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食中毒のときに使っていい薬・使わない方がいい薬

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2024/1/24
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食中毒は、特に夏と冬にしばしば発生します。一般的にいえば、食中毒では下痢や腹痛などの症状を起こすことが多いため、手持ちの下痢止めや整腸剤を使いたくなることもあるでしょう。しかしながら、薬によっては食中毒の治癒に逆効果となることもありますから、十分な知識を持って使用することが大切です。



また、食中毒にもいろいろな種類があり、ものによっては上で挙げたような下痢・腹痛などとは異なった症状を呈することもあります。この点についても説明します。

※この情報は、2018年5月時点のものです。

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食中毒とは




食中毒とは、人体にとって害となる微生物や物質を食べることによって生じる病気全般をいいます。イメージしやすいのは、生ガキを食べた数日後にお腹が痛くなって下痢をする、こういったパターンでしょう。

この例からも分かるように、食中毒ではおなかの調子が悪くなることが多いものです。この理由はいたってシンプルで、食べた有害物質・微生物は、胃や食道を経て腸にたどり着き、そこで人体に害を及ぼすからです。

しかしながら、こうした症状パターンに必ずしも当てはまらない食中毒もあります。したがって、「食中毒=お腹の病気」とは必ずしもいえないことに注意が必要です。

厚生労働省は、毎年発生した食中毒について統計を取りまとめる仕事をしてくれています。これを見ると、2017年では総計1014件の食中毒が起きており、患者数は16464名に及びます (1)。 なぜ、事件数と患者数が一致しないかといえば、同じ食卓を囲んだ複数人が、同時に食中毒を起こした場合、これが1件と数えられるからです (したがって、患者数は事件数より多くなります)。このうち「病因物質別発生状況」を見ると、事件数ベースで「細菌」が4割強、「ウイルス」と「寄生虫」がそれぞれ2割強を占めていることが読み取れます。

これらは、いずれも「微生物」と呼ばれる小さい生き物のことですが、異なった特徴をそれぞれ持ちます。後述する治療法にも関連しますので、まずはこの点を説明します。


細菌・ウイルス・寄生虫の違い




細菌

薬剤師

黒田 真生さんのコメント

いわゆる「ばい菌」のことです。小学校や中学校の理科の授業で、生物の最小構成単位は細胞であると習ったと思います。

ヒトの身体は、およそ60-70兆の細胞が集まってできているのですが、一方で細胞1つだけで独立した個体としてふるまう生物もいます。細菌は、これの代表格です (2)。

健康な人でも、身体にはたくさんの細菌が住み着いており、宿主と共存関係にあります。例えば、皮膚に普段からいる細菌 (「常在細菌」といいます) は、外界の有害な細菌が皮膚に付着するのを防ぐ役割を果たしています。

自然界には、土壌・空気中・水中などいたるところに様々な種類の細菌が暮らしています。その中には、ヒトにとって有益なもの・無害なもの・有害なもの、いずれもあります。もちろん、食中毒の原因となるのは、このうち有害なものです。ともあれ、すべての細菌が危険なのではなく、種類によることは知っておいてください。

後述する寄生虫と比較すると、細胞の作りが原始的であるところに違いがあります。そのほかにもいろいろな相違点があるのですが、治療に関する点でもっとも細菌に特徴的なのは、抗菌薬 (抗生物質) が有効であることです。逆にいえば、後述するウイルスや寄生虫には、抗菌薬は効きません。

もう少し説明します。細菌が細胞であることは先ほど書きました。しかし、細菌の細胞は、例えば私たちヒトのそれとは構造的に異なる部分があります。これまた先ほど書いたように、細菌の細胞は原始的だからです。

抗菌薬は、こうした細菌とヒトの細胞の違う部分、つまり細菌にはあってヒトにはない標的を攻撃します。そのため、ヒトの細胞に害を与えることなく、細菌を退治することができます (3)。

ウイルス

薬剤師

黒田 真生さんのコメント

上で紹介した細菌、この後に述べる寄生虫と比較して、より大きさが小さいのが、このウイルスです。

このほか、ウイルスの際立った特徴として、他の生物の細胞に取り付かないと増殖ができないことが挙げられます。

よく、食器用洗剤の宣伝などで、「包丁やまな板では菌が繁殖しています」などと謳われています。ここから分かるように、細菌は放っておけばひとりでに繁殖 (増殖) して、数を増やす性質を持っています。

