることもあります。気管支ぜんそくに関するQ&A

最後に、気管支ぜんそくの治療についての質問を見ていきましょう。

ぜんそくの治療は、発作が起きていないときも慢性炎症を抑える治療を継続し、リモデリングを予防することがとても重要であり、気長に治療を続けることが最も重要です。


<ポイント>
・症状がなくても炎症は起き続けている
・ぜんそく治療は症状がないときも継続し、炎症を抑えてあげることが重要








吸入薬には、内服や注射よりもかなり少ないステロイド量しか含まれておらず、血液で全身に循環することもないため、副作用を強く心配する必要はありません。ただし、吸入後に喉の違和感が残ったり、声がかすれる、口腔内カンジダ症を発症するなどの副作用がおこることがありますので、吸入後のうがいをきちんとしてください。必要なステロイド吸入の治療を副作用を懸念して使用せずにぜんそくが悪化する方が影響がはるかに大きいので副作用を心配せずに必要な量を十分使用することが重要です。

まとめ
ぜんそくの治療について解説してきました。ぜんそくの病態が解明され、これまで以上に病態にあった薬物療法が可能となってきました。主治医の指導のもとに適切に治療を続け、制限なく元気に毎日を過ごせるように、気長に頑張っていきましょう。
参考文献
・喘息予防・管理ガイドライン2021 作成:「喘息予防・管理ガイドライン2021」作成委員 監修:一般社団法人日本アレルギー学会 喘息ガイドライン専門部会 出版社:協和企画
・喘息診療実践ガイドライン2022 作成:一般社団法人日本喘息学会 監修:相良博典/東田有智 出版社:協和企画
・「ぜんそく」のことがよくわかる本 監修 松瀬厚人(東邦大学医療センター大橋病院教授) 出版社:講談社
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