これに対してウイルスの場合、独力では増殖ができません。ウイルスの体内には、タンパク質をはじめとした自分の身体の材料を合成するために必要な装置がないからです。そこで、他の生物 (例えばヒト) の細胞に取り付いて、そこにある装置を借りることで、身体の材料を作り出します。このように、細菌とは増殖の方法が大きく異なります (2)。

それはさておき、治療に関することで重要なのは、先ほども書いた通りウイルスには抗菌薬が効かないことです。 今回取り上げている食中毒の他に、ウイルスが原因となる病気としてもっとも卑近なものはいわゆる「カゼ」です。

一口に「カゼ」といってもその原因となる病原体はいろいろで、なかには細菌によるものもあります。しかし、頻度でいえばウイルスが原因であるケースが圧倒的に多いです。そのため、大部分のカゼに抗菌薬は無効です。

では、ウイルスに効く薬はあるのか?と問われれば、その答えはイエスです。そのままですが、「抗ウイルス薬」といいます。「だったら、カゼのときはその抗ウイルス薬を使えばいいのでは?」と思ったかもしれません。

しかしながら、これに対する答えはノーです。抗ウイルス薬は、有効なウイルスの種類が非常に限られています。 「この薬は、このウイルスにしか効かない」といった具合に、ほぼ一対一の対応関係になっているからです。

これに対し、抗菌薬は多くの場合ある程度幅広い菌種に効果があります。具体的に有効な抗ウイルス薬があるのは、ヘルペスウイルス・インフルエンザウイルス・一部の肝炎ウイルス・HIVなどです (3). 逆にいえば、これら以外のウイルスには、直接的に効く薬はありません。

寄生虫

薬剤師

黒田 真生さんのコメント

細菌よりも、より高度な構造を持った細胞からなる微生物です。

よりヒトに近い細胞を持っている、ともいえるでしょう。「寄生虫って、昔の病気じゃないの?」と感じた読者もおられるかもしれません。

確かに、上下水道の整備をはじめとしたインフラの改善により、寄生虫が原因となる感染症は昔に比べて激減しました。とはいえ、いわゆる開発途上国へ旅行した際に、現地で感染した人が日本に戻って発症する例などもあります。

もちろん、後述するように日本国内にいても寄生虫に出会う可能性は十分にあり得ます。そのため、寄生虫の存在自体は意識しておくに越したことはありません。

寄生虫に効く薬もあるにはあるのですが、ウイルスと同じで有効な種は限られています。しかし、この後述べるように食中毒に関していえば、薬を使う必要性は薄いのが実情ですので、あまり深刻に考えなくても大丈夫です。


食中毒治療の基本的原則




これまでの紹介からもお分かりのように、ひとくちに「食中毒」といってもその原因は様々です。しかしながら、発症してしまった場合の対処法は原因によってそれほど変わりません。

ごく単純にいえば、そのときにあらわれている症状を改善するような治療を行います。要するに、対症療法です。具体的には、

補液
いわゆる「点滴」など。嘔吐や下痢による脱水を補う。「経口補水液」という飲み物を使うこともある

整腸剤の投与
お腹の調子を整える「善玉菌」を補充する

などです。「そんなものでいいのか?」と感じるかもしれませんが、大部分の食中毒は然るべき時間が経過すれば自然治癒します。

薬には副作用がつきものですから、特に必要性がなければ使わないに越したことはありません。こうしたことから、必要な水分補給を行い、自然とよくなるのを待つ、これが基本的な方針となります。

細菌性の食中毒に抗菌薬を使ってよいか

薬剤師

黒田 真生さんのコメント

先ほど述べたように、食中毒の原因として細菌がよくあり、これには抗菌薬が有効です。

それならば、細菌が原因となっている食中毒には抗菌薬を使えばよいのでは?こう考えるかもしれません。

これに対する答えは、重症例では使うことが多いが、軽症例では必ずしも必要でない、となります。どうして必ずしも使用しないのか、その理由はいくつかあります。

1つ目として、前述したように食中毒の多くは格別な治療を行わなくても自然とよくなるからです。これは、どちらかといえば抗菌薬を使った場合に生じる、副作用というデメリットを回避することを念頭にしたものです。

2つ目に、どの抗菌薬が効くのか事前に分からないケースがままあるからです。抗菌薬にはたくさんの種類があるのですが、どの種類の細菌に有効であるかは、それぞれある程度決まっています。

病気を引き起こしている細菌の種類がはっきりとわかっていれば、その菌に有効な薬を選んで使用すればよいことになります。ところが、現実にはどの菌種が原因となっているかは、はっきりと分からないことも多いものです。

これに、1つ目の「大部分の食中毒は自然治癒する」を考え合わせれば、あえて抗菌薬を使わず様子を見るのは合理的な方法と分かると思います。

下痢止めを使ってよいか

薬剤師

黒田 真生さんのコメント

食中毒では、割と激しい下痢をすることがよくありますので、下痢止めに頼りたくなることもあるでしょう。ですが、結論からいえば食中毒に下痢止めを使うことはお勧めできません。

食中毒で下痢が起きているときは、原因となる微生物や物質が消化管のなかにとどまっている状態です。消化管は普段から規則的な運動をしており、これによって内容物を肛門方向に押し出しています。こうした消化管の運動を、「蠕動運動 (ぜんどううんどう)」といいます。

たいていの下痢止めは、この蠕動運動を抑えるはたらきをします。その結果として、消化管の内容物が肛門まで到達するのにかかる時間が延伸し、排便の回数が減る仕組みです。

ところが、食中毒のときに下痢止めを使ってしまうと、原因となっている微生物・物質の排泄が遅れます。そのため、なかなか治らなくなるのです。したがって、下痢止めを使って無理に排便回数を減らさず、自然に任せた方がよいのです。

ちなみに、よく混同されますが、「整腸剤」と「下痢止め」は異なる薬です。整腸剤は、乳酸菌などいわゆる腸の「善玉菌」を薬にしたもので、腸内部の環境を整える作用を持ちます。先ほど述べた、腸の蠕動運動には通常、影響しません。故に、食中毒の原因を排泄させる時間にも影響しません。

こうしたことから、食中毒のときに整腸剤を使うことは問題ないと考えられています。実際に、少なくともいくつかの原因による食中毒には効果的だと知られています (4)。

ともあれ、さまざまな事情からずっとトイレに籠っているわけにもいかない・・・そういうこともあるでしょう。 例えば、仕事などでどうしても外出が避けられない場合などです。このようなケースでは、トイレに行く間隔を延長する目的で、必要最低限の下痢止めを使うことも、実際にはあります。

もちろん、原則としては使わない方がよいのですが、このあたりは食中毒の原因・症状の程度・他者への伝染のリスクなどを総合して判断することになります。ただし、医学・薬学的に好ましい方法でないことは確かなので、必ず病院等で事情を伝え、専門家の指導の元に行うべきことは強調しておきます。


原因毎の食中毒




ここからは、食中毒の原因別に症状や注意すべき食べ物などについて紹介します。

なお、それぞれの治療法について特に記載がない場合は、上の「3. 食中毒治療の基本的原則」で書かれた内容がそのまま当てはまります。他の食中毒と比較して、目立って異なる治療法がある場合のみ、それを記載します。

細菌が原因の食中毒

①カンピロバクター
参考文献1から分かるように、細菌性食中毒のうち件数・患者数ともに近年最多を数えるのが、カンピロバクターによる感染症です (1)。

ニワトリ・ウシ・ヒツジ・ブタ・ヤギなど、多くの動物の腸管に存在する菌です。そのため、ほとんどの食肉が原因の食品となり得ますが、日本では特に鶏肉からの感染が多く報告されています (2)。発症した場合の主な症状は、発熱・腹痛・下痢などで、血便を伴うことがあります。通常は、2-5日程度で自然と回復します (2)。

幸い、カンピロバクターは熱には強くない細菌ですので、肉を十分に加熱して食べることで予防が可能です。逆に、鶏肉の生食 (鳥刺しなど) はリスクが高いといえます。ちなみに、ヨーロッパでは牛乳からカンピロバクターに感染するケースがかなりある一方、日本ではほとんど知られていません。これは、ヨーロッパでは牛乳を生で飲む習慣を持つ人も多く、そのため未殺菌の牛乳が流通していること、日本で流通している牛乳は加熱殺菌済みであることが理由と考えられています (2)。
②サルモネラ
細菌性食中毒のうち、カンピロバクター同様に患者数が多いのがサルモネラです。この菌も、自然界ではニワトリやネズミといった動物が保有しています。感染の原因となる食品として多いのが食肉、そして卵です (2)。 菌で汚染された食品を食べることで感染し、10-70時間程度の潜伏期間を経て発症します。

主な症状は、発熱・腹痛・下痢とカンピロバクターのそれとオーバーラップします。サルモネラも熱には強くない菌ですので、予防として食品を十分加熱することは、やはり有効です (2)。卵が原因食品となることがあると書きましたが、卵かけごはんなどの形で、卵を生で食べる人もいることでしょう。新鮮でない卵では、サルモネラが増殖している可能性も高くなりますから、このような食べ方をする場合は冷蔵保存を徹底すること、古くなった卵は使わないことが大切です。
③ブドウ球菌
ヒトの皮膚に普段から取り付いている菌です。通常の皮膚にいるだけなら問題ないのですが、ブドウ球菌には「腸管毒 (エンテロトキシン)」という毒素を作る性質があります。この毒素を口から取り込むと、食中毒の原因となります。皮膚にいる性質上、直接手で触って調理する料理、例えばおにぎりなどが原因食品となります。 ブドウ球菌の腸管毒による食中毒は、いくつか目立った特徴があります。

1つ目は、潜伏期間が短いことで、だいたい摂取後1-6時間程度で発症します。2つ目として、吐き気・嘔吐が主な症状であることです (もちろん、下痢なども起こしますが、相対的な問題です)。そして3つ目は、加熱しても予防できないことです。原因となる毒素が熱に強く、通常の調理における加熱では分解・失活ができないからです (2)。

したがって、一度汚染されてしまった場合、その食品を安全に食べる方法はありません。きちんと手を洗っていれば、健康な皮膚で触った程度で感染することはまずありませんが、例えば化膿した手で調理をすると危険です。
④腸炎ビブリオ
この菌は、自然界では主に海水中に存在します。したがって、これまで紹介した菌とは異なり、魚介類が原因であることが多いのが特徴です。

また、日本では夏場に多く発生します。発症した場合の症状は、腹痛・下痢・吐き気・発熱などです。多くの場合、数日で回復します (2)。 予防に関して重要なこととして、腸炎ビブリオは真水に触れると死滅します。

よって、魚介類を真水で洗えば、感染を防ぐことが可能です。また、この菌は増殖速度が非常に早いため、魚介類を保存するときは、短い時間でも必ず冷蔵することが肝要です。その他、多くの菌と同じく加熱によって死滅します。
⑤腸管出血性大腸菌
大腸菌は、ヒトをはじめとした動物の腸のなかに普段から住み着いている菌です。しかし、ひとくちに「大腸菌」といっても細かく見ると、いろいろな種類がいます。

そのなかには、下痢を引き起こす性質を持ったものがおり、「腸管病原性大腸菌」あるいは「下痢原性大腸菌」などと呼ばれます。腸管病原性大腸菌のうち、また一部には腸管で出血を起こす原因となるものがおり、これが腸管出血性大腸菌です。要するに、大腸菌のなかでたまに見つかる、非常にたちの悪いものと思っておけばよいでしょう。ニュースなどで聞く「O157」は腸管出血性大腸菌の一種です。

腸管出血性大腸菌は、牛などの家畜動物の腸を検査すると、たまに見つかります。これらの動物が食肉となった際に菌で汚染され、それを人間が食べることで感染・発症します。食中毒のなかでも重症化しやすい菌です。

症状は、下痢・腹痛・発熱など、多くの食中毒と類似しますが、激しい血便を伴うことがあります (2)。 また、一部の菌は「ベロ毒素」という毒素を作る能力を持ち、これが「溶血性尿毒素症候群 (HUS)」と呼ばれる症状を起こすことがあります。

このベロ毒素の存在から、腸管出血性大腸菌の感染においては下痢止めを使わないこととなっています。その理由は先ほど書いたのと同じで、下痢止めを使うと毒素が身体からなかなか抜けないからです。さらに、抗菌薬を使うのも好ましくないとされています (5)。抗菌薬によって死滅した菌から、毒素が一気に放出され、症状を悪化させるためと考えられています。大腸菌も加熱で死滅しますので、肉を食べるときにはしっかり火を通すことが予防に役立ちます。
⑥ボツリヌス菌
平成29年においては、国内での報告は1例だけですが、他の食中毒とはかなり異なる症状を引き起す菌です。具体的には、下痢・嘔吐などの消化器に関するもののほか、めまい・呼吸困難・ものが二重に見えるなどです。

どうしてこのような症状が起きるかといえば、ボツリヌス菌が作る毒素に神経を麻痺させる作用があるからです (2)。 自然界では土の中に見られます。ボツリヌス菌が酸素の少ない環境を好むからです。

こうした菌の性質は、食中毒の原因となる食品がなにかにも関係します。すなわち、密封された容器に入った食品、具体的には瓶詰・缶詰・真空パックのレトルト食品などです。ボツリヌス菌やその毒素は熱に強く、通常の調理で行う程度の加熱では十分に殺菌・分解ができないので、汚染された食品を食べないことが唯一かつ確実な予防法です。特に、パックされた容器が不自然に膨らんでいる場合、ボツリヌス菌が増殖している可能性が高いので、こうした食品は食べないようにしてください。

また、上記の他にボツリヌス菌がよく混入している食品があります。ハチミツです。ともあれ、健康な大人がハチミツを食べても、ボツリヌス菌はお腹のなかにもともと住み着いている細菌 (腸内細菌) に駆逐されますから、食中毒を起こすことはまずありません。問題となるのは赤ちゃんで、まだ腸内細菌が充分整っていないからです。こうしたことから、1歳に満たないお子さんはハチミツを食べてはいけません (2)。

ボツリヌス毒素には、特異的な解毒剤があります (6)。発症後早期であれば、これを使用することで症状の軽減が期待できるので、疑わしい場合は医療機関を受診して事情を説明するようにしてください。

ウイルス(ノロウイルス)が原因の食中毒

薬剤師

黒田 真生さんのコメント

ウイルス性の食中毒のほとんどが、ノロウイルスによります (1)。毎年冬に流行するので、名前くらいは耳にしたことがある方も多いでしょう。

原因となる食品は、カキ・アサリ・ハマグリなどの貝類が多い傾向にあります。ノロウイルスは海水中に存在します。これらの貝はエサであるプランクトンを摂取するために大量の海水を飲み込み、このとき海水中のノロウイルスを一緒に身体に取り込むからです。

症状は、嘔吐・下痢・腹痛などで、熱が出ることもあります。加えて、先ほど述べたように冬場に流行することから、「お腹に来るカゼ」などと呼ばれることもあります。実際、軽症の場合はカゼと区別がつかないケースもあります。

ノロウイルスに有効な抗ウイルス薬はないため、治療は対症療法になります。そのため、予防が重要となります。 加熱により死滅するウイルスなので、汚染されている可能性がある食品は必ず火を通して食べることが大切です。

上で挙げた貝のうち、アサリやハマグリは生で食べる機会はそうそうないと思いますので、問題はカキです。少なくとも、生食用でないカキを生で食べることはすべきでありません。カキを殻から取り出して調理する際に、まな板や調理器具がウイルスで汚染されることがあるので、カキを調理した後はこれらを熱湯消毒するとよいでしょう (2)。

また、ノロウイルスにはアルコール系の消毒薬は効果がありません。代わりに、塩素系の消毒薬が有効です。ご家庭にある塩素系の漂白剤を適切な濃度に薄めることで、消毒薬として利用可能です。

寄生虫(アニサキス)が原因の食中毒

薬剤師

黒田 真生さんのコメント

小さなミミズのような形をした寄生虫です。サバ・イカ・サンマ・アジなどの魚介類に寄生していて、これらが感染源となります。 

アニサキスを飲み込むと、胃や腸の壁を突き刺し、非常に激しい腹痛を起こします。原因となる食べ物を摂取して1日以内に起こるのが一般的です。よって、例えば夕食にイカの刺身を食べた。その後、深夜になってものすごくお腹が痛くなり、救急車で病院に担ぎ込まれる。こうしたパターンがよくあります。

治療は、内視鏡を使ってアニサキスをつまみ出せばOKです。上で挙げた魚介類に寄生しているアニサキスは幼虫なのですが、それでも大きさは2-3cmくらいあり、内視鏡でも十分に視認することができます (2)。除去すれば、ほどなく症状は劇的に改善します。

たった今、アニサキスの大きさが2-3cmあると書きました。つまり、食品に取り付いたアニサキスも、十分肉眼で確認できます。したがって、食べる前によく見て除去する、あるいは食べるのをやめれば予防が可能です。他に、加熱や冷凍によってアニサキスを死滅させるのも有効です。

微生物以外が原因の食中毒

薬剤師

黒田 真生さんのコメント

ここまでは、微生物によって起こる食中毒を紹介してきました。

実は、これ以外にも食品に含まれる特定の化学物質などにより食中毒を生じることがあります。以下で、簡単ではありますが、代表的なものを紹介します。

①ヒスタミン中毒
生物の身体を構成するタンパク質は、20種類の「アミノ酸」がいくつも連なってできています。このアミノ酸の1つに、「ヒスチジン」というものがあります。ヒスチジンは、微生物のはたらきにより別の物質「ヒスタミン」に変換されます。こうしてできたヒスタミンを含む食品を食べることで生じる食中毒です。

ヒスタミン中毒の症状として、かゆみ・紅斑・蕁麻疹などの皮膚症状のほか、下痢・吐き気などの消化器に関するもの、発熱・頭痛・めまいなどその他のものが挙げられます (7)。 原因食品は、ヒスタミンを多く含むマグロ・カツオ・サバ・サンマ・ブリなどの魚が主です (7)。

しかし、新鮮なものであれば、まだヒスチジンからヒスタミンへの変換が起こってないので、ヒスタミン中毒は基本的に生じません。リスクが高いのは、不適切に長期間保存されたこれらの食品です。低温保存することで、ヒスタミンを作る微生物のはたらきを抑えられますので、魚は必ず冷蔵するようにしてください。そして何より、古くなった魚は食べないことです。ヒスタミンは加熱で分解されませんので、火を通しても無意味です。
②シガテラ毒
日本ではまれな食中毒です。というのも、原因となる食べ物が熱帯・亜熱帯・サンゴ礁海域などに生息する魚類だからです。こうした海域に生息する海藻が、シガテラ毒の原因物質に汚染されていることがあります。この海藻をエサとする魚の体内に毒性物質が蓄積、これをヒトが食べることで発症します (8)。

症状が非常に特徴的で、冷たいものを触ると痛みを感じる、独特の知覚異常を起こします。まるでドライアイスを触ったときのようなので、「ドライアイス・センセーション」と呼ばれます。このほか、下痢や嘔吐なども生じます。

上で述べたような特徴から、国内では沖縄県で多く発生しています。食性の関係から、シガテラの原因となる魚はある程度決まっていますから、事前に調べて該当する魚を食べないのが確実な予防法です。シガテラ毒の原因物質も、加熱では分解できません。

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まとめ




食中毒の多くは、特異的な治療法はなく対症療法が中心となることは、先に述べました。そのため、そもそも食中毒を起こさないこと、すなわち予防が重要です。

万一、食中毒と思われる症状を起こした場合には、自己判断による対処は経口補水液による水分摂取と、整腸剤を飲むこと程度にとどめて、医療機関に相談してください。その際、どんな食品を、いつ食べたかを伝えていただければ、診断や治療に役立ちます。

■日本国内で発生する食中毒は、細菌・ウイルスなどの微生物が原因であることが多い
■下痢止めは、原因の微生物・物質の排泄を遅らせるため、一般的な推奨されない
■おなかの調子を整える整腸剤は、基本的には使用しても差し支えない
■食中毒で下痢や発熱がある場合は、脱水を改善するために十分な水分を摂る
■下痢や腹痛などとは異なる症状を呈する食中毒もあるので注意する
■1歳未満の子供にハチミツを食べさせてはいけない


参考文献

厚生労働省 食中毒統計資料

東匡伸・小熊惠二 シンプル微生物学改定第4版 南江堂

上野芳夫・大村智 監修 微生物薬品科学改定第4版 南江堂

Roussel C, et al. Future Microbiol. 2017 12:73-93. PMID: 27983878

Freedman SB, et al. Clin Infect Dis. 2016 15;62(10):1251-1258. PMID: 26917812

Chalk CH, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2014 20;(2):CD008123. PMID: 24558013

Taylor SL, et al. J Toxicol Clin Toxicol. 1989 27(4-5):225-40. PMID: 2689658

奥田拓男 編 資源・応用薬用植物学第2版 廣川書店

※掲載内容は執筆時点での情報です。

  • 黒田 真生 薬剤師

    執筆・監修者

    薬剤師免許取得後、岡山県倉敷市の老舗薬局「いずし薬局」での修業を経て、2016年に独立。現在かわべ薬局の薬局長を務めるかたわら、岡山大学薬学部の非常勤講師として教壇に立つ。また、薬剤師の情報リテラシー向上を目...

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